ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その27

 眠っていた私は、アリシアさんとアンジェリーナさんに揺り起こされまして、お2人とともに朝食を食べに大広間へ向かうことになりました。ちなみにダンブルドア校長はもういらっしゃいませんでした。ご挨拶ができませんでしたね。残念です。

 

 一晩医務室にお泊まりになった私を、お2人ともとっても心配していてですね、なんだかとっても過保護になっていらっしゃいます。……私そんなにご心配をおかけしてしまったのですね。反省しなくては。

 それにですね、お2人だけでなく大広間ではフレッドくん、ジョージくんにリーくん。チャーリーさんにセドリックくんにまで声をかけていただけました。嬉しい限りです。が、ちょこっとだけ問題が起きました。はい、セドリックくんをですね、『セドリック』と呼んで、皆さんに責められたのです。

 で、お誕生日のお祝い代わりなのだとお伝えしたのですがご納得いただけず、皆さんを呼び捨てすることとなりました。私呼び捨てできますかね。もうフレッドくんはフレッドくんなイメージで固まってしまっているのですが。でもダメですね。お約束してしまいましたし、努力しましょう。

 ちなみにちょっとだけセドリックくんは涙目になってらっしゃいました。どうしたのでしょうかね? ともあれセドリックくん以外の方も呼び捨てにすることになったのですから、セドリックくんにはなにか別な贈り物をご用意した方がよいですよね。男の子ってなにを喜びますかね?

 

 などと余所事を考えながら、私は今日の授業を1日分受けてしまいました。いえ、ノートはきちんと取っておりますが、あんまり真面目に聞いた記憶がありません。これではダメですね。学生の本分は勉強、ですのに。

 授業は薬草学、変身術の二本立てだったのですが、マクゴナガル先生にも心配されてしまいました。というのもですね。本当は今夜、変身術の補習の予定だったのです。ですがダンブルドア校長とお約束してしまいました。そうなのです、私すっかり忘れてしまっていたのです。大事な補習でしたのに。

 私の体調からかと思われていたようなのですが、ダンブルドア校長に呼ばれているとお伝えしたことで、マクゴナガル先生は安心してくださったようですね。よかったです。これ以降の補習はナシです。なんて言われなくて本当によかったです。そうなってしまいましたら、アニメーガスへの道のりが遠くなってしまいますからね! 目指せ猫さんなのですよ!

 

 今日は夕食を早めに終えて、厨房で時間までいくつかお菓子を作りまして、それからネロと少し戯れて英気を養いました。そうです。お手紙に書いたお菓子を作るため、です。とっても簡単なものにしてしまいましたが。

 その作ったお菓子と手紙とを包みまして、お家へと送りました。医務室で目覚めましたので、今朝出し損ねてしまったのです。今日中には届くでしょうし、平気ですよね?

 ドラコもそうですが、お父様もお母様も食べてくださるといいですね。大丈夫ですかね? お父様はあまり甘いものを好まれませんし、お母様も体型維持のために甘いものの制限をしていらっしゃいますし……。いえ、食べてくださると思っておきましょう。そうでないとしょぼんとしてしまいそうですからね。はい、物事はよい方に考える方が幸せになれますからね。

 

 お手紙を出した梟小屋から3階まで降りて、私は校長室まで向かいます。時間的にはちょうどいい頃合いとなるでしょう。もう校長室の場所は覚えましたからね、平気なのですよ! と、思っておりましたが、そうです。私はまた合言葉を聞いておりませんよ! どうしましょう。今日もガーゴイルさんたちは動いてくださいますかね?

 とっても不安を感じながら向かったのですが……ガーゴイルさん、台座の上にいませんでした。さっくり階段が出ています。なんでしょう、このウェルカム状態は。ええと、その、ダンブルドア校長がしてくださっているということですよね? そうですよね? 自分に言い聞かせるようにしながら、私は階段を登りました。

 

 2度目のグリフィンのノッカーを鳴らします。中からですね、なんだかとっても弾んだ声が聞こえます。

 

「失礼いたします。カサンドラ・マルフォイです」

「おお! 待っておったぞ、カサンドラ」

「お、お待たせして申し訳ありません」

 

 よいよい、とおっしゃってくださいますが……どうしてこんなにもダンブルドア校長は笑顔なのですか? なんだかとっても満面の笑みという言葉が浮かぶのですが。えと、どうしたのでしょうかね?

 ちょっとだけダンブルドア校長の表情に首を傾げながら、促されるままに席につきます。また昨夜のように対面して座るのです。座った途端さっと紅茶の入ったカップを供され、ダンブルドア校長も席に着かれます。

 

「では、カサンドラ。昨夜の言っておった髪飾りを出してもらってよいか?」

「あ、はい!」

 

 ごそごそとポーチの中を漁り、ぐるぐるのアレを取り出します。はい、これで2度目のぐるぐる提出ですね。

 ぽふんとテーブルにそのまま置けば、ダンブルドア校長はまずはじっくりとそのまま見つめます。端から端まで確認したのですかね、ゆっくりとその紐を解くのです。

 布と紐とをテーブルの隅に置き、現れた髪飾りを見やります。私もそれに習い髪飾りを見るのですが、じっくり明るいところで見ると必要の部屋で見たよりもはっきり形がわかりますね。

 中央に石があります。それを彩るように鷲が彫り込まれ、なにか文字も書いてあるように見えます。……ええと『計り知れぬ英知こそ我らが最大の宝なり』でしょうか。なんだかとっても難しい言葉ですね。

 

「ふむ、ロウェナ・レイブンクローの髪飾りに相違ないようじゃな」

「ええと、ホグワーツの創設者のお1人で、レイブンクロー寮をお創りになった方ですよね?」

「そうじゃ。レイブンクロー寮にはロウェナ・レイブンクローの立像があるのじゃが、そこにあるものと同じ髪飾りじゃ。失われたと言われてきたのじゃがのう、まさかホグワーツの中にあるとは」

 

 なんだか嬉しそうに感心していらっしゃるダンブルドア校長を見つめながら、考えます。お渡ししたもの以外のホークラックスを手にするには、どうしたらいいのかを。

 私はよく覚えていないのですが、それでも記憶の中を探ったダンブルドア校長はそのありか全てがわかったようです。ここは素直にお伝えして、逆に教えていただくのがよいですよね? 多分ですがもう1つくらいなら、私でも手に入れられそうな気がしますし。

 

「ダンブルドア校長。その、昨夜は記憶をお渡ししたのですが、私ホークラックスについての記憶が曖昧なのです。その……とっても覚えていた日記ですとか、この髪飾りは場所まで覚えていたのですが他のものは……」

「ふむ、じゃがお主の記憶の中には詳細な場所まであったが?」

「その、なんと言いますか。……記憶から知識になる時に欠落してしまったというべきなのですかね? どんなものか、どんな場所にあるのだろうか、はわかるのですが詳細なものが浮かばないのです」

 

 素直にはっきり言ってみましたが……私使えないですね。なんでしょうこの残念感。自分で言っていてなんだか悲しくなってきましたよ。

 ダンブルドア校長はしばし悩まれた後、まあよいじゃろうと呟きます。お教えいただけるということですかね?

 

「ではカサンドラ。お主はどれを知りたいのじゃ? ロケットか? 指輪か? それともカップじゃろうか?」

「ええと……指輪はどこか遠いところ、でしたよね? それでは私が取りに行くことはできないと思いますので、お聞きしてもしょうがないと思います。ですのでカップかロケットではないか、と」

「ふうむ。サラザール・スリザリンのロケットに、ヘルガ・ハッフルパフのカップか」

 

 どうやらカップはハッフルパフの名がついたものだったようですね。……ヴォルデモートさんは歴史的重要物が好きなのですかね? 壊したら大変なことになりそうなものばかりなのですが、ヴォルデモートさんの選択がちょっとだけ迷惑だと思ってしまうのはダメでしょうかね?

 こくりと1つ頷いたダンブルドア校長は、まあいいじゃろう。と呟きます。

 

「サラザール・スリザリンのロケットは、今はまだブラック家の中にあるようじゃな。あの家におる屋敷しもべ妖精のクリーチャーが保管しておるようじゃ」

「ブラック家の……」

「それからカップじゃが、あれはのう難しいじゃろうな。グリンゴッツ銀行内の金庫の1つにある」

「え、ええとどなたの金庫でしょうか?」

「あー…お主の伯母にあたる人物じゃよ」

「伯母様、ですか? ええと、ベラトリックス伯母様とアンドロメダ伯母様のお2人がいらっしゃいますが……ベラトリックス伯母様ですか?」

「そうじゃ。ベラトリックス・レストレンジは随分と傾倒しておるし、お主の記憶でもそうあったしのう。間違いはなかろう」

 

 ブラック家の中にあるものも、ベラトリックス伯母様の金庫内にあるものも、私には簡単に手に入れることができませんよ。確かにお母様はブラック家出身ですが、私自身はそちらに伺ったことはございませんし、ベラトリックス伯母様にもお会いしたこもありません。本当に小さい、記憶にも残らない頃にお会いしたことがあったかもしれませんが、それでは意味がありませんしね。

 私がお父様の金庫には行ったことはありませんが、お父様は私の金庫を開いたことがあります。それは鍵をお渡ししていたからなのですが……鍵さえあれば平気でしょうか? それとも血縁でなくてはダメでしょうか? わかりませんので、聞いてみることにします。

 

「ダンブルドア校長、グリンゴッツ銀行は、鍵さえあればどの金庫でも入ることができるのでしょうか? その、お父様が、鍵をお預けした私の金庫から、私の代わりにお金を引き出してくださったことがあるのです」

「ううむ……できないことはない、と思うのじゃが、お主はベラトリックスの金庫の鍵がなんであるのかわかるのか?」

「え? 鍵とは杖のことではないのですか?」

「杖である時もあれば、違う時もある。様々なのじゃよ。しかしお主はなぜ杖が鍵だと?」

「お母様がそうおっしゃっていたのです。その、杖は一生ものである上、肌身離さず持っているものなので、人に取られることも少ないから、と」

 

 ですからお母様のお姉様であるベラトリックス伯母様でしたら、杖を鍵にする可能性もあるかと思ったのですが。間違っていますかね。そうですよね、そこまで単純なわけはありませんよね。

 

「杖のう……ベラトリックス・レストレンジの杖は本人が未だ持っているだろうしのう。難しいのではないか?」

「そう、なのですか? ベラトリックス伯母様は今アズカバンですが、あそこは杖を持っていてもよいのですか?」

「よいというわけではないはずじゃが……取り上げることは難しいのじゃろうな」

「どうして杖を取り上げないのでしょうか。その、悪いことをしたわけですよね? 悪いことをしたのでしたら、それ相応の罰が必要なはずです」

「そうじゃな。だがアズカバンに収容したことで皆安心するのじゃろう。じゃから杖を取り上げることもしないのじゃな」

 

 ですがアズカバンから脱獄する方がたくさん出ますよね? アズカバンだけではダメだという証拠だと思うのですが、それが魔法界の法律なのでしょう。

 でも、思うのですよね。悪いことをした方の記憶を奪ってしまえばもう同じことはできないのではないか、と。その、忘却術を使えば生まれたての子供のように戻るはずですから。

 

「どうしたのじゃ、カサンドラ」

「いえ、その……どうしてアズカバンに収容する方、それももう出すつもりのない方の記憶をどうして抜かなのかな、と」

「記憶を抜く、じゃと?」

「ええ。忘却術というものがありますよね? あれは記憶をまっさらの状態に戻してくれるものですよね? 悪いことをした自覚をなくしてしまうのはダメかもしれませんが、もう2度と同じことは繰り返さなくなると思うのですが」

 

 と言い切ったのですが、ダンブルドア校長は黙り込んでしまいます。ええと、私そんなにおかしなことを言いましたかね? ですが、そのくらいした方がいいと思うのです。だってアズカバン、本当に脱獄される方多いですから。

 死喰い人さんたちが脱獄しなければ、ヴォルデモートさんの勢力はとっても力が弱くなると思うのです。これは搦め手というのですかね? いえ、でも誰でも考えつくことですよね。ああ、そうですよ。もし忘却術を使うのでしたら、あの方に頼めばよいのではないですかね。確かとっても素晴らしい忘却術の使い手、なはずですから。


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