ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その32

 お昼にお話を色々聞いていただき、そしてパーシーさんのことも伺いました。

 はい、パーシーさん。とっても筋の通った方だとは思いましたが、多分とっても融通の利かない方だとも感じました。後はですね、とっても権力志向というのでしょうか。そんなところがそこはかとなく感じられましたね。

 はっきり言ってしまえばですね、私とお話が合わないような気がします。

 私は権力とかどうでもよいと思っています。過ぎる権力もお金も、幸せを生むかどうかわかりませんしね。生活する上で困らない程度のお金と、誰にも縛られない自由さと、命の危険のない平和があれば人生は幸せだと思うのです。過ぎる権力なんて、ヴォルデモートさん然りですよね。

 だからと言ってパーシーさんに近づかないまま、スキャバーズを捕まえることなどできないでしょう。見ることはできるでしょうけれど、捕まえるのは……ねえ。きっと私が真っ先に疑われるでしょうし。今から「私になんの下心もないのですよ」とか「スキャバーズは実は人間なのですよ」なんて言ったところで信じてはもらえないでしょうね。

 というかですね、そんなことはパーシーさんでなくとも難しいでしょうし、パーシーさんでしたら余計に頭が固そうですから信じてはくださらないでしょう。真面目な方って自分に理解できないことですと、基本的に信じてくださいませんからね。

 私としてもフレッドくんとジョージくんのお兄様ですので、パーシーさんを悪くは思いたくはないのですよ? ですが一方的に悪事を働いていると言われては、良い印象を抱けないのです。

 もちろん私が、全ての方に好かれるなんてことは思いません。初めから『マルフォイ家の娘』であることで、嫌われるだろうことは考えていましたしね。ですが、それは私をよく知らない方だから、だから私を知っていただければ大丈夫──なんてちょっと心のどこかで思っていたのです。が、パーシーさんの考えで、やっぱりそんな簡単にはいかないのだと教えられてしまいましたね。私は楽天的過ぎたのでしょうね。

 パーシーさんとは、フレッドくんやジョージくんと仲良くするようにできる、なんて思ってはいけないのでしょう。が、それでは困りますよね。ピーターさんについてはなるべく早い段階でなんとかしなければダメでしょうし……。どうしたらよいのでしょうか。新たな悩みが生まれてしまったような気がします。

 

 などと色々なことを考えながら午後の講義である薬草学を受けました。授業自体になんの問題もなかったのですが今、問題発生です。ええとですね、私の目の前にパーシーさんがいます。

 

 夕食を終えて、寮に戻る予定だったのですが悩みすぎた所為ですかね、とっても甘い物が食べたくなってしまったのです。はい、夜寝る前に食べるのは危険ですが、どうしても食べたくなってしまったので、厨房でお菓子を分けていただこうと思ったのです。そこまではよかったのです。

 厨房でお菓子をもらった後、寮まで戻る最中である今、お菓子を両手いっぱいに抱えている状態で出会ってしまったのです。ええと……寮内にお菓子を持ち込むのは寮則違反ではないですよね? 多分違いますよね? いえ、そんなことを考えている場合ではないですね、ここはなにかお話をしませんと!

 

「こ、こんばんはパーシーさん」

 

 きっとお返事はないでしょう、と思っていましたが挨拶は基本ですからね。ぺこりと頭を下げながら言ってみます。ちなみに真っすぐに目は見ていません。はい、身長の高い方なので目線自体は簡単に合いませんし、嫌っているだろうことを知っている相手を真っすぐ見るのはちょっと辛いですからね。

 

「──君は何を考えているんだ?」

 

 その言葉に私は思わず顔を上げました。見上げて映るのは、フレッドくんたちとよく似た赤毛にソバカス。銀縁のメガネをかけた神経質そうなお顔立ちをしています。そんなパーシーさんは、眉間にシワを寄せているような気がしました。

 

「え?」

「フレッドやジョージだけじゃなく、他の生徒も含め、どれだけ仲間を増やそうとしているんだ」

 

 パーシーさんがおっしゃいますが、その言葉の意味が私にはよくわかりませんでした。

 

「仲間、ですか? その、フレッドくんやジョージくんたちはお友だちなのですが……」

「友達? 何を言っているんだ、君は闇陣営の娘だ。それも狡猾なマルフォイ家の娘なのだろう! あの家らしく、ホグワーツで仲間を増やし、何かしようと企んでいるんだろう!」

「そ、そんなことはしていません!」

 

 全くないとは言えません。ホークラックスを含め、ダンブルドア校長とお話ししていたり、未来について画策したりしていますからね。ですが基本は家族の未来のためにですので、他の方にあまり影響はないと思うのですが。そう思ってしまったので私は否定しましたが、パーシーさんは鼻で笑いました。なんだかカチンときますね。

 

「ハッ! そんなこと、誰が信じるというんだ! 君が何か企んでいなければ、どうしてフレッドやジョージたちが簡単に君の近くにいることを選んだんだ! 君が何か工作していない限り、マルフォイにいい印象などない僕らの家族が靡くわけはないだろう! 一体何をしたんだ!」

 

 ……パーシーさんは、ご家族を心配しているのでしょうけれど、どう考えても信用していないと言っていませんかね? なんだかとってもイヤな感じなのですが。

 相手が自分をどう思っているかを私だって心配はしていましたよ。ですが愛されているだろうことは理解していましたし、私だって愛しています。どんな家族であろうと、それは私にとって当たり前に抱く感情だからです。

 ですがパーシーさんは、私という悪がご家族を害していると、私という悪にご家族が靡いたとおっしゃるのです。微塵も家族を信じていないという証拠ですよね……。

 

「チャーリーだって君はマルフォイ家の娘らしくないから大丈夫だなんて言っているが、信用できない。君はスネイプ教授とも親しくしているし、本当は何かを企んでいるのだろう?」

「パーシーさんがお考えになるようなことなど、なにも企んでいません」

「言い訳はいらないよ。別にいいんだ、君が何を企んでいようと。ようは僕に、僕らに関わりがないのなら」

「え?」

「悪いが、僕の家族からは手を引いてくれ。フレッドやジョージは悪影響を受けやすい。君のような子と関わってしまえばあいつらも闇陣営に堕ちてしまうかもしれない……そんなことは僕には許せないんだ」

 

 パーシーさんはとっても、とっても熱く語っております。私の言葉は一向に聞く気がないようです。いえ、別にいいと言えばいいのですよ? ですが、面白くはありません。やっぱり私はパーシーさんと馬が合わないと思います。

 というかですね、いつになったらこのお話は終わるのでしょうか。私、お菓子を抱えたまま立ち尽くしているのですが。……今お菓子を食べるのはダメですよね? そうするともっと煩くパーシーさんが語り出してしまいそうな気がしますし……。甘い物が食べたいのですよ、私は。

 

 両手に抱えたカゴいっぱいにあるお菓子を見つめながら、パーシーさんのお話を聞き流していたわけなのですが、要所要所は耳に入っています。

 ええとですね、パーシーさん? どうしてネロがスキャバーズを襲うのが、私が始めた、闇陣営の恐ろしさをホグワーツに轟かせるための手段なのですか? スキャバーズをどうにかしたいと思ってはいますよ? ですがそれはホグワーツに危機が訪れないようにしたいから、なのですが。しかもですね、一生徒のペットを襲って恐怖を轟かせられるのでしょうか。ネズミには恐怖を轟かせられるかもしれませんが、それは私の功績ではなくネロの功績になりませんかね? いえ、言っても無駄ですよね。わかります。パーシーさんは人のお話を聞かない人のようですからね。ええ、本当にはた迷惑な方ですね。

 私、このままこの場からいなくなってもいいような気がしてきました。お友だちのご家族ですので、悪印象は払拭したかったですが、パーシーさんのこのご様子だと無理だと感じました。ええ、無駄な努力ってあると思いますよ。私がパーシーさんと仲良くなれることは……多分うんと先の未来ならあるかもしれませんが、今は無理です。だって私、今とってもお菓子が食べたいのですよ!

 とってもいい匂いをさせる糖蜜パイですとか、アイシングでデコレーションしたクッキーですとかを紅茶と一緒に食べたいのですよ! せっかく屋敷しもべさんたちが用意してくださったのですから、美味しいうちに食べたいと思ってしまうのも仕方ないですよね? パーシーさんのお話よりも優先したいと思ってしまっても、私とパーシーさんの親しさの度合いから言ってもおかしくないですよね?

 

 じっとカゴの中を私が見ていましたら、パーシーさんの手がカゴに伸びてきました。え? なにをなさるおつもりですか!

 

「この菓子だって、賄賂か何かなんだろう!」

「え、な、なにをするんですか!」

 

 私が食べたくていただいてきたお菓子ですよ! そりゃあお裾分けはするでしょう。だって屋敷しもべさんたちはたっぷりとくださいましたし。ですが、基本は私が食べたいからなのですよ! そんなお菓子をパーシーさんがカゴごと奪い取ってしまいました。身長差故でしょう。高く掲げられたカゴに私の手は届きません。ジャンプしても無理です。

 

「これは僕が処分する。フレッドやジョージに君から渡されてはかなわないからな」

「そんな! それは私がいただいてきたものですよ! パーシーさんもお菓子が欲しいのでしたら厨房で頼めばよろしいじゃないですか!」

「菓子が欲しいだなんて言っていないだろう! 僕はこの菓子を賄賂として渡されたくないだけだ!」

「賄賂にだなんてしません! 私が食べたくてもらってきたのです!」

 

 食べ物の恨みは恐ろしいのですよ! 私は精一杯威嚇するようにパーシーさんを睨みます。だって私のお菓子! 許すまじなのですよ!

 端から見るとですね、多分とっても子供の喧嘩のようになっていることでしょう。でもいいのです。だって私はまだ12歳の子供ですから。12歳の子供がお菓子を盗られて怒ってもなにもおかしなことはないです。そうですよ、だって本当に食べ物の恨みは恐ろしいのですからね!

 

「キャシー? そこでなにしているの?」

「え? あ、セドリック、くん……」

 

 そうなのです。私とパーシーさんは厨房の近く、つまりハッフルパフの寮のほど近くで小一時間ほど口論を繰り返していたのです。だいぶ声が大きくなっていましたし、内容も内容なので大変大人気なかった自覚はあります。それが煩かったのでしょうね。セドリックくんが現れたのです。色々とご確認のために。そうなのですよね、実は歩いている方が誰もいなかったわけではありませんので。先生方を呼ばれずに済んでよかったですね。

 でもごめんなさい。セドリックくんにはとってもご迷惑をおかけしてしまいました。でもあなたの仲裁は忘れません。そうなのです。セドリックくんが、とっても素敵にパーシーさんを言いくるめてくださったのですよ。そのお陰でですね、私の手にもしっかりお菓子が戻りました。ホクホクです。あ、ちゃんとセドリックくんにもお菓子のお裾分けをしましたよ。

 なんだかセドリックくんにしなくてはいけないお礼がたくさん溜まってしまっているような気がしますね。今回のこと、それからお誕生日のプレゼントも含め、クリスマスには奮発してなにかお贈りしなくてはダメですね! 感謝はたくさん示さなけれはダメですからね! 本当にありがとうございます、セドリックくん!


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