ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その28

 ホークラックスのお話をしていたはずが、いつの間にかアズカバンに収容された方たちへの処遇の話に変わっていました。いえ、私がいけないのですが。でもずっと疑問だったのです。罪と罰とは等価であるべきではないのか、と。

 そんな私がポロっと零した言葉をですね、ダンブルドア校長はじっくり考えられて、一言おっしゃいました。「それはいいかもしれんのう」と。え? ええと、その、本当にいいのですかね? いえ、これは私とダンブルドア校長とのお話の中だけのことだと思うので構わないのですが、本当によいと思っていらっしゃるのでしょうか。

 

 自分で言っておいてなんですが、とっても難しいと思うのですよね。だって本当に収監された方たちが杖を持っているのでしたら、まずそれを取り上げてから忘却術を使うのですよ? そんなに簡単に杖を取り上げられるのでしょうかね? きっととっても反抗されますでしょうし、無理でしょうね。いえ、ディメンターがいればできるのですかね? わかりませんね。

 でも本当に不思議ですよね。これから脱獄する方が増えるとは言え、今はまだどなたも脱獄したことはありません。ですから収監しただけ安心できるのでしょうかね? ですが罪を、それも許されざるようなものを犯した方たちなのですよ? 私でしたら安心できないのですが。

 そもそもですね、悪いことをして収監されたのに杖を折られないということが不思議だ、とも思うのです。

 だって未成年者が魔法を使ったことが魔法省に知られたならば、1度目は警告。2度目には杖を折られ、ホグワーツを退学になるくらいなのですよ? とっても重い罰ですよね。

 私的には未成年者が魔法を使うことで起こる危険、というのは大人がなんとかするべきだと思うのです。だって大人はそのためにいるのです。大人の存在理由は子供が間違いを犯した時、叱るだけでなく、諭し、そして守るため、なはずなのです。そうでなければただ歳だけ重ねた大きな子供ばかりが増えてしまうような気がします。実際そのような方もたくさんいますしね。

 こんな風に未成年者には厳しい法があるにも関わらず、どうして成人しているからといって罪を犯したものの杖が残るのですかね? なんでしょう。癒着ですかね? イヤですね、大人って。

 

 なんてつらつらと考える私を余所に、ダンブルドア校長は何事か紙に書き出し始めました。……ええと、お手紙のようですね。ということは覗いてはいけませんね。では、淹れていただいた紅茶を飲みながら、ダンブルドア校長がお手紙を書き終わるのを待ちましょうか。ゆったりした時間が流れていますね。

 

 3枚目の紙に移ったお手紙を見て、ダンブルドア校長はなんだかとっても嬉しそうです。なんでしょうか。なにがあったのですかね? その紙の中程まで書いた頃、ダンブルドア校長は顔を上げて問うてきます。

 

「のう、カサンドラ。お主はこの魔法界で1番の忘却術の使い手は誰だと思っとるのじゃ?」

「忘却術の使い手ですか? ええと、今はそれで有名ではないと思いますが、ロックハートさん、ですかね?」

「ロックハート? ギルデロイ・ロックハートかのう?」

「はい、そうですよ。あの方の著書は全て他の方の功績なのですよね? 他の方から奪った後、忘却術をかけていらっしゃるはずですよ」

 

 と、答えましたが……あら? これはまだ世に出ていない話でしたかね? でもいいですよね。私、あの方あまり得意ではないのです。あの方の授業を受けるくらいでしたら、他のことに従事していただくのがよいですよね。ええ、多分そうなはずです。

 

 私が1人納得していれば、ダンブルドア校長はお手紙を書き終えたのでしょう。封筒に入れ、封蝋を押しています。今の問いはなんだったのでしょうかね?

 

「ふむ。今宵はよいことを聞けたのう」

「そうですか? えと、それはよかったです」

 

 笑みながらそうおっしゃっていただけて、私も一安心です。が、本当にお手紙はなんだったのでしょうかね? わかりませんがダンブルドア校長がよいとおっしゃるのですから、それでよいですよね。

 浮かべた笑みを深めながらじっと私を見つめ、ダンブルドア校長は口を開きます。

 

「のう、カサンドラ。お主がホークラックスを壊したいことはわかったが、探すことも、壊すことも無理せずすればよいじゃろう。きっと全て上手く行くはずじゃろうてな」

「そうでしょうか……。時間が足りないのではないかととっても心配なのです。その、例のあの人が復活なさったら、お父様がアズカバンに収監されることになるのではないかと思ってしまいますし……」

「家族が心配か。そうじゃろう。お主は優しい子のようじゃからのう」

 

 ダンブルドア校長はいっそう優しい笑顔を見せてくださいます。ですが私、ちょっとだけ覚えているのです。お父様がアズカバンに収監されたことを。お母様は残っていましたが。そしてそのお父様はヴォルデモートさんの手引きで脱獄するのですよ。つまりですね、罪を犯して収監されたにも関わらず、また罪を重ねてしまうのです。……マルフォイ家の名誉って地に落ちませんかね?

 いくら『間違いなく純血の血筋』で『聖28一族』に選ばれていても、世論がヴォルデモートさんを非難すれば私たち一家も非難されてしまうのは当たり前のことでしょう。私はいいのですよ。そうなってしまう可能性を知っていましたから。ですがドラコが……ドラコが蔑まれるのはイヤなのです。

 私はなんとかしてドラコを死喰い人にさせないつもりです。あの子にはなんの罪もないまま、このホグワーツを卒業してもらい、そして幸せな、肩身の狭い思いをしない結婚をしてもらいたいのです。後はハリーとは喧嘩はしても友人となって欲しいと思います。まあ、これは希望的観測なだけですが。

 

 お父様にも、お母様にも、ドラコにも幸せな未来があって然るべきだと思ってしまう私は、本当に優しいのでしょうか。だって私が欲しいのはとても利己的なお願いと同じもの、でしょう? ですからすぐに浮かんだ否定の言葉を私は言いました。

 

「私は優しくなんてない、ですよ」

「なにを言っておる。お主は優しい。そうでなければ自らを危険に曝そうなどお主ほどの年で思わんじゃろう?」

「でもそれは……それは私が知っていたから、です」

「そうかもしれんな。しかし普通の子供じゃったら、もっと早うに大人に言っておるじゃろう。そしてお主の身近な大人はルシウスじゃろう? そのルシウスに言わんかったこと、スネイプ先生を頼り、わしを頼ったこと。それが正しいとお主が思ったから──じゃとわしは思ったのだがのう」

 

 違うか、と首を傾げるダンブルドア校長に、私は口ごもります。そうです。お父様にも伝えようと思えばできました。ですが怖かったのです。私がいらないのだと放り出されてしまうかもしれない、そう思ってしまったから。

 私は家族が好きです。周囲からどう思われていようと、家族として愛していますし、大切なのです。だからそんな彼らを少しでも守れるだろう選択をしたかっただけ。全てを自分でできないから、頼れる大人を探して、それがたまたまダンブルドア校長だっただけ──いいえ、違いますね。ダンブルドア校長を私は選んだのですね。

 スネイプ先生だけでもよかったはずです。ですが、これ以上の負担をスネイプ先生に与えたくありませんでした。間接的になってしまいますが、私はスネイプ先生も助かって欲しいのです。

 

 どれもこれも私が我が儘だから生まれた願いです。行動です。子供の論理を振りかざして、正しいと主張しているだけのような気もします。それなのに褒められているような言葉をいただくわけにはいかないのです。けれど私はなんと言葉を重ねれば、自分がズルい子だとばれないで済むのか考えてしまい、なにも言えませんでした。本当に私はズルくてイヤな子ですね……。

 ちょっとだけしょんぼりしてしまう私に、またダンブルドア校長の声が届きます。

 

「それにのう、お主が優しい子でなければ、友がそばにいることを拒むのではないか?」

「え?」

「お主は先日友に祝われたのじゃろう? 厨房の屋敷しもべ妖精が言っておった。開かれたパーティーはとても楽しそうなものじゃった、とな」

 

 少しだけからかうようにウインクするダンブルドア校長に、私は頷きながらあの日のことを思い出します。

 とても幸せで、とても楽しかった。泣いてしまったのも嬉しかったからですしね。それが表に現れたのでしょう。私は笑っていました。

 

「──はい、とても、とても楽しかった、です」

「お主のバースデイを遅くなっても祝おうと思う友がいる。それは普通に過ごしていたとして得られるのか? お主はどう思う?」

「皆さんが……皆さんがとってもお優しいから、です。だから私を喜ばせてくださったんです」

「それは違うじゃろう。お主が優しいからこそ、相手も優しくなる。それが連鎖し、素晴らしい友情が生まれるのじゃよ」

 

 そう言い切って、ダンブルドア校長は紅茶を一口飲みます。多分とっても温くなっていると思うのですが、気にせずカップを傾けています。それは多分、今の私の顔を見ないため、なのでしょうね。私今、とっても泣きそうになっていますし。

 だって嬉しかったのです。それは私が優しいということではなく、素晴らしい友情が生まれるの言葉です。そうなれるといい。そうありたい。そう思えたからなのでしょうかね。とっても目が熱いのです。

 

「さあ、カサンドラ。今日はもう遅い、そろそろ寮へ帰らねば明日が辛くなるぞ」

「で、ですがまだお話は……」

「無理は禁物、じゃ。今わしの手元にはホークラックスが2つある。残りはまだ多くあるが、それを今すぐ手に入れることは不可能じゃろう? ならばわしらができるのは、次を手に入れられるように英気を養うことだけじゃろう?」

 

 にこりと笑うダンブルドア校長は、そっと私を立たせ外まで送ってくださいます。

 螺旋階段を降り、廊下に出たところでとても深く優しい笑顔を浮かべてこうおっしゃいました。

 

「カサンドラ、お誕生日おめでとう。わしもお主が生まれてきてくれたことを嬉しく思うぞ」

 

 私の頭を撫でてのその言葉。私は涙腺が決壊しないように唇を噛み締めて、堪えるしかできないのでした。

 ダンブルドア校長ったら、ひどいです。泣き顔で帰ったら、皆さんがとってもとっても心配してくれてしまうのですよ! そうしたら、ダンブルドア校長が責められてしまうかもしれないのですよ!

 なんて余所事を考えながら、今できる精一杯で笑ってお休みを言いました。ダンブルドア校長のこと、なんだかとっても、今まで以上に好きになった気がします。


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