ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
夕食を終えて寮に戻ったのですが、どうしてか談話室で拘束されています。両サイドにアリシアさんとアンジェリーナさんがいます。ちなみに目の前にはフレッドくんとジョージくんにリーくんです。
なんでしょう。そこはかとなく尋問される被疑者のような立ち位置に私、いませんか? これから何を聞かれるのか、ドキドキです。せめて弁護人代わり兼私の癒しとしてネロを所望したいのですが。ダメですかね?
「で、結局のところどうなの?」
「なにがでしょうか?」
「なにって、ねえ?」
わかるでしょう、とばかりにアンジェリーナさんがニヤニヤしています。まあ、なんとなくはわかります。多分私がチャーリーさんを好きかどうか、という意味での問いかけなのでしょう。
ですがですね、私にとってはまだチャーリーさんでも歳が若すぎると思ってしまうのです。だって彼、まだ魔法界的成人にも、人間界的成人にもまだ達していないのですよ? さすがにそんな方を好きだとは思えません。良くて従兄弟で、悪くて息子です。私的に男性は30代からが魅力的だと思うのです。異論は認めますがこれは今のところ譲れません。……私、なんだか結婚できない気がしてきました。
「まあ、そんなことよりだな。キャシー! 俺はお前に聞きたいことがあるんだ!」
「え? あ、はい。なんでしょう」
勢い込むようにしてリーくんが問いかけてきます。何故だか推定フレッドくんがリーくんの脇を突く──というよりも抓っています。何故でしょう。そして聞きたいことってなんでしょうかね。
「あー…その、なんだ」
「はい」
「あー…キャシーの……キャシーの杖はなんだっけ?」
「杖ですか? 月桂樹とユニコーンのたてがみですが、それがなにか?」
「あー…いや、その」
突然に杖についての質問。こてりと首を傾げますが、リーくんは相変わらず推定フレッドくんに突かれています。というか内緒話のようにして何かをお話ししているようです。なんでしょうか。
「あー…月桂樹とユニコーンのたてがみだとその、忠誠心が高いんだったか?」
「あ、はい。よくご存知ですね。オリバンダーさんからも言われたのですが、とっても忠誠心に溢れる杖だそうです」
「あ! 確かさ、杖の長さにも意味があるんだよね!」
「ああ、それ知ってるわ。なんでも杖の長さって、身長とかの体格でだけじゃなくて、性格的に優れた人物ほど長くなるらしいわよ」
「まあ、そうなのですか? 存じませんでした」
なんだか話題が流れているような気がしますが、いいのですかね? でもまあ、アリシアさんとアンジェリーナさんが楽しそうなのでいいですよね?
「じゃあ、小さいキャシーの杖が長いのは、キャシーが性格的に優れているからよね!」
「そう、なのでしょうか?」
「そうね、多分そうじゃない? だってキャシー、多分これ以上の成長は望めなさそうだし……」
私のつま先から頭のてっぺんまでをしっかり見て、それはもう残念そうな顔をするアリシアさん。いえ、ですね。考えていることはわかっておりますが、それは思っていても言わないで欲しかったです。……私も、二次性徴が始まった段階で無理だと薄々感じていましたから。ですがまだ諦めていないのです。望みは薄いのだとしても、せめてあと5センチは欲しいのですよ! 希望は捨ててはいけないのです!
「あー…確かにキャシーの杖はキャシーによく似合うよな。こうまん丸なのが柄についてるところとか、さ」
「まあ、そうでしょうか? ああ、でも月桂樹は私の誕生木なので、そう言っていただけると嬉しいです」
嬉しいお言葉に思わずにっこり笑ってしまいます。実はそうなのです。私の誕生日である9月8日の誕生木はなんと月桂樹だったのです。なんだか運命的ですよね。ちなみにそれを知ったのはホグワーツに入ってからです。図書館で見た本に載っていたのです。
「へえ、誕生木なんてあるんだ。知らなかったなあ」
「そう言えばキャシーがいつなのか聞いてなかったわね。いつなの?」
「誕生日、ですか? えと、9月の8日ですね」
「え?」
「「は?」」
なんだか皆さんびっくりしているようなのですが。いえ、わかりますよ? 私の誕生日が早いことに驚いていらっしゃるのですよね?
小さく1つ息をついてからはっきり、きっぱり言います。
「私の誕生日は、1977年9月8日です。誕生が過ぎていますので、ただいま12歳ですね」
阿鼻叫喚とでも言えばいいのでしょうか? いえ、違いますかね? 皆さん声も出さないまま大きく口を開いてらっしゃいます。
そんな皆さんを尻目に私は程よく冷めたであろう紅茶に口をつけます。はい。とっても美味しいアールグレイです。私、アールグレイにはミルクと蜂蜜を入れたい派なのですが、残念ながらテーブルの上にはありません。でもストレートでも十分美味しい紅茶なので今日はこのままで構いませんね。
お茶請けに用意してあるのは、ピンクにグリーンにココア色のマカロンです。マカロン美味しいですよね。とっても上あごにっくっつきますけれど。
ラズベリー味のマカロンを1つと、紅茶を丁度半分ほど。しっかり味わってカップを戻したところでリーくんがポツリと呟きます。
「フレッドとジョージはいつ、だ?」
「「4月1日……」」
「まあ、エイプリールフール。お2人にぴったりですね」
「「あ、ありがとう?」」
にこりと笑いながら告げます。ですがお2人の誕生日ですと、エイプリールフールが『嘘をついてもいい日』ではなく、『悪戯していい日』になりそうですね。ああ、悪戯していい日はハロウィンでしたっけ? もうすぐハロウィンです。冬至も近いですね。ああ、美味しいかぼちゃの煮付けと艶々の白米が食べたいです。
「あー…とりあえずキャシーがこの中で1番お姉さんということ、ね」
「まあ、そうなりますね。ですが同じ学年ですし、そこまで厳密に考えずともよろしいのではないでしょうか?」
「ま、そうよね。早く生まれていてもキャシーが誰より可愛いのは変わりないしね!」
「アンジェリーナ、あなた立ち直り早いわね」
「えー? 驚いたは驚いたけどさ、もともとキャシーってすっごい大人みたいな考えしてるじゃん? それに弟もいるからお姉さんだとしても違和感はないよ? 性格的には、だけど」
ええ、わかります。身体的にはどう見積もっても妹としか見えないということなのですよね。ちょっとだけ、そう紅茶で浮上したはずの心がしょぼんとします。
「……よし! キャシー、次の休みはパーティだ!」
そんな私に、推定フレッドくんが言います。それもかなり力強い声で。
「え? それはどういう意味で……」
「いいわね! だいぶ遅れてるわけだけど、次の週末なら問題ないわね」
「そうそう、ハロウィンパーティは再来週だしね!」
「よし! そうと決まればバースデーパーティの準備だな!」
あれよあれよと言う間に皆さん席を立ってしまいます。というかどうしたらよいのでしょうか? こんな風に大げさに誕生日を祝ってもらってよいのでしょうか?
確かにですね、今年初めて……そう、生まれてから多分初めてお父様やお母様、ドラコからも誕生日を祝ってもらえていませんよ? けれどそれも仕方ないことだと思っていましたのに、それなのに皆さんに祝っていただいて──本当にいいのでしょうか。
けれどどこか楽しげな皆さんの顔を見て、止めてくださいとは言えません。
せめて、そうせめてお誕生日祝っていただけるお礼に私からも何かを用意することにしましょう。ほんの少しだけ、目が熱くなるのを感じながら私は週末までにするべきことを頭の中で並べます。
まず第一に何をするべきか。悩むまでもなく1つです!
そうと決まればまだ消灯までには間があります。私はそっと寮を抜け出すことにしました。向かう先はもちろん、あの場所です!
人気の少ない廊下を歩き、私が向かうのは地下にあるという厨房です。
はい、そうです。厨房に向かって、週末に皆さんに内緒で作る予定のケーキですとかの計画を、屋敷しもべの皆さんに伝えるのです。
一応ですね、パーティ料理ですとか、バースデーケーキですとかも過去に作ったことがあるのです。なのでメニュー自体には別に不安はないのですが、屋敷しもべの皆さんが厨房を使わせてくださるのかがわからないのですよね。
彼らはご自分のお仕事に誇りを持っていらっしゃるようですので……もしかしたら使わせていただけないかもしれません。ウチのドビーも最初は大変でしたから。
色々思い出してちょっとだけ不安になりながらも辿り着いた厨房の近くです。あと少し歩けば多分着くはずです。ちょっとだけ薄暗いです。いえ、真っ暗ではないのですよ? ただやはり夜であることと、地下であることが原因なのでしょうね。ちょっとだけジメッとして暗いのです。ネロを連れてくればよかったと後悔が少し。ですが、今はそんなことに怖じ気づいてはいられません。女は度胸です!
「キャシー?」
「ッヒ!」
勢い込んだ次の瞬間に突然かかった声と、肩に乗った手。飛び上がってしまいそうなほど驚いてしまいました。……というかですね、腰が抜けてしまったような気がします。足がガクガクするのですが。なんだかとっても危険です。……度胸があってもダメだったようです。
私ですね、ちょっとだけ……そう、ほんのちょっとだけ暗いところが怖いのです。そして狭いところも怖いのです。ですので、今いるこの場所は多分鬼門と言えるべき場所です。これは昔からのことなので、今の『カサンドラ』であっても変わらないのです。
その、私は前世が日本人でしたよね? そして日本はこう、なんというか地震大国ですよね? その所為であるというべきなのかどうなのかわかりませんが、私は地震が理由でエレベーターに閉じ込められたことがあるのです。それも真っ暗な中で半日近く。トラウマになって当たり前、ですよね? だから私は地震と暗くて狭いところがとっても嫌いなのです! ちなみに幽霊とかも怖いですが、見えないことが理由なので、見えるサーニコラスは怖くありませんよ?
膝から崩れ落ちそうになりながらも、私は最後の意地で振り返ります。だって怖いですけれど、肩に乗った手は暖かいのです。と言うかですね、サーニコラスには触れないので、この手の持ち主は幽霊ではないはずなのです。……多分。
「だ、大丈夫かい、キャシー」
「セ、セドリック……くんでしたか」
「ごめんね、びっくりさせちゃったみたいだね」
眉を下げて謝るセドリックくんはとっても可愛いのですが、とってもびっくりした所為で、それ以上言葉が出ません。はい。ビビってます私。とりあえず安心したからなのですかね。あっさりさっくり膝は崩れました。足は言うことをきいてくれないようです。
「え? わ! だ、大丈夫キャシー!」
「だ、大丈夫じゃ……ないですが、その……たぶん大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ! ほら、立てるかい?」
セドリックくんの言葉にフルフルと首を振ることしかできません。だって本当に立てないのです。私の心はとっても軟弱です。本当に私にグリフィンドールの資格があるのでしょうかと不安になるくらいです。
別の意味でもしょんぼりしかけていれば、突然体が浮きます。……はい、セドリックくんに抱き上げらえています。所謂プリンセスホールドというやつですね。むしろ子供抱きでお願いしますと言いたいくらいですが、それをお願いするのは失礼に当たるのでしょうか。わかりません。
とりあえずセドリックくんは本当に、本当〜に紳士で素敵な男の子なのだな、とだけはわかりました。