ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その24

 私がダンブルドア校長にお会いすること。

 その理由はお伝えできませんでしたが、それだけは話すことができました。フレッドくんは私がダンブルドア校長とお話ししたがっていたことを覚えていらっしゃって、納得してくれたのではないかと思います。あの時お話しした方はフレッドくんだったようですね。

 その後昼食をとりまして、ジョージくんに遊ばれました。いえ、なんだか語弊があるかもしれませんが、ジョージくんは私の髪を弄りたかったのだそうです。ええ、昨日のパーティーで見た髪型を自分もしたかった、などとおっしゃっていました。

 大分驚いたのですが、可愛かったので妹のジニーさんにしてあげたいのだそうです。妹さん思いでとっても素敵だとは思うのですよ? ですが私に声をかける前に、すでにアンジェリーナさんからやり方は伺っていたようなのです。つまり私の予定を聞く前から、決めていたということなのでしょう……。いえ、別にいいのですが、流石に夕食までの時間ずっと弄られ続けるとは思いませんでしたよ?

 

 ジョージくん作の可愛らしい三つ編みお団子ヘアにされた私は、私を迎えにきたアリシアさん、アンジェリーナさんとともに夕食へ向かいました。でもですね、あまり動いていないこと、それから少しばかりの緊張からあまり食べられなくて。お2人には少し心配させてしまったようです。笑って誤魔化しておきましたが。

 はあ、なんだか胃がキリキリするのですがそれは無視します。ちょっとだけお腹をさすりながら一旦お部屋に戻ります。

 

 かさりと開いたのは、不死鳥さんが持ってきてくださったお手紙です。はい、ダンブルドア校長からのお手紙なのですが、そこには「午後8時に校長室へ」とあります。8時までまだ1時間と少しありますので、私は書きかけの手紙を仕上げてしまうことにします。初めの部分しか書けていませんでしたからね。

 静かに机に向かい、文字を書き連ねます。毎日たくさんのことがありますが、お父様たちに伝えられることというと実はそう多くありません。流石に泣いてしまったことなどは言えませんし、ダンブルドア校長にお会いするとも言えません。ましてあの日記をダンブルドアに渡しましたなんて以ての外です。

 家族に秘密を作るのは本当に心が痛いです。お友だちにも秘密ばかりですし……。

 

 ダンブルドア校長に相談してみましょうかね? お友だちに悩むことを相談しても大丈夫か、と。いえ、ダメだとはわかっているのですよ? わかっているのですが、それでも正直なところ言って心を軽くしたいと思ってしまうのです。

 多分私は欲張りなのです。秘密を持ちたくない。話して嫌われたくない。でも話さないで嫌われたくもない。秘密なんてなくしてしまいたい。でも危険なことに巻き込むだろうとわかっているのに、そんなことはしたくない。堂々巡りなのです。

 

 こんな風に迷っていることもご相談してみましょうか。ダンブルドア校長は聞いてくださるでしょうか。なんてため息まじりに考えながらも手は動き、手紙は完成します。

 

『親愛なるお父様、お母様、ドラコへ

 

 お父様、お母様、ドラコ、皆お元気ですか?

 カサンドラは元気です。

 毎日たくさんのお勉強をして、お友だちとお話をして、楽しく過ごしております。

 ホグワーツでのお勉強は、お父様がたくさん教えてくださったことで遅れることなくついていくことができています。お父様、ありがとうございます。

 

 お母様、お母様が用意してくださったお洋服は皆さんとても可愛いとおっしゃてくださいます。ですが、休日にお勉強をする時、少しだけフリルが気になってしまうのです。もう少しだけシンプルなお洋服を送っていただくことはできますか?

 せっかくお母様がご用意してくださったものを汚したくはないのです。面倒でなければ、お母様に選んでいただきたいのです。

 

 ドラコ、お父様やお母様の言うことを聞いて、よい子にしていますか? 私は毎晩ドラコの今日の僕を聞けないことが少しだけ寂しいですよ。でも、クリスマス休暇にはお家に帰れますので、頑張りますね。ドラコも私を待っていてくれると嬉しいです。

 

 それからお父様、実は先日私の誕生日が過ぎているのにお友だちが私のためにバースデイパーティーを開いてくださいました。

 お友だちの皆さんからたくさんの嬉しいことをしていただいて、とってもとっても私は幸せでした。ですからその幸せをお父様やお母様、ドラコにお裾分けしたいと思いました。

 お喜びいただけるかわかりませんが、パーティーで出したものと同じお菓子をお送りします。その、私が作ったものになるので、お父様方のお口に合うか心配ですが、お友だちは皆さん美味しいとおっしゃってくださいました。お父様方が喜んでくださるとよいのですが……。

 

 少々長くなりましたが、今週もとても楽しく、そして幸せな時間を過ごすことができました。お父様たちはどうでしたか?

 私はお父様たちもそうだといいと願っています。

 お父様、お母様、ドラコが幸せでないと、私はとても悲しくなってしまいますから。

 

   愛を込めて  カサンドラ

 

 P.S

 直にハロウィンがきますね。その頃に合わせて、またドラコにお菓子を送りたいと思っています。悪戯をされないためのお菓子に使うようにと言づけください。』

 

 インクが乾いてから折りたたみ、封筒へ。封蝋をして後は出すだけですが、流石にこれから校長室へ向かうのに出せません。だって疑われてしまいますからね。可能性は少しでも減らしておかなくてはダメなのです。これは明日の朝一に出しましょう、と引き出しにしまいます。

 もう頃合いでしょうか? お約束の時間に遅れぬように校長室へ向かうことにします。ですが……お手紙には合言葉は書いてありませんでした。どなたかが開けてくださるということなのでしょうかね? ちょっとだけ心配です。

 

 

 グリフィンドール寮から階段を下り、3階へ。2体のガーゴイル像が扉を守る場所が校長室への入り口です。が、どなたもいません。ええと、合言葉はなんでしょうか? お菓子……お菓子の名前なのでしたよね? 今はなんのお菓子なのでしょうか?

 

 悩むからですかね。じっとりガーゴイル像を見つめてしまいます。いえ、見つめたところで意味がないとはわかっているのですが……。本当にお手紙には書いていませんでしたよね? 確認のためにお手紙を出します──が、やはりありません。では試しになにか言ってみましょうか?

 私は幾つかのお菓子の名前を浮かばせます。何度言っても大丈夫なのですかね? わかりませんが試す価値ありですよね? はい、きっとそうです。と納得している間に、ガーゴイル像さんはぴょんと台座から降りていました。

 

「え? 合言葉はいいのでしょうか?」

 

 ポツリと呟きますが答えは返りません。ええ独り言です。寂しいです。が、遊んではいられません。

 ガーゴイル像さんが脇に避けたことでなのでしょう。扉が開き、そこに階段が現れます。この階段の先が校長室、なのでしょうから、急ぐべきです。なにがキーとなって開いたのかはわかりませんが、いいのです。これで間に合うのですからね。

 

 螺旋状になって階段を登りきると、そこには樫の木でできた大きな扉が1つ。ノッカーの形が……ええと、グリフィンでしょうか? なんでしょう。ダンブルドア校長はグリフィンドール推しだという主張でしょうか? などと思いながら、ノッカーを鳴らします。

 ああ、ドキドキするのです。中から応えの声が聞こえるまでのこの数瞬間が1番緊張します。これは絶対に私が人の部屋を訪ねる経験が少ない所為ですね。私、未だにご在宅中のお父様のお部屋に訪ねる時は緊張しますから。

 

 ちょっとばかり余所事を考えて、緊張を解そうとしたのですが、それが解れるよりも前に中から声が届きます。ゴクリと喉を鳴らしてから、私は扉を開けました。うう、心臓が口から飛び出てしまいそう、なのですが!

 

「し、失礼いたします」

「おお、来たか。お主がカサンドラ・マルフォイじゃな」

 

 好々爺然としたおじいさま。ダンブルドア校長がいらっしゃいます。こんな間近で見るのは初めてですよ! ちょっとだけミーハーになってしまいますが、仕方ありませんよね?

 

「ほれ、そこに座りなさい。今お茶を入れよう」

「い、いえ。お茶は……」

「いいからの。座って待つのじゃ。話は長くなるだろうしのう……」

「わかり、ました……」

 

 態度はトゲトゲしくはありません。けれど彼は老獪な方と言えなくもありませんから、言葉の柔らかさでそれはわかりませんよね? 私はそっと椅子に座りながら考えます。

 ダンブルドア校長と対立してもなんの意味もありません。むしろ状況は悪くなるでしょう。でしたら私にできることは1つだけ。全てを話し、そして彼の考えに協力すること。そうすれば私の家族も、きっと私も今よりもマシな未来になれる──そんな気がするのです。そこまで上手くいくかなどわかりませんけれど、それに縋りたいのです。

 自分の心を決めたことで、僅かですが緊張は薄れました。

 

 ダンブルドア校長はカップをテーブルに置くと、私の真正面に座り、そして笑います。何度も見たことのある人の良さそうな笑顔です。

 

「さて、スネイプ先生経由でワシのもとに届いたこの日記。お主はこれが何か知っているのか?」

「はい、知っています」

「そうか。ではここにあった名も、知っているということかの」

「はい……。その、『T・M・リドル』トム・マールヴォロ・リドル──後に例のあの人(・・・・・)になる方、です」

「ふむ……では聞くが、これをワシに届けた理由は?」

「それは……」

 

 真っすぐにこちらを見る目はとても怖いです。とても強く、偽りを許さないと言いたげで、偽るつもりがなくとも心が震えるほどです。

 私に言えることは、全て言ってしまうつもりです。が、それが信じていただけるのかわからない。だから余計に怖く感じるのでしょうか。私は迷うように一度目を伏せます。

 

 ここで言わないままだったとしても、きっとダンブルドア校長はホークラックスの存在に気づくでしょう。ですがそれでは私たちマルフォイ家の評判は地に落ちたままになるでしょう。それはイヤなのです。ならば私にできることを──

 

「それはホークラックスです」

「ホークラックス……分霊箱であると、何故お主は知っておるのじゃ? アレに対する書籍はこのホグワーツにはないはずじゃが、どこかで見たのかのう」

「……いいえ、見たことはありません。ただ、知っているのです。ホークラックスの作り方や、あの人のそれがいくつあるのか、どれなのか──を」

 

 じっと私を見るダンブルドア校長。私も彼を見つめ返し、そして願います。お願いです。私の言葉を、全てではなくていいので信じてください。言葉に出せない代わりに、熱くダンブルドア校長を見つめます。

 私はただ、守りたいのです。家族を、私を、私を取り巻く全ての人を。大それたことなんて言いません。私にできるかどうかもわからないのですから、言えません。だから願うのです。守るために私を信じてください、と。

 なにもできない私にできる、唯一のことはこうして願うことだけ、なのでしょうね。


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