E組の教室には重苦しい雰囲気が充満していた。
「…………タケル…」
殺せんせーとゴーストの両者のビームがぶつかり合ったことで発生した膨大な土煙。
それが晴れる頃にはゴーストやイレーザーは姿を消していた。
「あの野郎……タケルを利用しやがって……!」
「あの生意気な口調といい……シロ並みにムカつくぜ……!!」
イレーザーへの怒りを募らせる者。
「タケル君……大丈夫かな……?」
「早く助けたいけど……どうすれば……」
タケルを助けるための方法を模索する者。
「……………」
「!! 竹林!! 倉橋は!?」
「大丈夫。気を失っただけだから……ただ、やっぱりショックは大きかったみたいだね」
倉橋はゴースト達が去ると同時に気を失ってしまった。
タケルが奪われたというショックが相当に大きかったのだろう。
「皆!! 分かったぞ!!」
と、そこに三村が駆け込んできた。
「岡島が咄嗟に撮った写真を現像したら……タケルが操られてる理由が分かった!!」
「本当か!?」
「ああ! タケルのドライバーに変な眼魂がセットされてるんだ! これを外せばもしかしたらタケルは解放される!!」
「!!」
一瞬歓喜が浮かぶ教室内。
だが問題は………。
「どうやってタケルを押さえ込むんだよ……」
「操られてるってことは遠慮なく襲ってくるよね……」
「ただでさえタケルは強いんだぞ……俺達でどうにか出来るのか……?」
『修業しかあるまい』
と、ムサシ眼魂が動いた。
「ムサシさん」
『ゴーストの力を持つタケルとは違い、お主らは拙者達の力をまだ引き出せていない』
「それを引き出す為に修業を……?」
『強さを得ること。それが即ちタケルを助ける唯一の手段だ。お主らとて、いつまでもタケルに守られる立場に甘んじるつもりではあるまい』
「「「………!!」」」
そう。
今までタケルはE組の皆を何度も守ってきた。
皆の命を、その身と覚悟を持って、時には倒れながらも何度も戦ってきた。
仲間なら、そんな彼にばかり頼ってはいられない。
「…………やります」
「渚…………」
「タケル君には返しきれない程の大きな恩があります………此処で立たないようなら、僕らは胸を張ってタケル君の仲間とはいえない……」
「そうだな。今度は俺達がタケルを助ける番だ!!」
「それに、タケル君があんなだと、倉橋さんも悲しんじゃうものね」
「ああ。だったら答えは一つだ! 強くなってタケルを助ける! 俺達が、俺達の力で!!」
『あいや。よく分かった。ならば拙者達も力を貸そう!!』
◎◎◎◎◎
修業とは、即ち眼魂の中に入り、英雄から与えられる試練を乗り越えなければならない。
これをこなして初めて英雄の力を最大限使いこなせるのだ。
各眼魂を生成した者達が各々の眼魂を取り、机に置いた。
タケル自身が生み出したムサシ眼魂は本人が適合者を選出、杉野友人が選ばれた。
竹林と茅野、原が倉橋の看病、岡島や三村は再度ネクロムゴーストの解析。
殺せんせーとカルマを中心とした残りのメンバーで作戦を考え、律と烏間、イリーナが情報収集を行う。
タケルを助けるという目的の為に、クラス全体が一丸となった。
『では、良いな』
ムサシ眼魂が確認すると杉野達十五人は強く頷く。
『では、修業を始めるぞ!!』
途端、全ての眼魂が輝き、各々を内部へ吸い込んだ。
◎◎◎◎◎
ムサシ眼魂内部・道場。
修業者・杉野友人
『来たか。杉野友人』
「ああ。さっそく修業を始めようぜ。何をすればいい?」
『難しい事はない。拙者と手合わせだ』
「て、手合わせか……バットは握ったことあるけど刀は初めてだな……」
『構わん。此所から強くなるのだからな』
「それもそうだな。よし行くぞ!!」
◎◎◎◎◎
エジソン眼魂内部・研究室。
修業者・奥田愛美。
「エジソンさん……」
『早速だが修業をstartしよう。此方に座りなさい』
「は、はい………これって………電気の回線?」
『Yes。Msマナミ。この回線を正確に繋げて私の発明した電球を灯らせなさい』
「こ、こんなに複雑な回線を………? ………でも、タケル君の為に………!」
『時間制限は無い。落ち着いて取り組みなさい』
「はい! 物理はちょっと専門外ですが…やります!」
◎◎◎◎◎
ロビンフット眼魂内部・森林。
修業者・千葉龍之介。
『お前に言い渡す試練はこれだ』
「………弓か」
『分かっているとは思うがライフルとは勝手が違うぞ。それでこの森の鹿を全て仕留めて見せろ』
「せ、殺生をしろって!?」
『無論本物の鹿ではない。修業の為の幻だ。ただし、能力は通常の鹿を凌ぐ』
「………そう、か」
『罠などの使用は禁ずる。その弓と矢のみで全ての鹿を射抜くのだ』
「……ああ、分かった」
◎◎◎◎◎
ニュートン眼魂内部・庭園。
修業者・矢田桃花。
「あの……ニュートンさん。これは?」
『私は万有引力を発見しました。そのきっかけは分かりますね』
「リンゴ………ですよね」
『そう。その木から落ちるリンゴを全て落とさないように取りなさい。ただのリンゴではありませんから油断すればどんどん落ちますよ』
「え、えっ!?」
『引力を理解しなさい。それが貴方が力を得る唯一にして一番の近道です』
「わ、分かりました………よし、やってやるぞ~!」
◎◎◎◎◎
ビリー・ザ・キッド眼魂内部・酒場。
修業者・速水凛香。
『ビリー様がお前に出す試練は比較的簡単だ。気楽にな』
「………そうは言っていられないけどね」
『なに、お前の得意な早撃ちさ。的をどれだけ素早く正確に撃てるかって試練ってことだ』
「確かに………それは私の得意分野ね」
『ただし、条件は中々厳しくなっていくぜ。最終的には五秒で三十個の的を撃てるくらいにはな』
「ッ!! それは、厳しいわ……けど、やってみせるわ。必ず」
『OK。なら始めようか!』
◎◎◎◎◎
ベートーベン眼魂内部・コンサート会場。
修業者・中村莉桜。
「まあ予想は出来てたけどさ………やっぱりピアノってわけ」
『その通りっ!! 少女よ。ピアノは弾けるか?』
「まあ小学生の時に少しはやってたけどさ……」
『それで充分、では試練の詳細を説明しよう』
「あいよ。何の曲を弾けばいいわけ? 貴方の曲? あまり難しいのは無理だよ」
『否! 弾く曲は問わない。私のハートに届くような曲ならばな』
「!!? ベートーベンを満足させるような曲……!?」
◎◎◎◎◎
ベンケイ眼魂内部・寺院。
修業者・寺坂竜馬。
『では、修業を始めるが、お主に耐え忍ぶ心はあるか?』
「生憎使われる事にはなれてンでな。どんなことだろうとやってやンよ」
『よかろう。ならばまずは座禅だ』
「座禅……って足組む奴か?」
『お主には既に充分な力がある。故にその力に釣り合う強き心を授けよう』
「だから座禅か……おし! ならやってやるぜ! 元からどんなことでもやるって覚悟を決めてんだ!」
『心意気は良し。では始めい』
◎◎◎◎◎
ゴエモン眼魂内部・夜の城。
修業者・前原陽斗。
「なんでいきなり忍者姿なんだよ!?」
『あ決まっておろうが! 今からお主にはぁ~、あっしを捕まえてもらうでござる!』
「お、大泥棒のゴエモンを捕まえるだって!?」
『さよう。さすればお主にもぉ、抜け忍がごとき身軽さが手に入るであろうぞ!!』
「忍者のような身軽さ……」
『あどぉしたぁ? 怖じ気づいたかぁ?』
「まさか! 元々マッハ20の怪物を狙ってんだ! 泥棒くらい捕まえてやるぜ!」
◎◎◎◎◎
リョウマ眼魂内部・船上。
修業者・磯貝悠馬。
「船……ってことは海?」
『そうじゃ! おんしにはこれからニッポンをグルッと一周してもらうぜよ!』
「!? ちょ、そんなの一日二日じゃ終わらないって!!」
『心配いらんぜよ!! 眼魂の外は中に比べて時間の進みが緩やかぜよ!』
「そ、そうなのか……」
『ニッポンとはいえ海は嘗めちゃあアカンぜよ。乗組員にどう指揮するか。この船をどう扱うか、全てはお前の腕前次第ぜよ!!』
「よし……ならやってみるか!!」
◎◎◎◎◎
ヒミコ眼魂内部・集落。
修業者・片岡メグ。
『この村の民を治めてみなさい』
「………つまり女王になれと?」
『左様。ぬしは類い希なその才をどちらかといえば疎んでおる。妾の力を使いたければその気持ちは捨てなさい』
「………村の統治……私が………」
『上手く進めればいずれ予知の力が身に付くであろう。さすれば道は開かれん』
「……そうだね。皆だって頑張ってるんだ。私だって!」
◎◎◎◎◎
ツタンカーメン眼魂内部・ピラミッド。
修業者・潮田渚。
「ツタンカーメンさん? 修業は……?」
『そのピラミッドの中の迷路を突破して僕のところまで来ること!!』
「! 分かりました……」
『先に言っておくと中は罠が一杯あるからね。失敗したら最初からやり直しだよ』
「…………大変そうだけど……僕は負けない!!」
◎◎◎◎◎
ノブナガ眼魂内部・合戦場。
修業者・堀部糸成。
「ノブナガ………」
『ワシの試練は厳しいぞ。着いてこれるか?』
「なんだってやってやる。もう俺は今までの俺じゃない」
『………よかろう。貴様はこれより我が軍の大将として戦を行う。その戦に勝てばワシも貴様を認めよう」
「分かった………!」
◎◎◎◎◎
フーディーニ眼魂内部・劇場。
修業者・吉田大成。
『お前には我輩の手品を見てもらおう』
「手品ぁ? それだけでいいのかよ」
『無論それで終わりではない。仕組みを暴き、それをお前に実践してもらおう』
「!? 俺マジックとかやったことねぇぞ!?」
『お前のあの時の熱意は何処へやった? あの勇ましさをもう一度我輩に見せてみろ』
「! 上等だ! やってやるよ!!」
◎◎◎◎◎
グリム眼魂内部・書斎。
修業者・不破優月。
「漫画は好きだけど……どんな試練?」
『私達の書いた物語は時が経つに連れて大きく編纂されてきた』
『君には僕達の本当の物語を暴いてほしいんだ』
「!? それって」
『勿論、原典の物語は今のものとは異なり過激で残酷なものが多い』
『君に、真実を知る覚悟はあるかな?』
「………勿論、真実を解き明かさないで探偵にはなれないもの!!」
◎◎◎◎◎
サンゾウ眼魂内部・山脈。
修業者・神崎有希子。
『目的の地まで向かいなさい。ただそれだけです』
「………それだけ、ですか」
『ただし、そこに向かうためにはさまざまな障害が待ち受けています』
「………それを乗り越えていきなさい。ということですね」
『はい。どのくらいかかるのか等は教えられません。しかし、歩み続ければ辿り着けます』
「分かりました。行ってきます」
◎◎◎◎◎
各々が修業を乗り越えた時。
それが、タケルを取り戻す合図となる。
神代タケルの所有眼魂
=零個
初めて一回もタケルが登場しない話でしたね。
英雄の修業。
本編でサンゾウがアランにやったようなものです。
この描写を書いてたら予想以上の文字量でした……。
次回はいよいよ……!