迎撃!霧の艦隊 Cadenza   作:蒼樹物書

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第六話『硫黄島沖海戦-後編-』

「私にはッ、しまかぜには!誰もッ、追いつけない、よ!」

 

避ける。

避ける避ける。

砲撃、魚雷、艦載機。

雨霰と襲い掛かる、深海棲艦からの攻撃を全てその持ち前の速力で回避する。

潜水艦隊が硫黄島にいる勢力への接触を試みる為、潜行する一方。

島を包囲する深海棲艦と霧の艦隊への陽動の為、正面から侵攻した二人の艦娘は奮戦を続けていた。

 

「第二次攻撃隊、全機発艦!」

 

旗艦、一航戦赤城は弓に濃緑色の矢羽を持つ矢を番え、放つ。

矢は光と共に分離、18機の零式艦戦21型へと変化。

両翼と胴の赤丸が特徴的な、白い戦闘機が異形の敵艦載機へと襲い掛かる。

今回の作戦目的は硫黄島勢力との接触、場合によってはその保護。

敵戦力殲滅は頭から入っていない。

その為赤城には可能な限りの戦闘機搭載がされていた。

艦娘の空母が使う艦載機には主に今赤城が放ったゼロ戦等の艦上戦闘機、爆撃機、攻撃機があるが、戦闘機は敵艦載機との航空戦に特化した機体だ。

これにより制空権を争い、砲雷撃戦での有利へと繋げる。

しかし今回はまともにやりあうつもりもなく目的達成までの時間稼ぎが任となる為、伊東少佐は赤城に戦闘機を可能な限り積載させていた。

また搭載しているのも航続距離が長大なゼロ戦。

それを用いての長距離からの制空援護が赤城の役割だ。

そして、赤城に空を守られながら敵の攻撃は前衛の島風が請け負う。

 

「おっそーい!」

 

旧帝国海軍最速の駆逐艦、島風。

その艦名を頂く少女は、正に名に恥じぬ速力だった。

大量の深海棲艦からの攻撃を集中されながらも、未だ被弾なし。

こちらは重い魚雷を外して本来強力な雷装すら放棄した回避特化。

それを活かし挑発するような突撃、鮮やかな後退を続けている。

 

「……あからさまだな」

「ねぇ。私、いくよ」

 

対する霧二人。

硫黄島と艦娘を同時に相手取る深海棲艦の後方で高みの見物を気取っていたミョウコウとハグロ。

紺色のスーツに艤装を纏う二人、それまでつまらなそうにしていたハグロがその逸る気持ちを隠そうとせず宣言する。

 

「私の機動力は、霧の艦隊で一番なんだから!」

 

背面のアームから伸びる連装砲が展開。

即座に砲撃の爆心地、その只中にいる島風へとハグロが駆けていく。

 

「待てハグロ!あんな陽動に……!」

 

霧は強力なレーザー砲を主砲とし頑強なクラインフィールドに守られ、タナトニウムから莫大な出力を得ている。

しかしメンタルモデルによって戦略を得ようとしていても、未だ幼稚とも言える程度の戦略的思考しかない。

あまりに人類に対し圧倒的であった為。

あらゆる戦略を無視出来るはずの強さが。

衝動的な行動へとハグロを突き動かす。

 

「ちぃ、深海棲艦の砲撃に当たるなよ!こうなったら、島を即座に……!」

 

瞬間。

 

「タナトニウム反応!?」

 

爆裂。

注意の逸れたミョウコウに、海中からの侵食魚雷が直撃する。

間一髪クラインフィールドで防御、即座に索敵に移る。

しかし。

 

「超重力砲エンゲージ!さぁ……覚悟するのよ!」

 

続く水上からの砲撃。

実弾ではなく極太の光線がミョウコウの防壁を震わせ、食い破らんと襲い掛かる。

 

「超重力砲……!?硫黄島からか!」

 

クラインフィールドの臨界寸前ながらも、島の方へ目を向ける。

硫黄島を背にし、水上に立つのは。

 

「御機嫌よう、ミョウコウ。馬鹿め、と言ってあげるわ!」

「重巡タカオ!?」

 

青の長髪を荒れる戦風に揺らし、背負うように三基の20.3cm連装砲を装備した霧の重巡洋艦、タカオ。

普段の衣服ではなく、青いスーツに帽子、白のスカーフ、そして大きく切り上げるスカートの両端からは黒のガーター。

硫黄島より出撃したタカオの参戦、その砲撃でミョウコウのクラインフィールドが遂に臨界を迎える。

 

「くそッ!この反応……伊401もいるのか!」

 

防壁の消失と引き換えに超重力砲を凌ぎ切ったミョウコウが、海中より侵食魚雷を放ったイオナに気づく。

深海棲艦が未だ多く健在だが、これで霧は同数。

 

「ハグロ!何をしている、早く……!」

 

「にひひっ!あなたって、遅いのね!」

「こんのおぉぉおおおおおおおおッ!!!」

 

逃げる島風、追うハグロ。

ハグロは完全に目先の相手に気を取られ、戦況に気を配ることができる状態になかった。

生徒会を称する霧の四隻の重巡洋艦は超重力砲を装備しない代わりに、それぞれ特別な装備を有する。

ミョウコウは長距離狙撃砲、そしてハグロは多数のスラスター。

それらは艦娘に倣った今の形態でも健在であり、間違いなくハグロは霧最速である。

しかし海上を駆ける島風には追いつけない。その速力はハグロと同等か、それ以上か。

その事実が、ハグロの矜持を傷つけ躍起にさせている。

 

「……深海棲艦、全艦突撃。ナガラとハグロ、そして私の撤退を支援せよ」

 

ミョウコウの命令により深海棲艦が硫黄島への攻撃を中止し、水上艦達へと殺到。

盾になるように間に入った戦艦ル級や重巡リ級へ背を向け撤退を開始する。

 

「あら?もう終わりかしら?」

「……これ以上どうしようもない。ハグロ!いい加減にしろ、撤退だ!」

 

突撃する駆逐ニ級をレーザー砲で迎撃しながら、挑発するタカオ。

クラインフィールドを失ったミョウコウの周囲に展開しているシステムウィンドウには、追い討ちの様に異常が表示されている。

表示されるメッセージ欄に被される、あっかんべぇをするアイコン。

ハッキングを受けシステム異常が起こっている。

これ以上の戦闘は不可能だった。

未だ熱を上げるハグロも口惜しそうにしながら撤退の命に従い、続いてナガラ達が後続する。

 

「うふふ、千早艦長、私の活躍、見ててくれたかしら?」

「通信は途絶したまま。というより映像は向こうには出ないからぐんぞーには見えてない」

「何でよー!?」

 

浮上してきたイオナの言葉に、声を荒げながら残存する深海棲艦を排除していく。

合流した伊号の潜水艦隊、そしてその退路確保の為待機していた伊勢が助勢に入り硫黄島周辺の深海棲艦が駆逐される。

伊藤少佐と群像が作成した作戦要綱は不明勢力、霧のタカオとハッキングを行ったヒュウガの加勢もありながらも完全に機能し。

硫黄島沖海戦は、完全勝利となった。

 

 

 

「艦隊帰投。みんな、無事に帰れた?」

 

横須賀鎮守府、その港。

伊東少佐と群像は帰投する艦隊の出迎えに出ていた。

イオナの問いかけに応じるように潜水艦隊が水面に顔を出し、水上の赤城、伊勢、島風に続いて陸上へと上がる。

 

「……お疲れ様でした」

 

伊東少佐が敬礼で艦隊を迎える。

霧の撤退と共に回復した通信で戦果報告は既に成されている。

それでも、送り出した艦娘達の無事を目の前にして彼女の指先は僅かに揺れていた。

艦娘達はそれに気づいているのかいないのか、無邪気に誰が一番の戦果かを言い争っている。

一方。

続いて陸に上がる霧。

 

「千早艦長……よかった……心配なんか……ちょっとしかしてないわよ」

「そこで素直になれないからあんたはダメなのよ、このツンデレ重巡」

 

艤装を装備したタカオと、展開した浮遊モジュールに乗ったヒュウガ。

二人の霧を群像が出迎える。

 

「おかえり」

 

艦隊、蒼き鋼。

異世界にて集結す。

 

 

 

「作戦完了した模様。間に合わなかったようだな」

「タイミングが悪いのよ、タイミングが」

「みんな無事だったようだからいいけれど。あー!もう!私達の前を遮る愚か者どもさえいなければ!」

「なぁ、海水を吸って身体が重いんだが」

 

さらに一方。

深海棲艦との交戦をしつつ遠征から帰投しようとする叢雲、大井とその同行者達は。

緊急の作戦に間に合わずながらも、横須賀への帰投を急いでいた。

 


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