学園祭が終わればいよいよ学力の決戦となる。
すなわち二学期の期末テスト。
「一学期の中間の時先生は、クラス全員五十位以内という目標を課しましたね。あのときのことを謝ります。先生が成果を焦りすぎましたし……敵の強かさも計算外でした」
しかし、今は全員、敗北や挫折、勝利を経て、頭脳も精神も成長した。
「堂々と全員五十位以内に入り、堂々と本校舎復帰の資格を獲得した上で、堂々とE組として卒業しましょう」
「………そう上手く行くかな」
と、杉野が声を出した。
どうやらA組の担任が変わったらしく、新しい担任はなんと、浅野學峯理事長だという。
「……そうですか。とうとう……」
「正直あの人の洗脳教育は受けたくないよ。異様なカリスマ性と人を操る言葉と眼力」
「授業の腕もマッハ20の殺せんせーとタメ張るし」
「あの人の授業受けたら……多分もう逆らえる気がしない」
◎◎◎◎◎
その日の帰り道、意外な人物がタケル達を待ち構えていた。
A組の浅野学秀である。
「なんか用かよ」
「偵察に来る用なタマじゃないだろうに
「…………こんなことは言いたくないが……君達に依頼がある」
「あの怪物を君達に殺してほしい」
あの怪物、というのは理事長の事だろう。傑物の浅野がそう呼ぶ人物は一人しかいない。
「もちろん物理的に殺してほしい訳じゃない。殺してほしいのはあいつの教育方針だ」
曰く、今理事長に教育されているA組をE組が上回り、自分が一位を取ることでその教育方針を壊せるということだ。
「……浅野君。君と理事長の乾いた関係はよく耳にする。ひょっとして……お父さんのやり方を否定して振り向いてほしいの?」
と、片岡がそう問いかけるが、浅野はそれを一蹴。
「勘違いするな。「父親だろうが蹴落とされる強者であれ」、そう教わってきたしそうなるよう実践してきた。人はどうあれ、それが僕ら親子の形だ」
「……………」
一瞬、浅野とアビスが重なったタケルだが、そういう関係を親子がお互いに認めている以上、それが正しいのだろう。
「だが、僕以外の凡人はそうじゃない」
今のA組は地獄だという。E組への憎悪を唯一の支えに限界を越えて勉強させる。もしそれで勝ったなら彼らはこの先その方法しか信じなくなる。
「敵を憎み、蔑み、陥れる事で手にする強さは限界がある。彼らは高校に進んでからも僕の手駒だ。偏った強さの手駒では……僕を支える事はできないんだ」
時として敗北は人の目を覚まさせる。
だから、
「どうか、正しい敗北を、僕の仲間と父親に」
あえて傲慢な本心を隠さないのは本心で話していることを示している。
プライドの塊の浅野が頭を下げて、今本気で他人のことを気遣っている。
「え、他人の心配してる場合? 一位取るの君じゃなくて俺なんだけど」
相変わらずの挑発口調のカルマがそんな浅野の神経を逆撫でさせる。
「言ったじゃん。次は全員容赦しないって。一位は俺とタケルでその下もE組。浅野クンは十位あたりがいいとこだね」
「………カルマ、俺まで巻き込まないでくれよ。まあやるけどさ」
「おお~。カルマとタケルがついに一位宣言」
「タケルは兎も角カルマは一学期期末と同じ結果はごめんだけどね」
「今度は俺にも負けんじゃねーのか? ええ!?」
軽くキレたカルマが寺坂に膝蹴りを叩き込む。
「浅野。今までだって本気で勝ちに行ってたし、今回だって勝ちに行く。いつも俺等とお前らはそうしてきただろ」
「そうだな。勝ったら嬉しく負けたら悔しい。そんでその後は格付けとか無し。それでいいだろ? だから俺も今回、全力で一位を取りにいく」
「余計なこと考えてないでさ。殺す気できなよ。それが一番楽しいよ」
磯貝、タケル、カルマの言葉を聞いた浅野は少し唖然とした後、歯をむき出しにして好戦的な笑みを浮かべた。
「面白い。ならば僕も本気でやらせてもらおう」
◎◎◎◎◎
そしてE組の皆は必死に勉強した。
殺せんせーだけではない。英雄の人達にも出てきてもらい、それぞれの偉人が最も得意とする科目を教わった。
ここで無様な結果を出してはたとえ暗殺に成功しても胸を張れない。
教え通り第二の刃を身に付けたことをターゲットに、恩師に報告できないままじゃ卒業できない。
そして、決戦の日。
ちらりとA組の教室前を通ると皆化物のような形相でこちらを睨んでいる。しかも、
「「「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す………」」」
と物騒な言葉まで吐いていた。
「カルマ、タケル、勝てんの?」
「さーねー。本気で殺す気あるやついたら手強いけど」
「俺はもう死んだ身だ。殺気はなんか気にならないよ」
二人の怪物に殺意を教育された生徒が因縁に決着を着けるべく、今………紙の上で殺しあう。
「始めッ!!」
一時間目、英語。
いままでの問題とは明らかにレベルの違う強大な問スター。
「これ眼魔相手の方がマシじゃね?」
思わずタケルがそう思うレベルである。
だが、眼魔とは異なり、問スターにはちゃんとした倒しかた、正解が存在する。
「………ベートーベン!!」
歌に合わせて英文法を教えてくれた音楽の巨匠の授業を思いだし、タケルは答えを乗せた蹴りを叩きつける。
二時間目、社会。
「リョウマ!」
広く日本を見てきたリョウマの授業で習ったことを使い、難関な地理問題を撃破する。
三時間目、理科。
「エジソン! ニュートン!」
二人の科学者の知識と経験を詰め込まれた頭脳をフルに活用し、クリア。
四時間目、国語。
「グリム!」
文章の解き方を伝説の文豪に教わった。それを応用して膨大な長文問題を成し遂げた。
そして五時間目、数学。
「殺せんせー……力をお借りします」
何度も何度も繰り返し問題を解き続けたタケル。
嘗て数学が弱点だったかれの姿は何処にも無い。
「順調そうだねタケル」
そんな彼にカルマが声をかけた。
「命燃やしまくってるからな。他の皆に構ってる暇は無いけどさ」
「さっき見てきたけど結構なんとかなってたよ。お互いに教えあった成果があったかもね」
「そうか。なら……俺は自分の命を燃やしきる!」
「じゃ、皆の丸をしっかり取って来ようか」
最終問題!
「(………粒子と原子の立方体の構造か。まず余計な部分を省くと……つまり自分が動ける領域を求めろということか…………)」
そこまで考えてタケルの結論は。
「(時間足りなくね!?)」
この捉え方は間違っていると判断。普通の計算方法では明らかに時間が足りないのだ。
「(もっと完結に分かる方法は………!)」
偉人達、そして仲間達から教わった学識をなんとか引き出すタケル。
と、その時ふと気づいた。
「(ベートーベンは音楽の天才だけど、科学力はエジソンやニュートンに負ける。その二人だって単純な力ではムサシやベンケイに敵わない。それと同じだ!)」
一つの原子の欠片は人の才能の一部。
それが八分の一。全部で八個。
つまり、自分と八人を合わせた場合必ず一対一になる。
つまり領域も一対一。つまり立方体の半分!
「………こいつでどうだ!」
答えを壁に書くと立方体が砕け散る。
と、同時にカルマも隣の立方体から出てきた。
最終問題をクリアした二人は顔を見合わせて笑うのだった。
◎◎◎◎◎
そして、いよいよ結果発表の日。
「細かい点数を四の五の言うのはよしましょう。今回の焦点は……総合順位で全員トップ五十を取れたかどうか!」
殺せんせーがトップ五十の成績ランキング表を黒板に張り付ける。
結果は…………。
「………うちでビリって寺坂だよな」
「その寺坂君が……46位」
「………てことは……」
「「「やったああぁぁぁぁぁああああ!!!」」」
「「「全員50位以内ついに達成!!」」」
上位争いも五英傑を引きずり下ろしてほぼ完勝。そして、
一位、赤羽業・神代タケル、500点
三位、浅野学秀、497点
「よっし!! 一位達成!」
「どうですか二人とも? 高レベルの戦場で狙って一位を取った気分は?」
「……ん、別にって感じ」
「俺は………教えられた皆さんに報いることが出来たかなって」
浅野との勝敗は最後の数学の最終問題で分かれたらしい。
「……あれね。なんかよくわかんないけど、このクラスの皆と一年過ごしてなきゃ解けなかった気がする。そんな問題だったよ」
なお、A組は前半までは絶好調だったが殺意が切れ、後半は難関問題で引っ掛かる生徒が増えたそうだ。
そして、
「さて皆さん。晴れて全員E組を抜ける資格を得たわけですが……この山から出たい人はまだいますか?」
「いないに決まってんだろ」
「二本目の刃はちゃんと持てたし、こんな殺しやすい環境は他に無いしね」
「では、今回の褒美に先生の弱点を教えてあげ…………」
突如、校舎が大きく揺れた。
「な、なんで!? 校舎が半分……無い!!」
外を見ると、ショベルカーなどの工事車両が校舎を破壊していた。
それを指揮しているのは、浅野理事長。
「今朝の理事会で決定しました。この旧校舎は今日をもって取り壊します」
彼が言うには、E組の生徒達には来年開講する系列学校の新校舎に移ってもらい、性能試験に協力してもらうのだという。
「牢獄のような環境で勉強できる。私の教育理論の完成形です」
「………どこまでも……自分の教育を貫くつもりですね」
「……ああ、勘違いなさらずに。私の教育にもう貴方は用済みだ。今ここで私が貴方を殺します」
浅野理事長が殺せんせーに突きつけたのは一枚の書類。
解雇通知だった。
期末が終わりました。
英雄が先生だったら心強いでしょうね(汗)
タケルの学力は最初から完璧ではなく、力と同様に少しずつ成長していくという感じにしたかったのでこうなりました。
最終的にここまで成長しました。
次回は殺せんせー主体の話です。
久しぶりの変身も見せますよ