客席に逃げ込むE組の奇策によってA組の戦略はほとんど意味をなさなくなった。
ここから先は両リーダーの判断力が勝敗を分ける。
「橋爪! 田中! 横川! 深追いせず首尾に戻れ! 混線の中から飛び出す奴を警戒するんだ!!」
棒倒しでは棒の先端に取りつかれることが一番振りになる。
浅野が判断する限り、前原、杉野はスピードはあるが加速が遅く、岡島は他の五人には劣る。
「磯貝・神代・赤羽・木村の四人は特に注意だ!! その位置で見張っていろ!!」
親譲りの才能を持つ浅野。
敵味方の顔と能力、そして戦況をよく把握している。
「……………ねー磯貝。そろそろじゃね?」
「………ああ。タケル。頼めるか?」
「任せとけ。普段から眼魔相手に格闘してんだ。外人でも負けない」
「便りにしてるよ」
次の瞬間
吉田と村松が棒に飛びかかった!
「!? こいつら、序盤で吹っ飛ばされた……!」
「へっ、こちとら奇術王のドッキリなんども見てんだよ」
「客席まで飛ぶ演技だけが苦労したぜ」
ノブナガ流戦法その肆、
敵を騙し奇襲を仕掛けるべし。
『(敵の平静を崩すためには奇襲が何よりだ。だが上手く使うのは中々に難しい。敵を騙して油断させることが出来れば高確率で成功する)』
そして、
「逃げるのは終わりだ!! 音速!!」
「「「よっしゃア!!」」」
ノブナガ流戦法その伍。
隙を見せたら直ぐ様突くべし。
『(勝負は一瞬が勝敗を決める。相手が隙を見せたら躊躇いなく切り込んで崩せ)』
タケル以外の六人が一斉に走り寄り、懐に入る。
「どーよ浅野。どんだけ人数差あろーがここに登っちまえば関係ねー」
「く………!」
浅野はカミーユとジョゼに指示を出そうとするが、
「{あんたらは行かせないよ}」
二人をタケルが食い止めていた。
殴る蹴るは禁止されているので、掴みかかってくる腕を掴んで投げ飛ばす。
タックルをかましてくればかわして足を引っ掻けて転ばせる。
「神代………!」
「グレイトフルを得てから更に鍛えたからな!」
二人は防御に参加できない。
韓国人のサンヒョクが引きずり落とそうとするが棒もグラングランと揺れる。
「{や、やめろサンヒョク……この高重心で無理に引っ張ると棒まで倒れる}」
「{じゃ……じゃあ打つ手が無いって事か!?}」
「{……そうじゃない。支えるのに集中しろ。こいつらは僕一人で片付ける}」
「!? グエッ!?」
吉田の腕を掴んで引き上げて投げ飛ばす。
更に強烈な蹴りで岡島を蹴落とした。
『武道の心得まであるんか。吉田はフーディーニの特訓も受けておるというに』
「君達ごときが僕と同じステージに立つ。蹴りおとされる覚悟は出来ているんだろうね」
「「「!!」」」
浅野は一人でバランスを崩さずに守る。
防御に一杯で棒を倒すどころじゃないE組に客席に散ってたA組も戻りつつある。
「……一人で戦況を決定づける強いリーダー。彼が指揮を執る限りA組は負けない」
「ぐっ!!」
磯貝までもが蹴り落とされ、地面に落下した。
「磯貝君はそういうリーダーにはなれないでしょう。………なぜなら、君は一人で決めなくてもいいのだから」
ノブナガ流戦法その陸。
勝負時には戦力を惜しむべからず。
『(決めるべきときは持てる戦力を全て投入しろ。戦は慎重に進めるものだが時には大胆に攻めこむことも勝つためには必要だ)』
守備部隊だった渚、三村、菅谷、千葉が参戦、浅野の動きを封じた。
「E組の守備は二人だけ!?」
そう、今棒とA組の五人は寺坂と竹林で押さえていた。
「梃子の原理さ」
無論、そんなわけはないが、しかしA組の彼らは抜け出せない。
彼らの第一目標はE組全員を潰すこと、棒を倒す指示を出す浅野は渚達によって邪魔されて身動きがとれない。
「(指示が……出せない……ま、負ける?)」
「あ、慌てるな!! 支えながら一人ずつ引き剥がせ!!」
A組も防御の態勢が整い始めるが、そうは問屋を降ろさない。
「今だ!! 来いイトナ!!」
ノブナガ流戦法その漆。
切り札は最後まで隠せ。
『(勝負を決める切り札が敵に把握されては意味がない。最後の最後に使ってこそ生きるのだ)』
磯貝をジャンプ台に、イトナが凄まじい跳躍を見せるイトナ。
そして正確に棒の先端を捉え、他のメンバーも一気に重心をかけて棒を傾ける。そして、
『い、E組の勝利だ!!』
ワアアアアアアアアアッ!!
「いよっしゃあ!!」
『流石じゃ! ようやったぜよ!!』
『うむ! 実に天晴れ!』
◎◎◎◎◎
体育祭を経て、校舎の空気が変わり始めた。
特に下級生を中心にE組を見る目が。
と、校舎から浅野が出てきた。
「おい浅野!! 二言は無いだろうな? 磯貝のバイトのことは黙ってるって」
「………僕は嘘をつかない。君たちと違って姑息な手段は使わないからだ」
「(よ………よく言うぜ、山ほど姑息を使っといて)」
あまりにふてぶてしい浅野の態度に顔がひきつる前原と片岡。
しかし磯貝は気にせずに、
「でも流石だったよお前の采配。最後までどっちが勝つか分からなかった。またこういう勝負しような!」
「………消えてくれないかな。次はこうはいかない。全員破滅に追い込んでやる」
そう吐き捨てて去っていく浅野。
その後ろ姿を見た竹林が磯貝に話す。
「彼も君と同じく苦労人さ磯貝。境遇の中でもがいてる」
「……俺なんてあいつに比べりゃ苦労人でも何でもないよ。皆の力に助けてもらった今日なんかさ、貧乏で良かったって思っちゃったよ」
「ふふ。……あれ、タケル君は?」
◎◎◎◎◎
『貴様、また邪魔をするか!?』
「何度だって立ち塞がるさ………皆を守るためになら!」
体育祭で人が集まっているところを狙った槍眼魔と斧眼魔、ウルティマの前にタケルは立つ。
『タケルよ。我らも力を貸そう!』
「はい、行きましょうノブナガさん!」
[グレイトフル!]
「変身!」
[ゼンカイガン! 剣豪・発見・巨匠に王様・侍・坊主にスナイパー! 大変化~!]
グレイトフル魂に変身したゴーストは直ぐ様英雄召喚を行う。
[ノブナガ! ラッシャイ!]
[ベートーベン! ラッシャイ!]
ノブナガとベートーベンを召喚したグレイトフル。
『ノブナガ、再び降臨』
『ジャジャーン!』
と、ベートーベンが音波を、ノブナガは分身したガンガンハンド銃モードで牽制する。
『ぐっ!?』
『ぬぐ!?』
「はっ、だあっ!!」
ウルティマの相手をグレイトフルがする。
パンチやキックで応酬する。
『なぜ貴様は人間を守ろうとする!?』
「決まってるだろ!! 人間の命は何よりも尊い! 理由はそれだけで十分だ!!」
『下らん! 個の命に価値などない!』
「命の価値を勝手に決めるな!!」
グレイトフルの本気の拳がウルティマに炸裂する。
『ぬぐうっ!?』
と、ノブナガとベートーベンの激しい攻撃を食らって二体の眼魔が倒れ伏す。
「お前達の価値観や正義は分からない。けど、俺にだって譲れないものがある!!」
『行くぞタケルよ!』
『幕引きである!』
[レッツゴー! 武将! 巨匠! オメガフォーメーション!]
「でりゃああ!!」
音波を乗せた炸裂弾を放つグレイトフルと、それぞれが最大威力の攻撃を放つノブナガとベートーベン。
『ふん!』
『『ぐっはああああ!!』』
ウルティマは二体の眼魔を盾に使い、なんとか生き延びた。
「なに…!?」
『言ったろう。個の命に意味などないと』
と、ウルティマは姿を消した。
[カイサーン!]
「………眼魔……」
「タケル~! ここにいたか!」
「! 磯貝か、どうした?」
「祝勝会をやるみたいだから、タケルも来いよ」
「ああ。分かったすぐにいく!!」
眼魔に対する懸念はあるが、タケルは一先ず棒倒しの勝利を喜ぶことにした。
タケルはカミーユさんとジョゼさんの相手に集中してましたね。
その後に眼魔戦、常任ならキツいですわ。
タケルはだんだん強くなっていきます。
力も、心も、
そして何より
グレイトフル楽しいw