Treasures hunting-パンドラズ・アクターとシズ・デルタの冒険-   作:鶏キャベ水煮

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旅立ち1-3

 ナザリック地下大墳墓第十階層、玉座の間。

 パンドラズ・アクターより早めにマジックアイテムの仕分けを終え、シズ・デルタを下がらせたアインズは、未だ仕分けを続けているパンドラズ・アクターの元へ向かった。整然と並べられているマジックアイテムとは別に、いくつかの武器がパンドラズ・アクターの脇に置かれていた。

 

 「パンドラズ・アクター、お前の興味を引くマジックアイテムはあったか?」

 

 アインズに気づいたパンドラズ・アクターは、作業を一時中断した。パンドラズ・アクターは脇に置いてあった二メートルほどの槍--茶色の刀身には無数の返しが付き、持ち手は底まで朱色に染まった--を手に取って、アインズが見やすい高さで横に掲げた。

 

 「はい父上! 玉石混合ではありますが、興味深い物もありました。」

 「ほう、一体どんなものだ?」

 

 アインズは興味津々といった様子で興奮した様子のパンドラズ・アクターに問いかけた。

 

 「ご覧の槍は"ピレウス"という名の槍で、効果はスポイトランスの完全劣化版。与えたダメージに関わらず、一ポイント程度のHP回復効果があるようです。」

 「HP回復効果があるマジックアイテムか。」

 

 一ポイント程度のHP回復効果。ユグドラシルでは運営から初心者に支給されていた、マイナーヒーリングポーションというアイテムがあった。その効果はHPを五十ポイント回復させるというもの。それを踏まえると、あまりいい武器とは言えないだろう。しかし、このポーションが伝説級アイテムとして存在するこの世界ならば、喉から手が出るほど欲しがる者も多いだろう。

 

 「ユグドラシルではゴミだが、この世界の基準で言えば悪くはないな。」

 「はい、父上。ですが、ユグドラシルでは見られなかった珍しい武器もありました。」

 

 その言葉を聞いたアインズは、ひたすらに狩りの機会を待つ猫科の動物のような姿勢で、パンドラズ・アクターの脇に置かれたマジックアイテムを見た。

 シクススに槍を手渡したパンドラズ・アクターは、アインズの視線の先にあった、二振りの白い双剣を手に取った。その双剣を持つパンドラズ・アクターは、水面に浮かぶ虫を狙う魚が飛びたすのを、今か今かと待つ猛禽類の様だった。

 

 「他にも宝物殿にはない、この世界独自の物と思われる武器を発見しました。」

 「なん・・・・・・だと?」

 

 興奮を隠しきれない様子の両者の視線は、二振りの白い双剣に集中した。パンドラズ・アクターは二振りの双剣の一振りをアインズに手渡した。はやる気持ちを抑えて、アインズは鑑定の魔法を唱える。

 

 「≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫!」

 

 道具を鑑定した結果、アインズは愕然とした様子で肩を落とした。パンドラズ・アクターが言うほど、珍しいマジックアイテムではなかったのだ。たしかに造形は見事なものだったが、効果はユグドラシルでNPCから購入できる、言わば--NPCの店に売っている武器--と変わらない性能だったからだ。この世界でも、同じ性能の武器が欲しければ、それなりの武器屋に行けば手に入ると思われるほどに。

 アインズは得意げな様子のパンドラズ・アクターを見る。そんなアインズを見たパンドラズ・アクターは言った。

 

 「父上、まだ落胆すべきではありません。こちらの剣も鑑定してください。」

 

 そう言われたアインズは、鑑定を終えた剣を渡した。先ほどよりかは幾分か興醒めした様子で、もう一振りの剣を受け取った。

 

 「≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫」

 

 結果。

 アインズの背後に漆黒のオーラが湧き出す。同時に、淡い緑色の光がアインズの体から灯った。そしてアインズは、深呼吸をするように上半身の骨を上下させ、パンドラズ・アクターに話しかけた。

 

 「我が息子よ、一体どういうことなのか説明してもらおうか。」

 

 アインズの重い声が玉座の間に轟く。アインズから離れた所に立っていたシクススは、胸を押さえて青い顔をしている。そんな事を知ってか知らずか、アインズの背後の景色を塗りつぶしていた漆黒のオーラが、霧散した。シクススは荒い呼吸をしていが、どこか惚けたような顔をしているのは気のせいだろうか。

 

 「失礼、怒ってはいない。ただ、なぜこの二振りの剣がこの世界独自のものだと言えるのか。説明をしてもらおうか。パンドラズ・アクター。」

 

 アインズの様子を見ていたパンドラズ・アクターは、観念したように答えた。

 

 「申し訳ございません、父上。悪ふざけが過ぎました。」

 

 心底悪いと思っている様子で、パンドラズ・アクターは答えた。そんな様子を見たアインズは、頷いた。

 

 「うむ、続けよ。」

 「はい父上。 このマジックアイテムにはからくりがありまして・・・・・・。」

 「からくり・・・・・・だと。一体どういうことだ?」

 

 パンドラズ・アクターの返答に驚いた様子のアインズは、素直な疑問を口にする。その疑問に対してパンドラズ・アクターは、初めて割り算を覚えた子どものような、嬉々とした様子で答える。

 

 「実は・・・・・・、このマジックアイテムは、一つずつ鑑定を行うと正しい情報がわからないのです。」

 「なん・・・・・・だと。」

 

 信じられないといったアインズを見つつ、パンドラズ・アクターは続ける。

 

 「このマジックアイテムは、商人専用魔法、≪マス・オール・アプレーザル・マジックアイテム/全体道具上位鑑定≫を使用しなければ、隠された情報がわからないようになっていたのです。私も音改様のお姿をお借りしなければ気づけなかったでしょう。」

 

 マス・オール・アプレーザル・マジックアイテム/全体道具上位鑑定。それは目の前にある複数のアイテムを鑑定できる魔法だ。通常、ユグドラシルでのマジックアイテムの鑑定は、アイテムを手にした状態で魔法を発動するため、必然的に一つずつに限られてしまう。しかし、商人プレイヤーが在庫一掃セール等を開く際に、いつから所持しているのか分からない、多くの出品物の詳細を、いちいち鑑定して確かめていては時間がかかる。全てのアイテムを一度に鑑定できれば、その分の手間が省けるのだ。

 だが、全てのアイテムの効果を暗記している、という者には不要であるし、あえて貴重な枠を潰してまで取得する魔法でもなかった。いわば、非常にニッチな魔法なのだ。

 

 「なるほど、それはたしかに私では気づけないだろうな。パンドラズ・アクターよ、隠された情報とは一体どういうものなのだ。」

 

 アインズはパンドラズ・アクターに、続きを説明するように促した。

 

 「はい。まず、この剣の名前から説明しましょう。」

 

 パンドラズ・アクターはアインズから受け取った一振りの剣と、持っていたもう一振りの剣を目の前に置いた。

そして、商人専用魔法『マス・オール・アプレーザル・マジックアイテム/全体道具上位鑑定』を唱えた。

 

 「この剣の名は、ツイン・クレーンネック・ズルフィカール。正しい鑑定を行った後で、二対を同時に装備することによって、隠された効果が発揮されます。」

 

 アインズの様子を見ているパンドラズ・アクターは話を続ける。

 

 「その効果は・・・・・・、摩耗せず破壊されない、冷気からの攻撃無効化、冷気攻撃からの状態異常に対する耐性を得る、第三位階魔法『フライ/飛行』が使用できるようになる、です。」

 「なんだと。他にはないのか。」

 「以上です、父上。」

 

 思わぬ効果を持っていたマジックアイテムを見て、アインズは顎に手を当てた。なかなか強力なマジックアイテムだ。それに、この世界にはアインズがまだ知らない未知があった。それを知らしめたこのマジックアイテムは、アインズにとって素晴らしい物だった。

 やがて、二人の間に弛緩した空気が流れた。

 

 「素晴らしい。素晴らしいぞ! 息子よ!」

 「はい! 父上! 私もこのようなマジックアイテムは初めてです!」

 

 アインズの喜びに感化されたのか、パンドラズ・アクターもはしゃいだ。そんな様子のパンドラズ・アクターから、アインズが予想しえない言葉が、唐突に漏れた。

 

 「父上、私、ナザリックの外にあるマジックアイテムを探す冒険に出てみたいです。」

 「えっ」

 

 アインズは間抜けな声を出した。それもそのはずだ。ギルド拠点を守護するNPC。彼らは拠点の守護をするために作られたのであって、冒険をするために作られたのではない。それが、自らの冒険をしたいと口にする。ありえない事なのだ。緑色の光がアインズを絶え間なく灯していることから、その衝撃は強いことが窺える。

 それに冒険。

 冒険はアインズが大好きな事だった。

 パンドラズ・アクターにとっては、アインズは神にも等しい存在。それを差し置いて冒険をする。

 アインズは一人だけ緑色に光りながら、時が止まったように佇んでいた。

 

 「どうでしょうか、父上。」

 「どうって、お前・・・・・・。少し考えさせてくれ。」

 

 ナザリックの宝物殿を守護するNPC、パンドラズ・アクター。アインズが設定を作った存在だ。たしかに、マジックアイテムフェチという設定を作ったのはアインズだ。珍しい物を見つけて、冒険に出たいという気持ちが沸いてもおかしくはなかった。しかし、数百年の間にそんなことを言われたことはなかった。

 やがて、発光現象が収まったアインズは、覚悟を決めたように静かに話し出す。

 

 「今すぐに決められることではない。だが、お前がナザリックの外に興味を持つ理由もわかる。私も今回の発見には心が震えた。」

 「では!」

 「焦ることはない。仮にお前が冒険に出れば、お前が抜けた分だけエ・ランテルの守護が疎かになる。それに係る調整も必要であろう。」

 「たしかに。考えが足りませんでした。」

 「うむ。私も共に行きたい所ではあるが、それは流石にまずいだろう。」

 

 それはアインズの素直な心境だった。どうすれば新たな冒険をすることができるのか。その問いに対する糸口を探すように、慎重に言葉を選びながら会話を続ける。

 

 「こういった意見はどうだ。私とお前で代わり替わりに冒険をする。交代の合図は・・・・・・そうだな、一定の期間を設けて、冒険の成果の報告をする。その報告が終わったら交代というものだ。」

 「父上の意見とあらば異論はございません。」

 「うむ。問題はないようだな。ならば、その線で調整をしよう。」

 

 一瞬、パンドラズ・アクターに背を向けたアインズは、ガッツポーズを取った。そして、すぐさまパンドラズ・アクターに向き直る。そんな様子を、パンドラズ・アクターは"直れ"の姿勢で眺めていた。

 アインズはシクススの方を向いて釘をさした。

 

 「シクスス、今の話のうち、私が冒険に出るという部分は内緒だ。忘れるように。」

 

 いきなり名指しされて驚いたのか、あっ、と開けた口に手をかざしたシクススは、何度も首を縦に振った。その様子を見て、アインズは頷いた。

 

 「それではパンドラズ・アクター、エ・ランテルに持っていくマジックアイテムの仕分けを終えたら、アルベドに連絡だ。エクスチェンジ・ボックス用はお前が持っていけ。シクススは私の元へ。ああ、それと、そこにある二振りの白い双剣は私が持っていこう。冒険者には勿体ないからな。」

 「Wenn Ara O und wünschen Ihnen von meinem Gott!!(我が神のお望みとあらば)」

 

 パンドラズ・アクターから双剣を受け取ったアインズは、ナザリック地下大墳墓第九階層にある自室に戻るため、シクススを連れて玉座の間を後にした。


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