迎撃!霧の艦隊 Cadenza   作:蒼樹物書

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最終話『二人の指揮官、二人の・・・』

光の奔流の中、白い巨艦が航行していく。

 

総旗艦代理命令が発せられた、その後。

ムサシの起動したミラーリングシステム、そして開いた次元の穴へ全ての霧が突入。

潜水艦イ401。

超戦艦ムサシ。

大戦艦コンゴウ、ヒエイ、ハルナ、キリシマ。

重巡洋艦タカオ、ミョウコウ、ナチ、アシガラ、ハグロ。

敵味方なく協力した霧の総力、その演算能力によって誰一人欠けることなく元の世界への道を進んでいった。

既に白い巨艦より先にその『出口』へ吸い込まれていった他の霧達。

それをイオナと手を繋ぎながら群像が見送った後、進む毎にイオナを中心として次々と構築される船体、そして完成した白い巨艦。

超戦艦、ヤマトの船体。

その艦長席に身を置きながら、群像の思考は靄が覆ったようにぼんやりしていた。

気づけば、いつの間にか傍らに立つイオナは純白のドレス。

その胸元には群像の贈ったブローチが光っている。

――ああ、あれも『向こう』にあったのか。

イオナは真っ直ぐに前を向き、今度こそと『出口』へと艦を進めることに集中しているようだった。

その表情に改めて信頼感を覚えると。

副長席、通信手席、砲術長席。

それらには見知った戦友達が居た。

寸分違わず、あの時のまま。

 

「……」

 

無言のまま、まるで夢を見ていたようだ、と思う。

あの時の失敗から迷い込んだあの世界。

似ているところもあれば、まるで違う。

そこで出会った人は無茶苦茶だった。

群像達の世界より絶望的な状況にあって、何時も飄々と愛する艦娘達を指揮していた。

思えば、何から何まで世話になった。

タカオとの接触、そしてハルナとキリシマとの合流にも手を尽くしてくれたらしい。

そして、中部太平洋海域での最後の作戦。

愛する……その愛情表現には少々眉を顰めるところもあったが、大事な艦娘達を囮作戦へ参加することを了承してくれた。

無論、ダメージコントロールと呼ばれる妖精の用意や三笠への収容など出来る限りの保険はかけてはいた。

それでも未だ轟沈者を出したことのない彼女からすれば、易々と決断できることではない。

秘書艦を一時務めていたイオナに、ひっそりと零したことがあるらしい。

まだ子供だもの。

彼女は、大人が子供に負うべき責任について真摯だったのだろう。

これまで群像が出会ってきた大人は、無責任で、無力だった。

それを恨むつもりはない。

そういう時代だったのだ。

無力だから無責任だったのか。あるいは逆か。

父や、母も。そしてこれまで出会った大人達も。

本当は苦悩していたのかもしれない。

偶さか、イオナという力を手にした少年が軽蔑すべきではなかったのかも知れない。

それはこの混迷する時代を乗り越えた後、もう一度向き合うべきだ。

その為に。

少年、千早群像はその手に残る硬い感触を確かめるように、握り締める。

彼女が手土産として、別れ間際に渡したそれ。

戦艦三笠、その主砲残鉄によって造られた三笠短刀。

刀剣についてあまり知識のない群像にとって、その価値を知る由もない。

だが、それを贈った彼女の意思は確かに受け取った。

艦を指揮する者。

司令官としての、そして大人としての在り様。

それを胸に、『もう一度』その号令を下す。

 

「――イオナ!座標計算、目標!超戦艦ムサシ直上!」

 

 

 

「~♪」

「ご機嫌ね?」

 

昼下がりの執務室。

その主、伊東少佐の鼻歌を聞き咎めるように秘書艦、叢雲が不機嫌そうに問う。

書類の山に埋もれた執務机がまるで見えていないように、部屋の片隅に置かれたそれを眺めていたのだ、無理もない。

ここしばらく、こんな状態だ。

小さく溜息をつくと、自身で処理できる書類を手際よく片付けていく。

せっかく、久しぶりの新任者が来るというのに。

 

「うふふ~、見事よねぇ」

 

全くだ。

物資不足から、鎮守府を預かる司令官の執務室としては貧相の一言に尽きるこの部屋の調度品。

それらの中にあって不釣合いなほど豪華な箪笥。

潜水艦の精巧な模型が上に飾られているそれはナノマテリアルによって、高価、それ以上に貴重である桐製を模している。

最初見たとき、叢雲は霧だけに桐。

そのあまりに酷い洒落を口にすることを押さえるのに必死になった。

痕跡を残さないようあの振動魚雷も全て使えなくした癖に、こんなものだけこっそり残していって。

まぁしかしうちの提督は気に入っているようだからよしとしよう、と叢雲は結論付けた。

それに、そろそろだろう。

伊東少佐の鼻歌を中断させるように、執務室にドアをノックする音が響く。

来た。

叢雲はその音ににんまりと、口端を持ち上げる。

伊東少佐にも秘密にしておいたその新任の艦娘の名を聞いた時、彼女は驚くだろう。

研究施設にて建造され、この度の中部太平洋海域での戦果を認められこの横須賀鎮守府へ送られた艦娘。

ノックの後、恐る恐るドアを開いたのは潜水艦の艦娘。

全く、あまりにも出来すぎている。

そう叢雲が呆れ半分、驚く提督の顔を盗み見ようと考えていると。

ついに、新任の艦娘が名乗りを上げた。

 

「伊400型潜水艦、伊401です」




読了頂きました皆様方、ありがとうございます。
ここまで前書き・後書き一切なしの形で進めてまいりましたが最後なのでせっかくなので。
蒼樹提督です。
色々補足・釈明したい点などありますが、切りがないので今後のことについて。
霧だけに。
次作は艦これの百合物書きたいなーと思っております。
本作でもやりましたがやり足りません。百合分が足りない。
艦これイベント中につき、いくつか構想を続けるもののしばらくかかるやもです。
気長にお待ちいただければ幸いです。
では、E-3道中大破連続にぐったりしながら。
ありがとうございました、感想・質問等お待ちしております。

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