Treasures hunting-パンドラズ・アクターとシズ・デルタの冒険-   作:鶏キャベ水煮

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一話三分割


旅立ち1

 カチッ、カチッ、カチッ。グリーヴのつなぎが立てる音が控えめに響く。

 長く伸ばされ、天井からの光を受けて煌くストロベリー・ブロンドの髪をしたメイド姿の少女が、淡い紫紺色の絨毯の上を歩いている。

 少女の顔立ちは非常に整ってはいるがどこか作り物めいている。宝石のような冷たい輝きが宿った翠玉の瞳が片側に見えるが、もう片側はアイパッチが覆っていた。

 首元と手には都市迷彩色のマフラーと手袋を着用しており、スカートの裾には、中央に「一円」と書かれた可愛らしいシールが貼ってあった。腰には白色の銃器があり、それをまるで剣のように下げている。

 少女の名前はシーゼット・ニイチニハチ・デルタ。

 略称はシズ。戦闘可能なメイドにして、ナザリックに存在する全てのギミックと解除方法を熟知し、銃器を扱える自動人形--オートマトン--という異形の者である。

 

 「・・・・・・。」

 

 少女は半球状の大きなドーム型の大広間に到着した。天井には四色のクリスタルが白色光を放っている。壁には七十二個の穴が掘られ、その大半の中には彫像が置かれている。

 彫像はすべて悪魔をかたどったもの。その数六十七体。

 この部屋の名は、ソロモンの小さな鍵--レメゲトンという有名な魔術書の名前である。

 置かれている彫像はその魔術書に記載あるソロモンの七十二柱の悪魔をモチーフにした、すべてが超希少魔法金属を使用して作り出されたゴーレムだ。本来であれば七十二体いるはずなのだが、ゴーレムが六十七体しかいないのは製作者が途中で飽きたためである。

 天井の四色のクリスタルはモンスターであり、敵進入時には地水火風の上位エレメンタルを召喚し、それと同時に広範囲の魔法攻撃による爆撃を開始する。

 この部屋こそ、ナザリック地下大墳墓最終防衛ラインの間。少女は日課であるナザリックのギミック点検のために、地下大墳墓第十階層にあるこの大広間を訪れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ミルク色の壁が、彫られた穴が、悪魔をかたどったゴーレムが、シズの視界を隅まで覆っている。ここはナザリック地下大墳墓、第10階層。

 シズは日課である、ナザリック全階層のギミック点検を行うためにここを訪れた。

 日課であるギミック点検--別に、点検を行う義務はない。でも、日々を無為に過ごすのはあまり気分がいいものじゃないとシズは思う。だから、できることをする。シズにはこれが最適だということで、執事長であるセバスと相談して、この日課を始めた。

 シズは六十七体すべてのゴーレムに深くお辞儀をする。このゴーレムはかつてアインズ・ウール・ゴウンに所属していた、至高の四十一人の方々が作られたもの。防衛装置とはいえ、無礼があってはだめ。

 お辞儀を終えたシズはゴーレムの一体に歩み寄り、点検を始めた。

 

 「・・・・・・。」

 「・・・・・・。」

 「・・・・・・いじょう・・・・・・なし。」

 

 六十七体すべてのゴーレムの点検を終えたところで、シズは一息つく。

 スキル使用≪クールダウン/冷却≫。稼働限界にはまだまだ余裕がある。でも、身体を温めすぎて絨毯が焦げてしまってはどうしようもない。

 シズは改めてすべてのゴーレムに対してお辞儀をする。

 天井に視界を向けると、クリスタルがいた。クリスタルはモンスター。あれは管轄外。

 

 「・・・・・・きょうは、おわり。」

 

 大広間の入口で再びお辞儀をしたシズは、踵を返したところで、視界の先にあるものを確認した。

 シズは姿勢を正し--ふだんからちゃんとしてるけど--、素早く脇に移動して視線を床に移した。

 

 「シズ。」

 

 厳かな声がシズにかけられ、視線を上げると、そこには三つの体躯があった。

 先頭には骸骨が立っていた。その後ろには鼻などの隆起を完全に摩り下ろした、のっぺりとした顔の者。そして黄金色の髪のメイドが立っていた。

 先頭にいる者はアインズ・ウール・ゴウン。金と紫で縁取られた、豪奢な漆黒のアカデミックガウンを羽織っている。襟首の部分など多少装飾過多のように見えるが、それが妙に馴染んでいる。

 ただ、そのむき出しの頭部は皮も肉も付いていない骸骨。ぽっかりと開いた空虚な眼窩には赤黒い光が灯っている。

 アインズ・ウール・ゴウン魔道国の王、至高にして絶対なる、ナザリック地下大墳墓の支配者。

 シズが絶対の忠誠を誓う存在。

 すぐ後ろにはパンドラズアクター。目と口に該当するところにぽっかりとした穴が開いている。眼球も唇も歯も舌も何もない。大口径の銃器の銃口を覗いたような黒々とした穴のみ。

 ピンク色の卵を彷彿とさせる頭部はつるりと輝いていて、産毛の一本も生えていない。被った制帽の帽章は、とある戦争で話題になった部隊の制服をモチーフにしたものらしい。

 アインズは魔法詠唱者が究極の魔法を求めアンデッドとなった存在の中でも最上位者、オーバーロード。

 パンドラズ・アクターはアインズが設定を作った存在。四十五の外装をコピーし、その能力を--最大八割--使いこなせる存在、シズの姉の一人と同じ二重の影--ドッペルゲンガー--。

 一番後ろはシクスス。ナザリックの一般的なメイドの一人。シズの友達。

 

 「・・・・・・。」

 

 深呼吸をしたシズは、アインズに目線を合わせた。

 

 「シズよ、こんなところで何をしていたのだ?」

 「点検。・・・・・・ゴーレム、シズが、診て・・・・・・る。」

 「ふむ、そうか。ご苦労であったな。」

 

 アインズは納得した様子で朗らかに謝辞を示した。

 

 「点検・・・・・・、シズが・・・・・・さいてき。・・・・・・シズの・・・・・・しごと。」

 「そうか。これからもよろしく頼むぞ。」

 

 シズはアインズに丁寧にお辞儀をすることで返事をした。

 シズが姿勢を戻すと、アインズはシズの事を見つめて、顎に手を当てていた。なにをかんがえているのだろう。いつも見せない態度に、シズが様子を窺っていると、やがてアインズは話し始めた。

 

 「そうだ、シズよ。これから玉座の間にて、世界各地から献上されたマジックアイテムの仕分けを行う。毎日同じ仕事は大変だろう。たまには気分転換でもしてみないか?」

 「・・・・・・?」

 

 半球状の大きなドーム型の大広間で、シズは一瞬すべての時間が止まったように錯覚した。

 --理解不能。

 なぜ唐突に、アインズはこんなことを言うのだろうか。シズは理解できなかった。

 でも、悪い気持ちはしない。なんとなく、絶対的にして至高なるナザリック地下大墳墓の支配者、アインズに気をかけてもらえたような気がしたからだ。ナザリックに存在する全ての者にとって、アインズに気をかけられることは最高に幸せなことなのだ。

 なんだか身体が熱い。オーバーヒート? それに視界もよくない。まるで、昔この地に多くのプレイヤーが攻めてきたときに死力を尽くして戦い、エネルギー切れで絶望のまま視界がブラックアウトした時のようでもある。でも、その時とは全然違う。それに・・・・・・、なんだか幸せな気分。

 少しずつ目が見えるようになってきた。

 

 「Herr Gott!!!!! ach!!!!!!」

 

 よく見えないけど、ピンク色の卵の形をした何かが、抱えた頭を絨毯に打ち付けて悶絶しながら転げまわっている? 視界が定まると、それをアインズは一瞥して、シズに向き直った。

 

 「どうかね?無理にとは言わないのだが。」

 「・・・・・・いい・・・・・・よ。」

 

 シズは両手を胸に添えて--表情は変わらないけど--自分にできる精一杯の仕草で、気持ちを表して返事をした。

 視界の奥には、アインズの横で服装を正し終えたパンドラズアクターが佇んでいた。

 

 「それでは行くとしよう。」

 

 抑揚に頷き背を向けたアインズを先頭に、パンドラズアクター、シクスス、そしてシズの順に玉座の間へと進みながら、ふとシクススを見ると、優しそうな笑顔を浮かべていた。

 そんなにおかしかったかな。

 マジックアイテム。あんまり興味ない、かも。


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