「じゃ、ジャスティス!?」
ある日、教室で茅野が驚きの声を上げた。
木村正義、その名前の呼び方は「まさよし」でも「せいぎ」でもなく「ジャスティス」なのだ。
「皆、武士の情けで"まさよし"ってくれてんだよ。殺せんせーにもそう呼ぶよう頼んでるしな」
木村の両親は警察官らしく、正義感で舞い上がって付けた名前らしい。
「子供が学校でどんだけからかわれるか考えたこともねーんだろーな」
「そんなモンよ親なんて」
と、頭を抱える木村に狭間が近づく。
「私なんてこの顔で"綺羅々"よ、"きらら"。きららっぽく見えるかしら?」
狭間の母はメルヘン脳だが気に入らないことがあったらすぐヒステリックにわめき散らす。
「そんなストレスかかる家で育って……名前通りに可愛らしく育つわけないのにね」
なお、カルマはこんな名前だが気に入っているらしい。タケルは何故自分の名前がカタカナなのか分からないらしい。
そして殺せんせーは烏間やイリーナが"殺せんせー"と呼んでくれないことを悩んでいた。
「じゃーさ。いっそのことコードネームで呼び合うってどう?」
と、矢田が提案した。
南の島であった三人の殺し屋も互いのことを本名を隠して呼びあっていた。
「なるほど良いですねぇ。頭の固いあの二人もあだ名で呼ぶのに慣れるべきです」
「「ぬぐ………」」
「それに、皆さんが親になったときのための名付けセンスも鍛えられる」
ということで皆が書いた全員分のコードネーム候補の中から殺せんせーが無作為に一枚引き、そのコードネームで一日呼ぶということになった。
◎◎◎◎◎
では、コードネームで呼び合う訓練の様子を見てもらおう。
菅谷「[野球バカ]!! ターゲットに動きはあるか!?」
杉野「まだ無しだ[芸術ノッポ]。[堅物]は今一本松の近くに潜んでる。[貧乏委員]チームが背後から沢に追い込み……[ツンデレスナイパー]が狙撃する手筈だ」
磯貝「行くぞ………あっ!?」
烏間「甘いぞ二人!! 包囲の間を抜かれてどうする!! 特に[女たらしクソ野郎]!! 銃は常に持てる高さに持っておけ!!」
前原「くっそ逃がすか!! [キノコディレクター]!! [ゆるふわクワガタ]!! そっち行ったぞ!!」
倉橋「任して~……あっ、方向変えた!!」
三村「[ホームベース]!! [へちま]!! [コロコロ上がり]!!」
吉田「おうっ!!(と、地上に注意を引き付けて……!!)」
烏間「!! やるな、[鷹岡もどき]!! だが足りない!! 俺に対して命中一発じゃ到底奴には当たらんぞ!! [毒メガネ]!! [永遠の0]!! 射点が見えては当然のように避けられるぞ!!」
茅野「く……気付かれた!! そっちでお願い[凛として説教]!!」
片岡「OK!! 行くよ、[ギャル英語]と[性別]!!」
渚&中村「「了解!!」」
烏間「!(背後から距離を保って隙を窺う……[変態終末期]と[このマンガがすごい!!]もなかなかのものだ)」
磯貝「([中二半]が退路を塞いだ!! 頼んだぞ、[ギャルゲーの主人公]!!)」
千葉「! ………はっ!!」
烏間「甘いぞ!! 君の狙撃は常に警戒されてると思え!!」
千葉「……分かってます。今だ[英雄辞典]!!」
タケル「ああ!!」
烏間「来るか……!?(銃を持っていない!?)」
タケル「と、見せかけて……[ジャスティス]!!」
木村「!!!」
◎◎◎◎◎
「で、どうでした? 一時間目をコードネームで過ごした気分は」
「「「なんか………どっと傷付いた」」」
どよーんとダークな空気が教室内に充満してしまった。
「殺せんせー。なんで俺だけ本名のままだったんだよ」
「今日の体育の訓練内容は知ってましたから。さっきみたいにカッコよく決めた時なら……[ジャスティス]って名前でもしっくりきたでしょ」
「………うーん……」
ただ、木村は極めて読みづらい名前であり、既に普段読みやすい名前で通しているので、改名の条件はほぼほぼ満たしている。
「でもね木村君。もし君が先生を殺せたなら……世界はきっと君の名前をこう解釈するでしょう。"まさしく正義だ。地球を救った英雄の名に相応しい"と」
「……………」
「親がくれた立派な名前に正直大した意味は無い。その名の人が実際の人生で何をしたかが大切なのです。剣豪として登り詰めたからこそ宮本武蔵という名が残り、引力を発見したからこそアイザック・ニュートンの名が刻まれた。名前は人を造らない。人が歩いた足跡の中にそっと名前が残るだけです」
と、英雄眼魂達も同意するようにカタカタと揺れる。
彼らは名前以上に自分の為したことにこそ誇りがあるのだから。
「もうしばらくその名前……大事に持っておいてはどうでしょう。少なくとも暗殺に決着がつくときまでは……ね」
「………そーしてやっか」
その答えに満足そうに頷いた殺せんせーは黒板に向かう。
「さて、先生のコードネームも紹介するので以後この名で呼んでください。[永遠なる疾風の運命の皇子]と」
「「「「…………」」」」
プチッ
「一人だけ何スカした名前付けてんだ!!」
「しかもなんだそのドヤ顔!!」
「ていうかダサい」
「にゅやっ!? ちょ、いーじゃないですか一日くらい!!」
このあと、「バカなるエロのチキンのタコ」と一日中呼ばれた。
◎◎◎◎◎
その日の下校中。
「ねえ英雄辞典さん」
「もうやめてくれゆるふわクワガタ」
いつも通りタケルと共に帰っていた倉橋は素朴な疑問をぶつけてみた。
「タケルは私になんてコードネーム付けたの?」
「え? え…………」
「言わないならくすぐっちゃおうかな~」
「分かった!! 言うから!! じゃあ陽菜乃も言えよ!?」
「いいよ~。じゃあどうぞ?」
「ぬぐ…………[可愛い生物博士]」
「へ~。人前なのに可愛いとか普通に言っちゃうんだ」
「だって可愛いのは事実だし………そういう陽菜乃はどうなんだよ」
「[私のヒーロー]だよ。私というか皆にとってヒーローだけどね」
「…………そうか」
と、その時である。
人の悲鳴が響いた。
「!? 眼魔か!?」
「行こうタケル!!」
急いで向かうとそこにはパニックになっている人々がいた。
「お、落ち着いてください!! 何があったんですか?」
「あ、あんた教えてくれ!! 俺の名前はなんなんだ!?」
「はっ!?」
「思い出せない……私の名前を思い出せない!!」
「俺は……俺はなんなんだ!?」
「これって……人の名前が奪われてる……?」
パニックになっている人々は口々に自分の名前を思い出せないと連呼している。
倉橋の見解は正しそうだ。
『よく分かりましたねぇ』
と、再生したブック眼魔とナイフ眼魔が現れる。
『この間の借りを変えさせてもらうぜ!!』
「人の大切な名前を奪って………許せない!!」
[グレイトフル! ガッチリミーナー! コッチニキナー!]
「変身!」
[ゼンカイガン! 剣豪・発見・巨匠に王様・侍・坊主にスナイパー! 大変化~!]
タケルはグレイトフルに変身。
更に、
[ゴエモン! ラッシャイ!]
[ロビンフット! ラッシャイ!]
『ぁ参上!』
『行くぞ』
ゴエモンとロビンフットを召喚。
眼魔コマンドの相手を任せ、自身は二体の眼魔の相手をする。
「はっ、やあっ!! だあっ!!」
『ぐうっ!? な、なんですかこのパワーは!?』
『強くなってやがる!?』
素手の攻撃で二体の眼魔を圧倒するグレイトフル。
『ふっ、はあっ。せい!』
『ふてぇ奴等はぁ、あっしが成敗してくれるぅ!!』
ロビンフットがガンガンセイバーアローモードの刃で切り裂き、ゴエモンがサングラスラッシャーを巧みに振るう。
『終わりだ』
『いよぉっ!!』
放たれた連射と斬撃がコマンドを一掃。
グレイトフルも二体の眼魔を追い詰めていた。
「皆の名前を返してもらうぞ」
[ゾクゾクイクゾ~]
『大詰めだ。でけぇ花火をぉ、あ打ち上げ~ろ!!』
「よし!!」
[レッツゴー! 怪盗! アロー! オメガフォーメーション!]
『『ぬぅあああああああああ!!?』』
ロビンフットとグレイトフルが放った矢がブック眼魔とナイフ眼魔を貫き、追撃でゴエモンとグレイトフルのサングラスラッシャーによる一閃が切り裂き、爆発させた。
『うむ』
『さらばだ』
[カイサーン!]
変身を解除するタケル。
と、ブック眼魔から放出された光が名前を奪われた人々に入り込む。
「タケル! もう大丈夫。皆名前を思い出したみたいだよ」
「そうか………よかった」
「うん。やっぱり強いねタケルは」
「ああ。俺は戦い続けるってことを俺の名前に誓ったんだよ」
それが、この名前をくれた父親の思いでもあるだろうから。
同時に名簿の時間というプロフィールも投稿しました。
タケルと倉橋さんのお互いのコードネームに愛を感じてくれれば幸いです。
グレイトフルになればアサルト程度は楽勝ですね。