ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その35

 うう、とっても、とっても腕が痛いです。内心涙目の私は、ちょっとだけぎこちなく腕を振って歩いています。

 痛い理由はわかっているのですよ? どうしてこう、私の腕の筋肉が痙攣するかのように痛いのかは、とっても悲しいことに筋肉痛なのだと。それも昨夜のお掃除でなったのだ、ともです。

 ……つまりは私が杖を振る以上の運動をしていなかった、という証拠のようですがまだよいのです。なんと言っても翌日朝に筋肉痛になっているということは、私がまだ若いという証拠なのですからね! 痛いは痛いですが、早くきたのですから良いことにしておきましょう。ええ、ポジティブが大事ですよ。

 とはいえ私は12歳ですので、若くて当たり前なのですけれどね。……深く考えると色々と危険なので考えないことにしましょう。

 

 ええとですね。昨夜はですね、10時になる前にお掃除を終えまして、パーシーさんに手を引かれるままマクゴナガル先生の研究室にてご報告をしました。

 はい、パーシーさんと手を繋いだままマクゴナガル先生と対面しました。どうしてでしょうかね?

 なにはともあれしっかりとご報告をしました。が「夜の内に確認をしておきます」とのことで、寮点が引かれるかはまだわかりません。

それというのも私もパーシーさんもお掃除で大分薄汚れてしまっていましたので、マクゴナガル先生は「帰寮して早くお風呂に入りなさい」とおっしゃってくださったのです。

 ありがたいそのお言葉に甘えまして、パーシーさんとともに寮に帰ってから色々と身支度を済ませて就寝しました。が……迂闊でしたね。もっと湯船の中でマッサージをしておけばよかったです。いえ、でもまさかお掃除程度で私の筋肉が悲鳴をあげるとは思わなかったのです。

 なんでしょう……私が軟弱だということでしょうか。きっとこれは筋トレ案件ですよね。そうですねよ、私は空は自由に飛べないですが、地上では多少動けるようにしておきませんと将来的に大変ですし。

 ええ、そうですよ。もしも将来『闇陣営』のどなたかに追われることになったとしたら、足が遅ければ私が1番に捕まってしまうかもしれません。それはちょっと困りますし、恥ずかしいです。やっぱり筋トレとジョギングは取り入れる方が良さそうですね。頑張れ私! ですね。

 なんて考えながら、私はアリシアさんとアンジェリーナさんに手を引かれ大広間まで向かっています。ええ、考え事をしていなくても大抵そうなので、今更拒否はしません。しませんが、今日は腕を引かれるのがとっても辛いのですが。痛いのですよう。

 ですがいけません。顔をしかめないように気をつけませんと。フレッドくんやジョージくんに気づかれて悪戯の餌食にされてしまいますからね。なんて思っていたらですね、朝食の席でパーシーさんがフレッドくんとジョージくんの餌食になっておりました。

 

 パーシーさん、私のように腕だけでなくほぼ全身筋肉痛のようです。わあ、やっぱりパーシーさんは運動が苦手なのですね!

 私の代わりに悪戯──と言っても、腕や肩、足などを突かれる程度ですが──をされているパーシーさんを横目に、私はとっても美味しい朝食を食べました。面白いものを見ながらですと、美味しい朝食はもっと美味しくなるのですね。

 ……あら? ダメですよ、こんな考え方は。私は人が痛めつけられているところを見て喜ぶような質ではなかったはずです。いけませんね、気をつけませんと。と自戒しますが、私はフレッドくんたちを止める気がありません。

 ええ、ありませんよ。いくらパーシーさんがこちらを見ていようとも、止めません。だってですね、下手にちょっかいを出して悪戯がこちらにきてしまったら困りますから。私、痛いの嫌いなのです。ただでさえ普段から転んでよく痛い思いをしていますからね、しなくていい痛い思いはしたくないのです。これって人身御供というものですかね? 

 

 とっても美味しい朝食を済ませまして、さあ授業に! と思っておりましたら、マクゴナガル先生がいらっしゃいました。

 

「カサンドラ・マルフォイ、パーシー・ウィーズリー少しこちらにきてください」

 

 グリフィンドール寮のテーブルまでいらしてでですね、私とパーシーさんとを呼ぶのです。これはアレですよね。寮点が引かれるか否かのお答えがいただけるということですよね。

 否やはありませんので、私とパーシーさんはマクゴナガル先生のところへと向かいました。ちなみにアリシアさんとアンジェリーナさんには先に教室に向かってもらうよう伝えてありますよ。私ちゃんと魔法史のお教室の場所を覚えましたからね!

 

 その場で話し込むわけではなかったようで、マクゴナガル先生の先導のまま歩きます。進む廊下の様子から、どうやらあのお部屋へ向かうのだとわかります。

 たどり着いたお部屋。改めて室内を見ますが、初回遭遇時とは全く違う部屋のように見えますね。ええ、自画自賛になりますがとっても綺麗になっておりますよ。すぐにでも授業に使えそうなほどです。

 マクゴナガル先生は私たちに向き直ると笑みを浮かべました。

 

「随分と頑張ってくれましたね。とても綺麗になっていますよ」

「「あ、ありがとうございます」」

 

 私とパーシーさんの言葉がハモりましたね。いえ、でも仕方ないですよね。とっても笑顔で褒められましたから、お礼が口をつくのも仕方ないですよね。

 そんな私たちにですね、マクゴナガル先生は一旦は笑みを深めて頷きました。ですがその笑顔をあっさりと消しました。これは……もしかして寮点が引かれてしまうのでしょうか? え、やっぱり魔法を使ったのはダメでしたか?

 

「とても努力してくださったようですし、約束通り寮点を引くことはしません。ですが──」

 

 喜ばしい言葉ですが私はピシリと背筋を伸ばします。だってですね、マクゴナガル先生は1度言葉を区切った後、それはそれは怖いお顔で笑ったのですよ。先ほどとの対比がすごいです……。

 私、怖い笑顔って初めて見た気がします。うちのお母様が私とドラコを叱る時は笑顔なんて一切見せませんから。真顔で懇々とお説教が続くのです。ちなみに正座ではないですよ。

 叱られるのだ、と緊張しながら続く言葉を待ちます。はい、覚悟はできましたよ。どんなお叱りにでも耐えてみせますよ! なんて気合を入れます。

 

「パーシー・ウィーズリー、私はあなたに失望しました」

 

 厳しい視線をパーシーさんに向けて一言。覚悟はしていましたが、とっても怖いです。もし今のその一言を私が言われてしまったら──ショックで寝込むかもしれません。多分パーシーさんもそうなのでしょう。とっても顔色が悪いです。ええ、そうですよね。当たり前ですよね。だって1番身近な寮監であるマクゴナガル先生に『失望された』と言われてしまったのですから。

 ふうっと1つ息を吐いて、マクゴナガル先生は続けます。

 

「ホグワーツに慣れていない一年生ならいざ知らず、あなたはもう3年生です。それも5年生になれば監督生に選ばれるかもしれないほどに優秀な。そのようなあなたが、下級生を噂だけで判断するなどとは思いませんでした」

「はい……」

「本当に私は驚きましたし、失望しました」

「……はい。申し訳ありませんでした、マクゴナガル教授」

「そのように謝ることは簡単なことですが、行動が伴わなければ意味はありません。一度失ったものを取り戻すのは大変難しいことです。パーシー・ウィーズリー、あなたは私の失望をどのようにして取り戻すつもりです?」

 

 3度です。3度『失望』という言葉を口にされるマクゴナガル先生の眉間はとっても深いシワができています。多分ですが先生もこんな言葉を口にしたくないのでしょう。だって本当にお優しい先生ですから。そしてそれはとっても辛い事実ですよね。そんなお優しい先生に、辛い言葉を自分の行動が言わせてしまっているのですから。パーシーさんもお気づきでしょうかね。

 もしも私が言われたのならば、どう答えるのか。それを考えれば自然と背筋が伸びます。もちろん緊張で。私はきゅうっと唇を噛み締めながらパーシーさんの言葉を待ちました。

 

「今後は……今後は僕にできる限り、偏見を持たず人と接します」

「それで? 偏見を持たずにいたからと言って、その他大勢の意見に流されるのでしたら意味はないのです。その結果どうするのです」

「──自分の目で見たものを信じることにします。その、カサンドラ・マルフォイに対しても、誰に対しても先入観を持たず自分で見て、聞いて知ったことが真実であると……」

「ええ、それは当たり前のことです。つまりあなたは、その当たり前のことができていなかったのだ、と認めるのですね」

「はい、僕は周囲に流れる噂や、彼女の出自だけで彼女の性格などを決めつけていました。……噂が真実であるかも確かめることもせず、一方的に嫌いました。けれど僕は噂と彼女が違うことを、この部屋を掃除することで知りました」

 

 そう言ったパーシーさんは1度私を見ました。とっても難しいお顔をしています。

 いいのですよ? 嫌いなら嫌っていたままでも。それだけの素地が私にはあるとわかっていますし、そうなってしまってもその方を責める気はありません。私だって記憶に残っていることから苦手な方や、嫌いと言える方がいますからね。それが人なのですから当たり前なのです。私が万人に好かれるなんて厚顔にも思えませんし。

 パーシーさんは顔を上げて真っすぐにマクゴナガル先生を見ています。とても緊張しているのでしょうか。握られた拳がほんの少しですが震えているような気がします。……よく考えたらですね、パーシーさんてまだ14歳なのです。義務教育中の子が教師と相対して自分の悪いところを自覚させられて、その上それに対する自分なりの解決策を発表する──ええと、とっても難しいことではないですか、これ。

 などと思っておりましたら、パーシーさんははっきりとした声で話しだしました。

 

「僕は彼女がマルフォイ家であるということで、この掃除を僕一人ですることになるだろうと思っていました。ですが実際は先生が褒めてくださったこの部屋の掃除は、彼女の主導です。僕はその……掃除の基本すら理解していませんでしたが、彼女はどうすれば1番効率よく、そして時間内に綺麗にできるのかを考えて行動していました。その時に使った魔法すら、初めてだというのに素晴らしいもので……彼女がとても優秀な魔女になれるだろう素質のある生徒であることも知りました」

「それを知り、あなたはどう思ったのです」

「彼女は──カサンドラ・マルフォイは噂とはかけ離れた子だ、と思いました。そして僕は間違っていたのだとも」

「──それがわかっているのでしたら、あなたにこれ以上問うのは止めましょう。あなたは頭のいい子ですからね」

 

 パーシーさんの言葉にそう返したマクゴナガル先生は頷くとふっと小さく微笑まれました。というかですね、気になるのですが、掃除したあの時間だけで私の印象が変わるくらい、流れている噂って悪いのですか? 気にしていなかったのでどのようなものが流れているのか私知らないのですが……。少しは調べた方がよかったのでしょうか?

 

「さて、カサンドラ・マルフォイ。あなたもですよ」

「は、はい」

 

 マクゴナガル先生の言葉にいっそう背筋をピシリと伸ばして私は顔を上げます。はい、お二人とも背の高い方なので見上げないと視線が合わないのは仕様です。私が小さすぎるわけじゃないのですよ。

 

「あなたは自分が誤解されやすい境遇だと理解していながら、それを解消させる努力をしていません。あなたが素直に行動すれば周囲はそれを理解しようとするでしょうに……これはあなたの怠慢が招いた結果でもあります」

「……はい、心します」

「万人に好かれるはずはないとあなたは思っていることでしょう。それは私とて同じですが、それでも真実のあなたの姿が周知されれば耳を疑うような噂を流されることはなくなるでしょう」

 

 本当に私の噂ってどんなものが流れているのですか? マクゴナガル先生の眉間のシワがとっても、とっても、それはもうスネイプ先生並に深くなっているのですが。え? 本当にどんな噂なのですか! 今更ですが、俄然気になってきてしまったのですが!

 なんて言えるわけもなく、私は口を閉ざしたままマクゴナガル先生を見上げます。

 

「……あなたが流れる噂に興味がないことは私も知っていますが、それではいけません。もう少し周囲に気を配り自分が与える影響を考えなさい」

「は、はい……」

「あなたは良くも悪くも人目を惹く生徒です。生家のことも優秀であることも、その容姿ですら──そのどれにもあなたは無頓着であるように周囲に映ることも、噂を助長させているのでしょう。自覚なさい、カサンドラ・マルフォイ」

 

 どこか労わるように目を細め、マクゴナガル先生はそうおっしゃいました。そんなお言葉をいただいた後、私とパーシーさんに「2人ともが反省をしていることは伝わっていますよ。この部屋の掃除も、2人が協力しなければあの時間で終わることはなかったでしょう。そして私のところに来た時からもわかります」と、にこりと優しげな笑顔で微笑まれました。

 とっても、とっても飴と鞭な気がします。しますが、私はその笑顔にホッとしてしまいました。はい、ばっちり飴に絆されている自覚はあります。

 

 授業に遅れないようにと言って、マクゴナガル先生がお部屋を出られました。そのお言葉の通りに私たちも授業に出るべきだとわかっているのですが、私もパーシーさんもお部屋から出ませんでした。はい、まだ予鈴も鳴っておりませんからね。まだ少し時間があるのです。

 時は有限です。私は今できることは明日するのではなく、今してしまいたいので、今パーシーさんに願い出ることにしました。

 

「パーシーさん」

 

 私は意を決してお呼びしたのですが、パーシーさんもこちらを見てくださいます。ほぼ正面に立つパーシーさんを見上げます。パーシーさんはやっぱりフレッドくんやジョージくんによく似た赤毛で、色白。家族なのだとすぐにわかるくらいには似ていらっしゃって、私はあまり緊張することもなく口を開くことができました。

 

「私はカサンドラ・ナルシッサ・マルフォイです。よろしければ私とお友だちになっていただけませんか?」

 

 真剣な目で私を見ていたパーシーさんはとっても驚かれたのでしょう。大きく目を見開いていらっしゃいます。

 それなりには緊張している私は、パーシーさんがなんとお答えになるのかを考えながら、彼の言葉を待ちました。


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