火薬の他に教わる新たな訓練、それがフリーランニングである。
実演して見せた烏間の動きは三村が一分と検討した距離を僅か十秒で移動した。
熟練して極めればビルからビルへ忍者のように踏破することも可能になると言う。
「危険な場所や裏山以外で試したり俺が教えた以上の技術を使うことは厳禁とする。いいな」
「「「はーい!!」」」
それを見ていた殺せんせーはウズウズしていた。
◎◎◎◎◎
翌日ジャンプを探して遅刻した不破に何故か手錠が付けられていた。
目の前には悪徳警官のような姿の殺せんせー。
「最近皆さんフリーランニングをやってますね。せっかくだからそれを使った遊びをやってみませんか?」
「遊び?」
「それはケイドロ!! 裏山を全て使った3D鬼ごっこ!!」
曰く、生徒達全員が泥棒役になり、裏山を逃げる。
そして烏間と殺せんせーが警官役。
一時間以内に泥棒側が勝てば烏間が全員分のケーキを奢る。警官側が勝てば宿題が二倍。
なお、ハンデとして殺せんせーはラスト一分まで牢屋で待機するという。
と、その時、
『泥棒と聞いちゃあ黙ってはいられねぇ!!』
「!? 前原!?」
突然前原が立ち上がった。
しかしその顔には隈取りが塗られ、背中に注連縄を背負っている。
「この変化………まさか!?」
『そのまさかよ!! この天下の大泥棒、石川五衛門様の、ぁ参上でござる!!』
「「「え、ええ~…」」」
チャラ男の前原の余りの豹変ぶりに着いていけない生徒達。
「あの………ゴエモンさん?」
『なんだ?』
「今からやるのは………その、追われる側が泥棒役になって逃げる遊びですから」
『んぬぁにぃ!? それならばそうと、早く言ぇい!!』
「ゴエモンさんが勘違いしただけなんだけどね…………」
と、ゴエモン眼魂は前原から飛び出し教壇に乗った。
『ならば、あっしからおぬしらにぃ、試練を言い渡そぉぞ』
「試練……!?」
と、タケルの服から十四の眼魂が飛び出してゴエモンの近くに鎮座する。
『おぬしらが逃げ切れればぁ、あっしもタケルに力を貸そうぞ!! おぬしらの真価を、ぁ見せてみよ!!』
「本当ですか!! よし……!」
いよいよ最後の十五個目の英雄眼魂。
皆の力でこのチャンスを必ずものにすると誓った。
『ぁ烏間よ。手は決して抜くでないぞ。そうでなけりゃ試練にはなりゃあせん』
「………分かっている」
◎◎◎◎◎
「とは言ってもな……」
しかしタケルには不安があった。
「鬼は烏間先生だもんな………。下手したら殺せんせーが動くまでに全員捕まるぞ」
「心配するなよタケル!! さすがにこの広い裏山でそんなことは出来ないって」
しかし、タケルの不安は的中する。
律からの着信。
「岡島さん、速水さん、千葉さん、不破さん。アウトォーー」
「な、なにぃぃぃぃ!!?」
「開始から一分しか経ってないぞ!?」
更に菅谷、イリーナも捕まった報告が入った。
「やばい、どんどん殺られてく、殺戮の裏山だ」
「逮捕じゃなかったっけ」
「あ、でもこれケイドロでしょ? だったら……」
ルールに乗っとれば牢屋の泥棒にタッチすれば解放できるすぐさま牢屋に向かう杉野だが………。
「バカだね~。誰があの音速タコの目を盗んでタッチできるよ」
そう、牢屋には常に殺せんせーが待機している。
「こ、この二人のコンビ無敵すぎ!!」
「どうしようか………」
と、タケルが呟いた。
「鬼ごっこの必勝法知ってる?」
「え、隠れるとか?」
「違うよ。鬼ごっこの必勝法は……………鬼退治」
渚曰く、その時のタケルは人を守る戦士とは思えない程悪かったという。
「っにゅやーっ!!?」
突然飛び出したタケルは殺せんせーを殺しにかかった。
しかもガンガンセイバーを持っている。本気だ。
「ちょ!! タケル君それは卑怯です!!」
「自分の立場を忘れてませんか百億の懸賞首!!」
そう、殺せんせーはいつ誰に命を狙われても文句は言えない。
まさかこのタイミングで、しかもあまり暗殺には積極的ではないタケルの奇襲に殺せんせーは動揺した。
「ていうか!! ゴーストの力は使わないんじゃ無かったんですか!?」
「最早小さなことには構っていられないんですよ!!」
神代タケル、外道に堕つ。
英雄眼魂に助けを求めるも見て見ぬふり、予想以上の烏間の本気で流石に慈悲が沸いたらしい。
なおゴエモンは感心した風に見ていた。
「ちょ、本当に待って!? 先生全然こんなの考えて無かったんですけど!?」
と、その隙に牢屋に捕まっていた皆を渚達が救出、それを見たタケルはその場を離脱した。
「ぬぬぅ………まさかこういう手を使ってくるとは………」
十分後、二度何人かの生徒が捕らえられた。
「今度は隙は見せませんよ。来るなら来なさい!!」
「はいタッチ」
「にゅやーー!?」
と、今度は透明化を使ったタケルによって直接生徒達が解放される。
神代タケルが悪役に回るとここまで恐ろしいのかと戦慄する殺せんせーと生徒達。
「あーもう烏間先生!! 最優先でタケル君を捕まえてください!!」
「やってはいるが……彼、透明化や浮遊を使って悉く逃げている」
「どれだけ遠慮ないんですか!!?」
◎◎◎◎◎
余りの暴挙に痺れを切らした殺せんせーはタケルに無期懲役を言い渡した。
「流石にやり過ぎたかな」
「やりすぎです!! 君のせいでメチャメチャですよ!!」
「まあまあ、たまにはたかを外さないと、それに貴方が伝えたかった事はもう皆に伝えましたから」
「………そのようですね」
実際に生徒達は捕まる頻度が少なくなった。
タケルが彼らに烏間がどうやって追跡しているかなどのアドバイスをしたからだ。
「とはいってもやりすぎは否めないかな」
『そうとも言い切れぬぞタケル』
と、ムサシ眼魂が語り始めた。
『皆の為に体を張って尽くす、その為には手段を選ばない。お主とて聖人君子ではないからな』
「あの………今は遊びですからね?」
鬼ごっこの結果は、特に足の早い前原、岡野、片岡、木村が山から烏間を遠ざけ、プールにいる渚、杉野、カルマの元に戻れなくすることに成功。
水が弱点の殺せんせーは水中の彼らに手を出せず、ラストの一分が経過、泥棒側の勝ちとなった。
「どうでしたかゴエモンさん」
『うむ! 策を巡らせ、体を張り、皆で力を合わせるその意気や見事なり! ぁ花丸をぉ、授けようぞ!!』
と、ゴエモン眼魂はタケルの手に収まった。
「ゴエモン眼魂がタケルの手に………」
「てことはこれで最後だから………!」
「全十五英雄眼魂が揃った!!!」
「「「やったぁぁぁぁ!!」」」
歓声が上がるE組。
僅か半年で全ての眼魂を入手できたのだ。
「これでタケルの復活する条件も揃った!!」
「皆………本当にありがとう!」
「いいっていいって、俺達は仲間だろ?」
「後はその方法だけど……」
と、此処で仙人が現れた。
「まずはおめでとうと言っておこう」
「あっ、おっちゃん!!」
「では、生き返る方法だが…………」
ゴクリと固唾を飲んで言葉を待つ。
「…………ワシにも分からんっ」
ズゴーッ!! と一斉に転けるタケル達。
「ちょっと、ふざけないでくれよおっちゃん!」
「いや本当に知らんのじゃ。ただ、ヒントは幾つかある」
「ヒント……?」
と、仙人は改めて語り始めた。
「まず、そのヒントは全て"眼魔の世界"にある」
「「「眼魔の世界!?」」」
「あいつらに世界とかあるのか!?」
「当たり前じゃろ。この世界の生物とかではないのしゃから」
「そ、その世界に行くためにはどうすれば!?」
「十五個の英雄眼魂を手に入れた者に資格がある。手順を踏めばゲートを開くことが出来るだろう」
その手順も気になるところだが、まずは先にヒントが欲しいのでそのまま話を聞く。
「その世界にある二つの物が必要らしい。一つは英雄を束ねる為の特別な眼魂。もう一つは力の根源」
「え、また眼魂を探さなきゃならないのかよ!!」
「それに力の根源って……?」
「ワシが知っとるのはここまでじゃ。後はタケル、お前次第だぞ」
「俺次第か…………」
◎◎◎◎◎
赤黒い空に覆われた不気味な世界。
そこでイレーザーが何者かと話していた。
「ゴーストがどうやら十五の眼魂を集めた様子」
「…………そうか」
「ですが私の計画は順調です。お気になさらず」
「いや、不穏分子は排除しなくてはならない。………ジャギア!!」
と、男に呼ばれて一人のジャックと似た風貌の男がやって来た。
「なんでしょうか」
「お前に力を授ける。いずれ神代タケルと合間見舞える時の為に使いこなして見せろ」
「………分かりました」
神代タケルの所有眼魂
[01 ムサシ][02 エジソン][03 ロビンフット][04 ニュートン][05 ビリー・ザ・キッド]
[06 ベートーベン][07 ベンケイ][08 ゴエモン][09 リョウマ][10 ヒミコ]
[11 ツタンカーメン][12 ノブナガ][13 フーディーニ][14 グリム][15 サンゾウ]
=十五個
対話済眼魂=八個
今回で十五個の眼魂は揃いました。
以前の宣言クリア!!
ゴエモンの変身は次回。まだ大泥棒のターンは終わりませんよ。
最後の描写に関して。
グレイトフル前にタケルに一波乱がおきます。
まずは先にイトナ編ですけどね。