六階のパーティールームを女子と(女装した)渚の力を借りて突破。
そして七階、VIPフロア前、屈強な男二人が階段の見張りをしていた。
「私たちを脅してる奴の一味なの? それとも無関係の人が雇った警備?」
「どっちでもいーわ。倒さなきゃ通れねーのは一緒だろうが」
「その通り寺坂君。そして倒すには君が持ってる武器なんかが最適ですねぇ」
「………ケッ、透視能力でもあんのかテメーは」
まずは見張りをおびき寄せなければならない。
一番足が速い木村に誘導を任せることにした。
「? ……なんだ坊主」
「………あ、あっれェ~脳みそ君がいないなァ。こいつらは頭の中まで筋肉だし~。人の形してんじゃねーよ豚肉どもが」
………………………
「おい 」
「待てコラ 」
「…………カルマ、なに言わせてるんだよ」
木村がおびき寄せたところで寺坂と吉田が掴みかかる。そして抜いた黒い棒状の得物を首に当て、起動。
バチチッ!!
「ス、スタンガン!?」
「タコに電気を試そうと思って買っといたのよ。こんな形でお披露目とは思わなかったがよ」
「……いい武器です寺坂君。ですがその二人の胸元を探ってください」
寺坂が言われた通りにしてみると、出てきたのは重く冷たい金属の触感。
「「「(ほっ、本物の銃!!)」」」
「そして、千葉君、速水さん。この銃は君達が持ちなさい」
「「!!」」
「烏間先生はまだ……精密な射撃ができる所まで回復していない。今この中で最もそれを使えるのは君達二人です」
「だ、だからっていきなり………」
「ただし! 先生は殺すことは許しません。君達の腕前でそれを使えば、傷つけずに倒す方法はいくらでもある筈です」
「「………………」」
二人の顔に緊張が走る。
と、その時、
「! うあっ!?」
「きゃっ!?」
ロビンフット眼魂とビリー・ザ・キッド眼魂が二人を吸い込んだ。
「千葉君!? 速水さん!?」
「大丈夫だ渚。磯貝とメグさんの時と同じだから」
「………英雄が二人に伝えたいことがあると……?」
◎◎◎◎◎
「…………ロビンフット………!!」
千葉が目覚めたとき、そこは森の中だった。
そしてそこに佇むロビンフット。
『お前の正義はなんだ』
「ッ………?」
『放つ矢にはその者の正義が宿る。その正義が強い一矢は外れない』
「………やっぱり凄いな。ロビンフットは」
千葉の表情が曇る。そんな彼をロビンフットは静かに見据えていた。
「そんな崇高な考えを持っているから英雄になれたんだな………俺とは全然違う」
『…………大きな勘違いをしているようだな』
ロビンフットはそんな千葉を戒めるような口調で告げた。
『私とて人間だ。お前と私にはそこまでの違いはない。否、むしろ才能はお前の方が上かもしれないな』
「なっ……?」
『故に私は正義を問うた。才能は強い意思を持たなければその真価を発揮できない。千葉龍之介。お前の決して曲がらぬ正義を見せてみろ』
◎◎◎◎◎
「……………此処は…」
速水が居たのは西部の酒場。そこにビリー・ザ・キッドが佇んでいる。
『お前の勇気はなんだ?』
「勇気……?」
『そう。ブレイブ。つまり情熱、パッションだ。俺はお前を見てきたがお前には決定的にそいつが足りてねぇ』
「………………」
実際、常にクールな速水に最も欠けているものと言えよう。
『別にそいつが悪いこととは言わねぇ。生きていくためにはクールなハートも必要だ。だがな、人生のうち何回かはどんな奴でも勇気を燃やさないとならねぇ時が来る』
「勇気を………燃やす」
撃つ為にも、生きるためにも勇気が必要なのだ。
銃撃手として、ビリー・ザ・キッドは彼女に伝えようとしていた。
『お前にとってそいつは今じゃねえのかい? お前のブレイブをこのビリー様に見せてみな』
◎◎◎◎◎
「!! 二人とも!!」
戻ってきた二人を渚が迎える。
「英雄と話してきたのか?」
「………ああ」
「まあ、ね」
場所は八階のコンサートホール。
「…………! 誰か来る!」
すぐさま皆座席の後ろに隠れる。
やってきたのは銃を口に加えた男、ガストロだった。
「………15、いや16匹か?」
直ぐ様隠れている人数を把握するガストロ。やはり熟練の殺し屋なだけはある。
ガストロが警告の意味を込めて背後のランプを撃ち抜く。
「言っとくが、このホールは完全防音でこの銃は本物だ。お前ら全員撃ち殺すまでは誰も助けに来ねぇって事だ。大人しく降伏してボスに頭下げとけや!!」
バキュン!!
ガストロが破壊したランプの隣のランプが破壊された。
速水が銃を狙ったのだが外れたのだ。
「………へえ。意外と美味ぇ仕事じゃねぇか!!」
一気に証明をマックスに上げるガストロ。
と、速水が顔を僅かに見せた瞬間にすぐそば数センチを撃ち抜いた。
「(う……そでしょ? 座席の間のこんな狭い隙間を通して!?)」
ガストロはスモッグやグリップとは異なり軍人上がりの殺し屋だ。一対多数の経験も多い。
「さぁて、お前らが奪った銃はあと一丁ある筈だが………」
「速水さんはそのまま待機!」
と、殺せんせーの声が響いた。
「今撃たなかったのは賢明です千葉君!! 君はまだ敵に位置を知られていない! 先生が敵を見ながら指揮するのでここぞというときまで待つんです!」
「なに……どこから喋って………」
最前列の座席に置かれてニヤニヤしている橙色の球体。
「テメーなにかぶりつきで見てやがんだ!!」
連射するガストロだが完全防御形態の殺せんせーには効かない。
「熟練の銃手に中学生が挑むんです。この位の視覚ハンデはいいでしょう」
「チッ、その状態でどう指揮を執るつもりだ」
「では木村君、五列左へダッシュ!!」
「!?」
「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!!」
「なっ……」
「死角ができた!! このスキに茅野さんは2列前進!!」
ガストロが動揺している隙にさらに指示を飛ばす殺せんせー。
「カルマ君と不破さん、同時に右8!! 磯貝くん左に5!!」
シャッフル作戦。
確かにガストロを困惑させるが、名前と位置を知らせることになってしまう。
無論、殺せんせーもそれを知っている。
「出席番号十二番! 右に1で準備しつつそのまま待機!」
「へ!?」
「四番と六番は椅子の間から標的を撮影!! 律さんを通して舞台上の様子を千葉君に伝達!!」
ガストロが分からない呼び名で混乱させる。更に。
「ニュートンとグリムは左前列に前進!! ムサシも左前に2列進めます!!」
持っている英雄眼魂で指示する。
「最近竹林君イチオシのメイド喫茶に興味本位で行ったらちょっとハマりそうで怖かった人!! 撹乱のため大きな音をたてる!」
「うるせぇ!! 普通にベンケイって言えや!!」
この作戦は成功、ガストロを混乱させることに成功した。
「さて千葉君。いよいよ狙撃です。次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼の後をフォロー。敵の行動を封じることが目標です」
「「………………!」」
「………が、その前に表情を表に出すことの少ない仕事人二人にアドバイスです」
先刻の殺せんせーへの狙撃を失敗したことで二人は自分達の腕に迷いが生じている。
「言い訳や弱音を吐かない君達は………あいつだったら大丈夫だろうと勝手な信頼を押し付けられる事も、苦悩していても誰にも気づいてもらえない事もあったでしょう」
「「……………」」
「でも大丈夫。君達は偉大な英雄と、同じ経験を持つ仲間がいる。プレッシャーを一人で抱える必要はない。安心して引き金を引きなさい」
「………………」
千葉は、ロビンフット眼魂を握り、
「(俺の正義は仲間を信じること。その思いを、俺はこの一発に込める!)」
『よく言った』
覚悟を決め、激鉄を起こす千葉。
ガストロもある程度目星を付けたのか、ある席に狙いを定めていた。
「ではいきますよ。出席番号12番!! 立って狙撃!!」
「ビンゴォ!!」
ガストロの放った弾が眉間に直撃!!
しかし、
「!? 人形!?」
菅谷がその場のものを集めて作った人形だった。
「分析の結果、狙うならあの一点です」
「オーケー。律」
ドキュゥン!!!
千葉の銃が火を吹く!!
ガストロにダメージはない。
「フ、ヘへ、ヘヘへ。外したな、これで二人目も位置が………ぐはあっ!!」
千葉が撃ったのは吊り照明を支える金具。
振り子の原理で照明をガストロにぶつけたのだ。
「く……そが……」
それでも銃を千葉に向けるガストロ。
しかし。
「(躊躇うな! 勇気を燃やせ。私!)」
『いいブレイブだぜ!』
ズギュ!! と速水が銃を撃ち飛ばした。
そして倒れ伏したガストロを寺坂達が直ぐ様拘束する。
「ふう…………」
『よくやった。自らの正義を示したな』
『ガールも中々いいブレイブだったぜ!』
「ありがとう。ビリー」
『これからもその正義を貫くように』
『その燃え上がるブレイブも大事にな!』
二人の射撃英雄に認められたことで、二人は大きく成長できた。
残るは二階。
最上階までは後少し。
神代タケルの所有眼魂
[01 ムサシ][02 エジソン][06 ベートーベン]
[12 ノブナガ][15 サンゾウ]
五個/十二個
対話済眼魂、六個
スナイパーコンビの話だったのでスナイパー英雄二人に話させました。
ビリー・ザ・キッドが速水に憑依したら水鉄砲を持たせようかと
このシーンは連載を始めた時から決めていました。