迎撃!霧の艦隊 Cadenza   作:蒼樹物書

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第九話『霧の艦隊 艦隊決戦!-前編-』

 

「――見つけた」

 

十二基から成る索敵レーダーユニットを展開したナチが宣告する。

中部太平洋海域。

後方に位置するムサシを防衛する為展開した霧の生徒会と深海棲艦。

その中心にて索敵を行っていたナチが侵攻する艦隊を補足した。

 

「相変わらずの地獄耳……」

「聞こえてますよ」

 

小さな音量で揶揄するハグロの言葉をも聞き咎めるナチ。

補足した艦隊の位置と規模が即座に概念伝達で全艦に転送される。

 

「よっしゃあ!いくぞイ401!戦場が、勝利が私を呼んでいるのだー!」

「待ちなさいアシガラ!」

 

防衛線外郭部の深海棲艦とナガラが対潜攻撃へ動くのを追いかけるように、アシガラが駆け出す。

ヒエイが制止するも聞かず、勢いをつけると海面へと飛び込み潜水を開始。

 

「べんばぼびょぶびぼびばびびべべー!」

「アシガラ!フィールドくらい張りなさい!」

 

海中を進みながらがぼがぼ言うアシガラにナチが注意する。

二度目だが学んでいなかった。

ナチは溜息一つ零すと。

 

「私も前へ出ます。潜水艦相手なら正確な位置把握が必要ですから」

「わかりました。我々はこのまま防衛ラインを保持します」

 

ヒエイが意見具申を了承すると、ナチは水上を走り補足した艦隊の方へと向かう。

位置を補足された潜水艦隊など一方的に磨り潰されるのみ。

ナチによる長大で精微な索敵能力を軽視した突破など許すはずもない。

 

 

 

「敵艦隊の一部が『一番目の』にかかりました。作戦を第二段階へ移行」

「艦載機、発艦急げ!」

「主砲全門、動力伝達。吹き飛ばす」

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

二人の霧が抜けた防衛主力艦隊、その側面に。

 

「重力子反応!?」

「側面か!」

 

砲と艦載機の大火力が襲い掛かる。

潜水艦隊の侵入コースを正面としてその側面から赤城を旗艦とした伊勢、ハルナから成る火力艦による奇襲。

ぬいぐるみ姿のキリシマはハルナにしがみつきつつ、その砲撃の演算処理をサポートしていた。

 

「この距離から……!ミョウコウ、狙えますか!?」

「はっ」

 

ヒエイの命を受け、ミョウコウの眼帯が展開。

それに続いて装備した艤装が変形を開始する。

20.3cm2号連装砲を模した砲にバレルが被せられ、重力子エンジンが臨界まで達し。

 

「沈め」

 

閃光。

限界まで収束した光線が煌き、超長距離を一瞬で詰める。

 

「きゃあッ!?」

「赤城!?」

「くっ……弾速が速過ぎて防御が追いつかない!」

 

光線は赤城を掠めただけで、その艤装を大破させる。

超重力砲を犠牲にして得た狙撃装備。

それは弾速と精密な射撃能力、そしてクラインフィールドを持たない艦娘を沈めるには充分な威力を持っていた。

 

「まだだ。第二射」

「させるかぁ!主砲、四基八門、一斉射ッ!」

 

その上、超重力砲に比べ連射性にも優れている。

二射目を阻止せんと伊勢がその主砲全門を斉射する。

しかし、その抵抗も虚しく。

 

「ッ――まぁ、やるだけやったかな……。日向、ゆっくりきなよ……」

 

次弾は伊勢に。

今度は直撃だった。

 

「伊勢!クソ!クソッ!!」

「そんな……!」

 

轟沈。

超人の艦娘であれ、その終わりは訪れる。

腹部を光線に貫かれた伊勢が、ゆっくりと海に沈んでいく。

自身も艤装を破損している赤城が手を差し伸べ引き上げようとするが、止まらない。

重い。

まるで海が伊勢を引きずりこんでいるかのように、沈没が進む。

そして。

 

 

 

「……伊勢が、沈みました」

 

叢雲が率いるタカオ、大井の艦隊。

大井が通信で戦闘に参加している各艦に伊勢の轟沈を伝える。

 

「――そう。でも、止まらないわよ」

 

その報せに叢雲はさらに決意を硬くするように応える。

作戦室で通信回復を待つ伊東少佐達は未だこの情報を知らない。

知れば、作戦中止になるかもしれない。

叢雲達の役目は『三番目の囮』だ。

水上を高速で駆けて防衛線を突破を図る本命のイオナと、その直衛に当たる島風に先んじて突入。

霧と深海棲艦の防衛線を抜けてムサシとの接触を図るため組んだ作戦がそれだった。

多重の囮による敵戦力の分散、そして高速艦による目標への急速接近。

数で劣る側が囮によってさらに数を減らし多数を引きつけるのだ。

全員が、その危険性を覚悟しての作戦だった。

 

「ここで止まれば全てが無駄になるわ」

 

霧による通信遮断が予想され、戦闘海域付近でしか通信できないことから作戦の指揮は今回叢雲が握っている。

硫黄島沖のように事前に作戦は策定され、撤退基準も設定されていた。

何れかの艦が大破の場合は即時撤退。

これは、伊東少佐が常に一線として守ってきたことだ。

実際今まで彼女の指揮下で沈んだ艦娘はいなかった。

 

「機関最大。あの子達の道、抉じ開けるわよ」

「えぇ、必ず。さあ!いっくわよー!」

「あの子の為のレッドカーペット。完遂してみせる……叢雲、出撃するわ!ついてらっしゃい!」

 

叢雲にとって初めてとなる命令違反。

しかし、その目は揺ぎ無い覚悟で固められていた。

 

 

 

「始まった……ふふ」

 

霧の生徒会と深海棲艦による防衛線の最奥。

超戦艦ムサシは一人、前線に煌く火砲と遠くに響く爆発を眺めていた。

この世界の霧において彼女のみ、その巨大な船体を保持している。

生徒会やナガラにナノマテリアルを分け与えたとは言え、メンタルモデルと艤装を構築する程度の量。

異世界にあって超戦艦は健在だった。

 

「でも、まだあのお人形さんは来ていないのね……」

 

攻撃に先立って侵攻した潜水艦隊、そこにイオナがいないことをムサシは感知していた。

あれは囮。そして長距離から仕掛けてきたのも囮。

今また、別方向から侵攻してきた水雷戦隊にもいない。

ならば、この次か。

 

「早く、早くおいでなさい」

 

本来の霧の力を保持するムサシが参戦すれば、所詮人の大きさたる裏切りの霧や艦娘など物の数ではない。

彼女達はなけなしのナノマテリアルと少ない戦力を分散し、それでも仕掛けているのだ。

そうして漸く自身に接触出来た時、その戦力差に絶望するだろう。

 

「ヤマト……今度こそ、あのお人形さんから引きずり出して……」

 

詠うように。

 

「今度こそ、もう一度」

 

少女が、目を見開く。

 

「殺してあげる」


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