「……………」
「タケル君」
「! 殺せんせー」
校舎の裏手で座っていたタケルは殺せんせーに声をかけられた。
「眼魔の世界で何があったのかは磯貝君達から聞きました…………大変だったみたいですね」
「…………はい」
画材眼魔は一命こそとりとめたものの、意識不明の昏睡状態だった。
人間とは体の構造が根本的に異なる眼魔にどのような手を打てばいいのか分からず、自然回復を待つしかない。
「………眼魔の考え方は人間とは全然違うと思っていました。けど、本当は人間らしい心も持ってることを知りました」
「ええ。そのようですね」
「………けど、あの世界は……あの世界の王、アビスはそんな感情は不用だって言ってました」
「そうですね。それが彼にとっては揺るぎない事実なんでしょう。タケル君はそれを聞いてどう思いましたか?」
殺せんせーの問いかけにタケルは少し黙り込む。
「…………誰がどんな考え方をしていようとそれは自由だと思います。けど、自分の考えにそぐわない存在を消してしまうのはやっぱり間違っている」
どんな理由だろうと、父親を殺していい訳がない。
タケルはその人物に会ったことはないが、アビスの行為は間違っていると思っていた。
「今までは………人間を守るために戦ってました。けど、これからは心を……命を守るために戦っていきたいです」
「そうですか。先生は眼魔については君に一任していますが一つ助言をしましょう」
触手を一本立てて殺せんせーは優しく話しかける。
「心は確かに大切です。君のその決意も心によるものですから。ですがそれは相手も同じ。心によって決められた決意を変えるのは、並大抵の力では成せませんよ」
「…………はい」
◎◎◎◎◎
眼魔世界への懸念はあるが学園生活の方の行事も忘れてはならない。
一年間の目玉イベント、学園祭の時期がやって来た。
体育祭での棒倒しを契機に本校舎ではA組とE組の対決の話で持ちきりだった。
「勝ちに行くしかないでしょう」
「「「カッコ良くねーからなその振り向き!!!」」」
口に五本の串団子を食わえて目にも刺した殺せんせーが振り向いた。
確かに格好良くはない。
「今までもA組をライバルに勝負する事でより君達は成長してきた。この対決、暗殺と勉強以外の一つの集大成になりそうです」
「集大成?」
「そう。君達がここでやって来たことが正しければ必ず勝機は見えてきます」
とはいえ、本校舎から一キロの山道の先という立地条件の悪さに加え、店系は三百円、イベント系は六百円までが単価の上限と決められている。
加えてA組は浅野が企業とスポンサー契約を結んでドリンクと軽食を無料で提供して貰えるらしい。
「この状況でどうやって………」
「………っ!?」
「桃花!?」
突然矢田に青い眼魂が飛び込む。
途端に彼女は眼鏡をかけた学者のような姿になった。
『私はアイザック・ニュートンです』
「うん。でしょうね」
『さて、お話は伺いました。私から皆様にアドバイスをいたしましょう』
そういうと矢田ニュートンは校舎から出てとある木に近付く。
『私は木から落ちるリンゴをみて万有引力の法則を発見する切っ掛けを得たとされています。それと同じようにヒントはあらゆる場所に存在するのです』
そして矢田ニュートンは地面からとあるものを拾った。
「…………どんぐり?」
「ネバーギブアップ……」
「何言ってんだタケル……」
時たまタケルはよく訳のわからないことを言うが、これは仮面ライダーとしての義務らしい。
『このどんぐりはマテバシイと言って最も食用に適した種類です。まずはこれを集めてきてください』
一時間後、山中から大量のマテバシイが集められた。
それを水に漬けて選定、殻を割って渋皮を除き、中身を粗めに砕いたら川の水で一週間ほど灰汁抜き。
さらに三日ほど天日干ししたものを細かくひいてどんぐり粉が完成した。
「客を呼べる食べ物と言えばラーメン!! これを使ってラーメンを作りませんか?」
と、実家がラーメン屋の村松が反応。
一口どんぐり粉を味見するが微妙な反応。
「味も香りも面白ぇけど粘りが足りねー。滑らかな食感をこの粉で出すには大量のつなぎが必要だな」
『それもあります。引力操作』
むかごのついた蔓の根元から何かを引き寄せて掘り出す矢田ニュートン。
出てきたのは立派なとろろ芋、自然薯だった。
つなぎとしては申し分ない食材だ。
「天然物は店で買えば数千円しますが、自然の山にはどこにでも生えています」
なおタダで得た高級食材で磯貝が将来設計を見誤ったりした。
「これで麺の材料の大半が無料。残った資金を贅沢にスープ作りにつぎ込めます」
「………なるほどねぇ。だったらラーメンよりつけ麺がいい。この食材の野性的な香りは濃いつけ汁の方が相性がいいし、スープが少なく済む分利益率も高ぇ」
流石はラーメン屋の息子。食材の特性を即座に把握して構成した。
「でも具はどーすんだよ」
「メニューもラーメン一種じゃ寂しくない?」
『それもこの山を探せば何処にでもありますよ』
寺坂や竹林がプールに住み着いていたヤマメやイワナ、オイカワ、テナガエビを釣ってきた。
木村やタケルは栗や柿、胡桃などの木の実を採集。
カルマは大量のキノコを取ってきた。そのなかには希少食材のタマゴタケや高級食材のマツタケもあった。
「これらを店で買ってフルコースを作れば一人前三千円は下らない。ところがこの山奥では殆どが当たり前に手に入る」
『少し目を周囲に向けることで何気ない物でも大きな力を発揮します。それを活かすのは君たちの役目ですよ』
「隠し武器で客を攻撃か。まあ殺し屋的な店だわな」
それぞれがそれぞれの才能を活用し、A組と渡り合える店を構築していく。
本番は11月中旬の土曜日曜。
そんな折である。
「うわ、煙たいな……」
「そりゃ薫製だもんな」
川魚の薫製を担当していたタケル達は、校舎が煙臭くなるのを抑えるため、体育倉庫を使っていた。
「でもこれは結構いい感じに仕上がってるね」
「ああ。これなら十分売り物として出せるよ」
と、そんな会話をしていると。
「う、ぐう……!」
ドサッと何かが倒れる音が外から聞こえた。
何事かと外に出てみると、そこに居たのは、見知った顔だった。
「!! こいつは、ジャック!?」
「な、なんでこんな所に………!?」
「か、神代タケル……!」
フラフラながら起き上がったジャックはタケルに襲い掛かろうとする、が、
ぐううぅぅぅぅ~~…。
「「「へ?」」」
「お、ごぉ………力が、入らん………!」
盛大な腹の音と共に再び倒れ伏すジャック。
「…………杉野、薫製一本持ってきて」
「へ!? まさかそいつに食わす気か!?」
「暴れだしたりしたら俺が責任持って止める。だから頼む。腹が減ってたら戦いは二の次だ」
「わ、分かったよ」
そう言って杉野は薫製を一本持ってきた。
それを受け取ったタケルはそっとジャックに差し出す。
「ほら。美味しいぞ。食べてみな」
「お、おお…………」
恐る恐る薫製を受け取ったジャックは一口かじってみる。そしてそのままガツガツと食べ始めた。
「………旨い」
「ならコイツも食べてみな」
と、村松がやってきて試作のどんぐりつけ麺を持ってきた。
「…………」
「あ、箸の使い方分からない?」
「元々眼魔に食事など必要ない………」
なんとか箸を使って食べるジャック。
「!?」
一口食べた瞬間、物凄い勢いで食べだした。
「いけるだろ。みっちり一週間研究したからよ」
「旨い……なんだこれは」
「どんぐりを使って作ったつけ麺だよ。特殊な食材で此処まで作るとは流石村松だな」
「くせの強い食材ばっかで苦労したぜ」
「…………恩に着る」
食べ終えたジャックはゆっくりと立ち上がろうとするが、
「………ぐっ」
「怪我してるの?」
「触るな……」
「ひなたさん」
「ん」
「! おい………」
岡野がジャックの袖を捲ると血塗れのボロボロだった。
「うわ………何があったの?」
「………イレーザーに不良品扱いをされた結果だ」
「あの変態科学者……!」
やはりアビスよりもイレーザーの方が神経を逆撫でされる。
「なんとか逃げ出すことはできたが俺のプライドが許せない……神代タケル。貴様より先に奴をやる」
「…………ジャック。交換条件がある」
と、タケルはそんなジャックに提案を持ち掛けた。
「何………?」
「治療と食事を提供する。代わりに眼魔の世界について教えてくれ」
そして、学園祭の本番が幕を開ける。
学園祭準備編
画材眼魔は一命はとりとめましたね。
後々目覚めます。
そしてまさかのジャック登場。
本編でもジャベルが御成におにぎりを貰ったりしてたのでそのオマージュです。
今回の矢田ニュートンで全ての英雄眼魂との対話も完了しました。