迎撃!霧の艦隊 Cadenza   作:蒼樹物書

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第七話『幕間。開発と編成と』

横須賀鎮守府、通称間宮食堂。

硫黄島での経過報告や霧の生徒会との交戦についての報告がなされた後。

夕食時のピークを少し過ぎた今、席数が多いとのことからこのテーブルに一同が会している。

鎮守府。伊東少佐、その秘書艦叢雲。

蒼き鋼。千早群像、イオナ、タカオ、ヒュウガ。

霧の大戦艦。ハルナ、キリシマ。

硫黄島での作戦後、呉鎮守府への遠征を終えた叢雲は調査報告にあったハルナとキリシマを連れ立って帰還していた。

他の部署からの身柄横取りとも言える行為は、件の七光りで押し通したそうだった。

彼女達もまた、先のムサシ率いる艦隊との交戦の最中に次元転移に巻き込まれ『こちら』で漂流、呉鎮守府にて保護されていた。

その際やはりナノマテリアルは大部分を喪失しており、キリシマも報告書にあった通り熊のぬいぐるみ姿。

イオナに乗っていた他のクルーと同じくハルナ達の船体に乗艦していた蒔絵は行方不明だった。

 

「まずは各自の目的をはっきりさせておきましょうか」

 

ハルナ達の状況、そして群像達のこれまでを説明し終えると伊東少佐が発言する。

 

「私達と千早さん達の共同戦線については説明したわね。しかし敵対する『霧』が現れた以上、その対応に協力願いたいわ」

「先の戦闘でも、艦娘ですら『霧』に対抗できないことが証明されてる。また、そんな連中が深海棲艦と共闘している」

 

伊東少佐の提言に、叢雲が補足する。

この国、そしてこの鎮守府においては深海棲艦ですら手に余る状況。

招かれざる客の対応は同郷の者で始末をつけてもらいたい。至極当然の話だった。

 

「こちらはマキエとの合流が最優先事項だ。『こちら側』にいないのであれば、元の世界にいる可能性が高い」

「我々はあの子と約束したんだ。一緒にいるとな……むぐむぐ」

 

対するハルナ、キリシマが応える。

会合は食事をしながら、ということで始まったがかなり時間が経っても未だキリシマは食事を続けている。

丼七杯目。

どこに入っているんだろうか、と思いながら群像が続ける。

 

「我々……敵対する『霧』の生徒会含め、元の世界へ戻ることが互いにとって最善であると考えます」

 

交わるはずのない二つの世界。

そこで出会った者、出会えなかった者。

全てを考えれば元の世界へ戻ることが最善である。

未だ捜索は続けているものの、401クルー達も発見できていない。

やはり蒔絵と同じく向こうにいるままの可能性が高い。

そして、閉塞した世界に風穴を開ける――その願いは『元の世界』でのものだ。

 

「私は千早艦長に従うわ。蒼き鋼の所属艦として、ね」

「イオナ姉様の傍にいられればそれでいーわよー」

 

タカオ、ヒュウガは群像達と同調。

 

「元の世界へ戻る事を目的とする以上、千早艦長と行動と共にすることが最善に思う」

「ミラーリングシステムを使用するには全員の協力が不可欠だろうしな」

 

状況から『こちら側』に迷い込んだのはミラーリングシステムによるものである可能性が高い。

超戦艦級の装備であるこの装備を扱うには超戦艦、もしくは大戦艦に複数の補助艦が必要となる。

ここにいる霧が保持するナノマテリアルを結集したとして、ようやく一式揃えられるかどうかの量しかない。

しかし、その使用には問題があった。

 

「あの状況を再現し得る大規模な展開をする必要がある。けど……ヤマトが、いない」

 

イオナは胸に手を当て、俯きながら告げる。

あの時に展開したミラーリングシステムは超戦艦の多大な演算能力を用いての大規模なものだ。

大戦艦でも補助があれば使用は可能だが、あの規模のものは展開し得ない。

ならば以前のようにヤマトのシステムを使い超戦艦を構築、そしてミラーリングシステムを展開することになるが。

しかし、肝心のヤマトのシステムが構築できない。

イオナにメンタルモデルを与え、発生した自我に群像と出会いその命令に従うことを命じた超戦艦ヤマト。

ムサシとの決戦の際、そのシステムと船体構築をイオナに発現させた。

だが、今その想いとシステムはイオナの中に存在しない。

形こそ再現できようと、システム……演算能力が再現できない。

 

「超戦艦ムサシとの交戦によってヤマトは目覚めた。それが、キーとなるなら」

「生徒会の連中も来てるなら、あの子……ムサシもいるかもね」

 

群像の言葉にヒュウガが続ける。

ならば。

 

「我々は『霧』の生徒会、そして超戦艦ムサシと接触、ヤマト覚醒を促しミラーリングシステムを起動。俺達は全ての霧と共に『元の世界』へ帰還する」

「異存はない」

「我々は蒼き鋼に編入、千早艦長の指揮に従う。あとお代わり」

 

群像の方針にハルナとキリシマが従う。

 

「それじゃ今回合流した『霧』の四人はイオナちゃんと同じく千早さん指揮下とするわ」

「『霧』の動きについては大本営に注視するよう依頼済みよ。後うちは本来お代わり三杯までだから、今後はそっと出しなさい、そっと」

 

伊東少佐がまとめ、叢雲がキリシマへ釘を刺す。

会合する席から離れて座る赤城は十杯目のお代わりを諦めることにした。

 

 

 

横須賀鎮守府に併設された工廠。

様々な工作機械や資材が散乱し、古びた油の匂いが支配している。

 

「これが振動弾頭ですか」

「そう。艦娘仕様にダウンサイジング、ナノマテリアルで構築したのだけれど」

 

アンカーのような形状の脚を折りたたんだ弾頭。

片手に乗るサイズで構築されたそれを興味深そうに手にするのはこの工廠の主、工作艦明石だった。

この工廠では新たな艦娘の建造、装備の開発が行われている。

様々な資源を元に明石と妖精達によって行われるそれらの詳細は最上位の機密とされており、鎮守府の主である伊東少佐すら知ることができない。

そんな場に霧の大戦艦ヒュウガと群像が入ることを許されたのは、霧に対抗し得る装備を『こちら側』で製造する為だった。

 

「テストの際はミサイルに搭載していましたが、艦娘の装備として使用するならば魚雷に載せた方がよいかと」

 

振動弾頭。

『元の世界』で日本政府から依頼され、量産の為アメリカまで運んだそのサンプル。

ヒュウガが解析データを取得していたそれは人類が初めて霧に有効な攻撃を実現した兵器だ。

霧の技術によらない霧に対抗し得る装備。

それを艦娘へ装備させ霧との決戦へ向けての戦力の拡充を果たす。

 

「人に造れる物なら、私に造れないわけがありません!新型装備、楽しみですね~!」

「少佐から許可は貰ってるわ。私も協力する以上完璧な仕上がりを期待してね、艦長」

 

振動弾頭を持つ魚雷であれば、艦娘でも霧の撃破が可能になる。

弾頭が目標に接触することで共振現象を引き起こし破壊する為、クラインフィールドを臨界させる飽和攻撃が必須ではあるが艦娘が霧に対抗できれば戦術の幅が広がる。

群像の艦隊、蒼き鋼の再編も行ったがナノマテリアル分配を考慮の上、主力の編成は3人に留まった。

まず伊401、イオナ。

そして重巡洋艦タカオ、大戦艦ハルナ。

戦闘形態はメンタルモデルに艤装を装備する、艦娘に合わせた形を採る。

ナノマテリアルの総量から一隻であれば船体を構築可能だったが更なる補給が望めない現状、ミラーリングシステム構築分を確保する為温存。

艦娘との連携を考えれば同型であることが望ましいというのが群像の判断だった。

そしてこの形態を構築する場合、メンタルモデルの服装に変化があった。

タカオは青い女性用スーツ。ハルナは赤いミニスカートに巫女装束のような着物。

貴重なナノマテリアルの変換効率を追求した結果、このような衣服が選択されるらしい。

先の戦闘時、タカオがイオナを参考にこの戦闘形態を突発的に構築した際にも自然にこの服装となったとのことだ。

何らかの強制力……強い力と呼ぶべきものが働いているのだろうか。

なおハルナは露出の多いその服装を当初拒否したが、説得によりその上にいつもの全身を包む黒いコートを着ることで了承させた。

 

「試作品完成後、テストをクリアすれば即座に量産だ。一刻も早く魚雷装備可能な艦娘全員に行き渡るようにしておきたい」

「りょーかーい。それじゃアカシ、よろしくねー」

「はい!『霧』の技術力、勉強させていただきます!」

 

二人に指示を終えると、群像はすぐに工廠を後にする。

霧の生徒会があの二人だけとは限らない。

未知数の敵戦力を前にやれることは全てやる。

群像は、伊東少佐に相談していた次の一手を打つため今度は港へと急いだ。

 

 

 

りーんこーんかーんこーん。

予鈴の響く洋室に、コの字に並べられた長机とパイプ椅子が五つ並べられている。

脇にはホワイトボードが立てられ、大きく『第65回生徒会』と書かれたいた。

 

「はいりまーすっ」

「……アシガラ。また、ノックを忘れてますよ」

 

ドアを大きく開け放ち、入室したアシガラを嗜める霧の大戦艦ヒエイ。

ごめんごめんと気楽そうに謝るアシガラに続いてミョウコウ、ナチ、ハグロが続いて入室する。

 

「生徒会長、揃いました」

「それでは第65回、霧の生徒会総会を始めます」

 

ヒエイの宣言と共に、全員が自身らの周囲に光輪を展開させる。

概念伝達。

霧の艦艇同士が行う通信方式で、一切のラグも齟齬なく情報を伝達できるそれによって全員に情報が行き渡る。

 

「探索中に硫黄島にてヒュウガ、タカオを発見。包囲殲滅を行うも不明勢力とイ401の介入により失敗、と」

「不明勢力……深海棲艦のデータ解析からカンムスと呼ばれる人類の兵器だそうだ」

 

データを読み上げるナチにミョウコウが補足する。

彼女達霧は深海棲艦の解析によってこの世界の情報をある程度把握していた。

こちら側にも人類は存在し、深海棲艦と戦っていること。

そしてその傍に、カンムス……艦娘と呼ばれる存在があること。

 

「ムサシがサルベージしたのも、カンムスだったんだよね?」

「データ回収後起動を促したそうですが……沈黙したままだったため洋上で投棄されました」

 

アシガラの質問にヒエイが応える。

霧の裏切り者であるイオナ、タカオ、ヒュウガ。

彼女達が艦娘と共闘態勢にあるのならばまだ利用価値があったのかもしれないが。

 

「あいつらが何だってどうでもいい。あいつ。シマカゼは、私が沈める……!」

 

いつも脱力気味で何事も面倒臭がるハグロが、その殺意をぎらつかせる。

霧一番と自慢の速力で追いつけず、その矜持をずたずたにされたのだ。

怒るハグロにミョウコウが続ける。

 

「生徒会長。こちらでもアドミラリティコードに従い海上封鎖、人類の支配を行うならば奴らの殲滅は必須事項だと考える」

「えぇ。私からムサシに上申、掻き集めた深海棲艦の編成を行います」

「早く仕掛けようよー!私もカンムスと経験したーい!」

「ハグロ、はしたないですよ」

 

戦いが待ち遠しいとばかりにシャドーボクシングを始め叫ぶハグロをナチが嗜める。

 

「では。今度こそ、連中を駆逐しこの星に正しい秩序を」

 

生徒会長ヒエイの言葉に全員が起立しそれぞれの腕章をつけた左腕を真っ直ぐ、下方に突き出す。

 

「霧の風紀は地球の風紀」

 

斉唱。

全員が右手を腕章へ当てる。

 

「解散」


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