ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
ええと、ですね。ジョージくんのお陰でしっかり思い浮かべることができたのでしょう。さっくり髪飾りは私の手に入りました。
私の元にきた髪飾りは、なんだかティアラのような形をしているように見えます。が、「アクシオ」できたのですからこれがきっと髪飾りなはずです。でもですね、長い間放置されたからですかね? ちょっとだけ黒ずんでいて、埃まみれなのです。なんだか可哀想ですね。
私は持っていたハンカチで、その黒ずみや埃が少しでも消えるように綺麗にすることにしました。もちろん力入れませんよ、傷がついてしまったら大変ですからね。はあっと息を吹きかけて、磨くのです。
一通り磨きましたが……あんまり落ちた気はしません。が、いいのです。そもそも全ての汚れが落ちるとは思っていませんでしたし、多少は綺麗になっていますからね。
さて、髪飾りが手に入りましたので、ここで取りいだしたるものものはと言えば。そうです。適当な布とですね、紐です。あ、ロープでも可ですが、今私のポーチに入っているのは布と紐だけで今日は紐を使います。
この2つであの日記と同じようにぐるぐるにするのですよ。ロウェナ・レイブンクローさん、ごめんなさい。とちょっとだけ謝りながらです。
2度目だからですかね。手際よくぐるぐるすることができまして、正味5分ほどでしっかり包み込めました。元の形を壊さないようにと気を使ったからですかね、ちょこっとだけ不恰好ですがいいのです。これで一安心なのですから。
さて、パッと見てなんだかわからない状態にしましたこちらは、もちろんポーチの中にナイナイしてしまいます。はい、お外に出てジョージくんに聞かれても答えられませんからね。マズイものは隠してしまうに限るのです。見えなかったらないのと同じですからね。ぽいと仕舞い込んで、ポーチの口をキュッと閉じて、私は身だしなみを整えてから扉に向かいます。
本当はですね、ちょっとだけ堆く積み上がったものが気になりますが、私に必要なものはこの中にはないはずですからね。気にしちゃダメなのです。そう言い募りますが、後ろ髪をとっても引かれます。が、ダメなものはダメなのです。意思を強く持ちまして、私は扉を開くことにしました。
薄明かりだった室内とは違い、廊下は明るいですね。きょろりと見回せば、増えています。ええと、ですね。扉のすぐ近くに寄りかかるジョージくんと、そのお隣にフレッドくんもいるのです。どうしてお2人になっているのですか? 待ち合わせでもしていらしたのですか? なんて思ってしまいます。
「あ、キャシー! 終わったの?」
「ええと……はい。終わりましたが、その、どうしてこちらに?」
にっこりと笑って私を見るのはフレッドくんですね。その隣で含み笑いのような感じで微笑んでらっしゃるのはジョージくんでしょうか。その微笑みはなんでしょうか。
「ジョージがキャシーを待っているって言うからさ。俺も待ってみたんだ。用事、もう終わったなら散歩でも行かないか?」
「お散歩ですか? でももうすぐお昼ですよね?」
「あ、ああ。そうだな。昼メシの時間になる、かな」
「フレッド、キャシーはご飯を食べるのが好きだし、遊ぶのは俺とが先。だから今日は諦めなよ」
「いや、でも……」
なぜか言い淀むフレッドくんです。というかですね、遊ぼうねとは言われましたが、私いいと言いましたっけ? ……よく覚えていませんが、言ったのですかね?
正直ですね。男の子と遊んだ記憶はあまりありません。ドラコへの対応と同じでいいのですかね? などと考えている間に、フレッドくんとジョージくんはお互いにお話が終わったようです。どうなったのでしょうかね?
「キャシー、昼メシの後はジョージと、俺とは夕飯の後に談話室でいいから少し話そう?」
そうですか、そんな風に決まったのですか。でもですね、夕食後は私、ダンブルドア校長にお呼ばれしているのです。……なんと言ってお断りすれば角が立たないのでしょうかね。
ちょっとだけ迷いながらフレッドくんを見上げます。なんだかキラっキラした目をしています。フレッドくん、こんな印象でしたでしょうか? なんだか初めてお会いした時よりも少年のようですよ?
あっという間に考えていることが別のものに変わってしまいます。というか本当にですね、フレッドくんの印象が変わってしまっているのですよ。初めはあんなにナンパな方だと思っておりましたのにね。なんだか不思議ですね。私は1人自分の考えに頷いてしまいます。
「あー…キャシー? 俺の話、聞いてた?」
「え?」
「いや、これは聞いてなかっただろう。どう考えてもなにか別なこと考えてた」
「ジョージはそう思うか?」
「ああ。というかキャシーはわかりやすいから」
「それは俺もそう思うけどさ……。で、キャシー、結局なにを考えてたんだ? 夕飯後は俺と時間取ってくれるのか?」
なんだかお2人で分かり合っているようですが……私そんなに考えていることがわかりやすいのですかね? ポーカーフェイスだと思っていたのですが。なんでしょう。なんだかとってもショックなのですが。
だってですね、それではこれまで隠しきれていたと思っていたことは、全部まるっと伝わっていたのではないですか? ど、どうしましょう。もしかしたら私がフレッドくんをナンパな方だと思っていたこともまるっと伝わっているのでしょうか? そうなればジョージくんにもそう思ってしまっていたと思うのですが……アレ、私今ピンチですか?
ぐるぐると色々なことを考えてしまって、つい私は黙り込んでしまいます。はい、いっぱいいっぱいなのですよ。並列思考とか夢のまた夢なのです。
「キャシー、また眉が寄ってる。なにそんな難しく考えてるの」
「そうだぞ、わかりやすいと言えばわかりやすいけど、そんな考え込むほどの問題じゃないだろ?」
「い、いえ。そのお2人は私が考えていることを全部わかっていらっしゃるのでは……」
「「は?」」
「私、自分がそんなにわかりやすいと思っていなかったのです……」
多分ですね、今私はとってもわかりやすく落ち込んでいると思います。だって本当にショックなのです。しょぼんですよ。
「や、だからさキャシー」
「はい」
「落ち込まなくていいって。キャシーがわかりやすいって言っても、そんなの今は喜んでるなとか、これキライなんだなってくらいだって!」
「そうだよ。キャシーが朝メシは喜んでるけどそれ以外は苦手だろうなとか、魔法薬学の時に当ててもらいたんだろうなとか、当てられなくて凹んでるなとか……そんなくらいだよ? あ、後は暗いところを歩いてる時は必死に怖いのを隠してる、とかかな?」
フレッドくんは一生懸命慰めようとしてくださっている気がします。ですがジョージくん? どうしてそんなに詳しく見て、覚えていらっしゃるのですか! ちょっと怖いですよ! 確かにですね、確かに魔法薬学の時はそうなっていますし、ご飯は朝ご飯が1番美味しいと思っていますし、暗いところは怖いですけれど……そんなに私はわかりやすいのですか? フレッドくんだってとっても驚いて見ていますよ?
一瞬ですね、無音になったような気がします。
じっとジョージくんを見る私とフレッドくん。そしてなんだかとっても楽しそうに笑われているジョージくん。なんでしょう。なんなのでしょうか、ジョージくんがここまで私を見ていた理由というのは。
なんだか悪い予感に取り憑かれてしまいます。……私、やっぱりマルフォイ家の娘として、監視というか、観察というかをされているのでしょうか? そう考えたらなんだかとっても、さっきよりもずっとショックなのですが。
少しだけ俯きそうになった私も耳に、どこか戸惑ったような声が届きます。
「あー…その、なんだ。うん、そのさ……ジョージの言うことはいいとして」
「い、いいのですか?」
「えー? 俺の言葉は無視なの? ヒドイよフレッドー」
「うるさい。とにかくジョージの言葉は聞かなかったことにしてだな、キャシー。俺と時間作ってくれるのか?」
「あ、ああ……えと、ですね。その実はお夕食の後にお呼び出しをされていまして」
あら? なんでしょう。なんがかお2人のお顔が怖いのですが。しかも何故また無言になるのでしょうか?
「「キャシー、誰に呼び出された?」」
「え?」
「「どこのどいつに呼び出しされてるのか、聞いてるんだよ」」
「その、それは個人的な問題ですのでお答えは……」
「「個人的?」」
「は、はい。そうですよ、私を呼び出したことは内密になさりたいようですし……私もあまり人に知られたくはないのです」
ですから聞かないでくださいませんか? そんな意味を込めて見つめます。が、ですね。とっても怖いのですが。なぜお2人はこんなに近寄っていらっしゃるのでしょうか。とっても詰め寄られている気がしてならないのですが。
ですが言えません。ダンブルドア校長からお呼び出しされています。なんて言ってしまって、その理由はと聞かれても答えられませんからね。言わないことが正しい、はずなのですが……。
「「俺たち友だちだったんじゃないのか? 友だちなのに隠すのか?」」
ユニゾンでおっしゃるお2人に言わないままでいられる気が全くしないのですが。お2人、こんなに押しの強いところもあったのですね。うう……ですが言えないものは言えないのです。
私はお2人にマルフォイ家の娘だと疑いの目は向けられたくありません。このまま言わずにいても疑われるかもしれませんし、言ったとしてもそう思われるかもしれません。どっちもどっちだと思うのです。
もし疑われたくないと詳細に説明したとしますよね。そうしたらですね、むしろ「やっぱりマルフォイ家の娘らしい」と思われかねないのではないでしょうか。なんと言ってもマルフォイ家で所蔵していた、ヴォルデモートさんのお品をダンブルドア校長に渡したのですから。ダンブルドア校長を害するつもりだったのかと思われてもおかしくありません。そんなつもりは微塵もないですが……いえ、もちろんお2人のことは信じたいです。大事なお友だちと思っています。けれど怖いものは怖いのです。お2人にまで嫌われてしまったら、アリシアさんもアンジェリーナさんも離れていってしまうかもしれません。リーくんも、セドリックくんもです。
お友だちを信じているのに、信じられない私はきっととっても薄情なのでしょう。だけど自分の感情に気づかぬフリはもうできないのです。だって私は気づいてしまいましたから。誰かに嫌われることはとても、そうとっても心が痛くなるのです。悲しくなるのです。だからもう、これ以上誰かに嫌われたくないのです。
なにも言えないけれど、自分の顔から感情が伝わるのも怖くて俯いてしまいます。
「キャシー、ごめん……」
「その、言いたくないならいいよ」
「っえ?」
届いた言葉に思わず顔を上げてしまいます。
どこかバツの悪そうな顔をしたお二人。でも真っすぐに私を見ています。……お2人は私を疑っているわけではないのでしょうか? 私がダンブルドア校長にお会いしても、彼を害するためにとは思わないでいてくれるのでしょうか。
「ホントはさ、すごい聞きたいよ。キャシーが誰に呼び出されるのかとか、どうして秘密にするのかとか……その、その相手のことを特別だと思ってるのか、とかさ」
「フレッドくん……」
「そうだよ。それはすごい気になる」
「ジョージくんまで……その、どうしてそこまで気にしてくださるのですか? 私が、マルフォイ家の娘──だからですか?」
私はお2人の表情に、そしてその言葉に後押しされるように聞いていました。ズルい子です。わかっているのです。私がとってもズルいと。でも聞きたかったのです。お2人の口から、私をどう思っているのかを。
今ならきっと答えていただけるだろうから、と自分のことは秘密にしたまま私は問うてしまうのです。
「そ、そんなの!」
「友だち。それもかなり親しくしたいと思ってる友だちだと、俺は思ってるよ。フレッドもそうだろ?」
「そ、そうだよ! キャシーは大事な友だちだよ! 俺が……俺たちが1番大事にしたい友だち!」
「っ……ご、ごめんなさい!」
とっても真剣なお顔で言ってくださったお2人に、私ができたのは謝ることだけ。うう……どうして私はお2人を疑ってしまたのでしょうか。そうですよ、いつだってお2人は私に話しかけたり、笑いかけたりしてくれていました。あんな風にバースデイパーティーまで開いてくれたのですよ? どうしてそれなのに疑ってしまうのでしょう。
本当に私はズルくて、イヤな子です。そして人を信じられないダメな子です。
自己嫌悪でさっきよりもずっと俯いてしまいます。というか目まで熱くなってきました。私の涙腺は、とってもとっても緩くなってしまっています。でもここで泣いてはダメなのです。悪いのは疑った私です。そんな私にできるのは、話せることを正直にお2人に伝えることだけ、なのです。