迎撃!霧の艦隊 Cadenza   作:蒼樹物書

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第十話『霧の艦隊 艦隊決戦!-中編-』

 

「くぅっ!生意気なのね!」

 

爆音。爆音。爆音。

海中を進む潜水艦隊、伊号三人からなるその『一番目の囮』は濃密な爆雷投下による攻撃を受けていた。

敵防衛艦隊から戦力を分断することが目的の為、一度発見されれば敵を引き付けながら後退。

積極的に敵を落とす必要もないが、この一度発見されるという点が危険だった。

潜水艦は本来その存在を隠匿し、知られずに目標を沈め知られずに去るのが基本。

霧であればともかく潜水状態にある伊号は鈍足の為、位置を捕らえられればそう逃げ切れるものではない。

 

「逃がしません。この私を欺いた罪、その身を以って償っていただきましょう」

「401はどこだー!!」

 

追うナチとアシガラ。

伊号達には事前に極微量のナノマテリアルを散布し、イオナと誤認するようにしていた。

しかし、強力なレーダー能力を持つナチがここまで接近すればその正体を隠すことはできない。

荒れる海中を闇雲に走り続けるアシガラに注意しながら、ナチと二隻のナトリ、そして軽巡ヘ級を含む深海棲艦が爆雷を投下し続ける。

 

「まだ、大丈夫でち!」

「けど大漁過ぎるわよ!?イオナちゃんはまだなの!?」

 

海中の空間ごと押し潰すような爆雷攻撃。

その衝撃と音により狙い打つような正確な攻撃はできず、海中で追うアシガラもその姿を見てはいないようだが。

これだけの攻撃を捌き続けるのは不可能だった。

 

「!? 機能美に溢れる、てーとく指定の水着がぁー!?

 

ついに、爆雷の衝撃をゴーヤが受けてしまう。

紺の水着が裂け、柔肌が露になる。

捕らえたとばかりに続く爆雷が速力を落とした彼女に襲い掛かろうとした。

その時。

 

「アクティブデコイ展開。サウンドダミー放出」

 

爆雷はその威力を発揮する距離の前で欺瞞装置により爆発する。

 

「イオナちゃん!?」

「火器管制、オンライン。追尾システム、標的をロックオン!」

「――ッてー!!」

 

超重力砲。

爆雷で荒れた海中からの、超火力。

自身らの攻撃で耳を塞がれながらも、潜水艦狩りに夢中になってしまっていたナチに直撃する。

 

「そんな!何時の間に……!?これくらいの傷……!」

 

守りを失ったナチの艤装が破壊される。

 

「ナチ!?今行く!!」

「――可愛いお尻が丸見えよ。振動魚雷。てぇッ!」

「!? 振動魚雷六発、発射するの!」

 

その『号令』にすかさずイクが新兵器、振動魚雷をアシガラに向け連続で発射する。

注意をナチに向けたアシガラの後方から叩き込まれたそれは、彼女のクラインフィールドを臨界に達しさせ。

 

「んにゃ!?んにゃー!?!」

 

二人目の霧を無力化した。

 

 

 

「――これより艦隊の指揮を執ります」

「イオナ!周囲の深海棲艦を撃破、ナトリを孤立させろ!」

「合点!」

「はいはーい、ナトリはこっちで頂きまーす」

 

伊東少佐が味方全艦隊へ宣言する。

群像がイオナに指示を飛ばす。

ヒュウガがナトリにハッキングを仕掛け、そのコントロールを得る。

 

「……何よ、あれ」

「人間の創意工夫は理解に苦しむわね」

 

その通信を耳にした叢雲が驚愕し、タカオが呆れる。

作戦海域に突入し、伊号達を救ったのは。

 

「敷島型四番艦……戦艦、三笠」

 

その艦影を見て大井が呟く。

百年以上前の戦争で連合艦隊旗艦を務め、その後横須賀にて記念艦として保存されていた艦。

今はその名を頂く公園にコンクリートと大量の砂で固定され、動くことのないはずの艦が。

 

「本日天気晴朗なれど浪高しってね。さぁ、突入するわよ!」

 

二人の指揮官と一人の霧を乗せ、海を疾走する。

 

 

 

「莫迦な……」

「そんなのありぃ……?」

 

高速で海域を疾走するその艦影を認め、ヒエイとハグロが呟く。

全長としては『本来の』ナガラよりは小さい程の古い戦艦。

これまで裏切り者の霧達は本来の艦体を構築してはいなかった。

自身ら生徒会と同じく、構築し得る量のナノマテリアルを保持していないのが理由と推測していたが。

あれは、何だ。

深海棲艦から解析したデータから、動く大型艦はほとんどが沈められているはず。

その上、その防御力や火力から霧に近い性能を持っているようだった。

 

「ミョウコウ!あれが本命です、狙撃を!」

「……ッ、また!?」

 

既に狙いをつけたミョウコウにエラーが発生している。

一通り周囲のナガラをコントロール下に置いたヒュウガによるハッキング。

 

「大戦艦級を舐めんじゃないわよ!」

「よし、ナトリのナノマテリアルを三笠に!」

「りょーかーい!」

 

短髪の少女の形を取ったナガラ達が光の粒子となって、三笠へと集まっていく。

戦闘力を奪ったナガラを解体しナノマテリアルを補充する。

以前、ハルナとキリシマがその船体を取り戻すために使った手法だった。

これで大戦艦級一隻分のナノマテリアル。

 

「艦隊集結!中破以上の子は三笠艦内へ収容!」

「イオナも乗艦しろ!他の者は収容を援護!」

「合点!」

 

艦橋から伊東少佐と群像の指揮が飛ぶ。

その下へ各艦が集まり、負傷者を次々と収容していく。

 

「……ったく!こんな隠し玉があんなら……!」

「提督!伊勢が……」

 

三笠の周囲に集まり、その砲で近寄る深海棲艦を蹴散らしながら愚痴る叢雲。

そして大破した赤城が乗艦しつつ提督に報告を上げる。

横須賀鎮守府初の、戦死。

しかしその悲報に伊東少佐はにっこりと笑い。

 

「タマは二つでしょう」

 

最低の台詞だった。

 

「――左舷、砲撃開始!」

 

三笠の後方からの長距離砲撃。

その大火力が、三笠を後方から狙う戦艦ル級を撃沈する。

 

「……ヒュウガ、ゆっくり来いとは言ったけど遅いよー」

「これでも急いだんだけどねぇー」

「伊勢!?何で……!」

 

場違いにのんびりした伊勢の声に赤城が驚愕する。

潜水艦隊に、低速の火力支援部隊、高速の水雷戦隊。

危険な三つの囮の内、水上で姿を晒す上に速力で劣るため最もその反撃を受けやすい伊勢達の部隊。

部隊を率いる赤城を守るハルナとキリシマ、そして伊勢には耐久力が求められた。

霧であるハルナ達は兎も角、戦艦であっても伊勢は囮部隊で一番危険なポジションだった。

故に。

 

「虎の子の応急修理要員。ほら、さっさと乗艦する!」

 

二つ目の隠し玉、応急修理要員。

先の硫黄島沖海戦後に研究所から送られてきた妖精の集団である。

ヘルメットを被り資材や工具を手にした妖精達が艦娘一人に乗り込み、轟沈をたった一度だけ防ぐという。

初の装備で不安はあったが、それは確実に作用し伊勢を沈没から復帰させていた。

しかし状態は大破のまま。

伊東少佐の指示に、伊勢が赤城に続いて乗艦する。

 

「中破以上の子を全て収容完了ー。準備も出来てるわよ」

「経戦可能な全艦は三笠正面の進路を確保。伊東少佐」

「よしなにー。連中のド肝を抜いてやるわよ」

 

霧の生徒会による防衛線の突破。

その為に準備した戦艦三笠は霧の通信妨害対策と、もう一つの秘策の為だった。

 

「ヒュウガ、頼むぞ!」

「ふっふっふ……この私の真の力、思い知らせてあげる」

 

伊勢型航空戦艦の名を持つヒュウガは不敵に笑い、その秘策を実行した。


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