Treasures hunting-パンドラズ・アクターとシズ・デルタの冒険-   作:鶏キャベ水煮

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旅立ち1-2

 目の前に広がる光景に、シズはフリーズしそうになった。その神々しさは、何度訪れても変わることはない。半球状の大きなドーム型の大広間も静かさと厳しさを感じていたけれど、ここは呼吸をすることも許されないような空間だった--実際に呼吸は必要ないのだけれど--。

 すごく広く、天井はすごく高い。壁は白くてところどころに金色が目立つ細工が施されている。

 天井から吊り下げられた、いくつかの豪華なシャンデリアは七色の宝石で作り出され、思わず魅入ってしまいそうな輝きを放っていた。

 壁にはそれぞれ違った紋様が描かれた大きな旗が、天井から床まで、四十一枚垂れ下がっている。(・・・・・・・・・)

 床に敷かれた深紅の絨毯は、金と銀をふんだんに使われたという部屋の奥まで繋がっている。一番奥には階段があり、その上には天井まで届くような、大きな水晶の玉座が据えられている。

 ここがナザリックで一番大切な場所、玉座の間。そこにシズは立っている。

 あまりの光景に見とれていたシズは、アインズの背中に視線を移すことで気持ちを切り替えた。

 深紅の絨毯から少し離れた所に設けられたスペース。そこに整然と並べられているたくさんのアイテム。これらが仕分けをするマジックアイテムだろうか。シズはそれらを見ていた。

 

 「うむ、武器、防具、アクセサリー、消耗品と分けられているようだな。なかなか気が利くではないか。しかし、いささか数が多いな。」

 「お父様、わたくし辛抱たまりません!」

 「うわぁ・・・・・・。」

 

 思わず声が出てしまった。

 誰だろう、あの卵。シズがシクススの隣で控えながらそう考えていると、アインズは続けた。

 

 「それでは私が防具とアクセサリー。パンドラズ・アクター、お前は武器と消耗品を仕分けせよ。」

 「了解です、父上。」

 「それと、シズ・デルタ。お前はたしか≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫は使えなかったな?」

 

 アインズがシズに向き直り確認をした。

 たしかに、シズはその魔法が使えない。それはシズを創造された"博士"が、そうあれとお作りになられたのだから仕方がないこと。でも、それは恥ずかしいことではない。それがシーゼット・ニイチニハチ・デルタ。シズなのだから。

 --堂々と答えよう。

 シズは冷たい輝きが宿った翠玉の瞳で、アインズをじっと見据えて返事をした。

 

 「はい。・・・・・・シズは・・・・・・ガンナーの・・・・・・クラス。≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫・・・・・・≪アプレーザル・マジックアイテム/道具鑑定≫・・・・・・つかえない。」

 「ならば、鑑定を行う物は私とパンドラズ・アクターの元へ。鑑定を終えたマジックアイテムは鑑定済みのスペース--エ・ランテル冒険者組合への配布用、エクスチェンジ・ボックス行--へと運ぶように。」

 「・・・・・・わかった。」

 

 シズは返事をしてアインズの元へ、シクススがパンドラズ・アクターの元へ移動した。それにしても、整然と置かれているとはいえ、かなりの量があった。二人が鑑定を終えるまで、一刻くらいかかるかもしれない。

 

 「それでは始めるとしよう。パンドラズ・アクターよ、≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫を使用できる者に姿を変えよ。」

 「はい!父上!! それでは、音改様のお姿をお借りいたします!」

 

 パンドラズ・アクターがそう宣言すると、その姿が至高なる四十一人の一人、音改と全く同じ姿になった。

 

 「うわぁ・・・・・・。」

 

 似てるなんてものじゃない。・・・・・・そのものだなあ。

 パンドラズ・アクターの外装コピーを見たシズは、思わず感嘆の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 「≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫」

 「≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫」

 

 マジックアイテムの仕分けが始まってから半刻程だろうか。アクセサリーの仕分けが終わり、整然と並べられていたマジックアイテムも、だいぶ数が減ってきた。シズとシクススはアインズとパンドラズ・アクターのお手伝いを続けていた。

 

 「≪オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定≫ ふむ、二頭の炎が幾重にも巻き付いたような色の赤い小手、二頭炎蜥蜴の小手--フォアーム・オブ・ツインヘッド・サラマンダー--か。効果は物理攻撃命中補正、炎属性物理・魔法攻撃からの耐性付加、水属性物理・魔法攻撃の耐性脆弱化か。場所を選ぶ特化装備ながら悪くはない。ユグドラシルなら遺産級であろうが、この世界ならば3人家族が数年は贅沢な暮らしができる価値だろうな。」

 

 アインズはとても楽しそうな様子でマジックアイテムの鑑定を行っている。シズは静かにその様子を窺っていた。そろそろ鑑定が終わる頃だ。シズは鑑定されたマジックアイテムを受け取るため、傍に寄った。

 

 「アインズ様、・・・・・・たのしそう。」

 「うむ、なかなかに興味深い品だった。これはエ・ランテル冒険者組合用スペースに運んでくれ。」

 「・・・・・・うん。」

 

 こくりと頷いて、アインズに言われたように、シズはマジックアイテムを所定の場所に運んだ。そして、新たなマジックアイテムを運ぶため、未鑑定防具のスペースに移動した。そこで、シズは運命の出会いを果たした。

 

 「・・・・・・かわいい。」

 

 その愛くるしい姿ながら、ナザリックを支配するなどという不遜な発言。でも部下に抱えられていないと一人では満足に移動できない。そんな、ちぐはぐなナザリック副執事長エクレアをかたどったような帽子? --帽子にしてはすこし大きすぎる気がするけれども--を見つけて、動かないはずの頬が緩んだような気がした。

 --ほしい、かも。

 

 「シズ、次のマジックアイテムを持ってくるのだ。」

 

 かわいい。かわいい。エクレア帽子と名付けよう。シズはエクレアをかたどったようなマジックアイテムを見ながら、帽子の端を引っ張ってみたりした。

 

 「どうしのた、シズ。私の事を無視して。何か興味を惹く物でも見つけたのか?」

 

 少し苛立ちを含んだアインズの声に、我に返ったシズは思わずエクレア帽子を抱きしめて振り返った。

 --どうしよう。

 すると、アインズはわたしに抱きしめられたエクレア帽子を見て破顔・・・・・・したような様子で愉快そうに肩を揺らしながら言葉を紡いだ。

 

 「フハハハハハ、なんだそれは。まるで、まるでエクレアじゃないか。なんだ、エクレアは外では人気なのか? いや、エクレアを外に出したことはないな。すると、フールーダか。ロウネの可能性もあるな。全く、困ったものだな。ふぅー、ククク。」

 

 しばらく笑っていたアインズ様から、淡い緑色の光が灯った。すると、急に落ち着きを取り戻したように声のトーンが元に戻った。

 

 「ふふふ、しかし面白いな。やはり、マジックアイテムには興味深い物が多い。コレクターの血が騒ぐというものだな。」

 

 怖い。いつもと変わらない声のはずなのに。

 雰囲気を崩したアインズに、どう対応すればいいのか迷うシズは逡巡した。失敗した・・・・・・。アインズを無視するなんて、メイドとしてふさわしい態度とは思えない。

 --どうなるんだろう。

 罰を受けるのかな。シズの失敗が姉妹全員に迷惑をかけてしまうのだろうか。

 --・・・・・・。

 執事長のセバスには、どんな顔をすればいいのだろうか。・・・・・・ユリ姉は、怒る・・・・・・よね。

 --ごめんなさい。

 メイドとしての忠誠を疑う失態を犯してしまった。自分のことが嫌いになりそう。

 シズは口をぱくぱくさせていると、アインズから声がかかった。

 

 「気にするな、シズ・デルタ。ここには私が招いたのだ。であるならば、ここで犯したお前の失態は私が失敗したようなものだ。だからこそ許そう。お前の失敗を。これで私の失敗も無かったことになる。これで問題はないはずだ。そうだろう、シズ・デルタよ。」

 「・・・・・・。」

 

 --いいのかな。

 --やっぱりよくない。

 --・・・・・・、アインズ様は許してくれる。甘えちゃだめ。どうすればいいかな。

 

 「ごめん・・・・・・なさい。」

 

 シズの口からは、いつの間にかそんな言葉が出ていた。狙って出した覚えはない。ただ、気づいたらその言葉が出てた。こんなことでいいのかな。でも、いまはこれ以外には何も思いつかなかった。

 恐る恐るアインズを見上げると、ぽっかりと開いた空虚な眼窩に灯る赤黒い光が、優しく揺らめいたような気がした。

 

 「シズ・デルタ、お前の全てを許そう。」

 

 すっとシズに近づいてきたアインズは、跪いてそっとシズをなでた。身体がびくんとしたけれど、すっと体が軽くなった気がした。同時に、いままでアインズに絶対の忠誠を誓っていたが、これからはそれ以上--気持ちの上で--の忠誠を誓うことに決めた。

 

 「しかし、シズよ。そんなにそのエクレアが気に入ったのか?」

 「・・・・・・すき。」

 「そうかそうか。ならばシズよ、そのマジックアイテムはお前のものだ。私が許そう。」

 「・・・・・・いいの? ありがとう・・・・・・ございます。」

 

 アインズからのプレゼント。

 --嬉しい。

 このエクレア帽子はシズの宝物。ぎゅっと抱きしめた。

 それにしても・・・・・・、ナザリックの外にはシズが知らない、かわいいものがあるんだ。

 ナザリックの外。今まではナザリックの外の事はどうでもよかった。アインズに命令されて、一度だけ地表に出たことはあったけど、そこまでだった。どんな所なんだろう。

 外かぁ・・・・・・。ユリ姉とソリュ姉、ナーベラル姉とルプ姉、それにセバス様とエントマから、お話を聞いたことがあるけど、あんまり聞いていなかったかも。

 

 「外に・・・・・・出てみたい。」

 

 シズは誰にも聞こえないように、そう呟いた。

 --でも

 でも、この思いは成就することはない。ナザリックを守る戦闘メイドとして、個人的な理由で外に出るということはありえない。この身はナザリック地下大墳墓に、アインズに捧げるべきであって、自分の自由にしていいものではないはず。

 --それでも

 少しだけ、少しだけナザリックの外の事に思いを馳せながら、シズは残りが僅かになった仕事を続けることにした。


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