Re:ゼロから始める運命石の扉   作:ウロボロス

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十二:一週間の決着

 

 

ーー結論から言えば岡部の作戦は全て上手くいったと言える。

 

レムとの関係を良好にしつつ、スバルの周りに怪しい人物が接触して来ないか注意深く探っていた所、岡部は妙な子犬に目を付けられた。正確には目を付けられたというよりはいつかの時と同じように頭を垂れ、岡部に忠誠を誓うように子犬が接触して来たのだ。

明らかに普通の動物とは違う事を察した岡部はラインハルトに頼んで子犬を調べて持った所、この子犬が魔獣である事が判明した。そして恐らくこの子犬は操られてスバルに呪いを掛けようとしたと岡部は推測した。

 

スバルにも確かめてもらった所、確かに子犬に噛まれて接触された記憶があった。子犬が魔獣と判明した以上、明らかに原因はこいつであると分かる。やはり敵はレムだけでは無く、別勢力の者が居たのだ。

岡部がそう確信したと同時に村人の子供が行方不明になるという事件が起こった。恐らくはその魔獣を操っていた黒幕が自分達をおびき出す為にやったのだろうと考え、岡部達はすぐに森へ子供達を探しに行った。

 

案外子供達は早くに見つける事が出来た。だがそこからが衝撃的だった。

村の子供だと思っていた青髪の女の子が突如として魔獣を集め、岡部達に襲い掛からせたのだ。実は青髪の少女は村人の子供では無く、スバル達を殺す為に依頼された暗殺者だったらしい。

 

幸い岡部は何故か魔獣に襲われず、ラインハルトも居たおかげで魔獣の怒濤は返り討ちにする事が出来た。だがその最中にスバルが魔獣に噛まれそうになった子供達を守る為に身を呈し、何カ所か噛まれるというアクシデントがあった。ラインハルトがすぐにその噛んだ魔獣を倒したので大事には至らなかったが、それでも軽視は出来ない怪我を負う事になった。

その後、全ての魔獣を倒した。主にラインハルトとレムが。戦う手段を失った青髪の少女はヘナヘナとその場に膝を付き、諦めたように顔を俯かせた。

 

「……という感じで何とかなったんだが」

 

ロズワール邸に戻り、今回の黒幕メィリィを捕虜として捕まえた後、岡部は唸るようにそう言葉を零した。目の前にはベッドに寝ながら包帯でグルグル巻きにされているスバル。主に怪我の箇所は腕のはずなのだが、何故か現在はミイラ状態になっていた。

 

「スバル君に近づかないでください。髭おじさん」

「髭ッ!? ……くっ、俺はまだおじさんでは無い。ナイスガイだ!」

 

ベッドの前に立ち、スバルを守るようにジリジリと岡部の事を睨んでいる少女レム。今回の事でどうやら無事スバルはレムの信頼を勝ち取ったらしい。岡部は自分が居たら不味いだろうという事であまり干渉しなかったが、どうやら普通に仕事を通じての会話だけでも十分に信頼を得れたらしい。恐らく決め手は魔獣の事件の時であろうが、これは素直に嬉しい結果であろう。岡部はそう顔を頷かせるのだが、どうもそう簡単には納得出来ないようであった。

 

レムがスバルと仲良くなったのは良い。だがその度合いがどうやら予想していた以上らしく、かなり好きになってしまったらしい。恐らく愛していると言っても過言では無いくらいの方向性で。その事に関しては岡部は喜ばしく思うし、スバルを応援したい気持ちもある。だが特定の人物に強く好意を向けると言ってもそれは全ての人間に平等に行われる物では無く、ましてや最初から嫌われていた岡部なんかにはなまじスバルと関係性がある事から増々敵意を向けられる事となってしまった。

 

主に臭いから。主に怪しいから。主に髭だから。理由はどれも酷い物。レム曰く岡部とスバルからは嫌な匂いがするらしい。それだったら何故スバルには好意を向けて自分には敵意なんだ、と岡部は主張したが、スバル君は特別です、という言葉で一蹴されてしまった。全くな理不尽である。だが岡部自身も幾つかは納得出来る部分があった。

 

今回の事件を経て岡部は自分が魔獣に敬意を払われている事を感じ取った。子犬の時と言い、戦闘の時と言い、魔獣達はメィリイの命令を無視してまで岡部に頭を垂れて来たのだ。決して牙を向けず、戦闘の時は触れさえして来ない。明らかに異常な現象であった。

ラインハルトはもしかしたら何か加護を受けているのかもしれない、と助言してくれたがそんな加護があるとは岡部には到底思えなかった。やはり自分は何かがおかしいのだ、と少しだけ不安に思った。

 

スバルの“死に戻り”、自分の“リーディングシュタイナー”、ただの日本人である自分達には明らかにおかしな能力が備わっている。果たしてこれは一体何なのか?自分達から出ていると言われる魔女のような匂いとは何なのか?謎は深まるばかりであった。

 

「それにしても流石キョウマだ。よくあの子犬が魔獣だって気付けたね」

「別に気付いた訳じゃない。あの子犬の方から変な事をして来たんだ」

 

ラインハルトはそう言うと尊敬の眼差しを向けながら岡部の事を褒めた。岡部自身は子犬が頭を垂れて来たから怪しいと思っただけで、実際自分の手柄とは言いづらい。だがラインハルトは完全に岡部の事を信じているようで、今更弁明しても大した意味は無かった。

 

「なんだよお前等。アタシが屋敷で留守番してる間そんな事があったのかよ。何で教えてくれなかったのさ」

「何だ、構ってもらえなくて寂しかったのか?プリティガールよ」

「はっ?意味分かんねー事言ってんじゃねーよ! おじちゃん!!」

 

フェルトが逃げ出さないように、というラインハルトの計らいで屋敷の部屋で留守番させられていたフェルトは唯一この事件の事を知らされず、戦闘が起こっている間も部屋で待っている羽目になっていた。その為本人は自分があまり構ってもらえなかった事に不満を思っていたらしく、それを指摘した岡部は彼女の反感を買う事になり、思い切り脹ら脛を蹴られる事となった。

 

「アタシはただ知らされなかった事が不満なんだよ! こっちは無理矢理こんな所に連れて来られてんだぞ!? せめて何が起こってるのくらい教えろって意味だよ!」

「ぐふッ……お、おう。そうか……それはすまなかった」

 

少女の蹴りと言えど盗みで鍛えられているフェルトの蹴りは中々の物であり、なおかつ貧弱な岡部に身体にはそれは大ダメージであった。脚を抑えながら踞っている岡部は苦しそうに謝罪を述べるが、フェルトの怒りはそれでも収まらないらしい。罵倒に罵倒を繋げ、岡部の事を散々罵った。

 

こうして事態は収集し、不在だったロズワールも帰って来るという事から全員は一度解散する事となった。スバルも怪我人ではある為、一応療養という事で部屋でじっとしている事とラムに命令された。

何だかスバルはボロボロになってばかりだな、と岡部は彼をかつての自分と重ねる。だが少し違うか、と妙な心境になり、誤摩化すように髪を掻くと部屋から出た。

 

「あ、キョウマさん」

「む、ティターニアか」

「へ?ティター……?」

「いや、何でも無い。スバルに何か用か?」

 

廊下を歩いていると遅れて登場して来たエミリアと遭遇した。慌てている様子からスバルの現状を聞き、心配になって彼の所へ行こうと思ったのだろう。何とも優しい少女だ、と岡部は感心した。

 

「うん、それもあるんだけど。キョウマさんにも言っておきたい事があって」

「俺に?」

 

エミリアの言った言葉にぽけっとした表情をし、岡部は自分の事を指差した。するとエミリアは大きく頷き、笑みを浮かべる。思っても見なかった事に岡部は目を丸くした。

エミリアと自分は決して交流が深いとは言えない。ましてやエミリアの精霊であるパックからは何処か嫌われている節がある。それ故にあまり交流しないようにもしていたのだが、そんな彼女が自分から関わって来る。その事に岡部は驚いていた。

 

「今回の事。スバルを助けてくれて有り難う。魔獣の事に気付いてくれて……私、まだスバルとそんなに仲良くは無いけど何となく分かるの。スバルって無茶をする人だって」

「あぁ……」

 

エミリアはペコリと丁寧にお辞儀して岡部にお礼を言った。岡部はその言葉の内容を聞いてようやく納得する。

確かにエミリアの言う通りスバルは無茶をする少年だ。若い故か、それとも死に戻りという能力を持っているからか、彼は自分の命を軽視して物事を変えようとする。死を何度も体験しているから仕方ない部分もあるが、確かに今回のような事件が解決しても自身が怪我を負っていては世話が無い。第三者としては複雑な気持ちになる部分もある。

 

だがスバルが無茶をしてくれたからこそ助かった命もある。もしもスバルがループしてくれなければ呪いがレムに掛かっていたり、屋敷の人達に危害を及ぼす場合だってあったのだ。スバルが居てくれたから、スバルが立ち向かってくれたから、今回の事件は収束する事が出来た。故に自分の礼を言うのは間違っていると岡部は思った。

 

「俺は別に何もしてないさ。頑張ったのはプレアデス……スバルさ。あいつが頑張ったから、この事件は解決出来たんだ」

 

自分はただループを認識出来ただけ。自分が死に直面するような事はしていない。それ故に岡部は自分は今回の功労者では無いと考えた。真に頑張ったのはスバル。実際自分が関わらなくてもスバルなら何度でも死に戻りして助けたかも知れない。彼にはそれだけの気力がある。だから今回した事はちょっとだけ重荷を軽くしたくらいなのだ。岡部はそう心の中で思う。だが、エミリアは首を横に振った。

 

「ううん、キョウマさんだって頑張ったよ。もしもキョウマさんが居なかったらスバルはもっと傷ついていたかも知れない。もしかしたら村の子供達だってもっと怖い目にあってたかも知れない。キョウマさんがいち早く気付いてくれたから魔獣使いを捕まえられたんだよ?もっと誇ってよ。キョウマさん」

「…………ーー!」

 

とても子供っぽい発言であった。もしもの場合。僅かな可能性の出来事。だがそんな事を恥ずかしげも無く目の前の銀髪の少女は言って退ける。その揺るぎない主張に岡部は思わず言葉に詰まった。

反論しようにも何も出来ない。主張を認める訳では無いが、エミリアがただ純粋に述べた言葉を跳ね返せるくらいの理由が思いつかなかったのだ。あまりにも純粋過ぎる。目の前に居るこの少女はとても清らかな心を持っていた。それにあてられた岡部は思わず額を抑えた。

 

「ふっ……敵わんな。純粋な子供には」

「あっ! 私子供じゃないよ。これでも結構長い間生きてるんだから」

 

幾つか空白の部分はあるけど、とエミリアは少し寂しげに言葉を付け足しながらもそう言って胸を張った。

確かに此処が異世界だという事を考えればハーフエルフというエミリアが見た目とは違って高齢であってもおかしくはない。今度は岡部は笑みを零し、いつもの大袈裟な笑いでは無く思わず笑ってしまったような仕草をした。

 

「ではティターニアよ、俺はもう部屋へ戻る。精々プレアデスとの最後の会話を楽しむが良い。フゥハハハハハ!!」

「もー、またそうやって変な事ばっかり言って。そういう所はスバルと似て子供っぽいよね」

 

子供っぽい、という所で岡部は思わずずっこけそうになるが構わず笑い続けてその場から立ち去った。先程までの自分を誤摩化すように、彼は厨二病という仮面を付けながら彼女の前から去って行く。

その後ろ姿を見送り、エミリアは変な人と言葉を零しながらも笑みを浮かべ、当初の目的であるスバルが居る部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

事件が収束して半日が経った後、ようやくロズワールが屋敷へと戻り、彼は自室でラムから今回の出来事を聞いていた。そして一通り聞き終わった後、彼は椅子からおもむろに立ち上がって月夜を見上げながら口を開いた。

 

「そぅかい。彼ががそこまでねぇ……やはり“剣聖”を連れて来るだけあって。中々の人物だーねぇ」

 

ラムの主観も入っているが、今回の事件の大体を把握したロズワールはそう感想を零した。

ロズワールが目を付けている部分。それはラインハルトの助力がありながらも今回の事件の功労者である岡部であった。剣技や特別な能力を持ち合わせている訳でも無い彼。だがどういう訳かこの岡部という男はこの屋敷に起こる事件に引き寄せられたかのようにひょっこりと現れ、更には剣聖ラインハルトという最強のカードを用意して来た。この部分にロズワールは首を捻る。

 

「やはり、あの男、キョウマが今回の事件の裏に繋がっているのでしょうか?」

 

ふとラムはそう意見を述べた。

いくら何でも岡部の出現と今回の出来事はタイミングが良過ぎる。まるで岡部は分かっていたかのようにこの屋敷に現れ、魔獣の気配に勘づいた。何か裏があるのでは無いかと思ってもおかしくは無かった。だがロズワールはそれに対して首を振り、片目を瞑った。

 

「いーや、それは無いだろう。彼にメリットが無い。そもそも結局事件解決に貢献しているのだから、事件を起こす意味が無い。剣聖ともただ単に仲が良いだけみたいだーしぃ。王選の事もよく分かっていないようだからぁね」

 

ロズワール自身も何回か岡部と会話しており、その時の様子から岡部が本当にただの一般人である事が分かった。異分子。イレギュラー。不安定要素。それが岡部に対してのロズワールの感想。そしてロズワールにとって岡部という人物は何より目を離す事が出来ない存在であった。

 

彼は大切に保管している本をそっと抱きしめた。愛おしそうに、我が子のように。決して誰にも見せない。自分だけが知る未来。スバルという大切な鍵が今回は舞い降りた。そして事はロズワールの思惑通りに進んだ。だが思わぬイレギュラーがあった。キョウマ。異分子であるあの男。この男こそ、ロズワールが最も警戒しなければならない人物だった。何故ならロズワールにとってキョウマという男は忘れる事の出来ない人物であったからだ。

 

「流石は“貴方様”……というべきか。“岡部倫太郎(オカベリンタロウ)”……」

 

片目を開き、ニヤリと笑みを浮かべながらロズワールはそう言った。岡部倫太郎、という聞き覚えの無い名前にラムは首を傾げる。ロズワールは何も答えない。答えようと、しない。

 

 

 


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