ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その7

 なんとか和やかに──そう、このコンパートメントに入る理由となった、ネロとリーくんの一件をからかったり、混ぜ返したりするフレッドくん、ジョージくんを諌めたりしながら──5人で少しお話をしました。

 自己紹介を含めたほんの少しの会話だけでしたが、あっさりアリシアさんは3人のことを呼び捨てにしてらっしゃいます。なんだかそんなところもスポーツ少女っぽくて似合っています。アリシアさん、とっても可愛いです。

 

 ミルクティー1杯分お話をして、「そろそろ行くわよ」とアリシアさんがおっしゃいます。着替えをするためにと、コンパートメントに残っているセドリックくんも多分心配しているから、ということで。

 というわけで私は、フレッドくんたちに挨拶をしてから元いたコンパートメントに戻りました。

 

 ほぼ先頭と言えるコンパートメント。ドアを開ければそこにはにこりと笑いながら「楽しかった?」と聞いてくれるセドリックくんと、その向かいにもう1人女の子がいます。どなたなのかと思っていれば、またにこりと笑ってセドリックくんが紹介してくださいます。

 

「彼女はね、アンジェリーナ・ジョンソンさん。キャシーが出て少ししたら来たんだよ」

「私も今年入学なの、よろしくね!」

「私はカサンドラ・マルフォイと申します。よろしくお願いいたしますね」

「聞いてた通りね! ちっちゃくて可愛い!」

「え? えと?」

 

 アンジェリーナさんはそう言うなり私の頭をワシワシと撫でます。それも笑顔で。な、なんでしょうか。私、愛玩動物にでもなったのでしょうか。

 確かにですね、私は小さいです。多分11歳の平均身長はありません。正確に言えば私は入学してすぐに12歳になるので、12歳平均で考えるべきなのですが悲しくなるだけ、なくらいです。

 ミニマムでフリフリなワンピース……そうですね、傍目に見たら可愛いと言えるのでしょう。私も、私じゃなければ手放しで可愛いと言っていたと思います。

 

 ひとしきり私を可愛がったアンジェリーナさんが落ち着いたその後、私たちは4人でお喋りをしながらオヤツを食べました。

 ちなみにポーチの中から明らかに入らないだろうサイズのミルクティーの入った水筒や、ケーキなどを入れたボックスを出したところでちょっとだけ驚かれました。実はこれも『検知不可能拡大呪文』をかけてあるのです。ちなみに教えていただいてはいるのですが、まだ実践したことはないですよ?

 

 オヤツの残量が半分以下になるくらいまでお喋りをした後、それぞれに着替えをすることにしました。ちなみに私たちの着替えの際、セドリックくんはドアの外で待っていてくれていましたね。ちなみに誰も入ってこないように、とのことです。とっても紳士ですよね。ちょっと照れていたのがとっても可愛かったです。

 

 ちょっと大きめのローブに黒いネクタイ、シャツにプリーツスカート。ローブを着ていなければ普通の学生服という感じですね。概ねサイズは合っていますが、一部だけキツイのは成長したということなのだと思いたいですね。微妙にボタンとボタンの隙間が開いていることが気になりますが……まあ、仕方ないことなのでしょう。多分。

 隙間を隠すためにセーターをさっくり着込みます。ちょっと大きめサイズで用意したので、袖丈と着丈は長めです……が胸部がキツイです。『カサンドラ』は二次性徴が10歳から現れたのですが1年でみるみるうちに膨らんだのです。将来を考えてしっかりお手入れをするのが正直面倒ですがそれはもう諦めました。自分のためですしね、仕方ありません。

 それにしてもシャツだけでなくセーターも新調しないとダメそうですね。

 

「キャシー……小さいのに大きいのね」

「ちょ、すごい羨ましいんだけど……」

「──私が欲しいのは身長なのですが、ここばかり大きくなってしまうのです……。身長はどうしたら伸びるのですかね?」

「う、運動に牛乳? 栄養とって寝るのもいいらしいけど……」

「一応ですね、そういった一般的なものは全部やったのです。けれど牛乳を飲めば飲むほど……」

「ああ、うん。なんかわかったからもういいわ。とりあえずキャシー、私のセーター着る? 私も大きめで用意したし、今着てるそれよりマシだと思うわよ?」

 

 私とワンサイズは違うだろうアリシアさんが大きめに作った。それはつまり私にとっては二回りは大きいということ、です。一回り大きいだけではダメだったので、お借りするしかない、でしょうが……。本当によいのでしょうか。

 ですがここで断るのも色々ダメです。はっきりしっかり形がわかってしまうのは避けたいのです。

 

「……お言葉に甘えても良いですか?」

「もちろん! ていうか私から言い出したのだからキャシーが遠慮する必要ないわよ」

「ありがとうございます、アリシアさん」

 

 アリシアさんは本当に優しいです。というかアンジェリーナさん、一部を見過ぎですよ──とは言えません。見ないでいろと言うには色々気になる部分ですものね。私だって私以外の人がこんなにも目立つものを持っていらしたらそれはもうじっくり見るでしょうから。なので気にしません。気になりますが。

 

 それからあっさり着替えを済ませ、少しだけ胸部を目立たなくしてからセドリックくんを呼びます。セドリックくんはまだ着替えが済んでいませんので、交代です。

 ものの10分ほどでサクッと着替えたセドリックくん。男の子の着替えは早いですね。ちなみにとっても初々しい感じで、セドリックくんも似合っています。

 それからもお菓子を摘みながらお話をしました。

 組み分けの話に授業の話。どんな先生がいらっしゃるのか。次から次へと会話は途切れることなく続きます。女の子特有の話題の飛び方ですが、セドリックくんは呆れることもなくそれに付き合ってくださいます。……セドリックくん、イケメン特性ものすごおく高いです。将来性バッチリな気がします。

 アリシアさんも、アンジェリーナさんも明るくスポーティな方々で、さっぱりとした話し方や雰囲気なのでとても付き合いやすい方々ですし……コンパートメントで一緒になっただけではなく、これから先もお付き合いをしていきたいと思うくらいな方達ですね。お友だちとしてこれからも仲良くできるように努力しなくてはダメ、ですね。

 

 それはもう色々なお話をしながら過ごしていれば、窓の外は夕暮れになっておりました。時間が経つのはとっても早いのです。

 

 キングス・クロス駅を11時に出発して、夕暮れ時にホグズミード駅に到着。とっても長くてつまらないのではないかと不安に思っていたのですけれど、たくさんお喋りをしたりしてあっという間に過ぎてしまいましたね。なんだかもっと乗っていたいような気分ですが、それはできませんね。なんと言ってもこれからホグワーツに入学、なのですから!

 

 月夜にお船。目の前に聳え立つお城。なんだかとってもファンタジーな光景です。

 私は今、ホグワーツ城に向かうお船に乗っているところです。1年生だけしか味わえないこのお船を満喫しているのです。実際星と月の浮かぶ空と、それらをバックにしたお城。藍色に染まる湖にはそのどれもが映っていて、本当に幻想的なのです。トキメクのです! というかドキドキが止まらないのです! なんだかとっても『ハリーポッター』の世界に生まれたのだと強く思えてしまうのです。もちろん弟がドラコで、父母がマルフォイ家の者だということで自覚はしているのですよ? ですがやっぱりこうしてしっかり自分の目で見ることでよりいっそう自覚できるというものです。

 未来を少しでも明るくするためにできることを頑張らなくては、と決意できるほどには。もっとも私に何ができるのか、私自身わかりませんけれども。

 などとつらつら考えていたらいつの間にかお城の中にいました。それも大広間の前に、です。あっという間ですね。

 

「ようこそホグワーツへ。さて、皆さんは今からこの扉をくぐり上級生と合流しますが、その前に皆さんがどの寮に入るか組み分けをします──」

 

 厳格そうな女史、マクゴナガル先生が注意事項をご説明なさっています。私の記憶に残るお姿よりもほんの少しですがお若いです。……確か猫のアニメーガス、なのですよね。いいですよね、アニメーガス。私も猫になってネロと一緒に遊びたいですね。

 マクゴナガル先生のお話が済んだ後、扉の先へと向かいました。天井には星空で、目の前にたくさん並ぶテーブル周りにはたくさんの先輩方。正面奥にはダンブルドア校長を含めた先生方がいらっしゃいます。……ダンブルドア校長は遠目から見ると本当にサンタクロースですね。

 パッと見てわかる先生のお名前は、正直に言うと2人ほど。それはセブルス・スネイプ先生とクィリナス・クィレル先生くらいです。お名前はわかってもお姿が一致しないのです。なんて眺めていたからですかね。スネイプ先生と目が合いました。

 艶のない真っ黒な髪に真っ黒な目。無表情なところがちょっとだけ怖いですが、とってもお優しいところを知っていますので怯える心配はありません。小さく笑って、小さく会釈します──が、スネイプ先生ヒドイです。目を逸らすなんて。そんなに私の笑い顔は見るに耐えないのですかね。なんだ別の意味で心配になってきました。

 ちょっとだけしょぼんとしている間にダンブルドア校長から注意事項が発表されます。その後、1人ずつ名前を呼ばれて『組み分け帽子』を被ることになりました。もちろん私の名前も呼ばれまして、さっくりと帽子を被りました。組み分け帽子さんはそれはもうはっきりとおっしゃいました。「スリザリンはない」と。……なんでしょうね、喜ぶべきなのでしょうけれど、素直に喜べないこの感じ。そんなに私はスリザリンに相応しくないのでしょうかね。いえ、いいのですよ? どうしても入りたいわけではないので。ですがなんだか釈然としないのも本心です。

 ちょっとだけプチプチと心の中で言い募っていたら、組み分け帽子さんが続けます。

 時間にして5分足らず。組み分け帽子さんから提示されたうちの1つを選べば、私の入る寮が決まります。スリザリン以外のどこでも平気、だなんて言われてしまったのです。選ぶべきは1つだと思ってしまう私は間違っていませんよね?

 とりあえず、元闇陣営で純血主義で有名であるマルフォイ家の娘の私こと、カサンドラ・マルフォイはさっくりあっさり、グリフィンドール寮を選びました。


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