ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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ご令嬢は家族が大好きです。
その29


 ダンブルドア校長とお話をしてから少し時間が経ちました。そうなのです。ハロウィンも終わりましてもう11月ですね。時間が経つのは早いものです。

 ハロウィンの日は、朝からしっかりと授業をしまして、お夕食でとってもかぼちゃかぼちゃしい食卓を囲みました。お飾りもハロウィン仕様で天井からはジャック・オー・ランタンがたくさん吊るされていましたね。

 食後に談話室で魔法薬学と魔法史のレポートを仕上げ、『ホグワーツの歴史』を読んでいたのですが……なんだか色々な方に声をかけられましたね。ええ、毎回『Trick or treat!』とお菓子を要求されたのです。いたずらがイヤでしたので、もちろんお菓子を渡しただけなのですがね。校内中がお祭り騒ぎになっているようですね。私がマルフォイ家の娘であろうと構わず声をかけていただけているようで、少しだけそれが面白かったです。

 大抵お声をかけられて振り向いてようやく私と気づかれるようなのですが、そんな方にはすぐにお菓子と笑顔をお渡ししてお引き取り願っています。はい、面と向かって嫌味を言われたくないが故の予防策ですがなにか?

 ちなみに朝起きてすぐ、談話室に降りたところでフレッドくんとジョージくんとに捕まりまして、お菓子を持っていなかった私は悪戯されました。……仮装、させられることになったのです。あ、もちろん無理やりお2人に着せられたわけではないですよ? 同じ無理やりでも、無理やり持たされたのです。衣装を。今夜のハロウィン・パーティーの後でいいから談話室で着てね! なんて笑顔つきで。断れませんでした。ですので、パーティー後の寮の談話室で、私は仮装しました。

 黒いショートパンツとなんだかピタリしたこれまた黒いトップスのセットに、黒いタイツと黒猫耳に黒猫尻尾でした。しかもネロとお揃いの青いリボンを模したのでしょうね。青いリボン型のチョーカーがついておりました。……着ましたよ? 着ましたけれどどうして私1人だけが仮装していたのでしょうか。それだけが未だに納得できないのですが。そしてですね、きっとこの仮装の所為? お陰? で、私だと気づかれなかったのでしょう。……よかったのでしょうかね、それとも悪かったのでしょうかね。わかりません。

 

 そんな風にハロウィンでの出来事を思い出す私の目の前には、とっても綺麗な火花が飛んでいます。はい、今日は11月5日。ある意味でお祭りです。特にフレッドくんとジョージくんのイキイキ加減がありえないくらいだと思います。なんでしょう。水を得た魚のようです。

 本日11月5日は日曜で、授業がありません。そんな日の朝からお2人はとっても楽しそうに花火を飛ばして、校内中に火花を散らしているのです。比喩でなく物理的に。ちょっとだけ火事になってしまうのではないかと不安になるくらいです。

 

「あの2人は朝から元気よね」

「そ、そうですね。ですがいいのですかね?」

「あ、校内での花火? 大丈夫じゃないかな。多分だけど」

「いえ、多分では……」

「しかたないよー! だって『ガイ・フォークス・デイ』なんだもん! それにあの2人なら火事にならないようにしてるんじゃないかな」

「そうね、あの2人なら悪戯に命をかけてるだろうけど、それで死ぬつもりはなさそうだものね」

 

 ガイ・フォークス・デイとは、本来は悪いことをしたガイ・フォークスさんのお人形を市中引き回しの刑に処しながら、爆竹や花火を打つようなお祭りです。が、魔法界ではもう人形は全く使われておらず、花火や爆竹だけのようですね。……いえ、それだけで十分な迫力ですが。

 遠目でフレッドくん、ジョージくん、それから巻き込まれて花火に追いかけられているリーくんを見ながら、私たちはお茶をしています。はい、安全圏に避難中なのです。

 それというのも、爆竹や花火をすぐそばで鳴らされ、私は涙目になってしまったのです。いえ、だってとってもびっくりしたのですよ! 本当にすぐ近くで『バーン!』と破裂したのですよ! 泣きたくもなります!

 

 というわけで、そんな私を彼らのところから引き離してくださったのがアリシアさんとアンジェリーナさんです。ちなみにですね、セドリックくんもいます。彼も逃げてきたようですよ。

 

「そういえばセドリック、もうすぐクィディッチの試合でしょ? あなたどっちを応援するつもり?」

「え、それは……グリフィンドールの予定だけど」

「あ、やっぱりセドリックもスリザリンは苦手なんだね」

「まあ、セドリックはスリザリンの方になにかされたのですか? もしそうならおっしゃってくださいね、私スネイプ先生に直談判します」

「え、や、そんなことはないよ。大丈夫。そうじゃなくてさ、グリフィンドールとスリザリンだったら、友だちがいる方を応援したいっていうだけ、だよ」

 

 ちょっとだけ慌てたように、セドリックくんが言います。そうですよね、自寮が出ていないのでしたら、知り合いの寮となりますよね。でしたら私もレイブンクロー対ハッフルパフ戦の際はハッフルパフを応援しましょうね。……お友だちに変化は未だありませんし。

 ですが無理にお友だちを増やそうとは思っておりません。お友だちって自然と増えていくはずのもの、ですからね。まあ、私はマルフォイ家の娘というネックがありますから、とっても難しいと思ってもいるのです。普段の私を見て判断していただければいいな、とも思いますけれどね。

 

 4人でお茶を飲みながら、まったりと過ごして『ガイ・フォークス・デイ』は終わりました。流石にお夕食の時間にはフレッドくんも、ジョージくんも花火や爆竹を取り出すことは止めたようですね。よかったです。本当にびっくりしてしまいますから。

 なんてことを考えながら大広間から寮へ戻ろうとしたのです。ですが私、スネイプ先生から呼び出されました。おかしいですね。宿題のレポートですとか、補習を忘れたなんてことはないはずなのですが。それになにかを誰かに渡して欲しいともお願いしていません。いったいなんのお話でしょうかね?

 

 スネイプ先生の研究室である、地下の魔法薬学教室のお隣。やっぱり暗いですが、大分慣れました。さっくりと到着して、ノックをします。中からいつもとは違うとっても渋い声で入室の許可がおります。お機嫌悪いのでしょうかね?

 

「失礼いたします。スネイプ先生、どうかなさったのですか?」

「座りたまえ」

 

 開口一番に伺ってみたのですが、椅子を示されるだけ、でした。ええと、本当にどうなさったのですかね。とっても、とおっても渋いお顔をされています。

 私が椅子に座ると、逆にスネイプ先生は立ち上がり、なにかを持っていらっしゃいました。スネイプ先生の腕でようやく抱えられるほどの大きさの荷物、ですが……いったいなんでしょうか?

 ドサリと随分重たい音を立て、その荷物は机の上へと下されました。机、大分揺れましたよ。疲れ切ったようなため息をついたスネイプ先生は、私を見ないままおっしゃいます。

 

「お前のものだ。さっさとそれを持って帰ってくれ」

「え? いえ、いったい誰から……」

 

 問いかければ睨まれました。それでわかりました。はい、家からですね。というかお父様から、でしょうか。申し訳ありません、スネイプ先生。

 心の中でいっぱい謝罪をしながら、私はその荷物を持ち上げようとしました──が、持ち上がりません。お、重いのですよ! いったいなにが入っているというのです? お父様、本当にこんなものをどうやって送ったのですか! 梟さんが、スネイプ先生が大変ではないですか!

 などと憤ってしまいますが、早くこちらを持ち帰らねばなりません。どうすればよいか、は考えずとも浮かびます。はい、呪文を唱えて運べばよいのですよね。

 

「ロコモーター!」

 

 荷物を見つめて唱えたからですかね。特に名称を言わずとも浮いてくれました。いいですね、これ。力が全くいりませんよ。

 私は浮いた荷物をちらりと見てから、スネイプ先生へと向き直ります。退室の挨拶は大事ですし、心からの謝罪をしなければダメ、でしょうから。

 

「スネイプ先生。このたびはご迷惑をおかけしました。ありがとうございます」

「構わん。それがこの部屋からなくなるのであればなんの問題もない」

「そ、そうですか……ええと、では失礼いたしました」

「ああ、そうだ。カサンドラ、ダンブルドア校長がここ最近頻繁に外出をしているが──理由を知っているか?」

「い、いいえ? 存じませんが……ダンブルドア校長はそんなにお出かけなさっているのですか?」

 

 な、なんでしょう。猫なで声からのこの質問は。いえ、ダンブルドア校長とは先月からお会いしていません。個人的にも、校内で見かけることもありませんでした。ですので本当に外出をしていたのかはわかりません。ですが、スネイプ先生が嘘をおっしゃる意味もないので、本当に外出なさっていたのでしょう。

 その理由と言われれば、アレでしょうとはわかりますよ。ですがダンブルドア校長がおっしゃられていないものをお伝えするわけにはまいりません。私は曖昧に口を閉ざします。ばっちりバレているような気がしますが、そこはそれです。押し切ることも時には大事なのですよ。

 

「もうよい。知っていることはわかった。それを言いたくないこともな」

「え、ええと……」

「それほど顔に出ていて、騙されるほど私は間抜けではない。が、別に深く聞くつもりはない」

「ええと、ありがとうございます」

「礼を言われる義理もないがな」

 

 ふいっと顔を背けながら、スネイプ先生はまるで猫を追い払うかのように手を振ります。退室の許可が出た、ということでしょう。それにしてもスネイプ先生はどれだけダンブルドア校長がお好きなのですかね? そんなに行動の全てが知りたいだなんて……ちょっとだけ変な目で見てしまいそうですよ? 冗談ですが。

 

 おやすみなさいとお伝えしてから部屋を出たのですが、相変わらず大広間の前に人影がありました。今日は1つだけ、ですね。

 

「キャシー? スネイプに呼び出されたにしては早いな。なんだったんだ?」

「ええ。この荷物を渡すためだったようで……」

「まあ、早くてよかったけど。じゃあ寮まで帰ろう」

 

 そう言って私に手を差し伸べるのはフレッドくんですね。そうして寮まで手を繋いで戻ったのですが、『ロコモーター』本当に使える魔法ですね。手ぶらで歩いてるも同然です。杖を掲げるくらいの労力だけですからね、すごいですね。

 談話室で荷物を開けるわけにもいきませんし、フレッドくんにもおやすみなさいとお伝えしてからそのまま荷物を部屋まで運びました。この荷物、本当になにが入っているのですかね?

 

 大きな紙包みだったのですが、開いた1番上には学用品が山のように入っておりました。闇の魔術に対する防衛術の教本、それも上級がなぜかあります。……ええと、たくさん勉強しろということでしょうかね? それとも身を守れということでしょうかね? わかりませんよ、お父様。

 その下には、また色の違う紙包みに包まれたものがありまして、それを開いたら……色とりどりのお洋服がありました。これまでよりもちょっとだけフリルやレースの少ないもの、です。これはお母様ですね。

 そして1番下にはですね、たくさんのお手紙があります。どれも封筒には入っていない、紙だけのお手紙でした。内容はと言えば、まるで日記のようなものです。はい、ドラコからの『今日の僕』が入学から昨日までの分が入っていました。ドラコ、字が上手くなりましたね。

 

 ええと、この荷物を見る限り、私はグリフィンドール寮だとしても家族と思っていただけているということでしょうか? そうだといいのですが、とそれぞれの荷物をぎゅっと胸に抱きます。ちょっと泣きそうです。ですが泣くわけにはいきませんからね、少しずつ荷物を片づけていきます。

 お母様からのお洋服は取り出しやすい位置にしまい、お父様からの学用品は机の上には全て並べます。そしてドラコからの日記のような手紙は、しっかりとまとめて引き出しの中にしまいます。見るのは明日以降にしますよ、今読んだら泣く自信が満々ですからね。

 

 そうして全ての荷物を片づけて終えて、包んでいた紙をたたみ始めたのです。が、その紙と紙の間からですね、ひらりと封筒が1つ落ちました。……ええと、お父様の封蝋がついた封筒です。な、なんでしょうか。絶縁状は入っていませんよね? 大丈夫ですよね? とってもとってもビクビクしながらですね、私は封筒を見つめるのでした。


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