[1]ノーゲーム・ノーライフの世界にチート転生者がきたようです   作:型破 優位

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2巻終了と3巻突入です!


[ ]

白side

 

窓から差し込む日差しが、まぶたを貫く。

 

「・・・ん・・・うぅ・・・。」

 

だが、覚醒することを拒み、なおもまどろむ意識。

 

もっと寝ていたいという欲望に忠実に、寝返りをうって二度寝に戻る。

 

いつものように、兄の腕をつかんで、もう一度眠りに

 

と、目を閉じたままさぐる手が、そこにあるべきものをつかめず、ただ空振りする。

 

「・・・ぅ・・・?」

 

また、ベッドから落ちたとだろうか。

 

だが、寝ぼけた頭で、もう王の寝室のベッドでは寝ていないことを思い出す。

 

嫌々、兄の姿を確認してつかもうと、まどんろんだ目を開くが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに、いつもいるべき者の姿はなかった。

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステフside

 

「ふ、ふふふ・・・今日こそ天罰の時ですわ。」

 

エルキア城の廊下を、おぼつかない足取りで歩き、今度こそ勝つべく王の寝室へと向かう。

 

昇ったばかりの日が、徹夜明けの意識を刈り取りそうになる中、不穏に笑いながら

 

「シロ、起きていますわよねっ!もう朝ですわよっ!」

 

ドゴンドゴン、と。

 

トランプでふさがった手の代わりに、扉をノック(キック)して、王を呼び捨てにする。

 

だが、そもそも扉がちゃんと閉まってなかったのか、そのノックだけで扉は自然と開き、

 

「あ、あれ・・・ひょっとして起きているんですの・・・?」

 

と、王の寝室を覗いたが、そこにいたのは・・・

 

side out

 

 

三人称side

 

ステフが王の寝室を覗いて見た光景は

 

「にぃ・・・にぃ、どこぉ・・・しろ、が・・・わるかった・・・からぁ・・・もう・・・、ベッド・・・おちない、からぁ・・・でて、きて・・・ひぅっ・・・。」

 

膝を抱え、ただ震えて大粒の涙を流す白。

 

「ちょ、え、ど、どうしたんですのシロッ!?」

 

先程まで、天罰などと息巻いていたステフだが、あまりの様相に、トランプを床に捨てて慌てて白に駆け寄る。

 

「ど、どうしたんですの!?具合でも悪いんですのっ!?」

 

だが、ステフの声が聞こえていないように、白はただ泣きながら呟き続ける。

 

「にぃ・・・にぃ・・・でて、きてぇ・・・しろ、ひとりに、しない・・・でぇ・・・」

 

その呟きに、本気で心配した様子で、ステフが言う。

 

「あ、あの・・・にぃって誰のことですの?そ、その人を連れて来ればいいんですの?」

 

と。

 

白の耳にようやくステフの言葉が届く。

 

ステフは、何を言っているのだろう、と。

 

自分の兄など、一人しかいないだろう、と。

 

ケータイを手にとって、アドレス帳を開く、が。

 

「・・・うそ・・・」

 

そんなわけ、ない。

 

白のケータイに登録されている番号なんて兄一人だ。

 

なのに。

 

どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして携帯に『登録者"0"』と表示されるのか。

 

「・・・そんな、はずない・・・うそ・・・うそ、うそ・・・」

 

ただでさえ白い肌から、更に血の気が引いていく様子に。

 

ステフはただならぬものを感じて、必死で声をかける。

 

「し、シロ、ねぇ、大丈夫ですのっ!?どうしたんですのよっ!!」

 

だが、ステフの存在すらもう認識してないかのように。

 

白は猛然とケータイの、メール履歴、ゲームのアカウントからアドレスまで。

 

画像フォルダの内部フォルダまで開いていくが、ない。

 

一切、兄の形跡がない。

 

「・・・うそ・・・こんなの・・・ぜったいに、うそ・・・」

 

慌ててケータイで、日付を確認する白。

 

21日。

 

兄が自分と王座でゲームしていたのは、19日。

 

白が、瞬時に映像記憶で遡って、携帯ゲーム機、タブPC、ケータイで見た複数の端末の表示が全て、19を指していたことを確認する。間違いなく、19日だった。

 

だが、ならば20日。

 

つまり昨日、自分は何をした?

 

ない。

 

記憶が一切、ない。

 

五年前読んだ本を、記憶だけで逆から読める白の記憶が。

 

まるで、丸一日を寝て過ごしたように、一切が途切れている。

 

兄が、隣にいない。

 

ケータイのアドレス帳にも入っていない。

 

メールも履歴も形跡の一切が残っていない。

 

兄を証明する根拠が、なにもない。

 

状況を整理した白。

 

ここから導き出される可能性は、三つだけだった。

 

可能性1

なんらかの力が兄の"存在"をこの世から消したか。

 

可能性2

自分が、ついに"狂った"か。

 

可能性3

あるいははじめから狂っていて"今正気に戻った"か。

 

だが、その可能性のどれが正解であろうと、白にとって、目の前が暗くなっていくのを堪えるに値する答えではない。

 

予想される、だが、決して聞きたくない故に。

 

ここまで、口にせずにいた名前を。

 

最後の希望を込めて、ステフに、問う。

 

「ステ、フ・・・にぃ・・・『空』、は・・・どこ・・・?」

 

だが、かくして返された答えは、予想通り。

 

決して聞きたくなかった、答えだった。

 

「ソラ?名前、ですわよね。誰ですの?」

 

ああ、願わくば、これが、たちの悪い夢でありますように。

 

眼を覚ましたら、いつも通り隣で兄が寝ていて、ただ一言、『おはよう』と言ってくれるように。

 

ただ、それだけを願いながら。

 

目の前が暗くなる感覚に身をゆだね、白は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、ですの?」

 

王の寝室の扉の前で、ステフがジブリールに尋ねる。

 

だが、ジブリールもまた、タメ息をついて頭を振る。

 

「なにも。私の入室も拒まれ、取り付く島もない状態でございますね。」

 

「相変わらず、"ソラ"って言い続けているだけ、ですの?」

 

「ええ、そちらは如何で?」

 

「城内スタッフに手当たり次第聞いてみましたわ。みな答えは同じ「ソラなる人物は知らない、エルキアの王はマスター一人、でございますか。」ええ、どういうことですの?」

 

「順当に考えれば、マスターの記憶が書き換えられたことになるのでございますが」

 

「それって・・・」

 

「はい、マスターが、負けたことを意味します。」

 

酷い違和感があった。

 

突然、『ソラ』なる正体不明の人物を呼び続け、茫然自失になった白。

 

状況そのものがまるで意味不明ではあったが、それ以上の違和感に、二人は閉口する。

 

その会話が聞こえていたのか。

 

扉の下からすーっと、薄い板が差し出される。

 

「・・・?これ、例の・・・」

 

「マスターの、タブPC、でございますね。」

 

床からそれを拾い上げるジブリールとステフ、ふたりして画面を見る。

 

「えっと、なんて書いてあるんですの?」

 

「マスターの元の世界の言語でございます。『質問』と書かれてございます。」

 

ぽこっ、と音。新しいメッセージが表示される。

 

「なるほど。筆談ならぬ"チャット会話"がお望み、でございましょうか。」

 

主が持ち込んだ異世界の膨大な知識。

 

その全てを把握するにはさすがに至ってないジブリール、だがその意図は汲む。

 

「今度はなんて書いてあるんですの?」

 

「『1、ステフに惚れろと要求した人物は?』と」

 

「シロ、じゃないですの?」

 

「さようですね。これは、返信はどうすれば・・・」

 

操作方法がわからないでいるジブリールに、だがすぐ、ぽこっという音が届く。

 

「なるほど、回答は口頭でよいと。『2、十一歳の同性が、惚れろと要求した?』と書かれていますが。」

 

「え、えぇ・・・だ、だから変態だ鬼畜だって散々言ってるじゃないですの・・・。」

 

口を引きつらせながら答えるのと、更なるメッセージが届くのは同時。

 

「『3、どうやって負けたか、詳細に』だそうでございます。」

 

白の状態を考え、安易な答えは出来ないステフ。

 

出来るだけ詳細に思い出そうと、額に指を当てて必死に思い出す。

 

「えーっと、ジャンケンでしたわ。私を挑発して、心理戦で、あいこ狙いの。でも重要だったのは"要求内容"のほうで、具体性のない条件をあいこで求められましたわ。それでペテン師呼ばわりした私に。でも問答無用で『惚れろ』と言われましたわ。」

 

ステフが言い終わると同時、次のメッセージが届く。

 

「『4、自分のものになれ、ではなく何故"惚れろ"と要求されたか』と。」

 

「貢がせるためですわ。あとでミスだったと気づいて悶えてましたわ。シロが。」

 

そして、またすぐにメッセージが届く。

 

「『5、ジブリールと対戦した人物の名は?』と。」

 

「えーっと、シロと佑馬ですわね。」

 

「それは、私も同じように記憶してございますね。」

 

そこで、メッセージが止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、佑馬はどうしているんですの?」

 

静寂が流れるなか、まだここにいない佑馬が何をしているのかステフが聞く。

 

「ええ、確か『まずはおまえらがなんとかしてみろ、それでもダメなら呼べ』って言って・・・ございました・・・。」

 

その時は首を傾げたジブリールだが、今ならその言葉の意味が理解できた。

 

「それって・・・っ!!」

 

ステフもその意味に気づく。

 

「マスター、佑馬を連れてきます!少し時間を下さい!」

 

すぐにぽこっと音がなった。

 

『頼んだ』と。

 

 

 

side out

 

 

 

佑馬side

 

俺は今、自分の部屋にいる。

 

どうやってここにきたかは分からないが、何故ここにいるかはすぐに理解できた。

 

即ち、空が消えたのだと。

 

「ったく、すげぇモヤモヤするな。いるってわかるのに、その記憶がないとか・・・。」

 

とりあえずジブリール達に任せたが、確実に呼びに来るだろう。

 

そう思った矢先

 

「佑馬!今すぐマスターの元へきてください!」

 

ジブリールが空間転移(シフト)してきた。

 

「ああ、わかった。」

 

そう言って、王の寝室へとシフトした。

 

side out

 

 

 

 

白side

 

ジブリールにメッセージを送った後、希望の光が少しずつ出てきた。

 

佑馬はこの状況を今日ではなく、数日も前から予測していた。

 

『白は確かに空とずっと一緒だ。ただ、近いうちに少しだけ離れるときがある。その時、白は絶望に陥るはずだ。そうなったとき、俺に頼ってこい。絶対にその謎を解く鍵になることを約束するよ』

 

前に言っていたこの言葉。

 

ここにかなりのヒントが含まれている。

 

まず、近いうちに少しだけ離れる。

 

つまり、少しだけ離れるが、また戻る、

 

"空はいる"ことを示唆している。

 

そして、それを解く鍵は佑馬にあると言っている。

 

それは、自分を絶望から救い上げるには充分すぎるものだった。

 

side out

 

 

 

三人称side

 

王の寝室の扉の前に佑馬とジブリールが現れる。

 

「ふむ、やはりお前らじゃ白を迷わせるだけだったか。」

 

自分が呼ばれた状況から、そう言う佑馬。

 

「申し訳ないですの。私たちではどうしようもなく。」

 

「申し訳ございません。私ではどうすることもできませんでした・・・」

 

ステフと佑馬が申し訳なさそうに頭を垂れながら言う。

 

「まぁ、いい。白、そこにいるな?」

 

『うん』と、メッセージが届く。

 

「まず、答えから言う。俺はお前の兄『空』を知っている。」

 

「「っ!!」」

 

その言葉にステフとジブリールは驚愕する。

 

この場にいなかった佑馬が、白がずっと言っていた『空』の名前を出したのだから。

 

「だから、まず扉を開けて出てきな。」

 

そう佑馬が言うと、ガチャ、っと扉が開いた。

 

そこには目を真っ赤にした白がいた。

 

「よし、まず言うことがある。これは少なくとも空と白、[ ]の問題だ。俺は鍵になるだけで、白がちゃんと解け。いいな?」

 

こく、と頷く白。

 

「まず白、今の状況を整理して、言ってみろ。」

 

「ん、まず起きたとき・・・にぃが、いなかった・・・。ケータイ・・・の、アドレスにも・・・メール、も・・・履歴も・・・にぃ、の・・・形跡が、なかった・・・」

 

と言った白に。

 

「そうか。ならもう一回全部整理してみな。起きたときから、全部の記憶を。」

 

と言う白。

 

無言で今言われた通り整理する。

 

朝、兄がいない王の寝室のベッドで起きた。

 

そして、寝室にステフが・・・

 

王の寝室???

 

「気づいたか?」

 

そう口を吊り上げながら言う佑馬。

 

そう、この部屋はステフの部屋のはず。

 

何故、そこに自分が寝ているのか。

 

「そこに気づいたら、空に言われた言葉をよく思いだしな。俺からはここまてだ。」

 

そう言われて、考える。

 

「白、俺らは、いつも二人で一人だ。」

 

「白、俺らは、約束で結ばれている。」

 

「白、俺らは、少年漫画の主人公じゃない。」

 

「白、俺らは、常にゲームをはじめる前に勝っている。」

 

 

 

そのときは意味がわからなかった言葉。

 

だが、今ならわかる。

 

白、俺らは、いつも二人で一人だ。

 

兄は自分を一人にしない。

 

つまり、兄はこの部屋にいるということになる。

 

二人で一人、ならば自分もゲームに参加していた、否、参加している。

 

兄は言った

 

常にゲームをはじめる前に勝っている、と。

 

ならこの状況は全て想定通り、わざと行っていたものだということになる。

 

兄は言った

 

俺らは、少年漫画の主人公じゃない、と。

 

少年漫画の主人公、それは成長するもの。

 

この場合、白が成長するフラグ。

 

空抜きでもやれるようになるが、兄はそれをハッキリと否定した。

 

兄は言った。

 

俺らは、約束で、結ばれている、と、

 

自分達は、二人で一人。二人で、完成品だと。

 

兄は言った

 

最後のピースを手に入れて来ようぜ、と。

 

つまり、東部連合との勝負を有利にするもの。

 

なら、敵は東部連合ではない。

 

なら誰だ。

 

そう考え込む白に、佑馬は微笑みを浮かべながら、見ていた。

 

side out

 

 

 

 

佑馬side

 

 

しばらくして

 

「国王選定戦で・・・戦っ、た・・・人・・・」

 

そう白が口にした。

 

「ご名答。よく頑張ったね。ご褒美は兄に貰いな。」

 

その言葉を聞いて、白は意識を無くした。

 

「「シロッ!?(マスターっ!?)」」

 

いきなり倒れた白に近寄るステフとジブリール。

 

「考えすぎたんだろう。少し寝かせてやれ。」

 

そう言って、今までの経緯を考える。

 

自分は原作知識があり、当事者ではないので、そこまで気持ちに変化はない。

 

だが、もし立場が同じで、この状況に陥ったとき、自分は同じように相手を信じて、答えを出せたか。

 

(やっぱり、すげぇよ。空も白も)

 

結果は否だ。

 

そして苦笑を浮かべていると、ステフとジブリールが不思議そうに見てきた。

 

side out

 

 

白side

 

どれくらいたったのか

 

どうやら自分は気絶してしまったらしい。

 

「シロ、大丈夫ですの?」

 

心配そうに呼ぶステフの声が聞こえ、意識が再浮上する。

 

「・・・っ!」

 

状況を確認しようと動かした視界に兄がいないことに、咄嗟に飛ばしそうになるのを。

 

だが、辛うじて思考がとどめた。

 

兄はこの部屋にいる。

 

ならば、もう何もおびえることはない、と。

 

「・・・だい、じょう、ぶ・・・」

 

痛む頭を抱えて、汗に濡れた身を起こそうとするが、ステフに押し留められる。

 

「もう少しゆっくり休んでいるんですの。」

 

「・・・ん・・・」

 

今はその通りにしておく。

 

「・・・ジブリール・・・」

 

「なんでしょう、マスター。」

 

「ジブリール・・・つく、れる?記憶を、消す、ゲーム・・・」

 

問われて、ジブリールは考え込んだ。

 

「具象化しりとりのような仮想世界ならば・・・ですが、ここは現実でございます故。」

 

「・・・森精種と、合作・・・なら?」

 

「が、合作っ!?あの森の田舎者どもとでございますかっ!?」

 

心底嫌そうな声が上がる。

 

彼女にとっては想像もしなかった話だったのだろう。

 

「ジブリール、真面目に考えてみてくれ。」

 

そう佑馬に言われて、真剣に考えるジブリール。

 

「森精種の術者次第でございますが・・・不可能ではない、かもしれません。」

 

「・・・それ、に・・・不正が、仕込まれ・・・ない、保証。でき、る?」

 

「出来ます」

 

「ぜ、ったい?」

 

「はい、これ程の事象変動を起こす術式なら、ゲームを起動させるのは私でしょう。術式に不正があれば、そこで発覚します。」

 

ということは、やはりこの部屋にゲームの基盤があるということになる。

 

だが、何処を見回してもそれらしいものはない。

 

なら、

 

「・・・ジブリール・・・この部屋・・・魔法の、反応・・・ある、はず・・・」

 

その問いに、

 

「それなら、ステフ。そこらへん歩いてみ」

 

佑馬が部屋の一角をさして言う。

 

「この辺ですの?何かあるんですの?」

 

言われた通り床に視線を落としながら歩くが、突然、何かに足を取られたように躓いて盛大に転んだ。

 

「・・・ドラちゃん、何もないところで転ぶとは、これ以上のキャラ付けは不要かと。」

 

だが、立ち上がりながらこちらに向ける視線は、きょとんと。

 

「・・・え?転んだ?私がですの?」

 

その言葉に、ハッとなる。

 

「認識は出来ずともそこにある。触れることも、自覚が持てないだけということで?」

 

ジブリールの言葉に頷いて、歩きだす。

 

認識できなくても、そこにある。

 

ふと、ステフが転んだ辺りに何かあるのを見つけた。

 

小さな箱にはいった、漢数字の刻まれた、表と裏で白と黒の、コマ。

 

一方別の箱には、エルフ数字が刻まれた、同じようなコマ。

 

そのコマの正体を暴くのは、極めた簡単だった。

 

「・・・オセロ・・・の、コマ。」

 

「どういうことでございましょう。これが、ゲームのコマでございますか?」

 

何故ゲーム盤は見えないのに、コマは見えるのか、という意味だろう。

 

だが、それなら理由はわかっている。

 

「・・・まだ、使われてない・・・か、ら」

 

使われてない、認識出来るコマ。

 

記憶が奪われ、認識からも外されるゲーム、まだ終わってないゲーム。

 

その全てが今、一本に繋がった。

 

ルールはおそらく、

 

「・・・記憶、か・・・存在を・・・コマに分割、して・・・奪い、合う・・・ゲーム。」

 

その呟きに反応したのはジブリール、ステフ、そして佑馬。

 

「お、お言葉ですがマスター・・・」

 

「そんなルール、しょ、正気ですのっ!?」

 

「ご名答、ここまでこれば後は自力で行けるな。いや、ここまでもほぼ自力だったか。でも、ここからは完璧に[ ]の舞台だな。」

 

その佑馬の言葉にまた反応するジブリール。

 

「佑馬はここまでわかっていたのですか?」

 

「ああ、この事件が起こった瞬間からわかっていた。」

 

その言葉に、ステフとジブリールは絶句していた。

 

白はこの時思ってしまった。

 

もし、佑馬が敵となるときがきたときに、[ ]の過去最大の敵になるだろうことを。

 

side out

 

 

 

佑馬side

 

「ああ、この事件が起きたときからわかっていた。」

 

もちろん、嘘だ。

 

いや、嘘ではないが、実際わかるかと言ったら微妙だ。

 

これは、原作知識から引っ張ってきたものだ。

 

もし、何も知らなかったら、白よりも早く答えは出なかったかもしれない。

 

写輪眼を使っても無駄だろう。

 

一方通行を使っても、答えはわかるとしても、こんなに早くはわからないだろう。

 

いつか来るであろう[ ]との闘い。

 

ゲームの難易度で言えば、エキストラやマスターでは収まらないだろう。

 

そのとき、何処まで自分が闘えるのか。

 

とても楽しみだ。

 

side out

 

 

 

 

三人称side

 

白が、『参』と刻まれた裏表、白黒のコマを手に、何も無い空間を、いや、見えていないだけでそこにある盤を、睨む。

 

コレはおそらく、存在ないし記憶を三十二個に分割した奪い合いオセロ。

 

どちらも残っているコマは数字が小さい。

 

つまり、重要度が高いのだろう。

 

取られれば一手で終わる可能性があるコマということ、だからこそ残っている。

 

だが、このルールを設定したのは、挑まれた側、即ち、兄だ。

 

このゲームを行い、そして消えることまで意味があったということになる。

 

そこで、白は目を閉じる。

 

兄は何故自分を一人にしたのか、疑問だった。

 

だが、今ならわかる。

 

つまり、相手にわざと記憶を託し、一度は負け込むことを意図し、さらにそこから勝つことを意図している。

 

白か黒か、それは愚問だろう。

 

最後の手を"白"に託したのだから。

 

兄がわざと負け、白に勝たせよう打っただろう手。

 

それを受けた相手が兄の策にまんまとはまって、打たされただろう手。

 

それを全て読みきり、たった三手で逆転する。

 

それだけは、白にしかできないこと。

 

確信とともに白が手を振り落とし、カチリ、と聞こえない音が三人の耳を打った。

 

直後。

 

「い、つっ・・・」

 

「いたっ・・・な、なんですのっ!」

 

白も、ジブリールもステフも佑馬も、襲ってきた頭痛に頭を押さえる。

 

白が振り下ろした一手に呼応するように、頭の中をノイズが走る。

 

そして、

 

「思い出しました。いくらゲームのルールとはいえ、マスターを忘れるなんて。」

 

仕方がないこととはいえ、自分の不甲斐なさに頭を垂れる。

 

「で、でもなんでソラは消えたんですの、わざとだったんですよね!?」

 

同じく大半の記憶を取り戻したステフが、声を張り上げる。

 

「ステフ、その記憶はな、最初からないんだよ。」

 

そう佑馬がそう言う。

 

「な、なんでですのよ!」

 

「言ったら、相手に真意が伝わるだろ。だからだよ。」

 

それで納得するステフ。

 

そこで虚空から何かが勝手に、黒いコマを置く。

 

躊躇うように、迷うように・・・

 

何故パスしないのか。

 

それは、空がパスできないように設定したからだ。

 

重要度の高いコマを無為に置かされることになる。

 

躊躇するのは当然のこと。

 

そして『弐』と書かれたコマを手に取る。

 

白はもうわかっていた。

 

自分が手にしている、『弐』と記されているコマが司る"概念"も、兄の真意も。

 

故に、敵に対して、同情すら覚えて、言う。

 

「・・・こんな、の・・・佑馬以外は、読め、ないよ・・・にぃ・・・すごい・・・」

 

これを完璧に読みきったであろう佑馬に敬意を込めながら、そう笑って指した白の二手目によって。

 

さらに裏返ったコマが盤面の、過半近くを一気に染め上げる。

 

ぼんやりと対戦相手、

 

クラミーと兄の姿が見え始めたことに、ジブリールよステフも目を見開き。

 

白は溢れそうになるものに必死に堪え、佑馬は盤面をずっと見ている。

 

残されていた三つのコマの意味は

 

『参』 ゲームに勝つ方法

 

『弐』 白に対する絶対的信頼。

 

そして『壱』が

 

「・・・しろ、個人の全、て・・・」

 

これが今現在の空の自分自身の存在以上の要素。

 

立場が逆なら白もそうだったも言いきれるから。

 

黒いコマが、ゆらゆらと、不安そうに、置かれる。

 

「・・・さぁ、にぃ・・・」

 

そして、それを待っていたように

 

「・・・帰って、来てっ!」

 

『壱』のコマを盤面に叩きつける。

 

僅か四コマ差で勝った盤面から『勝者 空』の音声が響いた。




ちょっと佑馬の説明のときにオリジナル解釈がありましたので説明します。

人類種の駒を一度保有したので、そのまま人類種として認識され、ジブリールはその所有物なので記憶が喪失。

というわけです。

そして、今回過去最多の8000字越えです。
白の長文難しい。

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