ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その37

 固まったパーシーさんは、とってもぎこちない仕草で残ったお昼を召し上がってから午後の授業に向かわれました。ちなみにご飯は残さずに召し上がっていらっしゃいましたが、私にはなにもおっしゃってくださいませんでした。……私、なにか怒らせてしまったのですかね?

 なんて首を傾げながら私も昼食を食べきり、席を立ちます。その途端ですね、フレッドくんたちに詰め寄られました。内容がなんであるかはわかっておりましたが、時間も時間でしたので大広間を出て廊下で歩きながらお話を伺うことにしました。はい、私たちも午後の授業に向かわねばなりませんからね。

 

 予想通りに皆さん口々に私とパーシーさんとがお昼を一緒にしていたことが不思議だったのだ、とおっしゃいます。それは私も同じ気持ちですよ。ですが、お友だちと昼食を共にするのは良いことですからね。気にしないことにしておきましょう。

 私も何度もその答えとなる「お友だちになったのだ」ということをお伝えしたのですが、皆さん中々信じてくださいません。……これは私とパーシーさん、どちらの信用がないのでしょうかね?

 

「本当の本当に事実なのですよ? そんなに信じられませんか?」

「全く信じられないわけじゃないのよ?」

「そうそう。でもありえないって思っちゃうんだよね」

「まあなんとなく感じられはしたよ、本当なんじゃないかって。なんてったってあのパーシーがキャシーに突っかからず会話してたからさ」

「確かにパーシーが普通だったな。……でも、どうしてキャシーはパーシーに友だちになろうなんて言ったんだ?」

「ええと、その、笑いませんか?」

 

 私の顔を見てそう問うてくるフレッドくんとジョージくんに私は問いかけます。はい、恥ずかしいと思われる理由からなので、できるなら言いたくないのです。

 

「「笑わないに決まってるだろ!」」

「そうよ、キャシーの言葉を笑うはずないでしょ?」

「そうそう! 笑うわけないよ!」

「いや、面白けりゃ笑うだろ?」

「リーは黙ってて! 私たちは皆キャシーの理由を聞きたいんだから! なんだったらリーは先に行っててもいいのよ」

「な、仲間外れにすんなよ! 俺だって聞きてえよ。どうしてあの堅物で、どう考えても合わないだろうパーシーさんとキャシーが友だちになろうと思ったのかはさ」

 

 なんだかみなさんが別の意味で揉めている気がします。というかどうしてこんなに聞きたがってくださるのでしょうか。いえ、とっても嬉しいですよ? 笑わないとおっしゃってくださったことも、聞きたがってくださることも。

 ですが今、この場で理由を言って平気なのでしょうか……。え、なんだかもっと恥ずかしくなってきたのですが。どうしましょう。言わないほうがよい気がしてきました。

 ええ、そうですよ。言えません、言えませんよ!

 パーシーさんが、フレッドくんやジョージくんのお兄様だから、できるなら敵対するよりお友だちになってしまいたかった──なんて、とっても恥ずかしくないですか?

 しかも詳しく言えば私がお2人とお友だちになったことで、ご兄弟で仲違いして欲しくなかったなんて、とっても自信過剰な気がしますし……。え、やっぱり恥ずかしいですよね、コレ。

 もちろんこの理由でしたら、パーシーさんだけでなくチャーリーさんともお友だちにならねばなりません。ですがチャーリーさんはダメです。あの方は私をからかうのがとっても楽しそうですし。周囲の方が少しばかり怖いですからね。抱き上げられるのも大分困りますし。

 その点で言えば、パーシーさんはとっても真面目な方ですからね。私をからかうよりもきっと真面目にお友だちとして接してくださるでしょう。選択としては間違いでなかったはずです。ですが理由はやっぱり言えませんよね。

 

「え、ええと……その、やっぱり内緒です」

 

 多分私の顔は赤くなっていることでしょう。ですが言えないのだとはっきりと口にします。そうですよ、自信過剰な理由なんて言えません。恥ずかしすぎます。

 

 そんな私を見ているアリシアさんもアンジェリーナさんもリーくんも、どうしてか驚いた顔をしています。何度か瞬きをした後、お三方はフレッドくんを振り返ります。

 ちなみに丁度私の正面に立っていらしたフレッドくんは、目を見開いて固まっています。その姿は「私とお友だちになってください」とお伝えした時のパーシーさんにとっても似ています。あ、ちなみにそのお隣に立つジョージくんは、私とフレッドくんとを見比べてちょっとニヤついています。なんでしょう、なにか企んでいるかのように見えますよ? え、私なにか悪戯されるのですか?

 どんな悪戯をされてしまうのか。ちょっと想像してしまって、眉が寄ってしまった気がします。そんな私の顔を見て、アリシアさんがとっても深いため息を吐かれます。

 

「はあ……わかったわ。今は聞かないであげる。もう着くしね」

「えと、今だけじゃなくこれからも内緒ですよ?」

「ええ、内緒(・・)なのよね」

「は、はい」

 

 何故か私の言葉にアリシアさんはにんまりと笑います。……これは寮のお部屋で問い詰められるルートが確定した気がします。が、アリシアさんやアンジェリーナさんにお伝えするのでしたらきっと多分大丈夫でしょう。恥ずかしいは恥ずかしいですが、からかわないでいてくれるでしょうし。

 少しばかり覚悟を決めながら、未だ固まったままのフレッドくんを見上げます。が、彼の目はどこを見ているのでしょうかね? 真っすぐ見上げていますが目が合っている気が全くしません。なにが彼を固まらせたのでしょうかね?

 

「フレッドくん? 大丈夫ですか?」

「あー…キャシー、先行ってなよ。フレッドは俺とリーでどうにかして連れてくからさ。授業、遅れたら困るだろ?」

「え、でも……」

「いいのよ、キャシー。私たちは先に行っておきましょ。男には男にしかわからないことがあるんでしょうしね」

「そうだね。行っちゃおうよ」

「大丈夫、授業が始まるまでには連れてくよ」

 

 ジョージくんはにこやかに、リーくんは少し困り顔で私たちを送り出そうとしています。が本当にフレッドくんは大丈夫なのでしょうか。その……なんだかとっても、固まったフレッドくんはいつものフレッドくんらしからぬ様子なのです。とっても心配になってしまうのですが。にっこり優しく笑ってくださるのがフレッドくんですのに……。

 心配でやっぱり私もここに残ります、と口にしようとしたのですが、私はあっさりアリシアさんとアンジェリーナさんに連行されてしまいます。はい。私の両手は常にお2人の手と繋がれていますかからね。

 

「大丈夫。すぐ行くから」

「おお、気にせず先に行っとけ」

 

 半ば引きずられるように歩く私に、かかるジョージくんとリーくんの声。にこやかに笑うジョージくんはヒラヒラと手を振ります。どうしてなのでしょう、ジョージくんの笑顔を見るとそこはかとなく不安感が増すのは。

 足が止まりかける私に、アリシアさんがおっしゃいます。

 

「キャシー、大丈夫。なにが理由かはわかってるんだし、ジョージがいるんだから平気なはずよ」

「え! アリーもアンジーもわかっているのですか?」

「え、キャシーはわからないの? フレッド、すっごいわかりやすいのに」

「え、ええと……その、とってもお困りなのはわかりましたよ?」

「あー…うん。確かにお困り(・・・)だったかな」

 

 ほんの少し眉を下げながらアンジェリーナさんは笑います。なんだか困っているみたいです。……私が困らせているのですよね。うう……フレッドくんはなにに困っているのでしょうか。私にはわからないですよう。

 多分とっても私の眉は下がっていたのでしょう。苦笑い気味にアリシアさんが笑いながらおっしゃいます。

 

「大丈夫よ、キャシーはなんにも気にしないでいいの。だってただパーシーさんと『お友だち』になっただけなんでしょ? 私たちと同じ、ただ(・・)のお友だちにね」

 

 念を押すように、言葉の一部がとっても強く感じるのですが……他意はないですよね? 疑問に感じながらも私は頷きます。

 

「え、ええ。そうですよ? その、フレッドくんやジョージくんのご兄弟ですし……。罰掃除をして、パーシーさんとも仲良くできるのではないかと思ったのです」

 

 軽く『理由』らしき言葉を口にしてしまっていました。で、ですが大丈夫ですよね? 特におかしな感じにはなっておりませんよね?

 そうです。あの時パーシーさんと個人的な──罰掃除ですが──時間を過ごしたことで、思えたことなのですからそれは間違いじゃありません。

 

「まあそれだけじゃなさそうだけど。それは聞かないであげる。とにかく今は早く授業に行きましょ」

「そうそう。授業は真面目に、でしょ? キャシー薬草学も好きだもんね」

「そ、それは好きですが……」

 

 そう言って私の手を引き、歩き出すアリシアさんとアンジェリーナさん。本日の薬草学は外にある温室で、ですのでその足は外に向かっています。

 まだ予鈴まで少しありますし、時間的余裕があります。が、フレッドくんたちは間に合うのでしょうか。後ろ髪引かれてしまう私は、元いた廊下をチラチラ振り返ってしまいます。

 フレッドくん、ジョージくん、リーくんの3人が固まっています。お2人の手はフレッドくんの肩や背中を叩いているように見受けられます。その様子はフレッドくんを励ましていらっしゃるように見えるのですが。

 やはり私がなにか彼を困らせるようなことを言ってしまったか、してしまったのではないでしょうか。とっても不安になってしまいます。色々と問題のある私ですから、今以上にお友だちに迷惑をかけてしまうのはイヤなのですよ。

 

「キャシー、そんなに心配しないでも大丈夫よ。すぐに気づいて元に戻るわよ」

「だねー。だってお友だち(・・・・)になったんだってキャシーは正直に言ったでしょ? 理由は内緒だったけどさ」

「でも……私が原因なのですよね? なにがいけなかったのかわかりませんが、わからないままにしてはいけないと思うのです。その、また同じ失敗をしてしまうかもしれませんし……」

「キャシー、それは考えなくていいの。キャシーはキャシーのままでいいのよ。問題はキャシーにあるわけじゃないんだから」

「それでもあのままだったらそれはフレッドが悪いんだから、やっぱりキャシーが気にする必要はないよ!」

「そう、なのでしょうか……」

「そうそう。だから今は行こう?」

 

 お2人の言葉に促され、私も後ろ髪を引かれながらも外にある温室へ向かいました。

 

 明るい日差しに満ちた外は、11月ということもあり少し肌寒いです。ですがお日様のお陰でとても清々しい空気をしています。こんな空気の中でいつまでも悩んでいてはいけませんね。私は授業に向かう心構えをしつつ、抱いた不安ですとかを今は忘れることにしました。

 もちろんまだ気になりますし、私に悪いところがあるのでしたら直したいと思います。ですがそれがどこであるのかは、フレッドくんにお伺いしなければわかりません。いえ、私に至らないところがたくさんある自覚はありますが、今回はピンポイントでフレッドくんを困らせてしまったのですからね。たくさんの至らなさではなく、まずはこちらでしょう。

 授業が終わりまして、夕食が済んだらフレッドくんに伺いましょう。と心に決めて、私は暖かな温室の中に入るのでした。


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