ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その6

 同じコンパートメントの方と食べられたら──なんて希望的観測で用意したお弁当でしたが、フレッドくん、ジョージくん、リーくんのお陰ですっかり空っぽになりました。なんだかとっても嬉しいですね。3人とも美味しい美味しいと食べてくれましたし、お世辞でも本当に嬉しいです。

 今はデザートも食べ終わって、ミルクティーで一服しているところです。ちなみにカップを4つにお砂糖にティースプーンも4つに用意していたりします。あ、ちなみにフレッドくんとジョージくんの持っていたお母様お手製のサンドウィッチのご相伴に預かりました。なんだか懐かしい味がしましたね。コンビーフサンドって時間のないときにすごーく便利なのですよね。ちょっと油っぽくなってしまうのが難点ですけれど。

 

 4人でまったりお茶をしながらの話題は、ホグワーツについて。3人とも組み分けが気になるそうです。確かにどこに組み分けられるかはドキドキものですからね。

 

「着いたらまず組み分けだろ?」

「そうだな。兄貴たちもそう言ってたし、すぐに組み分けするみたいだ。んでその後に夕飯だったか?」

「フレッドくんとジョージくんはお兄様がいらっしゃるのですね。羨ましいです」

「そうか? まあ、兄弟が多いから賑やかではあるけど羨ましがるようなものではないと思うぞ?」

「キャシーは兄弟は? ちなみに俺は一人っ子だ」

 

 リーくんの言葉に私は満面の笑みで言い切ります。

 

「私は弟がいます。2つ下で、とっても素直で可愛いのですよ。ですけれど、実はお兄様には少し憧れがありまして」

「憧れ? 優しくて、格好良くて勉強もできる──みたいな?」

「いえいえ、別に完璧を求めているわけではないのですよ? それにお兄様やお姉様のような頼り甲斐のある方がいたらいいなあ、という程度なのです」

「あー確かに。兄貴は頼り甲斐があると嬉しいな」

「俺たちの兄貴はだいぶ頼り甲斐があると思うぜ」

 

 ニッと笑いながら、フレッドくんとジョージくんが言います。多分きっとお兄様のことがお好きなのでしょうね。

 確かウィーズリー家の方は7人兄弟、でしたよね。フレッドくんとジョージくんに弟のロンくん、妹さんのジニーさん。それからお兄様のパーシーさんと……後お二人でしたか? 他のお兄様のお名前は存じ上げていませんでしたね。なんというお名前だったでしょうか。ぼんやり考えながらネロを撫でます。まるでベルベットのような手触りで堪らなく気持ちいいです。

 

「今は2人の兄貴が通ってるんだ」

「そうそう、2人ともグリフィンドールだからたぶん俺たちもそうじゃないかと思ってる」

「父さんも母さんも、もう1人の兄貴もグリフィンドールだし……多分そうなるだろうな」

「それってやっぱ血筋で寮が決まるってことなのか?」

「まあ、それで言ったら私もお父様の血筋もお母様の血筋もスリザリンの方ばかりです。……やっぱり私もそうなる確率が高いということでしょうか」

 

 血筋的なものが組み分けに関わるのでしたら可能性はありますね。なんて思いから呟いたのです。が、三者三様に首を振られました。

 

「「「いや、それはないだろ」」」

 

 という言葉とともに。あまりにも勢いのあるその言葉に私もちょっと驚きます。そんなに言い切れるほど可能性、ないのでしょうか。どうしても入りたいわけではないですよ? 自分でも多分スリザリンではないだろうなとは思いますし。ですけれど、出会ってまだ数時間の彼らにすら断言されてしまうくらい、私はスリザリンらしくないのでしょうか。なんだかマルフォイ家の娘という自信がなくなりそうです。

 

「そうでしょうか? 私もマルフォイですし、スリザリンに組み分けられないこともないかと思うのですが」

「いーや、絶対ないね!」

「そうそう、ないよ。だってキャシーだよ?」

「キャシーほど狡猾って言葉が似合わない子はいないって」

「あー…まあ、そうだな。双子の言う通り、だな。キャシーが狡猾なら、こいつらは悪辣になるんじゃね?」

「私が狡猾ならお二人が悪辣……そ、そうでしょうか?」

 

 妙な例えまで出された上での断言。本当にマルフォイ家の娘としての自信がなくなります。私だってそれなりに裏工作をしたような気がするのですが、狡猾にはなれていないということでしょうかね?

 どうしても望んでいるわけではないですが、こうまで言い切られてしまうのもどこか釈然としませんね。どうしてでしょうか。

 

「ま、キャシーなら……そうだな、ハッフルパフとかか? 正直者が集まる寮らしいし」

「いや、意外に頭が良くてレイブンクローもあるかもしれないぜ?」

「ま、どこの寮に組み分けられたとしてもキャシーはキャシーなんだし関係ないだろ」

「「確かにな」」

「そう言っていただけると嬉しいですね。でもきっとリーくんもお二人と同じ寮になると思いますよ? グリフィンドールは勇敢で高潔な方が組み分けられるらしいので」

 

 実際リーくんがグリフィンドールであることは知っていますし、このくらい話しても問題ないですよね。

 

「ほ、褒めてもなんも出ねえぞ?」

「? 感じたことを言ったまでですよ?」

「リーが勇敢で高潔……確かに勇敢かもしれないけど迂闊でもあるから違うんじゃない?」

 

 ほんのり頬を染めてリーくんが言えばジョージくんが苦笑いしながら言います。リーくんが迂闊とはどういうことでしょうかね?

 

「そうなのですか?」

「そうそう。ネロのリボンを取ったり? 引っ掻かれて噛みつかれて涙目になったり? 薬を塗ってもらって涙目にもなってたんだよ? 勇敢で高潔じゃないだろ」

「あーのーなー! アレは確かに俺が悪かったが、実際問題スッゲー痛かったんだからな! 特にあの薬! 経験したことないくらいに染みるんだぞ!」

 

 ビシリとフレッドくんを指差して、リーくんが言い切ります。はい。耳が痛いです。彼がからかわれていることの大半は私とネロがいけないということです。思わずしょぼんとしてしまうのは仕方ない、ですよね? でもしょぼんとしているばかりではいられません。ここで私ができることをしなくては!

 

「ご、ごめんなさい! そうですよね、ネロが噛みついたのも、お薬も……痛かったですよね……」

 

 と勢い込んで口にしましたが、どうにも目が潤んでしまいます。もちろん泣いてはいませんよ? 泣いてはいないのですがちょっとだけ泣きそうになっているのは否定しません。

 ネロが悪気があった訳でも、リーくんが悪かった訳でもありません。多分言うなれば巡り合わせがちょっとだけ悪かったのです。でもそれもこれも私がネロを見失ってしまったからだとわかっているから、だから私が落ち込んでしまうのでしょう。はい、自業自得というやつ、ですよね。わかっています。

 

「あーほら、お前らのせいでキャシーが!」

「「いや、今のはリーのせいだろ?」」

「俺かよ! お前らじゃねえのかよ! つーか泣くなよキャシー!」

「は、はい! 泣いていませんし、泣きません!」

 

 ぴしりと背筋を伸ばして返します。が、本当はやっぱりちょっとだけ泣きそうです──なんて思ったちょうどその時、突然ドアが開きました。

 

「ここにキャシーって子いない? って……こんなところにいたのね、キャシー! 探したのよ? っていうかなんであなた泣きそうになってるのよ!」

「え? え、アリシアさん? どうかなさったのですか?」

「どうかしたかじゃないわよ。あなた散歩に行くって言ってから一時間以上も戻ってきてないのよ? 車内で迷子になったのかと思ったじゃない!」

「す、すみません! その、ちょっと色々ありまして、こちらのコンパートメントでお話をしていたのです。探してくださってありがとうございます、アリシアさん」

「そ、そんなことはどうでもいいのよ! 誰よ、キャシーを泣かせたのは!」

 

 急に現れたアリシアさんが荒ぶります。怒っています。それも私の前に仁王立ちして、リーくん、フレッドくん、ジョージくんを睨むようにして。……これって私を庇おうとしてくれている、ということでしょうか。ちょっと嬉しいです。

 

 迷惑をかけてしまったようですが、探してくださったこと。こうして心配してくださること。どちらも本当に嬉しくてついつい笑ってしまいます。多分とっても締まりのない顔になっていることでしょう。

 

「この子がマルフォイだから泣かせたとか、そんなんだったら私が許さないわよ!」

「は?」

「「や、違うし」」

「なにも違わないでしょう! キャシーが泣いてるのよ? この! ポヤポヤで、いっつも笑ってそうなこの子がよ? あんたたちがなにかしたってこと以外考えられないじゃないの!」

 

 擬音で表すなら『プンプン』というよりも、『カッカ』していると言った方が合っているような感じです。むしろ頭から湯気が出ているかもしれないレベルで怒ってらっしゃいます。

 ですがこれは冤罪です。濡れ衣です。むしろ怒られるべきは私の方なはず、なのです。

 

「ア、アリシアさん……その」

「いいのよ、キャシーは気にしないで! あなたを泣かせたこいつらは私がしっかり躾するわ!」

「いえ、その私……別に彼らに泣かされたわけじゃ、その、ないのですが」

 

 クイクイとアリシアの袖を引いて、言い募ります。聞いてくれているか半信半疑ですが。

 

「──どういうこと?」

「えと、その──」

 

 くるりとこちらを向いたアリシアさんに、事の次第──私がこのコンパートメントに入ることになった経緯から、ちょっと涙目になったり理由までを話します。そう、私のネロがいけなかったのだということと、涙腺がちょっとばかり緩いのがいけないのだ、ということをです。

 神妙な顔をして聞き始めたアリシアさんは、話が終わる頃には少し呆れた顔になっていました。うう……わかっていますよ。呆れるくらい私の涙腺が弱いのがいけないのです。しょぼんとしながら頭を下げます。

 

「ご心配おかけして申し訳ないです……。それにご迷惑も……」

「べ、別に心配だったからじゃないんだから! あなたが泣いてる理由が理不尽なものかと思っただけだし、あなたがだれかに迷惑をかけてるんじゃないかって思ってただけよ!」

 

 プイッと顔を逸らしながら言うアリシアさん。やっぱりまだ怒っていらっしゃるのでしょうか。ちょっとショックです。でも言ってくださった言葉は嬉しいので気にしないことにします。はい、前向きに考えるのが私、なのです。

 ちなみにフレッドくんたちは、ちょっとだけニヤニヤしながら私とアリシアさんとを見ています。でも嫌な感じのニヤニヤじゃないので、気にしないことにします。とりあえずアリシアさんはとっても優しくて良い方だとわかったことが1番嬉しいこと、かもしれませんね。


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