Treasures hunting-パンドラズ・アクターとシズ・デルタの冒険-   作:鶏キャベ水煮

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旅立ち2

 カタカタカタ。お腹が鳴った。もう朝だ。

 ここはナザリック地下大墳墓第九階層。この階層には様々な部屋がある。至高の御方々の部屋やシズたちNPCの部屋。大浴場や食堂などの施設、美容院、衣服屋、雑貨屋、エステ、ネイルサロンなどのお店など、いろいろ。そして、いまシズが居るのは、メイドの部屋。

 シズはアルベドに編んでもらった、小さいワーウルフがたくさんあしらわれたパジャマを脱いだ。そして、クローゼットから戦闘メイドの衣装を取り出して着替えた。壁にはめ込まれた、大きな姿見で服を正す。頭にはきのうアインズからもらったエクレア帽子をかぶる。

 --・・・・・・うん、かんぺき。

 まずは幸せそうな顔をして寝ている、ルプスレギナ--シズと同じ戦闘メイドで悪戯大好きなワーウルフ--をけとばして起こす。それからエクレアを捕まえて食事にしよう。今日こそは逃がさない。

 

 「なにこれー、ペンギンじゃないっすかー。」

 

 急いで頭を押さえたけど遅かった。・・・・・・というか起きてたみたい。いつの間にかメイド服になってるし。油断した。

 

 「・・・・・・返して。」

 「ちょっとくらい、いいじゃないっすかー。これ、どうしたんっすかー?」

 「・・・・・・アインズ様に・・・・・・貰った。」

 「ほぇー。じゃあ、ルプーを捕まえたら返してあげるっす。」

 

 --ッチ。

 またルプスレギナの悪戯が始まった。こうなったら手に負えない。ルプスレギナはシズには捕まえられない。なぜなら、ルプスレギナはレベル五十九。対してシズはレベル四十六。ユグドラシルではレベルが十も離れていたら、その差は絶望的なものとなる。さらにシズには見破れない完全不可視化の魔法がある。これを使われたら--というか、もう無理だけど--この犬を捕まえられない。油断した所を狙うしかないけど、可能性は薄い。

 そんなシズの思いとは裏腹に、エクレア帽子をかぶったルプスレギナは、何が嬉しいのかだらしない顔になって笑っている。

 

 「頭から湯気を出さなくても心配いらないっすよー。タイムリミットは朝食が終わるまででどうっすか。」

 

 ・・・・・・この雌犬。

 

 「どうせ・・・・・・嫌って言っても、辞めないくせに。」

 「もちろんっす。それじゃあ始めるっすよー≪完全不可視化≫。」

 

 ルプスレギナの「うふふふふ。」という笑い声が遠ざかっていく。

 --はぁ。

 毎回毎回、なんで飽きないんだろう。

 カタカタカタ。お腹が鳴った。とりあえず、エクレアに八つ当たりしてから食堂に向かおう。

 シズはストーカークラスのスキル≪ターゲット・トラッキング/標的追跡≫を使用して、マーキングしてあるエクレアを感知した。デミウルゴスの配下が運営する、同じ第九階層にあるバーにいるようだ。

 シズはエクレアを捕獲するために、メイドの部屋を出てバーに向かった。

 

 

 

 

 

 

 私の名はエクレア。フルネームはエクレア・エクレール・エイクレアー。

 栄光あるナザリック地下大墳墓にて執事助手を務めている。外見は造物主様の『りある』という世界で、イワトビペンギンという種族の姿で創造されたらしい。いつかは忠誠を誓っているアインズを配下に加えて、このナザリックを支配する存在だ。

 レベルは一しかないので、強力な手下が必要だ。目下の課題はレベル百の配下を獲得することだ。今後の目標を再確認したところで起きるとしよう。もう朝だ。

 今日も私のナザリックは平和だな。私に仇名す、あの機械人形さえいなければ言うことはないのだが。さて、一杯やってから同志を集めることにしよう。

 おい、と配下の使用人に声をかける。イー、と叫びながら全身黒タイツを身に着けた使用人が駆け寄ってくる。日常的な光景だ。

 男性使用人に抱えられた私は、通い詰めているバーに向かった。天寿を全うした前バーマスターの"ピッキー"に代わって、デミウルゴスの配下がバーマスターを務めている。彼が試行錯誤を続けている、リキュール十種類を使ったカクテル『ナザリック』で、私の一日は始まるのだ。

 

 「やあ、ボンバー」

 

 猩猩(ショウジョウ)のように全身が毛むくじゃらな体。しかし、毛を覆うように赤のボタンシャツを身に着けている。その上に黒のカマーベスト、ネクタイはミスリル製だ。下半身は黒のスラックスを着ている。手には黒いスムスグローブ。手の甲には、純金でアインズ・ウール・ゴウンの紋章がかたどられている。足元には聖王国両脚羊皮のウイングチップを履いているはずだ。顔は鼻が伸びた仮面を着けている。

 彼の名前は通称『ボンバー』。ひときわ主張の激しい、頭部の毛を指して私が付けた綽名だ。デミウルゴスの配下で、当然ながら異形種、悪魔である。

 ボンバーと言われた本人は嫌な素振りはせず、独特なステップを踏み、臣下の礼のような真似をして私を出迎える。あれで、気分が良いみたいなのだ。彼と数百年付き合ってきた私が言うのだから間違いない。

 

 「いつもの。」

 「畏まりました。」

 

 氷をかき混ぜる心地よい音がバーに響く。続いて様々なリキュールの香りが鼻腔をくすぐった。私はこの瞬間が気に入っている。リキュールと氷をかき混ぜる音が、カクテル・シェーカーの中で立てる氷の音が、どこか懐かしさを感じさせる。

 コースターの上にグラスを置いて、ボンバーが礼をする。

 カクテル『ナザリック』だ。

 前バーマスターのピッキーが試行錯誤を続け、代がボンバーに変わっても未だに完成の目途は立たないらしい。そんな、ナザリックの歴史の一面が凝縮された一杯を、一息に飲み干す。嘴からでろでろと酒が溢れ出すが気にしてはいけない。これもまた、日常的な光景なのだ。

 私の配下がぴちゃぴちゃと滴る酒を拭う。と、その時、全身の毛が逆立った。

 --奴が来る!?

 

 「おい! 時間を稼げ!」

 

 イー、という叫び声を上げて配下の使用人はバーの入口を固める。あとはカウンターに隠れるだけだ。これで、あの苺色の髪をした悪魔から逃れることができるはずだ。我ながら完璧な作戦だ。

 急いでカウンターを乗り越えて、身を隠す。ボンバーはこっちを見ているが、これもまた日常的な光景なので、特にどうこうしようという行動を起こさない。そのまま黙っていてくれればいいのだ。

 

 「イーーーーーー・・・・・・。」

 

 使用人の断末魔の叫びが聞こえた。お前たちの犠牲は無駄にはしない。よくやった。

 

 「・・・・・・。」

 「・・・・・・。」

 

 しばらく待ってみたが、奴の気配はもうしない。・・・・・・行ったか。全く、私に何の恨みがあるというのだ。毎日毎日、飽きもせずに私を追いかけまわして。たまったものではないというものだ。

 私はボンバーに手伝ってもらって、カウンターから飛び出た。

 

 「・・・・・・。」

 「・・・・・・ぁひ。」

 

 --こんな日常的な光景はいらない。

 

 

 

 

 

 

 エクレアを脇に抱えてバーを出たシズは、食堂に向かった。暴れるから少し脇を締めると、ぐったりとしておとなしくなった。・・・・・・かわいい。

 とりあえず、エクレアを食堂に連れて行って・・・・・・、ルプスレギナを探さないと。

 そう思いつつも食堂に着いたシズは、一般メイドとテーブルを囲っているルプスレギナを見つけた。頭にはエクレア帽子を着けている。

 

 「シズちゃんだーーー!」

 

 一般メイドたちがキャーキャー言いながら手を振ってくる。ルプスレギナは絵に描いた淑女のように、時おり微笑みながら食事をしていた。食堂に入って騒がしいテーブルに近づくと・・・・・・。

 

 「あなたたち、行儀が悪いですよ。」

 「おー、ユリ姉じゃないっすか。おはようございます。」

 

 ユリ姉--ボクっ娘おっぱいデュラハン--が一般メイドたちに注意した。ルプスレギナはユリに挨拶をする。ユリはルプスレギナの方を向くと、挨拶も忘れて口に手を当てた。そして、ルプスレギナの頭を指さして声を荒げる。

 

 「まあ! そのペンギンは何!? はしたないから捨ててしまいなさい。」

 

 シズが抱えているエクレアがびくっと震えた。脇に込めた力を少しだけ緩める。

 --シズはそんなこと言わないよ。

 

 「えー、そういうわけにはいかないっすよ。なんでも、これはシズがアインズ様からいただいたものらしいっすから。」

 

 ルプスレギナの返答を聞いたユリは、大きく目を見開いた。「アインズ様から」と呟いてから、シズに向き直った。

 

 「シズ、本当なの?」

 「・・・・・・ほんとう。・・・・・・ルプスレギナが・・・・・・奪った。」

 「ルプス!」

 

 シズの話を聞いたユリは、目を釣り上げてルプスレギナを叱りつけた。ルプスレギナはやれやれといった表情で首を振った。絶対に反省してないだろうけど。

 

 「しょうがないっすねー。でも、勝負はルプーの勝ちっすからね!」

 「何をわけのわからないことを言っているの! 早くシズに返しなさい!」

 「了解っすー。」

 

 ルプスレギナが立ち上がってこっちに来る。シズはエクレアを立たせて翼を掴む。ちょっと暴れたけど微笑み--表情は動かないけど--ながら、エクレアの目を見つめたらおとなしくなってくれた。

 

 「はい! シズにお返しっす。今度は取られちゃダメっすよ。」

 

 そう言って、にこにこ顔のルプスレギナがシズにエクレア帽子を被せた。どの口が言うのだろうか。エクレアは帽子を見てぼけっとしている。

 

 「なぜ私が帽子なんかに・・・・・・。」

 「・・・・・・アインズ様から・・・・・・もらった。」

 「アインズ様が!? 訳が分からないのだが。」

 「・・・・・・なに? かわいい、よ?」

 

 エクレアの顔を覗き込むように言ったら、目を泳がせてぷるぷる震えながら、「ああ」と頷いて下を向いてしまった。ちゃんとお話しすれば分かってくれるのに、なんでみんなはエクレアを煙たがるのかな。今もエクレア帽子を見て恥ずかしがっちゃって。・・・・・・かわいい。

 

 「はぁ・・・・・・。こういう所がなければ、いい子だとボクは思うんだけどなあ。」

 

 ユリがルプスレギナに呆れていると、テーブルに座っている一般メイドのリュミエールが話し出した。

 

 「ええっと・・・・・・、シズちゃんが被っている帽子は、アインズ様からいただいたっていう話は本当ですか?」

 「本当だよ! きのう、アインズ様と一緒に居た時にシズちゃんに渡してたもん。」

 「うそー! 初耳だぞ! シクスス! 説明しなさい!」

 

 一般メイドのリュミエールの疑問にシクススが答えて、フォアイルが続ける。そして、羨ましそうな表情をしたユリ、シクススを見るエクレア、合わせて四名の視線がシクススに殺到する。シクススはたじたじといった様子で、手の甲を胸にあててたじろいでいる。

 シズは一瞬、シクススと目が合ったので頷いた。

 

 「きのうは私がアインズ様の当番だったことは知っているよね。その時にアインズ様とパンドラズ・アクター様がエ・ランテルに献上されたマジックアイテムの仕分けをされたの。シズちゃんはたまたま十階層でお仕事していたみたいで、玉座の間に向かう途中だったアインズ様がシズちゃんをお誘いしたの。」

 

 早口で捲し立てるシクスス。一瞬の間を置いて、キャーとか、お誘い?それってコクハク!?だとか、いいな、ボクもだとか聞こえたけど、エクレアが早く続きを聞きたいと言ったところで静かになった。

 シズとルプスレギナ以外のメイド全員に睨まれて、エクレアがしょんぼりした様子で俯いた。

 ・・・・・・かわいい。

 

 「仕分けを行っている最中に、"日頃の労い"ということで、気に入ったマジックアイテムをいただけることになって。シズちゃんと私が気に入った物をいただけることになったの。」

 「えー! いいなー! シクススは何を貰ったの!?」

 

 説明を聞いていたフォアイルが、シクススにぬるりと詰め寄って詰問した。リュミエールは熱い眼差しでシクススを見つめている。ユリ姉は目を潤ませて人差し手を口元に当てている。ルプスレギナはテーブルに手をついて寝てる。

 

 「私は何も貰ってないよ。至高の御方であるアインズ様にお仕えできることが、最高のご褒美ですってお伝えしたよ。」

 「えー! そこはほら! アインズ様の御長子とか、いろいろあるんじゃないー?」

 「そんなぁ。みんなを差し置いて、私だけご寵愛を受けるなんてできないよぉ。」

 「シクススらしいわね。シクススのそういう所、好きよ。」

 「もぉー。リュミエールったらー。」

 

 フォアイルがからかって、シクススが受ける。リュミエールが真面目な事を言う。いつもの談笑の風景。

 

 「では、ペンギンの帽子はシズが選んだのですか。」

 

 羨ましそうに話を聞いていたユリ姉が割って入り、シクススが微笑みながら答える。

 

 「そうです。アインズ様からペンギンをいただいたシズちゃんは、すごく幸せそうでした。あのシズちゃんが隣に居たら、ごはん十杯いけますよ。」

 「なにそれー! 見たかったなあ。」

 「それは、私も見たかったです。」

 「・・・・・・エクレア帽子・・・・・・シズが、きめた。」

 「ボクも欲し、ゴホン・・・・・・そうなのですか、アインズ様から。シズ、良かったですね。」

 

 ユリ姉がシズに微笑んだ。シズも「うん」と頷いた。気分が良くなったシズは、心に押し込めていた思いが思わず顔を出してしまった。

 

 「・・・・・・ナザリックの外・・・・・・シズ・・・・・・知らない。でも・・・・・・、エクレア帽子・・・・・・みたいな・・・・・・かわいいもの・・・・・・あった。・・・・・・シズは・・・・・・かわいいもの・・・・・・、外に・・・・・・冒険、したい。」

 

 言い終わったところで、一番最初にエクレアが毛を逆立て振り向き、ぎょっとした目でシズを見た。次にユリ姉が悲壮感を滲ませた顔で、一般メイドはすごく驚いた顔をしていた。

 本当に冒険できるわけではないのに、何でそんなに驚くのだろう。

 そう思っていると、今にも泣きだしそうな顔のユリ姉が口を開いた。

 

 「シズ? ・・・・・・ナザリックに仕える者として、その責務は忘れたわけではありませんね。」

 「・・・・・・うん。・・・・・・大丈夫。・・・・・・ナザリックを・・・・・・守ること・・・・・・役目。」

 

 そう、シズは戦闘メイドであるプレアデス。その役目はアインズ・ウール・ゴウン魔道王が支配する、このナザリック地下大墳墓を守護すること。それ以外はないし、それが全て。支配者であるアインズ様からの命令ではなく、個人的な思いで外に出る--冒険をする--ということは、あってはならない。考える事自体がおこがましいこと。それでも、思いくらいは語ってもいいんじゃないかな。

 

 「・・・・・・でも、ナザリックの・・・・・・外、興味が・・・・・・ある。外に出れたら・・・・・・冒険、したい。」

 

 あれ? ユリ姉はなんで泣いているの?

 

 「ナザリックのNPCに、存在することを許された、アインズ様にお仕えすることが、私たちの役目。そこを外した発言は、許されるものではありません。ましてや、ここは食堂で、他にもNPCは居るのです。その者たちの前での、その発言は言語道断です。」

 

 沈痛な表情でしゃくり上げながら話すユリ姉。

 なんでこんなことになっちゃったんだろう。シズのせい、だよね。また失敗しちゃった? シズは最近どこかおかしいのかな。・・・・・・わからない。

 

 「ねえシズ、あなたの気を乱すのは、そのエクレア帽子なの? それならば、アインズ様にお返ししなければなりませんね。お願い、シズ。元に戻って。」

 

 --え?

 

 「・・・・・・エクレア帽子を?」

 

 --やだ。絶対に、嫌。

 ユリ姉の手がシズに近づいてくる。

 --やめて・・・・・・、取らないで・・・・・・。

 

 「そこまでにしたらどうだ、ユリ・アルファ? それに年上が年下を責めるのは恰好悪いな。」

 「・・・・・・エクレア?」

 

 気づくと、シズの前にはエクレアの背中があった。普段は分からなかったけど、なぜだか今はエクレアの背中が大きく見える。

 

 「エクレア・エクレール・エイクレアー! あなたは事の重大さが分かっていないのですか!」

 「わかっているとも。だが、女は男が守る。常識だろう? それとも、指導者であったお前の造物主様のやまいこ様は、そんなことも教えてくれなかったのか?」

 「あなた!」

 

 エクレア・・・・・・、弱いくせにシズを庇ってくれるの?

 ・・・・・・かっこいい。

 

 「・・・・・・エクレア、ありがとう。」

 

 エクレアの肩に手をかける。暖かい、ふかふか。

 --しっかり・・・・・・しなきゃ。

 今度はエクレアの肩を優しく掴んだ。すると、エクレアがシズの目をじっくり見てから、道を開けてくれた。ユリ姉は怒っているような泣いてるような、そんな複雑な表情だった。

 

 「・・・・・・ユリ姉、ごめんなさい。」

 

 きっと、わがままを言った事が悪いと思う。だから、ユリ姉にきちんと今の気持ちを伝えないといけない。冒険をするつもりは・・・・・・、ないと伝える。

 

 「シズ・デルタ、いいのか?」

 「・・・・・・うん。・・・・・・エクレアの、おかげ。」

 「そうか。お前がそういうならば仕方ないな。ユリ・アルファ、ひどいことを言って済まなかったな。」

 

 嗚咽を漏らしているユリ姉に正面から対峙した。やっぱり、この思いは間違っているのかな。シズには分からないけど、ユリ姉を悲しませることは絶対にいけない。

 

 「・・・・・・ユリ姉、シズは・・・・・・。」

 

 一度ユリ姉から視線を外してしまった。

 --ダメ。しっかり伝えないと。

 覚悟を決めた一言を言う前に、シズは息を飲み込んでからユリ姉の目を見て言った。

 

 「シズは・・・・・・もう、冒険する・・・・・・言わない。」

 

 ユリ姉は涙を流していた。ひどいことしちゃった。やっぱり外に出たいなんて言ったらいけないみたい。でも、エクレアは認めてくれた。それだけでも満足。エクレア、ありがとう。

 

 「結局、エクレア帽子はそのままにするっすか?」

 

 頬杖をついたルプスレギナがそう呟いた。ユリ姉はしゃくり上げながら、沈痛な言葉を漏らす。

 

 「シズも反省しているみたいだし、帽子はそのままでいいわ。シズ、ごめんなさいね。」

 「・・・・・・うん。シズも・・・・・・ごめんなさい。」

 「そっすか。仲直りできてよかったすね。」

 「さあ、シズもルプスレギナも朝食を摂ったら仕事を始めなさい。」

 

 少しだけ柔らかい声になったユリ姉は、シズにそう告げるとルプスレギナと一緒に食堂を出て行った。シズは朝食を取りに厨房に向かった。エクレアはいつの間にかいなくなっていた。

 

 「びっくりしたー。ユリ様があんなに声を荒げるところなんて珍しいね。」

 「フォアイル、今回は内容が内容だった。私がユリ様だったら、たぶん私も同じようになる。」

 「えー、リュミエールはいつもつんつんだよー。」

 「ああん?」

 「きゃー、リュミエールが怒ったー。シクススが~ど!」

 「えっ!? ちょっとフォアイル? リュミエールも落ち着こう、ね?」

 

 テーブルからそんな話し声が聞こえた。そんなことより朝食を摂ったら仕事だ。今日は第一階層から第三階層のギミック点検の予定。エクレアは気になるけど、いつでも見つけられるし今はいいや。

 エネルギー補給を済ませたシズは、食堂を出て第一階層に向けて移動を開始した。


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