奉仕部は少し異なる軌跡を描く   作:Mr,嶺上開花

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受験勉強と試験勉強で遅くなりました。3話です。
今回も二部構成となっております、ただBパートは本当にオマケ程度に考えてくださると嬉しいです。

あと、沢山の感想に評価赤色本当にありがとうございます…!
これからも更新は遅くなるでしょうが、その分頑張って書いていきます、よろしくです!


1月 川崎沙希は乙女である

黒いシュシュで纏められた銀髪の長いポニーテール、それに真ん中に良く分からない達者な英語で文の書かれた半袖の白いシャツにダメージジーンズ。脇にはコートが丁寧に畳まれて置かれており、几帳面なその性格が見て取れる。

…そう、銀髪の時点で分かったかもしれないがこれは川崎のことだ。

本日は日曜日。太陽がさんさんと照らしつける快晴な空の下、俺は対面に座る川崎と私服姿で外のことなど知ったものかと高校近くのファミリーレストランで居座っていのである。そしてその理由は言わずもがな…

 

「その式、間違ってるよ。てかまず解き方の指針からミスリードしてる、アンタ本当に基礎固まってるの?」

 

「…本当に面目ない」

 

…まあこんな感じで約束通り、数学を教えてもらっている訳である。

 

「んじゃあこれで合ってるか?」

 

「全然違う…!あーもう…どうやったら理解できるんだろ…!?」

 

しかし予想以上の俺の数学力の無さに思わず川崎は頭を抱えだす。なんか、本当に申し訳ない気持ちが溢れ出してくる…。

というか実際、俺はどのくらいの数学力を持っているのだろうか。多分模試を受ければ多少はそれを測り知ることもできるのだろう、そう思い俺は次の模試の予定を脳内検索に掛ける。

…そう言えば、丁度来週に模試があったような…でもなんだっけか。マークか記述か、そこが思い出せない。因みにマーク模試だったらセンター対応、記述模試なら私立と国立の二次試験に対応してるのが一般的である。

、どうやら俺の脳内検索エンジンと記憶デバイスは本当にガタが来ているようで、何十秒経ってもフリーズしたまま動く気配はない。待て待て、俺の頭のOSはwindows98か?処理速度遅すぎだろ、こんなんじゃjpg画像保存するのにも何分も掛かっちまうだろうが。

 

「ちょっと比企谷、何ぼーっとして。聞いてんの?」

 

…と、ここで俺は非常に頼りになる家庭教師が居たことを思い出す。そうだよ、最初から川崎に聞きゃ良かったんだ。他人頼りは俺のモットーだろうが…、本当に俺の脳錆びついてないだろうな?

 

「なあ川崎、そういえば次の模試ってマークと記述、どっちだ?」

 

ちょっとした不安を抑えつつ俺は川崎に本題を聞いてみる。すると川崎は、先程数学を教えてくれたとき以上に呆れた表情と共に少し苛ついた表情をする。…なんか更に悪化してませんか川崎さん。

 

「じゃあ逆に聞くけど来週、土曜と日曜は何があるでしょうか…!」

 

「来週の土日…?」

 

模試以外で、ということだろうか?

来週の土日…もしかしてプリキュア特番でもあるのか?!…いや、そんなの川崎が知る由もないし第一今の話題とは関連性が余りにも無さすぎる。

となると、勉強か受験関連という訳になるのだが不思議なことに全くさっぱり思いつかない。…もしかして予備校の英語講師の誕生日?んな訳ないか。

 

「…もしかしてお前、誕生日?」

 

川崎はその答えを聞いて溜息を付く。…ハズレですね、ごめんなさい。

 

「違うから。あたしの誕生日はもう2ヶ月以上前に過ぎてる…そうじゃなくてほら、あたし達の一個上のことを考えれば分かるでしょ」

 

一個上…?一個上と言ったら既に受験直前も直前、既にセンターまで10日も切っているはずだし…あ。

 

「…もしかして、センター試験同日模試?」

 

「…やっと分かったの、このアホ企谷」

 

「うぐっ…」

 

全く言い返せねえ…。

まさか模試ばかり考えてたせいでセンター試験の事をすっぽり頭から抜かしてたとは、かなりドジ過ぎるミスだ。確かにセンター試験と言っても俺らの受ける本番ではないが、それでも流石にこれでは視界が狭いと言わざるおえない。

 

「というかアンタ、受けるんでしょ勿論?」

 

「ああ、当然だ」

 

「なら模試の日程と内容くらい完璧に把握しないと痛い目見るよ?当日寝坊してもあたし知らないから」

 

「肝に銘じとくわ…」

 

「どうだか…比企谷はちょいちょい抜けてるところあるから」

 

そう言いつつ川崎は俺のノートの1箇所を指差す。そこにはさっき解いた文字式が書かれていた。

 

「例えばここ、最後の一つ前までは合ってるのにタスキ掛けで間違えて答えミスってる。こういうケアレスミスは本当に勿体無いから」

 

「あ、マジだ」

 

次はここ、そう言って俺のノートのページを捲り指差す。

 

「このlogの符号間違えて計算してる。これじゃ解なしになるの気付かなかったの?」

 

当然気付かなかった。

 

「重ね重ね面目ない…」

 

「…まあ、こんな感じでアンタは少し抜けてるところがあると思う。特に数学だとそれが顕著だけど、詰めが甘い。それこそアンタの大好物のマッカンくらいは甘いから」

 

「おい、言っておくが俺にとってマッカンは褒め言葉だからな?」

 

「うるさい」

 

「はい、ごめんなさい…」

 

雪ノ下とはまた違った川崎の威圧感に呑まれつい即答で謝ってしまう。雪ノ下を仮に罵詈雑言を育てる毒薔薇とすれば、川崎は氷だろうか。こいつの花婿になる奴は大変そうだな…、尻に敷かれるのは結婚した時点で確定したようなもんだからな。でも料理も家庭労働も上手いし、それにきてこの美少女プロポーションときたものだ。川崎と結婚する奴は例えそうなろうが、羨ましいことには変わりない、それに川崎可愛いし」

 

「な……!…ひ、…ひ…比企谷……、」

 

…とか考えていたら、突拍子もなく川崎の顔がトマトもあわやというレベルで真っ赤に染まり上がっていた。何があったのだろうか?

 

「どうした川崎?」

 

取り敢えず事情を聞いてみるが吉だろう。にしても頬を真っ赤にして細かく震えてる川崎なんて初めて見たな…何時もは雪ノ下やクラスの女王的ヒエラルキーにいる三浦と同格の雰囲気持ってるから仕方ないかもしれないが。

 

「…心の声が漏れてたよ…アンタ………」

 

…………………えっ。

 

「えっ…、…まじで?どこから?」

 

「でも料理も…みたいなところから…………」

 

「……まじで」

 

 

その後の空気は言わずとも分かるだろう。それはもう、大変気まずい。特に俺なんか盛大に暴露しちゃって非常に気恥ずかしい。数学教えて、とか言ってる場合じゃない。

…まさか心の声が口から漏れるなんて思いもしなかった。しかも俺の言った言葉、ありのまま受け取ったら完全に告白みたいじゃん、うっわ俺恥ずかしい…!!

 

ついでにちらりと川崎の方を観察してみる。川崎は川崎で未だ頬を林檎色に染めながら顔を俯かせていた。何この可愛い生き物、小動物みたいで可愛いんだけど…!…しかも良く見たらテーブルの下で人差し指をつんつんしてるし、今まであまり意識してなかったが川崎も年頃の女子高生なんだよな…。そう思うと前から何だか、川崎の甘い香りが漂ってきてそのまま身を任せてしまいそうな……………………………………。

 

………………………ってそれ以上はアウトだ!!

俺はなんとか右手で左腕を抓ることで正気に戻る。危ない危ない、ついつい川崎の貴重な儚げな雰囲気にうっかり流されてしまうところだった。それに少し場所を忘れかけいたがここはファミレスの一席だぞ…、幾ら何でもロマンと言うか雰囲気が無さすぎだろ。そもそも川崎に手を出したら間違いなく俺はクラスメイトにネットに載せられ社会的抹殺を食らってしまう。頑張れ俺の理性、負けるな俺の理性。いつだって俺の人生には常に理性が寄りかかっているのだから…!

 

 

…結局俺が心内をぶちまけてしまった後、互いにドギマギしていたからか殆ど勉強をせずにファミレスを後にした。冬の空は相変わらず青く澄んでおり、まるで俺のこの黒歴史入りするだろう記憶すら飲み込んでくれそうであった。

…まだ、この一部始終を見ていた者がいることを俺は知らない。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

休日が開け、月曜日。

平日の中で一番憂鬱に感じる曜日ランキング暫定1位のこの日、俺は更に絡まれると面倒な奴に絡まれていた。

 

「はっちま〜ん!」

 

さて、ここで問題である。俺は今その声を聞いてしまったが敢えて聞かなかったことにして、繰り返すようだが問題である。今の発言を文章の地の文にしたとして、果たして誰の声だと考えるか?

そしてそれに対する俺の答えは一つ……、天使!…いや違った、戸塚である!

 

戸塚とは、戸塚彩加という天使のこの世を忍ぶ為の名前で、その可愛さで国を一つ傾けてしまうほどである。…いやそれだと楊貴妃やクレオパトラと何ら変わりないな、ならば戸塚の頭文字から連想してその10倍の国を陥没させるということにしよう、うんそれが良い。つまり何が言いたいかといえばトツカエルはまじで天使ということだ。

 

…まあそれはともかく、いや個人的にはともかくで済ませられる内容ではないのだがともかく。

一つ言うのならば、現実はそんなに甘くないのだ。

 

「はちまん!我!我と組んで共に数世紀ぶりの天下統一を目指そうぞ!!」

 

その本当の答えは材木座義輝、こいつの性格を三文字で説明すれば"中二病"だ。しかも厄介なことにワナビ志望とかほざいてどっからか設定をパクってきたような陳腐なラノベを書いているため、その妄想力は収まることがない。いつになった卒業してくれるのだろうか。

 

本来ならコイツとはクラスが違うため、授業中にはエンカウントしないのだが体育の場合だけは違う。人数の関係上2クラス合同でやる為、こうしてその度材木座とペアにならざるおえないのだ。

 

「いや目指さねえから、つか天下取ったことも一度もねえよ」

 

「はっはっはっ!八幡!何を言うかと思えば笑止!我という奴がいながらまだあの輪廻転生を果たす以前の記憶を思い出せていないのか!」

 

うっわ、うぜぇ…。

思わずそんな言葉が出してしまいそうになるのを必死に我慢する。

 

「………うわ、ヒッキーキモっ…」

 

そんな微かな声が後ろから聞こえて振り返ると、由比ヶ浜がドン引きしながら背後を通り過ぎるところだった。ちょっと待って、このエンジン全開でアクセルベタ踏みしたような中二病発言してるの俺じゃないから、俺の前にいる材木座だから…!

そんな弁明が一瞬でできるはずもなく溜息を尽きるながら俺はガクリと肩を落とす。そんな俺の様子を見たからか、気を使って肩に手を置いて慰めようとした材木座の手をさり気無く振り払う。お前が原因だろうが、むしろ赤の他人のフリをしたいまである。

 

そんなこんなで授業は始まる。どうやら今日はバドミントンをやるようで、つまりは当然屋内である体育館で行われる。お陰様で冬の空気が見事に篭っており滅茶苦茶寒い。床とかもう雪ノ下の毒舌並みに冷たい。

 

誠に遺憾ながら俺のペアになってしまった材木座は、バドミントンのラケットを構えると不意にニヤリと笑い、シャトルを軽く上に投げる。

 

「往くぞ八幡!パトリオットサァァァーブ!!」

 

無駄な動作なく振り下ろされるラケット、その先には先程投げたシャトルが射程に入っている。そしてシャトルに思いきり当たったシャトルは物凄いスピードで俺の脇を通り過ぎて壁に突き刺さるーーーーー

ーーーーーなんてことはなく、シャトルそのまま床に勢い良くだけは良くバチン!と叩き落とされた。

 

「…お前、それ練習したことあるのか?」

 

「…少しだけ、ほんの一時間だけ」

 

そんな僅かな時間で強サーブを打とうとしていたのか…こいつ、ある意味大物かもしれん。

 

「それじゃあ見てろよ、本物のパトリオットサーブって奴を」

 

俺は近くに落ちていたシャトルを拾い、ラケットを構える。

 

「八幡…お主…まさか…!?」

 

「…イメージするものは、常に最強な自分だ」

 

「…八幡、それは衛宮何某のセリフでは…」

 

「アィ アム ボーン オブ ザ sword」

 

「壊れた幻想(ブロークンファンタズマ)…!?しかも微妙な英語の発音の中でソードだけが無駄に流暢で逆にカッコ悪い…だと…!?」

 

うるさい材木座、集中できないだろうが。

俺はシャトルを流れるような動作で少し斜め上に投げると、ラケットを思い切り自分側に引く。そしてタイミングよくラケットを地面と平行にスイングし、シャトルにありったけのパワーをブチ込む…!!

 

因みになぜ俺がパトリオットサーブなんていう、謂わば空想サーブが出来るのか?答えは簡単、ぼっちで壁打ちしてい続けていた時期があったからである。パトリオットサーブをひたすら公園の壁に打ち込み続ける日々、その当時の前半期はまずシャトルがラケットに掠らなかったこともあった。しかし段々と上手く打てるようになり、今ではこうして必殺サーブができるようになったのだ。…こらそこ、ぼっちサーブとか言うんじゃない。

 

そうして俺の打ったシャトルは確かなスピードを持って材木座の方へ接近する。久々に打ったが何とか打てて良かった、どうやらまだ腕は鈍ってなかったようだ。

 

 

「八幡…流石我が戦友!我が出来ぬことをいとも容易くできるとはグフぅ…!」

 

「あっ…」

 

なんて思っていたらシャトルはそのまま材木座の頭を直撃。シャトルはコロンコロンと転がり、材木座はそのまま後ろにバタりと倒れてしまう。…これ大丈夫か?

 

「おいどうした!?」

 

「あ、厚木先生」

 

材木座の力無く倒れる様子を見たのか、体育の厚木先生が材木座の元へと駆けつける。

 

「いやちょっとサーブをミスって…頭にシャトルがぶつかったんです」

 

「そうか…材木座!聞こえるか材木座!…どうやら意識はあるようだな、瞼は閉じたり開いたりしている。軽度の脳震盪だろう、このまま仰向けに安静にしていれば大丈夫だ」

 

「そうですか…それは良かったです」

 

必殺サーブが本当に人を殺さなくて良かった…。

そう思ってホッとしてると、厚木先生は呆れたように俺のことを見て言う。

 

「にしても比企谷、どうやったらバトミントンのサーブで脳震盪起こせるんだ?テニヌじゃないんだぞ?」

 

「あ、あははは…」

 

思わず乾いた笑いが溢れる。いや、本当に知りませんって、と言うか先生テニヌ分かるんですね。

 

そしてその後、先生によりパトリオットサーブは禁止技認定を受けた。解せぬ。

 




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