仮面ライダー〜アサシン〜ゴースト   作:ファルコン・Σ

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怒りの時間

磨瀬榛名。茅野カエデの芸名。

どんな役でも軽々こなした天才子役であり、抜群の演技力を持つ。

 

その本名は雪村あかり。E組の元担任、雪村あぐりの妹だという。

 

彼女が発した殺せんせーが人殺しという言葉、タケルが口にした雪村あぐりの蘇生という目的。

 

この事から、雪村あぐりは既に故人であり、その死に殺せんせーが何かしらの形で関わっていることは明白だった。

 

「……殺せんせー」

 

木村が黙ったままの殺せんせーに声をかけた。

教室にいる全ての人物が殺せんせーを見つめている。

 

「これだけ長く信頼関係築いてきたから……もう先生をハナっから疑ったりはしないよ。でも、もう話してもらわなきゃ、殺せんせーの過去の事」

 

「………もし貴方が話さないなら過去を見た俺が話します。けど俺も含めた全員……貴方の口から聞きたいんです」

 

タケルの、後退を許さない言葉に殺せんせーは静かに頷いた。

 

「分かりました。先生の過去の全てを話します。ですがその前に……茅野さんはE組の大事な生徒です。話すのは……クラス皆が揃ってからです」

 

◎◎◎◎◎

 

茅野からの殺害予告が来たのはその日の夕方だった。

時間は19時、場所はすすき野原。

 

「来たね。じゃ、終わらそ!」

 

「茅野………」

 

「茅野さん。その触手をこれ以上使うのは危険すぎます。今すぐ抜いて治療しないと命にかかわる」

 

殺せんせーの警告だがしかし、茅野は一切耳を貸さない。

元より目的の為なら死んでもいいと覚悟している彼女だ。説得は意味がないだろう。

 

「……茅野、全部演技だったの? 楽しいこと色々したのも、苦しいこと皆で乗り越えたのも」

 

「演技だよ。ジャックの時も、鷹岡先生の時も、死神の時も、ガンマイザーの時も、ずっと耐えてひ弱な女子を演じたよ。お姉ちゃんの仇を取って……お姉ちゃんを生き返らせる為に」

 

「………………」

 

三年になってからE組に来たタケルだが雪村あぐりの記憶は知っている。

熱心で生徒達にも凄く優しい先生だったという。停学中のカルマにまで訪ねるような先生だった。

 

「……けどさ、本当にいいの? 今茅野ちゃんがやってることが……殺し屋として最適解だとは俺には思えない」

 

カルマに続けてかつてその身に触手を宿していたイトナが警告する。

 

「体が熱くて首元だけ寒いはず。触手の移植者特有の代謝異常だ。そのままだと熱と激痛でコントロールを失い、触手に生命力を吸いとられ、死………」

 

 

「うるさいね。部外者達は黙ってて」

 

 

突然、茅野の触手が燃え上がった。

 

「体が熱くて仕方ないなら………もっともっと熱くして全部触手に集めればいい」

 

「茅野……!」

 

触手から放たれた炎が彼女と殺せんせー、タケルを囲んでリングを作る。

 

「殺せんせー! タケル!」

 

「どっちが先? 別にどっちでもいいよ。殺せんせーを殺して仇を討つか、タケルから眼魂を奪って甦らせたお姉ちゃんに土下座させて殺すか」

 

「カエデさん………!」

 

「そもそも私は貴方もウザかったんだよ。お姉ちゃんと同じで死んでるのに自分だけ生き返ろうとしてね」

 

「やめろ茅野! こんなの違う!! 自分の命を犠牲にして殺したって後には何も残らない!!」

 

一番仲の良かった渚の言葉も届かない。

元々彼女は自分の殺意を隠すために彼を利用していたのだから。

 

「自分を犠牲にするつもりなんて無いよ渚。私はただ…………自分の目的を貫くだけだから」

 

「この…………分からず屋が!!」

 

[チョーカイガン! ムゲン! keep in going! ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴット・ゴースト!]

 

「殺せんせーは退いてください!! はっきり言って邪魔です!!」

 

「タケルが相手? いいよ。今の私なら貴方にも負けない」

 

ガンガンセイバーを分割した二刀流モードを構え、茅野が振るう炎の触手を迎撃する。

 

「う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

流星群、猛瀑布、火山弾のような茅野の怒濤の猛攻を本気の剣捌きで受け流す。

 

「おらぁぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

「………イトナ。タコ。テメーらから見てどうなんだ。茅野は」

 

「…………俺よりもはるなに強い。殺せんせーが相手だとしたら今までの誰よりも殺せんせーをやれる可能性がある」

 

「ええ。ですが………」

 

 

「とっとと私に眼魂を寄越しなさい!! そして地獄に帰れ!!」

 

「ん、く!!」

 

叩きつけては切り返し、突かれては受け止め、横薙ぎの触手は刃先で受け流す。

もはやムゲンの腕の軌道は捉えることすら出来ない。

対して茅野は僅か十秒程度の全開戦闘でもう精神が触手に侵食され始めている。

 

「ましてや相手は生粋の戦士、タケル君です。このままではタケル君との戦いを終えることすら出来ないまま、数分後には死んでしまいます」

 

「…………!」

 

こんな事が、本当に茅野がやりたかったことなのか。

 

 

「違う!!」

 

「!?」

 

ムゲン魂によって更に人の心が分かるようになったタケルは、茅野の激しい怒りと殺意に飲まれていく本当の心を確かに聞いた。

 

 

…………たすけて。

 

 

「助ける!!」

 

二刀流を旋回切り。絡み付いてくる炎の触手を弾き飛ばす。

 

「炎の相手はガンマイザーで既に何度も経験済みなんだよ!! 殺せんせー!! 時間を稼ぐからカエデさんを助ける術を!!」

 

「勿論です!!」

 

「勿論って……助ける方々なんかあるのか!?」

 

次元の違うタケルと茅野の戦い。そこにどう割り込むというのか。

 

「彼女の殺意と触手の殺意が一致している間は触手の根は神経に癒着して離れません」

 

「じゃあどうすれば……」

 

「まずタケル君が触手を切断してくれれば、触手を怯ませて殺意を僅かに薄れさせる事が出来ます。その瞬間……君達の誰かが茅野さんの殺意を忘れさせる事をしてください」

 

方法は何でもいい。思わず暗殺から考えが逸れる何かを。これだけは殺意の対象である殺せんせーやタケルには出来ない。

もし誰かが茅野の殺意を弱める事ができれば触手と彼女の結合が離れ、最小限のダメージで触手を抜けるかもしれない。

 

「タケル君の変身も永遠に持つわけじゃないですしそれ以前に茅野さんには時間がない。なるべく早くお願いします!!」

 

「死ネ! 死ネ! 死ンデ!」

 

「うおらぁぁぁぁああああああ!!!」

 

更にすさまじくなる茅野の攻撃、二本しかない筈の触手が何本も波状して見える。

それをムゲンは二刀流モードをフルに使って凌ぐ。

タケル自身にはまだ余裕があるが、ガンガンセイバーの方はそうもいかず、徐々に刃に亀裂が走っていく。

 

「……………」

 

渚が猫だましを思い付くが意識の波長が乱れすぎている茅野には通用しない。

必死に記憶を手繰り、茅野を救う技術を模索する。

凄まじい速度で頭をフル回転させ、そして。

 

 

「!! あった!! 教わった殺し方……殺せんせー!!」

 

「何か思い付きましたか!? では、タケル君!!」

 

「分かっています!!」

 

[命! ダイカイガン!]

 

「カエデさん……君の怒りは痛い程感じる………けど、狂気に飲まれちゃいけないんだ!!」

 

ガンガンセイバーがレッドに輝き、燃え上がる炎のようなオーラが噴出する。

 

[イカリスラッシュ!]

 

「でゃあああああ!!!」

 

無尽に放たれた斬撃が茅野の触手を切り刻む。

 

「!?」

 

茅野が動揺したその瞬間に殺せんせーが彼女の動きを止めた。

 

「君のお姉さんに誓ったんです。君達からこの手を離さないと」

 

と、茅野に渚が決意を固めた表情で近づく。

そして、そのまま彼女を抱き寄せ、

 

 

キスをした。

 

 

「「「「!!」」」」

 

イリーナ直伝の昇天キス。

E組での思い出が全て演技だったなどと言わせないとばかりにhitを叩き込む。

 

「!!?」

 

6hit目辺りから茅野は正気に戻ったが、渚はそれでも舌を休めない。

15hit目でクリティカルを叩き出された茅野は目を回してくたっと気絶した。

 

「殺せんせー。これでどうかな」

 

「満点です渚君!! 今なら抜ける!!」

 

全力で茅野の神経に根付く全ての触手の根を引き抜く殺せんせー。

直ぐ様他の生徒達が茅野に駆け寄る。

 

「これで………茅野さんは大丈夫になったんですか?」

 

「ええ。おそらく……しばらく絶対安静は必要ですが」

 

一方で渚はカルマや中村にからかわれて顔を真っ赤にしていた。

そんな彼にイリーナが近づく。

 

「十秒で15hit。まだまだね。この私が鍛えたのよ。40hitは狙えたはずね」

 

なお、タケルは最高25。倉橋は30はいく。

この辺りはカップルゆえの実力だろうか。

そのタケルだが、ガクリと疲労で膝を突く。そんな彼に倉橋が近づく。

 

「大丈夫?」

 

「疲れただけだよ……休めば回復す……るっ!?」

 

咄嗟に殺気を感じてガンガンセイバーで弾丸を弾く。

と、役目を終えたかのようにガンガンセイバーが折れた。

 

「折れたぁ!?」

 

「そりゃあれだけ使えば………」

 

「……シロ!!」

 

射線の先にはシロとレザージャケットで顔を隠した人物がいた。

 

「使えない娘だ。自分の欲を優先するがあまり標的を履き違えるとはな」

 

「なんだと………」

 

「だが……最後は俺だ。モンスター。俺から全てを奪ったお前に対し、命をもって償わせよう」

 

変声機を外し、覆面を外したシロはその真の顔を晒した。

 

「………やはり君か。柳沢……」

 

「行こう二代目。三月には……呪われた命に完璧な死を」

 

シロ……柳沢と謎の人物が去っていくと同時に茅野が目を覚ました。

それを見たタケルは変身を解除するとゆっくりと歩いていく。

 

「タケル………何処へ?」

 

「帰るよ……流石に疲労がヤバい。正直立っているのもキツい」

 

「殺せんせーの過去……聞かなくていいの?」

 

「俺はもう分かっているから………カエデさんには君がやったことは気にしてないって伝えてくれ……」

 

そう言ってタケルはフラフラとしながらも歩き去っていった。

 

◎◎◎◎◎

 

タケルは殺せんせーから直接過去を見たわけではない。

ガンマイザーにオレ眼魂が砕かれた際、生死の峡で彼は雪村あぐりのゴーストに救われたのだ。

実はタケルはその時彼女から殺せんせーに何が起こったのかは既に聞いていた。

 

「……………皆」

 

今頃は殺せんせーが自らの過去…………。

 

死神と呼ばれた殺し屋だった時の出来事を語り始めたところだろう。

 

「……もう俺だけで済む問題じゃない……皆、覚悟を決めろよ………」

 

 

 

神代タケルの得た感情。

[喜][怒][?][楽][?][?][?]




イカリスラッシュ。本編ではガンガンセイバーとサングラスラッシャーの二刀流だったので此方は普通に二刀流モード。

元々ムサシを宿していたタケルは剣捌きの腕は相当強いです。
あの茅野の火炎触手に対応できるくらいには。

本来なら過去話にも関わらせたかったですが文字数の問題とかがあって省きました。

次回からはいよいよ100の眼魂編です
敵ゴーストの正体は?

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