期末テストが近づいてきた。
前回は全員50位以内が目標だったが今回は異なるらしい。
「前にシロさんが言った通り、先生は触手を失うと動きが落ちます」
それは一本でも影響はある。
「ごらんなさい。全ての分身が維持しきれず子供の分身が混ざってしまった」
「「「(分身ってそういう減り方するモンだっけ!?)」」」
「さらに一本減らすと………子供分身がさらに増え、親分身が家計のやりくりに苦しんでます」
「なんか切ない話になってきたぞ」
「もう一本減らすと、父親分身が蒸発しました。母親分身は女手ひとつで子を養わなくてはいけません」
「「「重いわ!!!」」」
茶番はさておき、触手一本につき殺せんせーや約20%の運動能力を失うらしい。
「そこで、教科ごとに学年一位を取った者には答案の返却時、触手を一本破壊する権利をあげましょう」
「「「!!!!」」」
つまり総合と五教科全てのトップをE組が取れば六本もの触手が破壊できるのだ。
「これが暗殺教室の期末テストです。賞金百億に近づけるかどうかは……皆さんの成績次第なのです」
◎◎◎◎◎
「教科のトップか……俺は社会かな」
「確かに神代は歴史が得意だからな。だけど俺だって負けないぞ」
「じゃあ勝負するか? どっちが社会のトップを取るか」
「いいぞ。乗った!」
と、タケルと磯貝の勝負が勃発した。
「なんかタケル君乗ってるね」
「うん。英雄眼魂も半分は手に入ったし、精神に余裕が出来たんじゃないかな」
ムサシ、エジソン、ロビンフット、ビリー・ザ・キッド、ベートーベン、サンゾウ、そしてベンケイとノブナガ。
七月の時点で十五個のうち八個を入手している。このペースなら来年になる前に全てを集めることもできるかもしれない。
と、その時杉野に野球部の進藤から電話がかかってきた。
理由は彼からの警告だった。どうやら成績特進クラスのA組が自主勉強会を開いているらしい。
しかも指揮を執るのは五英傑と言われる椚ヶ丘の天才達。
社会の荒木、国語の榊原、理科の小山、英語の瀬尾。
そして生徒の頂点に立つ理事長の一人息子、数学の浅野学秀。
その彼らがA組を指導しているのだ。
「………ありがとな進藤。心配してくれてんだろ。でも大丈夫。今の俺らはE組を脱出ることが目的じゃないんだ。けど、目標の為にはA組に負けないくらいの点数を取らなきゃいけない。見ててくれ。頑張るから」
「………勝手にしろ。E組の頑張りなんて知ったことか」
嫌味のような口調だが進藤の声音は何処か穏やかだった。
球技大会を経て彼も変わったのだろう。
「…………んっ!?」
と、ベートーベン眼魂が中村に入り込んだ。
「莉緒さん!?」
『運命に立ち向かうその姿! 素晴らしい!』
「……いや、ベートーベンか」
髪が中世の音楽家のようになり、指揮者服に指揮棒を持ったベートーベン中村が盛大に声をあげた。
『自らを妨害する圧倒的な壁。それが運命!! だがそれに抗う姿勢!! なんと素晴らしき童達だ!!」
「………なんか中村さんがこんなこと言ってると凄いシュールだね……」
ムサシやエジソンと異なりかなりテンションの高い英雄の様だ。
『運命は時に逆境となるしかぁし!! それを乗り越えてこそ本当の音を奏でられるのだ!! さあ皆のもの!! この大舞台で最高のコンサートを開こうではないか!!』
ジャジャジャジャーン!! と、荘厳な音楽を最後にベートーベン眼魂が中村から離れた。
「…………つまりA組に負けずに打ち勝てってことだな」
「………なんか自分があんなこと言ってたと思うと恥ずかしい………」
「言ってたのはあくまでベートーベンで莉緒さんじゃないから……」
◎◎◎◎◎
そんな期末テストに更に波乱が巻き起こる。
図書館で勉強していた渚達に浅野以外の五英傑が突っかかり、とある賭けをすることになったのだ。
A組とE組でより多く教科の学年トップを取ったクラスが負けたクラスにどんなことでも命令できるということらしい。
「どーすんの? そのA組が出した条件ってなーんか裏でたくらんでるような気がするよ」
「心配ねーよカルマ。このE組がこれ以上失うモンありゃしない」
「失うだけじゃすまないぞ」
と、岡島大河の楽観的な言葉をタケルが否定した。
「俺も気になってちょっとガジェットのコブラケータイに潜入してもらったんだが…………奴等の出す条件は俺達E組を奴隷のように扱う協定書に同意するって奴だ」
「…………それってどういうこと?」
「条件は一つとかいいながら五十個もの労働要求を強いるつもりだ。浅野学秀………中々頭が切れる
ゴクリと息を飲むクラスの面々。
これはより一層負けられなくなってしまった。
『まさしく過酷な運命!』
「うおあ!? またベートーベン!?」
『しかし!! どんなに厳しかろうと乗り越えられぬ事はない!! 抗ってみせよ!! E組の諸君!! 君達にはA組よりも大きな目標があるであろう!!』
「…………英雄にここまで言われたら引き下がれないよね」
「ええ。君達は一度どん底を経験しました。だからこそ次はバチバチのトップ争いも経験してほしいのです。A組の出してくる条件などに怖れず、トップを殺るのです!!」
◎◎◎◎◎
試験当日。
タケルは倉橋と共に試験会場に向かっていた。
「タケル。自信は?」
「無いわけないだろ。A組に勝たなきゃいけないし磯貝にも負けたくない。更に触手もあるからな。ただ今回は他の科目には手が回らないかもしれないからな……」
とか言いつつ教室に入ると誰かがいた。
「「…………誰だ!?」」
「律役だ」
さすがに人工知能の参加は認められずに替え玉を使うことで決着したらしい。
「交渉の時の理事長に[大変だなコイツも]………という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君達にわかるか」
「「いやほんと頭が下がります!!!」」
「まあ………律と合わせて俺からも伝えておこう。頑張れよ」
「「はい!」」
そして、戦いが始まった。
中間とは比べ物にならないレベルの難易度の問題………問スターに大多数の生徒が追い詰められていく。
が、そんな中でもE組の面々は着実に点数を稼いでいった。
タケルも取れる問題を着実に取りつつ、英語と理科を突破。
そして肝心の社会に全力を注ぎ込む。
「(歴史というひとつの武器だけじゃ勝てない。殺せんせーやムサシさんが言っていたように二本目、三本目も必要なんだ!!)」
地理、公民、国際の全てを学んだタケルは既にA組の荒木は蹴落とし、磯貝との一騎討ちになっていた。
そして社会も終了、国語と数学も終わり、三日後の返却日が訪れた。
「では、学年内順位を発表します。まずは英語から……E組の一位………そして学園でも一位!! 中村莉緒!!!」
「おおおおおお!!」
「完璧です。君のやる気はムラっ気があるので心配でしたが」
「なんせ百億かかってるからね」
しかし、一教科トップをとったところでまだ喜べるかどうかは分からない。
「続いて国語………E組一位は、神崎有希子!! ………が、しかし、学年一位はA組浅野学秀!!」
神崎も相当な大躍進だったがやはり浅野は強い。
五英傑とは呼ばれているが結局は浅野一人、彼を倒せなければ学年トップは取れないのだ。
「……では続けて取ります社会!!」
いよいよタケルの本命が来た。
「…………おめでとう! E組、学年共に一位、磯貝悠馬と神代タケル!! 同点97点です!!!」
「よっし!!!」
「やった!!!」
思わずハイタッチをする二人。
「二人の勝負は引き分けか~」
「折角二人とも頑張ったのです。触手破壊の権利は二人分差し上げましょう」
「やったな! 磯貝!」
「ああ!」
これで二勝一敗。次は理科である。
「理科のE組一位は………奥田愛美! そして……素晴らしい!! 学年一位も奥田愛美!!」
「「「おおおおお!!」」」
「三勝一敗!!」
「数学の結果を待たずしてE組がA組に勝ち越し決定!」
「仕事したな奥田!! 触手一本お前のモンだ!!」
結果的に油断したカルマが大幅に点を落としてしまったので数学は敗北、三対二という結末で二つのクラスの賭けは終了した。
「さて皆さん素晴らしい成績でした。皆さんがとれたトップは3つ、触手の権利は4本です。早速暗殺の方を始めましょうか……」
「おい待てよタコ、五教科のトップは3人じゃねーぞ」
と、寺坂組の四人が前に出た。
「五教科っつったら国・英・社・理……あと家だろ」
「か、家庭科ァ~~~~!!?」
確かに誰もどの五教科とは言っていない。それを狙って寺坂、吉田、村松、狭間の四人は家庭科を100点満点の一位を取ったのだ。
「………ついでとか家庭科さんに失礼じゃね殺せんせー?」
「人間の生活に必要な衣食住の知識を支えるのは家庭科ですよ。ある意味一番大事な教科でしょ」
と、カルマとタケルの応援射撃、それに触発されてクラス中で追い詰める。
「そーだぜ先生約束守れよ!!」
「一番重要な家庭科さんで四人がトップ!」
「合計触手八本!!」
「八本!? ひいいいい!!」
普通のタコなら全ての足を失う数である。
「それと殺せんせー。これは皆で相談したんですが………この暗殺に今回の賭けの"戦利品"も使わせてもらいます」
「にゅ?」
神代タケルの所有眼魂
[01 ムサシ(対話済)][02 エジソン(対話済)][03 ロビンフット][05 ビリー・ザ・キッド]
[06 ベートーベン(対話済)][07 ベンケイ][12 ノブナガ][15 サンゾウ]
=八個
ベートーベンとの対話及び期末テスト回でした。
本編のベートーベンも中々激しい性格でしたよね……
最初はサンゾウと迷いましたが三話連続サンゾウはどうなのか? と。