ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
午前の授業である魔法史の教室から、また大広間まで戻り私はお昼をとっています。──が、そこに普段と違うところがあります。はい、それは私の隣に座る方、です。
普段私の食事時、お隣ですとか近くに座られるのはフレッドくんやジョージくんにリーくん、アリシアさんやアンジェリーナさんです。そうです、いつも皆さんと固まってご飯を食べているのです。が、今は違います。
「そうか、君の見解はそうなのか」
「ええ、
「いや、一理あると僕も思う」
どこか納得したように頷きながら、私の隣に座る方──パーシーさんはとても美味しそうにマッシュポテトを口にしています。
そうなのです。私は今朝のあの一件でパーシーさんとお友だちになれました。私自身とってもびっくりです。だってパーシーさんですよ? あんなに私のことを責めていたパーシーさんが、考え直したからといってそんなにすぐにお友だちになってくださるとは思いませんでした。
ですが結果はこの通りです。こうしてお昼をご一緒してアズカバンの収監システムについて談義が交わせる程度に、私はパーシーさんと打ち解けられました。はい、話題がおかしいとは思いますが、実はコレとってもホットでタイムリーな話題なのです。
「けれどダンブルドア校長はどうして今更こんな提案をしたのか、君にはわかるか?」
実はですね、お昼になってすぐ日刊預言者新聞に号外が出たのです。一斉にフクロウが大広間の天井を埋め尽くしました……。とっても壮観でしたよ。
皆さんが驚き、そして話題にするその号外の内容。それは私たちの話題からわかる通りに『アズカバン収監者への処罰として、重犯罪者や再犯の見込みのあるものに対してその記憶を忘却術で消去する』ことが確定した、というものです。
ダンブルドア校長とお話ししていた記憶のある私でもびっくりです。どなたにご相談したのかは存じませんが、まさかあの日の夜にしたお話が実現されるとは思いませんでしたからね。しかも収監者に忘却術をかけるのがあのギルデロイ・ロックハートさんだと新聞にもありました。
本当に、本当にびっくりしました。まさにあの日の夜にお話ししていた通りになっているのですから。……ええと、どうしてそこまで反映されたのでしょうかね? アレですか? ロックハートさんの著書の謎が紐解かれて白日の下に晒されたということでしょうか?
それは私にはわかりませんが、とにかく、アズカバンのシステムが変わることになったのです。まだ実行されていませんが、魔法省の決定は覆らないことでしょう。一応とっても権力を持った機関でしょうからね、魔法省は。
そんなわけで私とパーシーさんとの話題もそうですが、今の大広間の中の話題の大半はそれになっています。そこかしこでどんな方が収監されているのか、アズカバンがどこにあるのか、どんなところなのか、そしてなにがそこを守っているのか──などと漏れ聞こえてきます。
それらを耳にしながらのパーシーさんのお言葉。私は言葉に詰まりました。ええ、詰まってしまって仕方ありませんよね。
「え? その……それは」
「なにか知っているのか?」
「いえ、その……ま、まあそれはいいとしてですね、パーシーさんは初めに誰の記憶を抜いたほうが良いと思いますか?」
私はパーシーさんの問いかけを聞こえなかったことにして、逆に問いかけてみます。はい。質問に質問を返すのはいけないことでしょうけれど、今は明言できませんからね。内緒なのです。
私の言葉に考え込むようにパーシーさんはむむっと眉を寄せています。パーシーさんって、フレッドくんやジョージくんに似ていますが、とっても真面目ですよね。こんな質問にしっかり考えてくださいますし。
「それは難しい質問だな」
「ええ、とても難しいです。どなたの記憶をなくすことができれば、どう状況が変わるのか。それを理解してしなければいけませんからね」
パクリと人参のグラッセを口にしながら、私も頷き答えます。そうなのですよね。誰がどのようなことをして、そしてこれからどうするのかを考えて記憶を消しませんと、脱獄されてしまうかもしれません。まあ、1番に脱獄なさるのは某ネズミを新聞で見たシリウス・ブラックさんですからまだ時間はありますよね。
ああ、でも重犯罪者という観点から言えば、死喰い人認定されているシリウス・ブラックさんは忘却術対象者ではないですかね? ……これはダンブルドア校長にご相談してみたほうがよい気がしてきました。シリウス・ブラックさんが亡くなってしまったらいけませんからね。
などと考えておりましたら、パーシーさんは相変わらず眉を寄せたままおっしゃいます。
「今収監されている死喰い人は全て──だとは思うが、僕には誰を最初にするべきかわからないな。君は誰がいいと思うんだ?」
「私は──私はベラトリックス伯母様をしていただきたいと思っています」
「ベラトリックスというと……ベラトリックス・レストレンジか。君の伯母だったのか」
「はい、お母様のお姉さまです。お会いしたことは私の記憶にありませんけれど」
そうなのですよね。お会いしたことがないので、私には伯母様が本当はどんな方か存じません。ですが多分『私』の記憶に残っているお姿に変わりないと思います。その性格も変わりないのでしょう。お母様から伺ったお言葉の端々からそれは感じられました。
身内にはそれなりにお優しかったようですが、些細なことで癇癪を起こしていらした──とお母様が眉を下げていらっしゃいましたから。
よくよく考えれば、私的に記憶を消してしまったほうが良いと思うのは、ベラトリックス伯母様とバーティミアス・クラウチ・Jrさんです。
伯母様はハリーたちの壁としてそれはもう、とてつもない壁として立ちふさがりますし、クラウチ・Jrさんも色々と問題を起こしてくださいます。最大はハリーの名前をゴブレットに入れた上でヴォルデモートさんの復活に手を貸すところ、でしょうか。というかあの人がいたらセドリックくんの命も大変なことになってしまいますし……どうしましょう。クラウチ・Jrさんの記憶を先に消したほうがよい気がしてきました。
今のクラウチ・Jrさんはアズカバンにいらっしゃるのでしたかね? あの方は他の方たちと違って集団での脱獄ではなかった気がしますし……。初期は獄中で亡くなっていると言われていましたが、実は生きていてお家にいるという設定だったはずです。これは生存か否かを確認してみればわかりますよね。
こちらもダンブルドア校長にお聞きすることにしましょうか。なんて考えていましたら、パーシーさんが声をかけてこられました。
「その、すまない。君にとって辛いことを聞いたのではないか?」
「え? いえ、平気ですよ。本当にお会いした記憶のない方ですからよくわかりませんし……それに伯母だとはいえ悪いことをしたのは確かなのですから、情けをかける必要はないと思うのです」
「それはそうだが……」
「パーシーさんがお気になさる必要ないですよ」
そう言って私は笑います。そうです。私的に言えばですね、お父様とお母様、それからドラコがそんな目に合わないのであれば正直伯母様であろうと、家族以外の他の方がどうなろうと構わないのです。もちろんお友だちがそんな目に合うのも嫌ですが、彼らがアズカバンに入るような罪を犯すことはありえないでしょうからね。心配するべきは私の家族ですよ……。お父様、神秘部に行かないでいることはできませんかね?
なんて思いを馳せながら、パーシーさんとの会話を続けます。ちなみにすぐ近くに座っていらっしゃいるフレッドくんたちは、チラチラと私とパーシーさんとを見ていらっしゃいます。お話に参加していただいても構わないのですが、何故だか遠慮なさっています。
それというのもですね、どうやら私とパーシーさんが親しくしていることが意外なようなのです。
私とパーシーさんとがさっと隣り合って座った瞬間にフレッドくんが呟いていました。「嘘だろ、パーシーが!」と。そんなにパーシーさんが私と親しげに話す姿は意外だったのでしょうか──いえ、意外ですよね。私もまだちょっと信じられませんし。
などと考えておりましたら、フクロウが一羽、私の前に舞い降りました。フワフワと羽が宙を舞っています。ああ、プレートの上に落ちてしまいますっとついその羽を掴んでしまう私です。
「手紙、か?」
「ええ、どなたからでしょうか──あ」
焦げ茶と白とグレーのまだら模様のフクロウ。クリッとした目で私を見ながら差し出したのは封筒が1つ。そのお手紙に差出人のお名前はありませんでしたが、どなたからのものかすぐにわかりました。ええ、本当にすぐ。それが正しいかどうかはわかりませんが、多分正解でしょう。
実は封筒の隅にですね、小さくデフォルメされたイラストがあったのです。はいとっても小さく、私小指の先ほどの大きさの、三角帽子をかぶったおヒゲです。しかもおヒゲは長くて先が三つ編みです。……ダンブルドア校長、これ他の方にもすぐわかりませんか? 私と個人的に会うとういことは知られない方が良いのではないのですか? とっても、とっても疑問でいっぱいになってしまいました。
私がそのイラストを指先で隠しながら封筒をじっとり見つめていればですね、パーシーさんが「開けないのか?」と聞いていらっしゃいました。が、今この場では開けられません。私は曖昧に笑みながら、そっとお手紙をローブのポケットに仕舞い込みます。
「パーシーさん、バーティミアス・クラウチ・Jrさんのことをご存知ですか?」
そうして誤魔化しまじりに問いかけます。ダンブルドア校長からだけでなく、他の方からもお伺いしてみたほうがいいだろう、ということからの質問です。
「あ、ああ。知っているが……彼がどうかしたのか?」
「いえ、あの方もアズカバンに収監されています、よね?」
「いや? 彼はもう亡くなっているはずだ。確か収監されて1年ほどか? クラウチ氏は相次いで彼と妻とを亡くした──はずだ」
「ええと……お詳しいですね、パーシーさん」
「そうか? このくらいは基礎知識だろう?」
ええと、本当に基礎知識なのですかね? アズカバンに収監されている方の家族を知っている、ということが。私が首を傾げてパーシーさんを見れば、彼はどこか得意げに笑みながら続けます。
「少し前に魔法省について調べた時、魔法省の役人の家族についても少し調べたんだ」
「ご家族について、ですか?」
「ああ。その前にアズカバンについて調べた時に見た名と同じ名が魔法省の役人の中に合って、それが気になってな」
パーシーさんは苦笑いして、そうして続けます。
「それで1981年の裁判記録も読んで、クラウチ氏がどのような評価をされているかも知った。──家族を顧みず、息子の教育を間違えてバッシングを受けたことも、な」
「それはおかしいと思います」
「おかしい? 親が子を諌められずにいたことがか?」
「ええ。確かに親は子を教育する義務があると思います。ですが子どもにも自我があります。親と違う思想に傾倒することもあるでしょう? どんなに優れた人が教育したのだとしても、他者が傾倒するものを変えさせるのは困難だと思います」
「それは、確かにそうだが……」
「というかですね、子どもは基本的に親に逆らう生き物だと思うのですが、パーシーさんはどう思われますか?」
「──そ、それこそ人それぞれじゃないか?」
「まあ、そうですよね。パーシーさんは真面目な方ですから、お父様に逆らったりなさらなそうです。というかお父様を尊敬なさっていそうな気がします」
「逆らわない……尊敬……」
なんだかパーシーさんは固まってしまっています。なんでしょうか? 私なにかおかしなことを言いましたかね?
あ、ちなみに私はお父様を尊敬していますよ? 少しだけ恥ずかしいというか、不安に思うところもありますが、それでも尊敬に値する知識ですとか、家族に対する様々な愛情ですとかを私に見せてくださいましたからね。もちろん言葉は少なかったですし、抱きしめるだとか頭を撫でられるだとかはされたことはありませんが、それでも愛情はしっかり感じられていましたからね。だから私はお父様のことも、お母様のことも尊敬しているのです。
パーシーさんはそうではないのでしょうか? ええと、ウィーズリー家のお父様は確か、アーサー・ウィーズリーさんでしたよね? とってもお優しそうで、子煩悩で奥様を大切になさっていて──とっても、とっても理想のお父様な気がします。あんなに優しく、そしてユーモアに富んだお父様がいたら、きっととても毎日楽しいのでしょうね、羨ましいです。