ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その42

 お昼の時間を全て潰したとしても、絶対にスネイプ先生に許可をいただこう。そう決意した私なのですが、なんでしょうか。スネイプ先生からそれはもうあっさり許可をいただけました。

 本当に何故なのでしょうかね? 古いお薬をたくさん調べて、新しいお薬を開発してみたい──という言葉がよかったのでしょうかね? わかりませんがとにかく許可がいただけたのですからそれでよしとしましょう。ええ、下手に藪をつついて蛇を出したくはないですからね。

 

 ともあれ早く許可をいただけたお陰で皆さんと昼食を囲むことができました。というわけで今私はいつも通りに皆さんとご飯をとっています。

 いつも通りに私の周囲には、アリシアさんにアンジェリーナさん、それからリーくんにフレッドくんとジョージくん。そしてすぐ近くにはパーシーさんもいたりします。ええと、どうして皆さんそんなに興味津々なお顔をしていらっしゃるのでしょうかね? ……コレはスルーしてはダメですか?

 

「キャシー? あなたまた補習を増やすつもりなの?」

「え?」

「さっき。スネイプにまた頼んでたじゃん? 今よりもっと増やしちゃうの?」

「ええと、それはないと思いますよ? その、スネイプ先生にも都合があると思いますし……今より少し高度なことを教えていただきたいとお願いしたようなものですし、多分回数が増えるのではなく時間が少し伸びるか、内容が濃くなるか、でしょうか?」

 

 私が首を傾げながらそう告げれば、皆さんと深いため息をつかれます。ええと、なにかおかしなことを言いましたかね? ですが仕方ありませんよね? だって私がしたいことはこの世にあるかもわからないお薬を作ること、ですからね。魔法薬学ならあのお薬も作れるかもしれませんし……補習を厭うてはいけません。

 もちろんダンブルドア校長やハリーの助けになるために必要なのが、魔法薬学だけだとは限りませんからね。時間の許す限り様々なことに手を出していきますよ! 私は私にできる罪滅ぼしとしてなんでもすると決めたのですからね!

 お食事の途中ですが、私はつい握りこぶしを作っていました。ちょっと気合が入りすぎてしまったみたいですね。

 

「キャシー? ちょっといきなりどうしたのよ」

「そーだぜ、なにいきなり気合入れてんだよ?」

「ええと、その……魔法薬学に向けた情熱がその、迸ったというか、なんというか」

「キャシーらしい。で、他の補習はどうするつもり? 俺やフレッドたちとの変身術の補習もあるし、キャシーは他にもしてたよね?」

 

 ソーセージをフォークに刺しながら、ジョージくんがおっしゃいます。ええ、そうですね。受けている授業の半分は補習をしていただいています。……他のものももう少し内容を高度なものにしていただいた方がよいですかね? そうですよね。魔法薬学だけでなく、他の方面からもアプローチすると決めたところですし。

 

「そうですね、他のものも受けていくつもりです。ですが今より高度にしていただけるものについては、それを先生にお願いしようかと思っています」

「そ、じゃあ今よりもっとキャシーの成績が上がっちゃうわけだ」

「そう、でしょうか?」

 

 サクッとおっしゃいながら、ソーセージに食いつくジョージくんのお言葉に、私は首を傾げてしまいます。ええと、私はそこまで成績は良くないと思うのですが?

 宿題で提出したレーポートですとかは、『A』にペケがついていますし、これって『A』よりも下ということですよね? 全てのものがそうなのですから、私のレーポートはアリシアさんよりも下のはずです。

 アリシアさんの方が成績が良いと言えるはずですのに、とやっぱり首を傾げてしまいます。

 

「そうでしょうね。だってキャシー、あなた今でも『A+』のレポートしか出さない優等生なのよ? それがもっと高度な補習を受けたら成績が上がるのも当たり前、でしょ?」

 

 そんな私にアリシアさんからかかったお言葉。ええと……あれはペケではなかったのですね。レーポートの成績は『A』が最高ではなかったのだと初めて知った瞬間です。とっても驚きながらも私はやっぱり首を傾げたまま口にします。

 

「そ、そうなのですかね? その、授業とはあまり関係のない方向で高度にしていただこうと思っているのですが」

「いや、キャシーならそれを糧にすんじゃね? 今だって先生が言った内容が普段の授業に活きてんだろ? ぜってえ上がるな」

「うう……ますますキャシーとの差がついちゃう。キャシー! 私のこと見捨てないでね!」

「え、ええ。そんな心配をなさらなくてもちゃんと大事なお友だちですよ、アンジー」

 

 リーくんのお言葉に、何故かアンジェリーナさんが半分泣き顔になりながら私にひしっと抱きつかれ、大きな声で嘆かれます。成績が離れていたとしても、そんなことでお友だちになるわけではありません。そんなご心配は無用ですのに。

 私の言葉にいっそう涙目になられるアンジェリーナさんは、なんだかとっても可愛らしいです。いえ、私よりも背がお高くてずっとお姉さんに見える方ですが。

 

「わーん! キャシー、愛してる! 私の宿題はキャシーがいなきゃ終わらないの! 私も頑張るから見捨てないでね!」

「見捨てませんから、ね?」

 

 いっそう抱きつかれました。ええ、本当に可愛らしいです、と私もアンジェリーナさんの背中を撫でるように手を伸ばしたのです。伸ばしたのですが、とってもおかしな感触を感じました。どこから、とは明言できません。というか言えませんが。

 きっと勘違いだろう。なんてもぞりと体を動かしてみたのですが、その感触は消えません。ええ、その理由はわかっているのですよ? そっと、ええ、そっとアンジェリーナさんの肩を押し戻そうとしました。が、抵抗されました。

 

「アンジー? えと、少し離れましょう? 今はご飯中ですし、ね?」

「いーやー! 今キャシーを堪能してるところなんだもん!」

「ひゃう! ア、アンジーそんなところを揉まないでください!」

「えー? ダメ?」

 

 とってもワザとらしくですね、私の胸元に一揉み以上してからグリグリと頭を擦りつけて、それから顔を上げられたアンジェリーナさん。ええ、その笑顔はもう先ほどの涙目なんて少しも感じられません。……嘘泣きだったのでしょうか?

 未だに私に抱きつき、その上でその……胸をとってもとっても堪能していらっしゃるアンジェリーナさんを諌めます。ええ、寮ではほぼ日課のような行動ですが、突然すぎて対応できませんでした。私の修行が足りなかったのでしょうか。

 多分足りなかったのでしょう。私の口は盛大に滑りました。

 

「だ、ダメに決まってるじゃないですか! こ、ここは寮のお部屋じゃないのですよ!」

「はーい! じゃあ、今日の夜を楽しみにしてるね!」

「え? いえ、今夜していいとは言って──」

「諦めなさい、キャシー。アンジーになにを言ってもムダ、よ」

 

 はい、たった今、寮で辱めを受けることが決定したようです。いえ、それはいいのです。本音を言えばあんまりよくはありませんが、今はそれを考えるよりも先に、この今の状況で周りにいらっしゃる皆さんがどう思われているか、です。

 ちょっとだけ挙動不審になりながら、私は周囲に視線を巡らせます。ええ、他の寮の方は気にしてらっしゃらないようで──はなかったようです。……ハッフルパフ寮のテーブルにいるセドリックくんと目が合いました。

 セドリックくんは、とっても困ったような、それでいてとっても恥ずかしそうなお顔をしています。しかも私の恥ずかしさが感染したのでしょうか、その頬が遠目で見ても赤いことがわかります。

 口パクで「大丈夫?」と問うてくださるセドリックくんに、私は曖昧に笑みを浮かべてから頷きます。大丈夫ではありませんが恥ずかしかったので。ちなみに多分セドリックくん以外には気づかれていないような気がします。よかったです。

 それではお近くの方は、とすぐ近くを見ました──が、私はサッと視線を逸らしました。

 ど、どうして皆さんそんなに凝視していらっしゃるんですか! 特にパーシーさん! そんな真っ赤な顔でこちらを見ないでください! ズレてしまった眼鏡を直しながらも視線を外さないなんて、なんでですか! 感じていた恥ずかしさが余計に強くなってしまうじゃないですか!

 

「わ、私、もう行きます!」

 

 幸い食事中ではありましたが、お昼はほぼ食べ終わっていましたからね。勢いよく席を立って、私は大広間の入り口を目指しました。

 ちょっとだけ早足で歩きながら気づきます。私の心が軽くなっているということに。なんでしょう。昨日から緊張していた私の心がとっても解れている気がします。……内容はどうであれ、お友だちとのこうしたやり取りは心の潤滑油になる、のでしょう。

 私はくるりと振り返り、アンジェリーナさんとアリシアさんに向けて笑顔で言います。

 

「早く行きましょう? アリー、アンジー!」

「そんなに急がなくても教室は逃げないわよ、キャシー」

「そうそう。ゆっくり行こうよ!」

 

 そう言ってゆっくり席を立ち、私のところまで歩いてきてくださるアリシアさんとアンジェリーナさん。それに遅れるように、フレッドくんやジョージくんにリーくん、そしてパーシーさんまで席を立たれます。セドリックくんも席を立たれたのが、視界の端に映りました。

 私のいるところまで歩いてきてくださる皆さん。それが嬉しくて、私はもっと笑顔になります。そうすると皆さんも笑顔になってくださいました。そんな皆さんのお顔を見ると、私はきちんと皆さんのお友だちだと思っていただけているのだ、と思えるのです。そんなことで人の気持ちを推し量る私は、とっても卑怯かもしれません。

 ですがなくしたくないのです。

 どんなに恥ずかしいことがあっても、大好きだと思えるお友だちがいることはとっても、とっても楽しくて嬉しいこと、ですから。

 私はもう誰もいなかった頃の、お父様やお母様、ドラコだけしか大切だと思えなかったあの頃には戻れないのです。

 今でもお友だちと同じように大好きで、これから先に幸せでいて欲しいお父様やお母様、ドラコとずっと一緒にいられるようしたい。そして誰も死なないは無理でも、大切な人が皆さん生きていてくださる未来を手に入れたい。そう願っています。だからそのためにはできることを頑張って、できないこともできるようになるために、今以上に頑張るのです。

 そんな決意で、私はアリシアさんとアンジェリーナさんの手を握り締めお2人に、皆さんに笑いかけるのでした。


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