八月中盤。いよいよその日がやって来た。
東京から六時間。沖縄普久間島に着いた。
サービスのトロピカルジュースを飲んだあとは自由時間。修学旅行時の班分けで行動することになった。
一斑はパラグライダー。
殺せんせーの乗る機体が明らかに機動がおかしい。
「ていうかそのコスプレ誰だよ!」
「堀越二郎です」
「それ中身の方!」
「ご本人も飛ぶ方じゃなくて作る方!!」
上手く陽動を行うことで他の班に目が行かないようにしていた。
そしてそれが終わると殺せんせーは四班に向かった。
「じゃあ準備をしようか」
「ん。そうだな」
なお、このリゾート空気に誘われたのか英雄眼魂達も楽しそうに動き回っている。
ただニュートンはやはりヒミコを避けていたが。
◎◎◎◎◎
「いやぁ遊んだ遊んだ。おかげで真っ黒に焼けました」
「黒すぎだろ!!」
もはや表情すら分からない。あまりに黒いので殺せんせーは脱皮で皮を脱ぎ捨て、もとに戻る。
「……………あっ」
「………バッカでー。暗殺前に自分で戦力減らしてやんの」
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ」
とまあそんな感じで船上レストランで夕飯を取り、酔った殺せんせーを連れてホテルの離れにある水上パーティールームに来た。
「さ、席に着けよ殺せんせー」
「楽しい暗殺」
「まずは映画鑑賞から始めようぜ」
最初に三村航輝が編集した動画を見てもらい、その後八本の触手を破壊。全員で暗殺という流れだ。
「全力の暗殺を期待してます。君達の知恵と工夫と本気の努力。それを見るのが先生の何よりの楽しみですから」
そして、動画が始まる。
『まずはご覧いただこう。我々の担任の恥ずべき姿を』
「……………にゅやああああああ!!?」
三村が作ったのは殺せんせーの恥を集めた場面集である。
さっそく撮されたのは広い集めたエロ本を読み漁る光景である。
「ちょ、岡島君達、皆に言うとあれほど……!」
「どうですか皆さん。これが俺の担任の姿ですよ」
「タケル君ッ!? 英雄の皆さんに見せないでください!!」
英雄眼魂もバッチリミナーである。
その後も女装してケーキバイキングに並んだりティッシュを唐揚げにして食べたりといった恥ずかしい映像を一時間も見せられた殺せんせーはぐったりとしていた。
「死んだ……もう先生死にました………」
と、ここで殺せんせーが気づいた。いつの間にか床が海水に浸っていたのだ。
「オレらまだなんにもしてねぇぜ。誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」
「大分動きは鈍ってきたよね。さあ、本番だよ」
八人がピストルを構える。約束なので殺せんせーはこの攻撃を避けてはいけない。
「(しかし山の方角に千葉君と速水さんの気配がある。そちらに注意すれば)」
パパパパンッ!!
「くっ………」
直後、小屋が破壊された。
「これは……!」
水圧で空を飛ぶフライボードに乗った九人の生徒が水の檻を形成。
外からも渚や茅野が放水で援護。下から逃げられないように倉橋が指揮するイルカが水飛沫を挙げる。
「!!」
「射撃を開始します。照準・殺せんせーの周囲全周1m」
水中から現れた律と共に一斉射撃を開始。
特に磯貝や奥田、寺坂など、かつて英雄眼魂が宿っていた生徒の技術が上がっている。
その威嚇射撃で混乱させておいてから………。
水中にいた本命、千葉と速水が殺せんせーを狙う。
山の上においておいたのはダミー、全く警戒していない場所から殺せんせーを狙う!!
「(よくぞ………ここまで……!)」
そして、殺せんせーの全身が閃光と共に弾け飛んだ。
明らかな手応え。
「どうだ!?」
『………………むう』
『読みが甘かったかのう』
「えっ………」
ムサシとリョウマの言葉にタケルが不安になる。
そして浮かび上がってきたのは。
顔が入った透明とオレンジの変な球体だった。
「これぞ、先生の奥の手中の奥の手。完全防御形態!!」
曰く、肉体を思いきり小さく縮め、その分の余分になったエネルギーで肉体の周囲を固める。
この間、24時間は完璧に無敵。身動きがとれない変わりに全ての攻撃が通じない。
「………………」
タケルがガンガンセイバーを叩きつけるがやはり傷ひとつ付かない。
「ダメか………」
「ですが皆さんは誇っていい。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです」
「「「……………」」」
殺せんせーの称賛は受けとれず、落胆する皆。異常な徒労感と共に彼らはホテルに戻った。
「………千葉、凛香さん」
悔しげな顔を見せる二人に近づくタケル。
「………ロビンフットとビリー・ザ・キッドは分かってたみたいだ」
実は千葉と速水が撃った瞬間、二つの眼魂が激しく反応していたのだ。
「その弾は違う!!」とばかりに。
「俺さ。撃った瞬間分かっちゃったよ。ミスった。この弾じゃ殺せないって」
事実律の観察によれば千葉の射撃があと0.5秒早いか、速水の射撃があと30cm近ければ気づく前に殺せた可能性が50%あったという。
「………英雄とは違うんだ。やっぱり」
「……………………」
そんな二人を緑と茶色の眼魂は見つめていた。
「タケル!!」
「磯貝? どうしたそんなに慌てて」
「大変だ!! 皆が……!!」
◎◎◎◎◎
「陽菜乃!! しっかりしろ!!」
「う、くう……」
「(くそ………!)」
クラスの半数が身体に異常をきたした。
ヒミコの力を試したが通用せず、故にウイルスの類いのものだと思われる。
倉橋に声をかけながらタケルに悔しさが募る。
「(まただ……これで何回目だ!!)」
もうなんど倉橋を危険にあわせたか分からない。
自分の不甲斐なさに激しい怒りが沸き上がる。
「……皆、聞いてくれ」
烏間が言うには皆の不調は第三者によるものらしい。
一週間もあれば死に至る人工のウイルスで治療薬も一種類しかない。
引き換えの条件は殺せんせーの首、動ける生徒で最も背が低い男女二人が山頂の普久間殿上ホテルまで一時間以内に持ってくることらしい。
これを破れば治療薬は爆破するとのことだ。
「………眼魔の仕業?」
「分からない。ただ眼魂を狙ってる訳じゃなさそうだ……」
しかもそのホテルはマフィアや財界人の御用達のホテルで違法な商談やドラックパーテイーが開かれているそうだ。
「ふーん。そんなホテルがこっちに味方するわけないね」
殺せんせーも動けず打つ手なし、24時間は身動きが取れない。
「……………!」
「うごっ!?」
と、その時ベンケイ眼魂が寺坂に入り込んだ。
「ベンケイ!?」
『迷っているようだな』
袈裟に法衣という正に僧兵の出で立ちのベンケイ寺坂は薙刀を持って全員を見渡す。
『だが。迷っていれば時間は過ぎ去る。どんな苦境であろうと立ち止まることは決してしてはならない』
「ベンケイさん……でも」
『拙僧も多くの苦境に遭った。が、立ち止まったことはない。大切な者を護るためには迷いを捨てねばならない』
「……………そうですね」
と、タケルが倉橋に声をかける。
「陽菜乃。俺が君を護る。俺の命にかけて」
「………タケ……ル…」
「ちょ、タケル君!?」
と、タケルは普久間殿上ホテルに向かった。
「待ったタケル!!」
「止めないでくれよ。俺は行かないといけないんだ」
「止めないよ。俺達も行く」
「!!」
「ああ。ふざけた真似した奴等にきっちり落とし前つけてやる」
「ま、待て!!」
「烏間先生」
と、殺せんせーが声をかけた。
「私もその意見を支持します。彼らはただの生徒じゃない」
「烏間先生。貴方が必要なんです。指揮をお願いします」
「…………タケル君」
生徒達の強い目を見て烏間も決意した。
「注目!! 目標山頂ホテル最上階!! 隠密潜入から奇襲への連続ミッション!! ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!!」
19時50分 作戦開始!!
「「「おう!!」」」
神代タケルの所有眼魂
[01 ムサシ(対話済)][02 エジソン(対話済)][03 ロビンフット][04 ニュートン]
[05 ビリー・ザ・キッド][06 ベートーベン(対話済)][07 ベンケイ(対話済)][09 リョウマ(対話済)]
[10 ヒミコ(対話済)][12 ノブナガ][15 サンゾウ]
=十一個
すみません。雑なのは自覚あります………。
ちょっと急いでいたので。
寺坂ベンケイ想像したら似合う………。
一応対話済になりましたけど本当に理解しあうのは少し後です。