ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その21

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうものですね。気づけばパーティーは終わってしまい、もう今日はその翌日です。日曜日なのでまったりしています。

 ちなみにですね。皆さん私の仕込んでおいたご飯を喜んで食べてくださいました。パーティーですけれど、子供受けがよさそうなものを選んだお陰でしょうか、大成功だったようです。また食べたいとまでおっしゃってくださいました。それにですね、ぼんやりだったお味はしっかり私の中に記憶されましたよ。これからはいつでも再現できますし、他のお料理も作ってみようと思えますね。はい、食べてくださる方がいるのはとっても嬉しいことですから。

 でも意外です。1番人気があったのが、だし巻き卵だったのです。2番手は唐揚げで、次が男の子一押しのトンカツ。女の子は茶碗蒸しがお好きなようでした。ちなみにご飯はライスコロッケにしましたので、男女ともに受け入れられたようです。よかったです。

 それにしても本当に白いご飯はとっても美味しかったです。私だけ白いご飯のおにぎりにしましたが、あれは至福の時間でしたね……。また厨房にお邪魔してご飯を炊くことにしましょうね。

 などとお部屋でお父様たちへのお手紙を書きながら考えておりましたらお声がかかりました。

 

「キャシー、寮の外にセドリックがきてるわよ」

「え? セドリックくんですか?」

 

 スポーティな私服姿のアリシアさんが扉を指差しおっしゃいます。

 

「どうしたのですかね? お約束はなかったと思うのですが……」

「さあ? ただキャシーを呼んでくれって言われただけだし。ま、行ってあげなさいよ。セドリック、ちょっと落ち込んでるみたいだし」

「……セドリックくん、やっぱりなにかあったのですか? 昨日もパーティーの間とってもお元気がなかったのです」

「あー…そうね、パーティー中は元気はなかったわね。まあ、気になるなら聞いてみたらいいんじゃない?」

 

 アリシアさんの言葉に背を押されるようにして、書きかけの手紙をしまい、軽く身だしなみを整えてポーチを持って私は扉まで向かいます。どうしたのですかね、セドリックくん。私がお話を聞いてお元気になればいいですが……。能天気な私ではダメなのではないでしょうか。

 

 お天気がよいからですかね、普段よりも少し人の少ない談話室を抜け、私は扉を開けます。太った貴婦人(レディ)の絵から少し離れた場所で、セドリックくんが立っています。

 

「セドリックくん、お待たせいたしました」

「キャシー……ごめんね、休んでいるところに」

 

 私が声をかけると、少し俯いていらっしゃったセドリックくんは顔を上げて、私を見ます。なんだかほっとしてらっしゃるような感じがしますね。お待たせしてしまったのでしょうか?

 わかりませんが、やっぱりアリシアさんのおっしゃった通りに落ち込んでいるというか、お元気がないところは昨夜と変わっていないようなのです。そんな彼の言葉に首を振り、私は言います。

 

「いいえ。お部屋にいただけですので、構いませんよ。それで……どんなご用ですか?」

「ああ、うん。ここだと人もいるし……少し外に出ないかい? 天気もいいし、散歩には向いてると思うんだけど」

「ええ、構いませんよ」

 

 セドリックくんに促されるまま、私は彼の後をついて歩きました。お外とおっしゃいましたが、どちらに向かわれるのですかね? 今日は日曜日でお天気もよいです。中庭はとっても人が多くいらっしゃると思うのですが。

 

 

 外はとても晴れています。少し雲が浮かぶ青い空とその青を映す湖がとても綺麗です。もちろん湖には、空だけでなくホグワーツ城も映っています。本当に綺麗ですね。

 晴れていますが、どうしてか湖に人は多くありません。ですからしっかりと鑑賞できるわけなのですが、湖は昼間に見るとこんなに綺麗なのですね。私実は昼間に湖をちゃんと見るのが初めてなのです。たいていは寮か図書館にいましたから。……引きこもりではないですよ? お勉強に勤しんでいただけなのですよ?

 ……もう少し、飛行訓練や薬草学の時だけでなく外に出るようにしなければダメですね。運動しているのがお手紙を送るときにふくろう小屋に向かうだけ、というのはいけない気がします。主に体重面で。お家でよりもお菓子をたくさん食べている気がしますし……。

 

「キャシー、少し歩くと休める場所があるんだ。そこまでいいかな?」

「え? あ、はい。大丈夫ですよ」

「じゃあ……キャシー、手を貸して? 道は整ってるわけじゃないからさ、転んだら危ないだろう?」

「えと、セドリックくん?」

 

 私を見ながらそうおっしゃって、セドリックくんは手を差し伸べてきます。なんだかとっても驚いてしまったのですが。だってセドリックくんとは手を繋いだことがこれまでありません。抱き上げられてしまったことはありましたが。

 どうすれば、なんて迷ってしまうのですが、セドリックくんは柔らかく笑うだけです。それ以上誘うことはないのですが、差し出された手はまだ宙に浮いたままです。……これは手を取らねば行かないという意思表示なのでしょうか。

 いえね、道がよくないから、転ばぬようにとご心配いただけているとはわかります。ですが私……セドリックくんの前で転んだことがあったでしょうか? 記憶にないのですが……もしかして見られていたということでしょうか。なんですか、とっても恥ずかしいですよ! 勝手に頬が熱くなってしまいます。

 

「キャシー? 頬が赤い。手を繋ぐの恥ずかしい?」

「い、いいえ……それは別に」

 

 そうです。お友だちなのでしたら手を繋ぐくらいは普通ですよ。私が恥ずかしいと思っているのは、内緒にしていた失敗を知られていたとわかったら、なのですよ。そこのところはお間違いなく、です。

 そんな私の言葉を聞いたセドリックくんは、なんだか嬉しそうに笑って、私の手を取ります。これまでのセドリックくんにはなかった強引さというか、積極性を感じます。セドリックくん、フレッドくんやジョージくんに影響を受けたのでしょうか。

 ホグワーツ特急での、はにかんでいらっしゃる姿が印象にありましたのに……。『男子三日会わざれば刮目して見よ』とは申しますが、一晩で変わるものなのですか? 昨夜のパーティー中はお元気はなかったですが、特急の時とそう変わりないご様子でした。はにかむような笑顔ですとか、言葉遣いですとか、変わりなかったように思います。その後から変わられた──? いえ、でもあの抱き上げられた時も少しだけ特急内とは違いましたかね? 違ったような気がしますね? ではフレッドくんたちに影響を受けられたわけではないということでしょうか。

 

 私の手を取り、ゆっくりと歩くセドリックくんの横顔を見上げます。基本的に私は人の横顔を見上げているのですが、セドリックくんはフレッドくんよりもまだお小さいようです。ちょっとだけ私の首の角度が緩やかです。背の高い方だとちょっと辛いのですよね。私も早く大きくなりたいです。

 

「キャシーのプレゼントにした花を摘んだのも、これから行く辺りなんだ」

「まあ、そうなのですか? セドリックくんがくださったのはコルキカム、でしたよね」

「んー…ごめんね。花の名前は詳しくないんだ。でもたくさん咲いているところは綺麗だったから、それを少しでもキャシーに届けられたらなって思って」

 

 ほんの少しです。ほんの少しですがセドリックくんのお顔が赤くなっております。なんです、もう! ご自分で言って照れてしまうのならおっしゃらないでくださいな! 私まで照れてしまうではないですか! セドリックくん、可愛いのですよ、もう!

 

「あ、ありがとう……ございます。とっても綺麗で嬉しかったです。素敵な花言葉のお花でしたし、本当に嬉しかったのですよ」

「花言葉? ああ、そうか。花ってそういうのがあるんだよね。ごめん、僕不勉強で詳しくないんだ」

「男の子でしたらそうだと思いますよ? 私だって他のお花を調べて少し知っていた程度ですから」

 

 セドリックくんのくれたコルキカムのブーケ。コルキカムの花言葉はよいものでしたら「永遠」ですとか「永続」。他には「楽しい思い出」「悔いなき青春」でしょうか。お友だちに贈るに相応しい花とも書いてありましたね。だから余計に嬉しかったのです。が、そんな花を無自覚で贈れてしまうセドリックくんはやっぱり、とっても、とってもイケメン特性が高いです。ときめいてしまうではないですか!

 

「あのブーケも可愛くできたとは思うけど、たくさん咲いているところはもっと綺麗だったから、キャシーに見せたくて」

 

 そう言って笑いますが、セドリックくん? ブーケは自作だったのですね? 頭もよくて性格もよくて器用でイケメンさん。やっぱりセドリックくんはモテる男ですよ。スペック高すぎる気がします。まだ11歳ですのに。

 ああ、そうです! セドリックくんのお誕生日をお伺いしておかねばですね! いただいたのにお返しをしないなんて義理に悖るのですよ。

 

「きっとキャシーが僕に笑ってくれると思って」

 

 私を見ながらふんわりと笑うセドリックくん。どうお聞きすればよいでしょうか。なんて考えながら歩いている所為ですかね。セドリックくんのお言葉を聞き逃してしまいましたが……大丈夫ですよね? きっと大丈夫です。

 さて、どうお聞きしましょう。……ここはもう、すっぱり素直にお聞きすればよいですかね? そうですね、人間素直が1番ですよね。

 

「あの、セドリックくんのお誕生日はいつなのですか? 私、お祝いしていただいて本当に嬉しかったので、セドリックくんもお祝いしたいのですが」

「え? 僕? そっか……言ってなかったね」

 

 セドリックくんはふわっと笑うのですが、どこか困ったように見えるのはどうしてなのでしょうか。

 

「僕の誕生日、実はもう過ぎてるんだ。だからお祝いはいいよ」

「え! だ、ダメですよ! 私だって過ぎていますがお祝いしていただいたのですよ? セドリックくんだってお祝いされて当然で──」

「それなら僕はキャシーにセドリックって呼び捨てにされたいな」

 

 セドリックくんは私の言葉を遮るようにしてそうおっしゃいました。……呼び捨てがお祝いなのですか? 私の呼び方1つがお祝いに値するかはわかりませんが、そのくらいお安いご用です。でも本当にそれでいいのですかね?

 

「わかりました。では、セドリック」

「うん。なにかな、キャシー」

「えー…と、行きましょう? どこかに行く予定なのですよね?」

「うん、そうだね。立ち話していても仕方ないね。じゃあ、行こうか」

 

 セドリックくんは満面の笑みを見せました。比較対象は「はにかみ」ですとか「困った感じの笑顔」ですので、よくわかりました。あれは輝かんばかりの笑顔というのでしょう。……呼び捨てにするだけでそんな笑顔を見せてくださるなんて、セドリックくんはとっても可愛らしいと思います。ちょっとだけドキドキしてしまいました。

 でもですね、アリシアさんたちもそう呼んでいらっしゃるのです。だからきっとアリシアさんたちもセドリックと呼んだ時は、あんな笑顔を見ているはず、ですよね? 私、もったいないことをしていたのですかね、なんて思ってしまうのでした。


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