実際、死神の技術は想像を遥かに上回っていた。
生徒達のあらゆる作戦や行動を嘲笑うかのように封じられ、瞬く間に捕まってしまった。
そして助けに来た殺せんせーすらも教唆術で支配下においたイリーナの芝居で捕らえた。
対先生物質制の檻は地下放水路と繋がっており、近くの川から流された激流によって殺せんせーはバラバラにされる。
無論、同じ檻にいる生徒達も無事ではすまない。
爆弾付きの首輪で動きも封じ、完全に隙はない。
ただ、そんな死神にも計算外の事態はある。
たとえば、ヒーローの存在とか。
バゴォン!!
「「「!?」」」
通路の天井を突き破り、倉橋を抱いたタケルが飛び降りてきた。
「陽菜乃!! 無事だったんだね!!」
「う、うん。でも皆は……」
「…………おやおや。予想外の来客だ」
こんな非常事態でも死神は落ち着いている。
しかし、それはもう一人も同じ。
「……………………」
仲間と殺せんせーが捕まっている檻、救助に来たであろう烏間、目の色が変わったイリーナ、そして死神。
「…………なるほど。大体分かった」
「神代君……?」
「烏間先生。俺がやります」
「………僕とやりあうつもりかい? そんなのに付き合う暇はないんだけど?」
「どうかな。変身」
[ゼンカイガン! 剣豪・発見・巨匠に王様・侍・坊主にスナイパー! 大変化~!]
グレイトフルに変身するタケル。
更にある英雄も召喚する。
[エジソン! ラッシャイ!]
『I am EGISON』
「毎回それ言うの……?」
エジソンはガンガンセイバーガンモードを、檻の生徒達に向けた。
「!? おいタケル!!」
「なんのつもりかな?」
「まずは枷を外す。頼みます」
エジソンが放った電撃は、全員の首輪のみを破壊した。
「!?」
「!! 手錠も外れた!!」
『実にsimpleでeasyな仕組みだったよ』
「ありがとうエジソン…………これで、安心して戦える」
「……チッ!」
死神はその場を離脱。
逃げ出されるより早く水を流すつもりだろう。
「烏間先生。トランシーバーを借ります。それと、陽菜乃を頼みます」
「あ、ああ………」
そう言うとグレイトフルは駆け出した。
死神の後を追うと突き当たりにドアがある。
[ツタンカーメン! ラッシャイ!]
と、グレイトフルはツタンカーメンを召喚。
その斬撃は、ドアの裏に仕掛けられていた爆弾を起爆させずに破壊した。
「ふ、触れずに爆弾を見抜いてたの!?」
「おそらくヒミコの予知能力でしょう。それを踏まえてツタンカーメンで爆弾を破壊したのです」
更に先に急ぐグレイトフル。
と、ここで召喚。
[サンゾウ! ラッシャイ!]
サンゾウはグレイトフルより前に出る。
その前に配置されていた銃を装備したドーベルマンをその威光でひれ伏せさせた。
「う、嘘だろ……?」
[ベンケイ! ラッシャイ!]
[ロビンフット! ラッシャイ!]
迫り来る鉄骨の振り子はベンケイが受け止め、設置されていたボウガンはロビンフットが射抜いて破壊した。
「タケルの奴………罠があることが分かってるのか?」
「うん。そうだよ」
「そうだよって、どういうことだよ倉橋!?」
「私を助けに来た時はタケルは本気でキレて理性を失ってた。けど今は怒りながらも冷静さを保ってるの。だから今のタケルの感覚は普通とは非じゃないよ」
「タケル君自身の経験やスキルは死神や烏間先生達とは遥かに劣りますが、彼には君達を守るという覚悟と素晴らしい力を持った英雄達がいます。その力を最大まで活かし、死神と渡り合っているんです」
鎖のトラップはフーディーニで脱出。炎はノブナガで押し返し、マシンガンはビリーで破壊、有刺鉄線はムサシが叩き斬り、超音波はベートーベンで相殺した。
「………!」
と、グレイトフルは身を引く。
「殺意の察知もカンペキか。正直君を見くびっていた」
「お前のちんけでお粗末なトラップなんかで俺は止められない。今俺は機嫌が悪いんだ」
と、背後から発砲。
振り向くとイリーナがいた。
「ちゃんと当てなよイリーナ」
「ごめんね。次は当てるわ」
「………………」
グレイトフルは少し考えて………。
「…………イリーナ先生」
「何よ。言っとくけど戻るつもりはないわよ。カレは分かってくれた。{僕とお前は同じだ}って」
「そう。イリーナなら僕の気持ちを分かってくれる。例え………」
ドガッ! と、天井が爆破されて二人を潰した。
「僕が君を捨て石に使おう………と…!!?」
が、グレイトフルもイリーナも無事だった。
ゴエモンを召喚し、彼女を救ったのだ。
「なん………だと」
「言っただろ。お前のスキルなんかガキの玩具レベルだって」
「お前………イリーナを見て迷ったんじゃ」
「迷ったよ。けどな………今の俺は今までに無いくらいキレてんだよ!!!!」
[ニュートン! ラッシャイ!]
「っ、くう!?」
『最高の殺し屋でも引力に逆らうスキルは無いようですね』
「イリーナ先生。貴方に何があったのかは聞きません。けど………貴方は椚ヶ丘中学校三年E組において大切な……大切な仲間です」
「なか……ま……」
「烏間先生だって……そう思ってますよ。だから仲間に手を出した奴を……俺は許さない!」
「ぐっはあ!?」
引力で引き寄せられた死神をぶん殴るグレイトフル。
そのまま立坑に落下した死神を追ってグレイトフルも飛び降りる。
「タケル!」
「死神もいるぞ!!」
受け身を取った死神はゆらゆらと立ち上がる。
「………俺が殴れるってことは、死神だとか名乗ってはいても結局は人間か。自慢のスキルも俺には通じないしな」
「…………黙って聞いてりゃ言ってくれるね」
と、死神は顔の皮を剥ぎ、それを捨てて化物のような顔を見せた。
「それがお前の本当の顔か。随分不気味だな」
「僕のスキルが通じない奴なんかいない。全てを犠牲に磨き上げた死神のスキル!! ご覧にいれようか!!」
「ふん!!」
死神の拳をを腕で受け止めて手刀を放つ。
返しに放たれたナイフをかわし、蹴りを入れる。
ワイヤーをかわして肘を放ってナイフを叩き割る。
「す、凄い………あれがタケルの本気の戦い………」
「本気に加えて怒りのパワーも追加しているからね」
「タケル君は殆ど日常的に戦いをしています。故に単純な戦闘においては死神を上回ります」
足のナイフや吐かれた針も潰し、蹴りを叩きつける。
更に拳や肘で罠を仕込むヒマを与えない。
「………神代タケル。僕が死神になった理由を教えてあげよう」
「……………」
「僕の親は殺し屋に殺された」
「!?」
「家でも横暴だったから死んでも特に悲しくなかった代わりに、目の前で親を瞬殺した殺し屋の動きに僕はこう思ったんだ。―――なんて、美しいスキルだろうと」
プロ野球選手の華麗なキャッチが少年の進路を変えてしまうように、死神の場合はそれが暗殺だった。
「暗殺とは美しいスキルの集合体だ。人を殺せば技術が身に付き、殺して得た名声は更なる仕事とスキルをもたらす」
「……………!」
死神が投げた一輪の薔薇。
それに一瞬タケルの意識が向いた隙に死神が指に仕込んだ銃の弾丸が胸部にヒットする。
その極小の弾丸は大動脈に裂け目をいれ、血圧で大量の血が吹き出す。
…………筈だった。
「…………で、なにか?」
「!? 何故死なない!? 弾はあたった筈だ!!」
「簡単な話さ。俺は今年の三月に既に死んでる」
「なっ!!?」
どうやら死神はタケルの素性までは知らなかったらしい。
「お前が何をしようが無駄だ。死神ってのは死を与えるが………死人には何も与えられない」
「う、嘘だ…………」
「どうだ? お前の存在意義を否定する存在が目の前にいる気分は」
本気のタケルは形振り構わない。
愛する人を、大切な仲間を、大事な恩師の全てを危険に晒した死神に最早怒りが収まることはない。
もう死神の攻撃を避けたりはしない。
ナイフが体を貫こうと、銃弾を食らおうと、ワイヤーで首を絞められようと倒れずに進む。
「や、やめろ………」
「お前は言ったな。人間に死神は刈れない。死神が人間を刈るって。なら……亡霊はどうなる?」
完全にキレたタケルは、敵を蹂躙し、殲滅する。
最早幽霊ではない、怨霊だ。
「く、くるな………」
「畏れろ。3-Eを護る亡霊の名を」
[ゼンダイカイガン! グレイトフル! オメガドライブ!]
人間が死なない程度の全力でぶん殴る。
死神は壁まで吹き飛ばされ、めり込んだ。
「俺の女と仲間に、二度と手ぇだすな!!」
◎◎◎◎◎
「はあっ!!」
ガンガンセイバーで檻を叩き切る。
と、やがて烏間の部下も到着し、死神を拘束した。
「タケル……ありがとう。あんなこと言った割りに全部お前に助けられたな」
[カイサーン!]
「いや。皆を守りたいって思えたから戦えたんだよ。それに迷わず陽菜乃を助けに行けたのも皆が背中を押してくれたからだよ」
「うんうん。それにさ………ほら」
倉橋が指差す先にはイリーナに話す烏間が。
「神代君の言葉を聞いて……プロの枠に拘っていた俺の方が小さく思えた。………思いやりが欠けていた。すまない。また改めて誕生日を祝わせてくれるか」
「…………はい」
結構いい感じになっている。
そんな様子に生徒達も微笑む。
「皆が無事で笑顔になれれば………俺が戦った意味はあったと思うよ」
明日からまた平穏な日々が始まる。
それがタケルの望んでいたことなのだから。
タケルブチ切れ(理性有りバージョン)
こっちの方が怖いです。敵を徹底的に潰そうとしますから。
ジャラジ相手のクウガとかみたく。
うん。怖いしエグいし容赦ない。
けどちょっとばかり私怨入ってますw
多分今回がグレイトフル魂の最高の見せ場だと思うのです。