殺せんせーの解雇通知。
ついに禁断の伝家の宝刀が抜かれた。
「そんでこれ面白いほど効くんだよこのタコには!!」
ガタガタ震えながら何処か見たようなプラカードなどを持ってデモに訴える殺せんせー。
「早合点なさらぬよう。これは標的を操る道具に過ぎない。あくまで私はあなたを暗殺に来たのです。私の教育に………不要となったのでね」
◎◎◎◎◎
取り壊しが一時中断され、教室には理事長と殺せんせーだけが残された。
「さて殺せんせー。もしもクビが嫌ならば、もしもこの教室を守りたければ、私とギャンブルをしてもらいます」
机には五教科の問題集と五つの手榴弾。
うち四つは対先生手榴弾だが一つは対人用の本物の手榴弾。
ピンを抜いた手榴弾を挟んだ問題集の適当なページを開き、右上の問題を一問解く。
殺せんせーが四冊、理事長が一冊。理事長を殺すかギブアップさせられれば殺せんせーの残留を認めるという。
「ではそうだね。寺坂君。殺せんせーが勝てる確率を式から答えて」
「……4/5×3/4×2/3×1/2=1/5。20%だ。しかもタコが四回も爆弾を受け続けなきゃいけねーのに、テメーは危なくなったらギブして無傷。圧倒的に不公平だろーが」
「寺坂君。社会に出たらこんな理不尽の連続だよ。強者と弱者の間では特にね。だから私は……君達にも強者側になれと教えてきた」
「………………」
実際浅野理事長の言うことは正しい。
そして殺せんせーが追い出されては暗殺ができる学校などもう見つからない。
計算上では今までのどの暗殺よりも確率が高い。
強者という立場こそが最強の刃。それが理事長の暗殺。
一冊目、数学。
「開けた瞬間解いて閉じれば爆発しない。貴方のスピードなら簡単かもしれませんね」
「も、もちろんです……」
ばっ! と問題集を開く。
「(平面図形計算! えーとホラ簡単な奴ですよアレですよアレ十の位から1借りてきて3あまり4だとかおよそ3だとか)」
バァァァアン!!
手榴弾が爆発し、対先生弾が炸裂する。
「まずは1ヒット。あと三回耐えられれば貴方の勝ちです。回復する前にさっさと次を解いてください」
明らかにあと3発耐えられるようなダメージではない。
殺せる可能性としては死神や夏の離島と同じくらい高い。
「弱者は暗殺でしか強者を殺せないが、強者は好きなときに好きなように弱者を殺せる。この心理を教える仕組みを全国にばらまく。防衛省から得た金と貴方を殺した賞金があれば全国に我が系列校を作れるでしょう」
どこまでも教育のことを貫く。
それが浅野理事長の変わらぬ理念であった。
「………浅野理事長。貴方は一つ間違いをおかしていますよ」
と、ここでタケルが口を出した。
「………神代君。その言葉の理由を教えてもらおうかな?」
「クラスの全員が束になっても、軍がどれだけ兵器を使おうと、最強の殺し屋が狙おうと殺せない超生物が…………弱者だと思いますか?」
シュバッ、
社会の問題集が一瞬で解かれた。
「はい、開いて解いて閉じました。この問題集シリーズ。ほぼほぼどのページにどの問題があるか覚えています」
数学が解けなかったのは矢田に長く貸していた為に忘れてしまっていたのだ。
「………私が持ってきた問題集なのに、たまたま覚えていたとは」
「まさか。日本全国全ての問題集を覚えましたよ。教師になるんだからその位は勉強するでしょう」
殺せんせーが言うには、問題が解けるまで爆弾の前から動けない。こんなルールは情熱がある教師ならばクリアできるという。
「教え子の敗北で心を乱したようですね。安易な暗殺で貴方は自分自身の首を絞めた」
国語、理科と次々と解き、最後、英語が残された。
四冊クリアしたことでターンは理事長に移る。
「どうですか? 目の前に自分の死がある気分は。死の直前に垣間見る走馬灯。その完璧な脳裏に何が映っているのでしょうか?」
「………………」
「アンタが持ち出した賭けだぜ。死にたくなきゃ潔く負けを認めちまえよ」
そう切り出した吉田をギロッと睨む理事長。
「それに私達、もし理事長が殺せんせーをクビにしても構いません」
「この校舎から離れるのは寂しいけど……私達は殺せんせーについていきます」
「家出してでも、何処かの山奥に籠ってでも、僕らは三月まで暗殺教室を続けます」
生徒達のその答えに殺せんせーは思わず感動の涙を流す。
「今年のE組の生徒は……いつも私の教育の邪魔をする。ここまで正面切って刃向かわれたのは今年に入って何度目だろうか」
シンと静まる教室。理事長はゆっくりと英語の問題集に近づく。
「………殺せんせー。私の教育論ではね。貴方がもし地球を滅ぼすなら……それでもいいんですよ」
ばっと問題集を開く理事長。
そして、対人用の手榴弾が破裂し、爆発が理事長を飲み込んだ。
その瞬間、タケルの脳裏に記憶が飛び込んできた。
「!!!」
まだ真新しい旧校舎。
そこで三人の子供達に教鞭を取る穏やかな浅野理事長の過去。
三年後、その生徒のうち一人が先輩に虐められて自殺したという過去。
それから、強い生徒を育てる為に新たな教育方針を建てた過去。
浅野理事長の過去だった。
「……………」
しかし、浅野理事長は無事だった。
殺せんせーが脱皮した皮で助けたのだ。
「何故……それを自分に使わなかった?」
「あなた用に温存しました。私が賭けに勝てば……貴方は迷いなく自爆を選ぶでしょうから」
「………何故…私の行動を断言できる?」
「似た者同士だからです。お互いに意地っ張りで教育バカ。自分の命を使ってでも教育の完成を目指すでしょう」
実は殺せんせーはテストの間に嘗ての塾の生徒に過去の出来事を聞いてきたのだ。
十数年前の理事長の教育は殺せんせーの求める教育の理想とそっくりだったのだ。
「私が貴方と比べて恵まれてたのは………このE組があった事です。纏まった人数が揃い、同じ境遇を共有しているから、校内いじめにも団結して耐えられる。一人で溜め込まずに相談できる」
そして、このE組を作り出したのは他でもない理事長自身だった。
「結局貴方は……昔描いた理想の教育を無意識に続けていたんです。そして私も理想は同じです。殺すのではなく生かす教育。これからも……お互いの理想の教育を貫きましょう」
殺せんせーが差し出した対先生ナイフを理事長は受けとる。
その脳裏に、嘗ての自殺した生徒と交わした約束が思い返される。
「………私の教育は常に正しい。ですが、貴方も今私のシステムを認めたことですし……恩情をもってこのE組は存続させることとします」
「ヌルフフフ。相変わらず素直に負けを認めませんねぇ。それもまた教師という生物ですか」
「…………それと、たまには私も殺りに来ていいですかね」
「勿論です。好敵手にはナイフが似合う」
憑き物が落ちたような穏やかな顔で理事長は去っていった。
「………なんとかなったかな」
「そうみたいだね。よかった~!」
校内抗争はこにてで決着がついた。
しかし、暗殺の決着はまだまだ着かず、眼魔の問題も残っている。
と、その時。
ズガァン!!!
「「「!?」」」
撤収しようとした工事車両が突如爆発炎上した。
『排除、開始』
「ガ、ガンマイザー!?」
「次から次へと……!」
以前、タケル達が眼魔の世界に行ったときに遭遇した炎のガンマイザー・ファイアーだった。
「皆……行くよ!」
[グレイトフル! ゼンカイガン! 剣豪・発見・巨匠に王様・侍・坊主にスナイパー! 大変化~!]
すぐさまグレイトフル魂に変身したタケルがガンマイザー・ファイアーに向かう。
『標的のレベル上昇』
「だあっ!!」
殴る、蹴る、打つ、叩きつけるといった攻撃を連続で行うグレイトフル。
それに対してファイアーが放った火炎攻撃を腕でガードした。
「ぐうっ………!」
『フーディーニ! ラッシャイ!』
『ホウッ!!』
召喚されたフーディーニが鎖を使って炎を放つ腕を引き、火炎放射の軌道を変える。
「ビリー・ザ・キッド!」
『ビリー・ザ・キッド! ラッシャイ!』
更に召喚されたビリーが連射でファイアーを牽制する。
『ッ!! 俺様の弾丸が焼かれちまう!?』
『ノブナガ! ラッシャイ!』
『降臨! ぬぅえい!!』
召喚したノブナガが連射して加勢する。
『排除!!』
『ぐおあっ!?』
『アウチッ!!』
業火に焼かれたビリーとノブナガは消滅した。
『ヒミコ! ラッシャイ!』
『ニュートン! ラッシャイ!』
『たまには手を組もうではないか』
『行きましょう』
引力操作で動きを封じ、ヒミコが神秘のオーラを放つ。
『消去、排除!』
「行くぞ! 魂は永遠に不滅だ!!」
『レッツゴー! 女王! リンゴ! 脱走! オメガフォーメーション!』
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
三人が動きを封じた瞬間にグレイトフルがキックを叩き込む!!
そしてガンマイザー・ファイアーは撃破された。
「「「よっし!!!」」」
「はあ……はあ………」
全力を叩き込んだタケルには疲労が貯まっている。
「強いな………ガンマイザーは……」
「けど、タケルの敵じゃないな!!」
と、その時である。
『驚異的な力を確認』
「!!」
「新手のガンマイザーか!?」
もう一人の男が現れた。
と、同時に倒した筈のファイアーが再び炎を上げる。
「!? そんな、復活した!?」
「タケル!! 退け!! いくらでも復活するようじゃ勝てない!!」
「今退いたら皆が危ない……退くわけにいかないだろ!!」
グレイトフルは再びファイアーに向かう。
しかし、
『排除、開始』
「うあっ!?」
新たなガンマイザー・グラビティが放った重力が動きを鈍らせる。
『抹殺!!』
「ッ、ぐああああああああっ!!!」
先程よりも遥かに強い業火がグレイトフルを飲み込む。
「「「タケル!!」」」
「うっ、ぐ、あああっ………!」
地獄のような業火に飲まれたタケルはそのまま変身が解かれ、倒れ伏した。
「まだ、だ………!」
しかし、諦めずにタケルはオレ眼魂を構える。
『『滅殺!』』
と、ファイアーとグラビティが融合した。
そして引力を凝縮した火炎弾が放たれる。
「ぐッあああああああ!!!」
「「「「タケル!!!」」」」
そして、吹き飛ばされたタケルの手からオレ眼魂が離れ……………。
そのまま、タケルの魂は砕け散った。
浅野理事長の話は下手に関わると変な感じになりそうだったので殺せんせーに一任しました。
タケルが関わったのは浅野理事長の過去を知るとこですね。
そしてそれ以上に大変なことになってますが……。
タケルの運命は!?
次回、超開眼!! 今日中に出します。