ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その22

 湖畔に群生して咲く、淡い青紫のコルキカムはキラキラと光る湖面に映えていて、とても綺麗でした。目の保養をとてもした気分です。

 ああしてお外に出て、お花や植物を見るのもよいですね。なんて寮に戻ってのんびりしていたのですが、私お呼び出しされました。はい、ダンブルドア校長です。お部屋の机の上に不死鳥さんが舞い降りたのにはびっくりしました。悲鳴、あげそうになりましたよ? アリシアさんたちがいらっしゃらなくて本当によかったです。

 このお呼び出しが遅かったのか、早かったのかよくわかりませんが、お休みの日ですのにお呼び出しされました。と言ってもお呼び出しは夕食後ですが、今はまだお昼過ぎです。時間は十分あります。なので私、これから必要の部屋に行ってみようと思います!

 せっかくダンブルドア校長とお会いできるのですから、それならもう1つ手に入れやすいものがあることですし、さっくり取ってこようと思ったのです。一石二鳥ということですね。壊す方法は未だにどんなものが他にあるかわかっておりませんが、品物があるだけマシなはずです。はい、多分。

 

 そんなわけで私は、勢い勇んで昨日通った道を今日は1人で向かったわけです。ちょっとだけ寂しいですが、そこはそれです。他の方を巻き込むわけにはまいりませんからね。なんて思っていたのですよ? だってご迷惑にしかならないではないですか! なのにです、なのに今私のお隣にはなぜかジョージくんがいます。

 そっと伺うようにジョージくんのお顔を見上げます。

 

「ん? どうかした?」

「い、いえ。ただ少し……」

「少し、なに? どうしてついてくるのかなって思ってる?」

 

 はい、そうです。とははっきり言えません。1人で行きたい理由をお話しできないのですから。ですがなんと答えればよいのかもわかりません。むうっと悩む私の眉は寄ってしまっていることでしょう。

 ジョージくんはなんだか面白いものを見るかのように私を見て、小さく笑って指を伸ばします。

 

「眉間にシワ。イヤならイヤって言いなよ? そうしたら考えるからさ」

「痛いですよ、ジョージくん」

 

 つくつくと眉の間を突かれます。ちょっと爪が刺さりましたよ、ジョージくん。女の子の顔になにをするのですか、もう。おでこを押さえながら、私はじっとりジョージくんを見上げます。やり返してみたいですが、悔しいことに眉間には届きませんからね。見るだけにしてあげるのです。感謝してください。

 

「ああ、ごめんね。で、どうなの? イヤなの?」

「イヤではないですが……。というかですね、イヤと言ってもついてくるおつもりですよね、ジョージくん」

「あ、わかった? そのつもりだよ。面白そうだし」

 

 なんだかよくわかりません。私のなにが面白いのですかね?

 フレッドくんはもう少しわかりやすい方ですのに、ジョージくんはなんだか掴めません。直球で問いかけても、のらりくらりと躱されるのです。……私の聞き方がダメなのでしょうかね? ……それとも昨日私が抱きしめたことが原因ですかね?

 苦しかったからその仕返しですか、ジョージくん。お膝をついておりましたし、とっても苦しかったということですか? 私いつの間にそんな怪力になっていたのでしょうか。

 私はじっと自分の手を見ます。小さい手ですよ。めいっぱい開いても、親指から小指まで15cmもありません。普通もう少し大きいですよね? こんな手に男の子を苦しめられるくらいの力なんてあるのでしょうか? ない、ですよね?

 

「なに、自分の手なんか見てさ」

「いえ、私は力が強いのかどうかと思いまして」

「は? 強くないでしょ? ホラ、この手。俺の手の中にすっぽり隠れるくらいちっちゃいのに」

 

 さっくり私の手はジョージくんの手の中に隠れました。……フレッドくんだけでなく、ジョージくんも実は手を握ったりしていらっしゃる人だったのですね。私のデータは間違っていたようです。などと思いながら、本当に自分の力が強くないのか確かめるため、きゅっとジョージくんの手を握ってみます。はい、全力です。

 き、きっと痛くて大変なはずですよ。

 

「キャシー、それって全力なの?」

「そ、そうです! 目いっぱいです!」

「……ああ、もう! キャシーは力なんか強くないから、そんなに力まなくていいって!」

 

 ジョージくんは笑いながら私の頭をワシワシと撫でて、止めてきます。いえ、髪が乱れてしまうのですが。なんて力を込めるのを止めて見上げます。先ほどまでのようなお顔をしていませんね。なんだか困ったような笑顔になっている気がします。いえ、大前提に楽しそうというのもありますが、なんとなく困っているように見えるのです。笑顔ってたくさんあるのですね。

 

 じいっと見てみます。……本当に双子だけあってフレッドくんとジョージくんはそっくりです。そっくりなのですが、目がなんだか違うのですよね。いえ、色はそっくりですよ? 違うのはそこに出るお2人の性格、と言えばいいのですかね。

 こう、なんと言いますか……「目は口ほどに物を言う」と言いますよね? なんだかその言葉通りに、その目から伝わる、お2人の思っていらっしゃることが違う気がするのです。

 と言っても、私になんとなくわかるのは、お2人とも私をお友だちと思ってくださっていることだけです。それ以外の詳しいところはわかっていません。わかっても、可愛がられているのかなあという程度です。はい、希望的観測が多大に含んでおります。

 

「な、なに? そんなに見られても俺、お菓子なんか持ってないよ?」

「な、いりませんよ。お菓子は昨日たくさん食べましたし、寮に戻ればまだいっぱいあります!」

「ん、知ってる。で、どうしたのさ。そんなにじっくり見て」

 

 俺の顔になにかついてる? と首を傾げるジョージくんです。そうですね。目と鼻とお口と後はソバカスがありますが、それはいつも通りです。いつもと違うのはその目だけですよ。なんて思いますが、よくわからないことは口に出しません。

 私は首を左右に振ります。そうです。ジョージくんの思ってらっしゃることは、多分今の私にとっては大したことではないはずなのです。私に今大事なのはなんとかレイブンクローさんの髪飾りですよ!

 

 と意気込みますがダメです。それを手に入れるためにはジョージくんと一緒では都合が悪いのです。どうすればいいのですかね。私の思考は堂々巡りですよ。むう。

 などと考えているうちに、必要の部屋の前についておりました。いつの間についていたのでしょうか……。気づきませんでした。

 

「ああ、キャシーここにきたかったんだ」

「は、はい。少しだけ入りたいお部屋がありまして……」

「へえ。キャシーはここのこと、フレッドに聞く前から知ってたってこと?」

「え? ええ、少しだけ。でもどこにあるのかまでは存じあげなくて、結局フレッドくんに教えていただいた形ですかね?」

「ふうん……。あ、行きたいなら行っておいでよ。俺はここで待ってるからさ」

「え?」

「えって、1人で行きたいんでしょ? だから1人で歩いてたんだろうし、流石に俺も無理やりついて行こうとは思わないよ?」

「そ、それは申し訳ありません……」

「別に。ホラ、待っててあげるからさ、早く行って用事をすませなよ。終わったら俺と遊ぼうね」

「ええと、それは」

「いいから、ホラ」

 

 ジョージくんに背中を押されます。が、まだですね、扉は出ていませんよ? まずはこのお部屋の前の廊下をウロウロしませんと。

 1回、2回、3回。行ったりきたりしたことで扉が浮かび上がってきます。はい成功した模様です。と言っても中を見て見ないことには正解かはわかりませんが。というわけで突撃なのです。扉を開けてものが堆く積み上がっていましたら正解なのですよ!

 とってもドキドキしながら薄っすら扉を開けました。はい、大正解なようです! 私はますますドキドキしながら細いその隙間から室内に入ります。

 

「では行ってまいります。ジョージくん、覗いちゃダメですよ?」

「覗かないって。気をつけてね、キャシー」

 

 ヒラヒラと手を振るジョージくんに笑いかけてから、私は扉を閉めました。これでジョージくんの目から室内は見えないはずです。さあ、これで心置きなく探せますね! と勢い込みますが、1つ1つ探す時間は流石にありません。ここでどうするか。それは簡単ですね! なんと言ってもここは魔法魔術学校で、私は魔女です。魔法を使ってさっと探すのですよ!

 

 スッチャっと杖を取り出します。私もですね、たくさん呪文を覚えましたので、この状況に合ったものくらいすぐに思い出せます。うふふん。初めて使う魔法ですので、ドキドキですね。胸が高鳴ってしまうのですよ!

 とってもとっても自分の気分が盛り上がっている自覚はありますが、今ここには誰も止める方はおりません。私はやるのですよ! 杖を構え、そっと1つ息を吐き、そうしてその呪文を唱えます。

 

「アクシオ!」

 

 なんとかレイブンクローさんの髪飾り! と目いっぱい思い浮かべたのですが……髪飾り、出てきてくれません。ええと、呪文、失敗ですか? えと、呼び寄せ呪文は『アクシオ』ですよね? 呼び寄せる対象も言った方がいいのですかね? 私は考察するように首を傾げて考えます。

 何度考えてもわかりません。諦めた方がよいのでしょうか? ですがせっかくここまできたのです。諦めたくないのですが。……なんとかレイブンクローさんの正確なお名前がわかれば、探せます、かね?

 私は薄明かりの中で積み上がるものたちを前に、悩みました。はい。すぐに聞こうと思えば聞けるのです。扉のお外にジョージくんがいますから。ですが……ジョージくん、ご存知ですかね? いいえ、今は悩んでいる場合ではないはずです。わからなかったら、わからなかったですし、『聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥』なのですよ!

 私は拳を握りつつ扉を開き、ジョージくんを呼びました。

 

「ジョージくん、ジョージくん」

「ん? なに、もう終わった? 早かったな」

「い、いいえ。まだ終わっていないのですが、少しお聞きしたいことがありまして……」

「俺に?」

「はい。その、ジョージくんは『レイブンクローの髪飾り』と聞いて、どなたのお名前を思い出しますか?」

 

 扉の隙間から顔だけを出しまして、伺います。ジョージくんはきょとんとした顔で、私を見ています。うう、やっぱりご存知ありませんかね?

 どうしましょう。他にはどなたが知っていますかね。なんて考えておりましたら、ジョージくんがあっさりとお答えしてくださいました。

 

「レイブンクローですぐにわかるなら、ロウェナ・レイブンクローかヘレナ・レイブンクロー。で、髪飾りならロウェナの方じゃない?」

「……どうしてそんなにすぐにお答えが出てくるのですか! 私はわかりませんでしたのに……」

「いや、さ。まずレイブンクローでわかろうよ。それに『ホグワーツの歴史』に書いてあったはずだけど……キャシーは読んでなかった?」

「よ、読んでいません。うう……今度絶対に読みます! うう、なんだかとっても悔しいのですが!」

「ま、いいじゃん。知りたいことはわかったわけだろ? ホラ、待っててあげるから早くすませておいでよ」

 

 またもヒラヒラと手を振るジョージくんです。とってもとっても悔しいですがいいのです。これでわかったのですから! そうですね、私は大人ですから、教えていただいた代わりに、セーターを交換していたことは聞かないことにしてあげます! そうですよ、交換条件なのです。私が物知らずだったわけじゃないのですからね!

 

 ちょっとだけぷうっと頬を膨らませながら、私は室内に戻り、そうして呪文を唱えました。今度はきちんとロウェナ・レイブンクローの髪飾り! と力いっぱい思い浮かべましたよ。


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