ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その20 別視点

「週末にパーティーするんだ。セドリックもくるだろ」

 

 そう僕に言ったのは、グリフィンドール寮の双子のウィーズリーの片割れ、フレッド・ウィーズリーだった。

 

 僕と彼は、友人かと言えばそうではない。けれど誰かに仲が悪いかと問われたとしたら、多分僕はこう答える。「普通だよ」って。

 そう、僕らの仲は悪くない。でも親しくないからよくもない。そんな関係なはずなのに、なぜかパーティーに誘われたんだ。正直参加するとかしないとかを考えるよりも先に、どうしてって強く思った。

 

 それは彼が言うそのパーティーが、仲間内でのバースデイを祝うためだってことから。僕は彼の仲間認定されるような接点があったのか、本当にわからなかったんだ。

 そんな僕に、彼はニヤッと笑いながら続けて言った。「キャシーのバースデイなんだ」って。なおさらびっくりした。キャシーがもう12歳なんだってことも、僕と誕生日が近いんだってことも。驚いたけど、なんだが嬉しくもあった。キャシーのバースデイを祝えることが、そしてキャシーを挟めば寮が違っても僕は彼らから仲間認定されるんだってことが。

 

 僕のいるハッフルパフとグリフィンドールは仲が悪いことはない。でも特別親しいわけじゃない。みんな基本的に同寮の子たちでまとまるから。でも僕はキャシーを挟んでアリシアやアンジェリーナと友人になった。でも、この時まではキャシーを挟んでも彼らとは友人ではなかった。それはこれからも変わらないんじゃないかと思ってたんだ。でもそれは違ったんだってこの時感じられて、それが嬉しくて、僕は笑って「もちろん参加するよ」って言った。

 

 そしたら彼、フレッド・ウィーズリーはまたニヤッと笑って僕に近寄ってきた。

 人なんて多くない廊下だったのに、声を潜めて僕に言ったんだ。そのパーティーで「サプライズを考えてるんだ」って。

 それに続けて、彼はキャシーにサプライズを仕掛けて、キャシーを喜ばせたいんだと言ったんだ。正直意外だった。だって彼らは有名だったから。悪戯ばかりするってことで。悪戯以外のこともちゃんと考えてるんだなんて思ってしまったのは、少し失礼だったかな。なんて彼を見直した。

 そんな彼らの計画に乗ること。それに戸惑いがなかったわけじゃない。だけど、だけどさ。キャシーを喜ばせたいっていう欲求には勝てなかったんだ。だってきっとキャシーはとても可愛く笑ってくれるだろうから、その笑顔を引き出す一旦に、僕がなれるならなりたかったんだ。

 

 それから短い時間で僕らはたくさんの計画を立てて、そしてそれを実行していった。

 

 パーティーはキャシーの友人だけが参加するから、人数はそう多くない。キャシーはあんなにいい子なのに、友人が多いとは言えないからだけど、でもそれはある意味都合がよかった。計画が漏れにくいってことだけ、だけどね。

 

 多分キャシーは喜ばないだろうから、大仰なプレゼントはご法度。カードか、お菓子かお花か、とにかく消えものがいいだろうってアリシアは言っていた。だから僕らは基本的にはカードだけで、贈りたい人だけなにかを用意することにした。まあ、みんなお菓子やお花を用意していたけどね。かくいう僕も、メッセージカードと小さなブーケを用意することにした。時間が足りなくて学外から取り寄せることができなくて、間に合わせになってしまったんだけど、来年はしっかり用意しよう、と決められたからそれはよかったんだろうね。

 

 プレゼントを決めてから飾りつけを考え始めたんだけれど、僕はどこでそのパーティをするのか知らなかった。どこかの教室か、グリフィンドールの談話室ででもするのかと思っていたんだ。それをフレッド・ウィーズリーに聞いたら、彼はまたニヤッと笑って言った。「特別な部屋があるんだ」って。そこがどこなのか気にはなったけれど、聞かなかった。そう、別にそこがどこでも構わなかったから。ただキャシーが周りを気にせず楽しめて、そして笑ってくれるなら、ね。

 

 パーティーの飾りつけは、基本的に男チームですることになった。もちろんデザインはアリシアやアンジェリーナたち女の子が考えたものだけど、2人は別の飾りつけをするから、部屋の中は僕らに任されたんだ。これは失敗できないぞって、みんなで協力して作ったのはキャシーが好みそうな壁を彩る花や、リボンとかの飾り。それから大きな垂れ幕。バースデイパーティーはひどい時は週末毎にあったりするけれど、垂れ幕まで作ってお祝いすること自体はそう多くない。多分なにかの記念日的な日、とかだけ。だけど今回のパーティーは僕らにとっては記念日だったから、一も二もなく賛成して作ったんだ。

 前々日までにデザインを詰めて、垂れ幕自体に飾りを配置したのは前日。せっかく魔法を使っても叱られない学校内なんだから、家じゃ自分たちでできない飾りにしようって、色々と細工をした。色変えの魔法とか、蝶がいるように見せる幻を作る魔法とか、そんなのを使ってね。

 僕とフレッド・ウィーズリー、その双子の片割れのジョージ・ウィーズリーとリー・ジョーダン。僕ら4人で作ったわりにはいい出来だと思う。せめて1人でも高学年の人がいたらもっとすごい魔法をかけられたかもしれないけれど……でも、僕らにできる最高の出来だって自信を持って言えるよ。でもこれはまだ完成じゃない。当日のパーティーの前で完成させるんだと、フレッド・ウィーズリーは言った。まあ、そうだよね。アリシアやアンジェリーナは僕らとは別行動だったから、彼女たちの手が入っていなかったんだから。

 

 そんなわけで飾りつけだけ終わった垂れ幕や、作った飾りは一晩だけ僕が保管することになった。僕だけキャシーと寮が違うしね。随分大きな箱に隠したそれは同室の子たちの興味を引いたみたいで、それはなんだって聞かれもした。だけど僕はそれを秘密にした。その、彼らがキャシーに今興味を持ったら困るから。僕らだけでキャシーのバースデイを祝いたいなって、僕は思ってしまったんだ。少しだけ心が狭かったかな。

 

 一晩だけ隠したその箱を持って、僕がグリフィンドールの寮を訪ねたのは、パーティー開始だとキャシーに告げていたという3時よりも1時間半前。まあ、妥当だよね。1時間あれば魔法でなんとか飾りつけることもできるだろうし、垂れ幕も完成させられるだろうから。十分に余裕があるだろうって思いながら向かった、グリフィンドールの談話室への入り口。太った貴婦人(レディ)の絵の前には、もう彼らはいた。

 

 僕らはフレッド・ウィーズリーに先導されて特別な部屋、正しくは『必要の部屋』に向かった。

 そこにはもうすでにキャシーとアリシアたちがいることを聞いた。でも、3人は別の飾りつけをするために、小部屋にこもっているんだとも言っていた。だから僕らはパーティー会場になる大きな部屋の飾り付けを始めたんだ。なるべく騒がないようにしながらね。まあ、すぐにうるさくなってしまったけど。

 

 壁一面に花を飾り、リボンを飾り、キャシーみたいに可愛らしく飾って、いざ垂れ幕を完成させようとした頃、アリシアとアンジェリーナが合流した。もちろん小部屋から出てきたんだけど……キャシーはもしかして1人でいるのかなって少しだけ心配になった。でも周りのみんなはそれを気にしてないみたいで、僕はそれを言い出せなかった。キャシー、寂しがっていないかな、なんて言い辛かったんだ。少し恥ずかしくてさ。

 でも僕のそんな心配は杞憂だったのかな? キャシーは可愛がっている猫のネロと一緒にいるらしい。でも、できる限り早く済ませて早くキャシーを呼びましょう、なんてアリシアが言うから、みんなで急いで垂れ幕を仕上げることにした。

 垂れ幕作り班を代表して、僕がキャシーの名前と『HAPPY BIRTHDAY』とを書いて、それからフレッド・ウィーズリーに言われるがままの文字を書いた。うん、これはきっとキャシーが喜んでくれるはず。きっと綺麗に、可愛く笑ってくれるはずって思えたら、なんだかすごく嬉しくて、僕は無意識に笑っていた。そう、キャシーの笑顔を思い浮かべるだけで、僕は笑顔になるんだ。それくらい僕はキャシーの笑顔が好きなんだろうね。

 

 それから1人ずつ、好きな色で自分の名前を書いたり、キャシーに対して思っていることを書いたりした。

 

 僕も書いたよ。「笑っている君が1番可愛い」って。でもそうしたらフレッド・ウィーズリーにからかわれた。どうしてかな、僕は本当のことしか書いていないのに。そして僕をからかった彼はと言えば、「怒ったキャシーも可愛いよ」って言葉。……キャシーは怒ることなんてあるのか、って少しだけ考えたけれど怒ることもあって当たり前だよね。僕らだって人なんだから。

 

 リー・ジョーダンは「俺たちは戦友だ」で、ジョージ・ウィーズリーは「いつかきっと空を飛べるように祈ってるよ」なんて言葉で、アリシアは「私たちは親友よ」で、アンジェリーナは素直に「キャシー大好き!」って書いてあった。それ以外にもたくさんの言葉がかかれたけど、どれも好意的なものばかり。みんな、キャシーのことが大切で、好きなんだなって思えたらすごく嬉しくなった。もちろん僕もみんなに負けないくらいにキャシーを好きだよ。

 

 一通りみんなが垂れ幕に書いて、ペンを仕舞おうとしたんだけど、最後の最後に彼は小さく、本当に小さく一言を書き足していた。それは彼が書いた「俺たちは友だちだろ」って言葉の後ろ。そこに彼は時間が経つと消えてしまうインクで書いていた。

 

False. You mean so much to me.(嘘だよ。君は僕の大切な人だよ)

 

 僕はその時、ようやく彼がキャシーのことを特別な意味で、1人の女の子として好きなんだってことに気づいた。でも消えるインクで書いたということは、彼はそれをまだキャシーに伝えるつもりがないんだろうとも気づいて、僕は僕以外がきっと見ていないだろうそのことに気づかなかったフリをした。

 きっと一番のライバルになるだろう彼のことを、誰かが応援しないで済むように。……僕はキャシーに関わることになると、やっぱりどこか少し心が狭くなってしまうみたいだ。


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