ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その30

 よく晴れたとても清々しい日ですが、私眠いです。とっても、とっても眠いです。ちょっとでも油断すれば眠ってしまいそうなほどに眠いです。

 今日の私はとっても寝不足なのですが、こんな日に限って魔法史の授業がありました。いえ、授業では眠らないですよ? ですが寝てしまいそうなくらいに先生のお声が平坦すぎました。まるで子守唄のようでしたよ……。

 ですがそこは気合いでなんとかしまして、今はお昼なのです。やっぱりまだ眠いですが、ここはちょっと濃いめの紅茶を飲みまして、乗り切るつもりです。だって私は寝不足ですけれど、今とっても幸せですから! 元気自体は普段の100倍くらいあるのですよ!

 

 私が幸せな理由、それはもちろんお父様からのお手紙故です。

 昨夜は動揺しすぎてしまい、ベッドの上で大分悩みましたがお手紙自体は読めました。その所為で寝不足なのですが、お手紙にはとっても嬉しいことが書いてあったのですよ!

 私ですね、お父様に……いいえ、お父様だけでなく、お母様にもドラコにも嫌われてなかったのです! それを私に教えてくれたのも、もちろんお父様からのお手紙ですね。

 

 お手紙の内容は学校での私を案じる言葉ですとか、労わるような言葉がたくさんありました。私の手紙にずっとお返事がなかったのも、大広間で私が家からの手紙を受け取らずに済むようにと心配してくださったからとありました。『グリフィンドールにいるマルフォイ家の娘』を心配してのことだったのですよ。お手紙がなかったことはとても寂しいことでしたが、こうしていただけたことで相殺ですね。

 このお手紙も、荷物もその理由からスネイプ先生へと一旦送られたそうです。スネイプ先生にはご迷惑になりますが、先生を通すことで周囲には知られ難くなるから、と。お手紙はとても嬉しいのですが……いいのでしょうか。

 スネイプ先生、とってもお疲れだったように思えるのです。ちょっとだけ思いました。お父様はこのお手紙以前にもスネイプ先生へと何某かのお手紙を送っているのではないか、と。それも私絡みで。多分間違いではない気がしますね。日に日にスネイプ先生のお顔が強くなっていましたし。本当にお父様はどのようなお手紙をスネイプ先生に送っていらしたのでしょうかね?

 私には内容まではわかりませんが、いただけたお手紙がとっても嬉しいので深く考えることができません。そうなのです。たくさんの心配もとっても嬉しいですが、このお手紙の最後は『クリスマス休暇に帰ることを待っている』と締められていたのです。

 私、クリスマスにお家に帰っても大丈夫だとわかったのです。それを喜ばずにはいられません。もちろんその手紙を全面的に信じるべきかもわかりません。ですが家族を信じず誰を信じろというのですか。

 私は家族の未来を憂いてはいますが、信じているのです。いえ、信じたかったのです。私は愛されているのだと。それを感じさせてくれたあのお手紙をどうして信じずにいられるというのでしょうか。

 読み込んだ手紙の言葉に天にも登るほど喜んでしまう私は、とっても単純でしょうけれども、いいのです。だって私は家族が大好きなのですからね。

 

 ちょっとだけ眠気が薄れた昼食の後は変身術の授業です。

 教室内に整然と並んだ机の上には今日取り組む課題があります。ちょろりと長いしっぽをしたネズミさん。ヒクヒクとおヒゲを動かしています。こうしてみるとネズミさんも可愛いのですね。

 今日から新しい課題としてですね、ネズミを嗅ぎたばこ入れに変える呪文を習うのです。初回説明の今日、皆さん一生懸命お話を聞いています。いえ、私も聞いていますが、ちょっとだけ心が幸せでどこかに行っているだけです。……ダメですね、授業は真面目に受けなくてはいけませんね。

 私も真面目にマクゴナガル先生のお話を聞きまして、杖を取りネズミさんと向き合います。杖の振り方、呪文、変えたい物の形。それを思い浮かべて一振りすれば──嬉しいことに1度で成功しました。

 今机の上にあるのは可愛らしいネズミさんではなく、お父様のコレクションの1つである嗅ぎたばこ入れがあります。

 青い楕円形の缶のそれは、繊細な細工のされた時計が中央に、その周囲は宝石や金で彩られています。とってもとっても高そうな代物ができてしまいましたね。ですがこれ、開けて大丈夫なのですかね? 元はネズミさんなわけですし、蓋を開けたらネズミさんが怪我をするとかはないですよね?

 考えてしまうと怖いことが浮かんでしまうので、私はできあがったそれを触ることなく静かに待ちます。ええ、良い子で待つのですよ。なんて考えておりましたらアリシアさんが声をかけてくださいます。

 

「キャシー、もうできたの?」

「え、あ、はい。できましたよ」

「え、ちょ、これすごい細かい細工なんだけど……本物じゃないの?」

「ちゃんとネズミさんですよ。きっとお父様のコレクションを思い浮かべたからですね」

「あー…明確なイメージが必要、なんだったわね」

 

 アリシアさんは私の言葉にちょっとだけ眉を寄せ、ご自分の前のネズミさんと向き合い杖を構えます。まだネズミさんはそのままの状態です。多分嗅ぎたばこ入れが明確にイメージできなかったのでしょうね。どのご家庭のお父様方が皆さん嗜んでいるわけではないでしょうし。ちなみにうちのお父様は嗜みませんよ? あれ、鼻に直接たばこの粉末を塗るものなので、見た目がイヤなのだそうです。確かに私も見たくありません。お父様のお鼻の下に茶色い粉末がびっしり、なんて。

 などと考えながら、私は教室内を見回します。

 私の席の近くにはアリシアさんはもちろん、アンジェリーナさんにフレッドくん、ジョージくん、リーくんがいらっしゃいます。皆さん一生懸命に杖を振るっています。というか皆さんまだできていませんね。しっぽが生えたままだったり、頭がそのままの残っていたりしているようです。……私はどうしてこんなに早くできたのでしょうかね? いえ、きっとマクゴナガル先生の補習のお陰ですよね。

 

「カサンドラ・マルフォイ。出来たのですか」

「あ、はい。できました」

「──素晴らしい。とても精緻な細工ですね。他の皆さんもご覧なさい。素晴らしい出来ですよ」

 

 そうおっしゃったマクゴナガル先生は嗅ぎたばこ入れを持ち上げて皆さんに見えるようにします。ええと……こんなことも初めてです。マッチを針に変える呪文の時でも、それなりに早くできましたが見本にはされませんでしたから。いえ、多分針が一般的なものではなかったからでしょうけれど。私、マッチを針は針でも畳針に変えたようなのですよね。自覚はなかったのですが、小さなマッチが15センチほどもある針に変わるとは思いませんでした。いえ、でもきちんとできていると褒められはしましたよ?

 

 皆さんはマクゴナガル先生の手にある嗅ぎたばこ入れを見て、また杖を振り出します。先生は机の上にそれを戻しながら「グリフィンドールに1点」とおっしゃいます。ええと、私が点をいただいていいのでしょうかね? ちょっとだけ不安になりましたが、贔屓はなさらないマクゴナガル先生なのです。余計な心配はしなくてもよいですよね? ここは素直に喜ぶのが良いですよね? なんて言い訳をしてみますが、私の頬はとっても緩んでいることでしょう。だって褒められて嬉しくないわけありませんからね。

 

 お家からのお手紙を読み、とっても幸せな気分でいたら授業で褒められて、余計に幸せな気分になれた今日も1日終わりです。マクゴナガル先生との補習でも、なんだか進んだような気すらするほどです。といってもまだまだアニメーガスは遠い存在ですが。

 早くアニメーガスになりたいところですが、それは時間がかかって当たり前のことなので焦ってはいけません。どちらかというと私が焦るべきはヴォルデモートさん関連のこと、なのですから。などと考えながら、私は寮まで歩いているのです。ちなみに本日はフレッドくんとアリシアさんとアンジェリーナさんがお迎えにきてくださいました。ありがたいことですね。

 

「キャシーはさ、変身術の補習でなにを習ってるの? 授業とは関係ないこと、なんでしょ?」

「それ、私も気になるのよね」

「今日習ったところを教えてもらってたわけじゃないんだろ?」

「ええ、授業自体の補習はしていただいていませんよ。その、私、どうしてもなりたいものがありまして……」

 

 今まで話していませんでした、変身術の補習理由を聞かれてしまいました。話すことに否やはないのですよ? ないのですが猫になりたいのです! 猫になってネロと遊びたいのです! なんて正直に言うのは少し恥ずかしいのです。ちょっとだけ言葉を濁してみました。が、逆に興味を引いてしまったような気がします。なんでしょうか、アンジェリーナさんのキラキラした目は。

 

「それ、すっごい興味があるんだけど!」

「ええと、その」

 

 アンジェリーナさんに詰め寄られる私の隣、アリシアさんとフレッドくんは気づいたようです。

 

「変身術でなりたいものって言ったら……アレよね」

「アレには俺も興味あるけど、アレって難しいんだろ? キャシーでもそんなにすぐにはできないだろうし、俺じゃ無理かな」

「え、アリシアもフレッドわかるの? ええ! ちょ、私にも教えてよ!」

「アニメーガスよ。アンジェリーナも聞いたことくらいあるでしょ」

「そ、魔法省に7人しか登録されてないっていう、貴重な魔法。人が動物に変身するってやつだから……キャシーは、猫になりたいんだろ?」

「ええと、その、そこまでわかりやすいですか?」

「だってキャシー、ネロのこと大好きだろ。アニメーガスになって、ネロと遊びたいんだろうなって思っただけ、だよ」

 

 ちょっとだけ困ったように笑うフレッドくんと、ちょっとだけ呆れたような顔をするアリシアさん。そしてとっても羨ましそうな顔をするアンジェリーナさん。そしてちょっとだけ隠しておきたかった理由がまるっとバレてしまっている私。なんでしょう。とってもカオスな気がします。

 

「私も! 私もアニメーガスになるための補習受けたい!」

「ああ、それいいわね」

「あー…でもそれなら、ジョージもリーも受けたがるんじゃね?」

「え? え? それって」

「決まってるでしょ?」

「俺たちみんなで補習を受けて、アニメーガスになるってこと、だよ」

「そうと決まれば、私マクゴナガル先生のところに戻るわ。私たちもキャシーと一緒に補習が受けたいって伝えてこなくちゃ」

「あ! それ私も行く!」

「え、ちょ、それなら俺たちも受けるって伝えておいてくれよ。俺から2人には言っておくし、どうせ受けるに決まってるしな」

「そうね、じゃあそれも伝えておくけど代わりにしっかりキャシーを連れ帰っておいてよ? 今日のその子、寝不足みたいでフラフラしてるから」

 

 私が口を挟む隙もなく、3人の中でお話は決まったようで、アリシアさんとアンジェリーナさんは元きた廊下を戻っています。その場には私とフレッドくんだけが残されることになりました。

 

 皆さんと一緒に補習を受けられるのは嬉しいことです。ですがいいのでしょうか。アニメーガスってとっても難しいのですよね? 皆さんのお時間の無駄にならないといいのですが……というかですね、もしかしてアレですか? 今日の補習のように、耳やしっぽが中途半端に生えた私を見られるということなのでしょうか……。ちょっと、いえ、大分恥ずかしいのですが。


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