ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その19

 ええと、私はどうしたらよいのでしょうかね? とっても手持ちぶたさんなのですが。お膝に乗せたネロを撫でるしかできないのですよ?

 というのもですね、私は今1人なのです。いえ、ネロがいますし1人と1匹でしょうか。とにかくですね、座ってネロを撫でることしかしてはダメなのです。今は戯れちゃダメと言われてるのです。

 私がそうしてぽつんといる場所は寮のお部屋、ではなく先日フレッドくんときました必要の部屋です。

 あの時の内装とはまた違う、ちょっとしたパーティでもできそうなほどに広いお部屋──の奥にある小部屋におります。実はどうしてここに残ることになってしまったのか、私自身よくわかっておりません。なんとなく予想はつきますよ? 多分ですが、皆さんがなにか考えてらっしゃるのだろうということは。

 私きっと驚かされることになるのでしょうね。だって準備をする方の中に、あの悪戯大好きなフレッドくんとジョージくんとがいらっしゃるんですから。なんでしょう……このお部屋から出た瞬間クラッカーを鳴らされたりしちゃうのでしょうか。え、私絶対ビックリしてしまう気がするのですが。いえ、そうならないように今から心しておけばいいですよね! なんて拳を握る私は今、お母様が用意した私服とも、制服とも違うお洋服を着ております。

 

 それは今から2時間ほど前に、必要の部屋へアリシアさん、アンジェリーナさんと向かったことの結果ですね。

 

 どうやらですね、アリシアさんはフレッドくんから詳しく場所をお伺いになっていたようで、全く迷うことなくこちらにくることができました。ええ、これで私もまた後日なんとかレイブンクローさんの髪飾りを取りにこれますね。なんて思っていたのもつかの間。

 私はですね、お部屋の中をよく見る前に中にあった小部屋に連れてこられたのです。もちろんアリシアさんとアンジェリーナさんのお2人にですね。飾りつけをなさるのかと思っておりましたが、そうではなかったようですね。なんてのんびり構えていたのですが、それはすぐにできなくなりました。

 

 私はお2人から飾りつけられてしまったのです。

 

 そうです。お部屋ではなく、私を飾りつけるため、お2人はお約束の時間よりも早くこちらにきたのだそうです。知らなかった、というか気づかなかったのは私だけのようです。

 その飾りつけの結果である、お2人で悩みに悩んで選んだという、とっても可愛らしい淡いローズカラーのワンピース。

 お花モチーフのレース編みがノースリーブのトップス部分で、オーガンジーを何枚も重ねたスカートはとってもふわふわです。ちなみに膝より少し下くらいの丈です。ミニじゃないですよ? そして差し色としてですかね、ウエスト部分に黒いベルベットの幅広のリボンが巻いてあります。

 とっても可愛らしくて素敵なワンピースだと思うのですよ? 思うのですが、ワンピースの形がですね、その……ハイウエストなのです。ダメなのですよ、ハイウエストは。しかもですね、切り替え部分にあるリボンがよりいっそう……。いえ、考えてはダメですね。可愛いのですからそれでいいはず、なのです。

 

 私はお2人に急かされてこのワンピースに着替えたのですが、その後アリシアさんにはメイクをされまして、アンジェリーナさんには髪を弄られました。とっても、とおっても嬉々としてお2人がしていらっしゃるので口を挟むことができませんでした。

 

 と言ってもメイクはお粉を(はた)いて、カールさせた睫毛に透明なマスカラをつけて、薄いピンクのリップを塗ったくらいです。あとはネイルになんだかとっても力を入れてらっしゃいました。なんとですね、親指の爪にですね、ネロを書いてくださったのですよ! しかも左右で違うのですよ、ネロの形が! アリシアさん、多才です! とっても器用で憧れますね!

 そしてアンジェリーナさんです。アンジェリーナさんもとっても器用です。私の髪をくるくるとカールさせたかと思うとですね、サイドの髪を少しだけとってするすると三つ編みにしていったのです。

 耳のちょうど横あたりで、間隔をあけて編まれたその細い2本を、そのまま垂らすのかと私は思っていたのです。が、気がついたらですね、その2本がいつの間にかハート型に変わっていたのです。はい、こうして説明しておりますがどうしたらそうなるのか、私には全くわかりませんでした。

 しかもですね、私が驚いている間に両サイド同じ形になさったのですよ。アンジェリーナさんもすごいです。つまりですね、私の頭の両サイドにはハート型がついているのです……あら? こうして言うと、なんだかとっても恥ずかしくなってきましたよ? いえ、でもとっても可愛い髪型だと思いますよ? その、私に似合っているかは別だと思いますが。

 

 ちょっとだけ恥ずかしいと言ったのですが、お2人は私の髪を飾り代わりにして、他はつけないことにしたので、この髪型は譲れないとおっしゃいました。私に拒否権はないそうです。いえ、可愛くしてくださっているのですから、文句は言いませんが……本当に似合っているのか不安なのですよ。だってこんな髪型にしたことありませんから。いつも私は片側で三つ編みをするだけでお終いにしているのです。その、技巧が必要そうな髪型はできないのですよ……。いえ、不器用じゃないですよ? 長くて大変なのですよ、自分でするには。

 ええと、とにかくこの髪型とネイルをした私がネロを抱きあげることで、このワンピースは最高の姿になるのだ、とアンジェリーナさんが力説なさってました。

 ですがですね、それならどうして最初にツインテールにしたのですか、アンジェリーナさん。しかもしっかり髪を縦ロールにして、耳の上でリボンつきで結ばれましたよね? ホグワーツ特急の中で見ていらしたのでしょうか……。

 いえ、それはいいでしょう。とにかくですね。普段は真っすぐな私の髪は今日はくるくると巻かれておりまして、ハート型がついているとっても可愛いものになっております。多分ですがワンピースとも合っていると思います。私の主観なので実際はわかりませんが。でもお2人がダメ出しをなさらなかったのですから、きっと平気なのですよね。などと思いながらネロを撫でます。癒されますね。ネロ可愛いですよ。

 

 そうして私の飾り付けを終えたお2人は、呼ぶまでここから出ないようにと私に言いつけられたのです。ちょっと怖いくらいの勢いでした。それから大人しく待っているわけなのですが……扉の外がなんだかとっても賑わっているような気がするのです。

 ちょっとだけですね、リーくんの叫び声ですとか、フレッドくんジョージくんの笑い声ですとか、アリシアさんの怒った声ですとかが聞こえます。えと、なんだとっても寂しいのですが……。

 ですが我慢です。お呼ばれするまで出てはいけないのです。約束は守らなくてはダメなのです。ネロがいますから大丈夫です……けれど、ちょっとだけ寂しいです。

 

 ちょっとだけ心が折れかけそうになりました頃、時間にして我慢を開始して10分ほどでしょうか。扉がノックされまして、薄っすら開きました。扉の外はなぜだか真っ暗です。

 

「キャシー、もういいわよ」

「アリシアさん! 本当ですか? もうよいのですか?」

「ふふ、いいわよ。でも一旦このドアの前で後ろ向いて、目を閉じててくれる? あ、ネロは抱きあげててね?」

「後ろを向いて目を閉じる、ですか?」

「そ、大丈夫よ。転ばないように私が支えるし。ホラ、早く」

「は、はい!」

 

 優しげなアリシアの言葉に促され、私は言われるがままに扉の前で後ろを向きます。なんでしょう。まだお部屋の中を見てはいけないということなのでしょうか? やっぱり皆さんが集まってなにかをしてくださっていたということなのでしょうか。それは嬉しいのですよ? 嬉しいのですが私も参加したかったです。

 

 そっと私の肩にアリシアさんが手をかけて、小部屋のライトを消します。これでどちらのお部屋も真っ暗になったということですよね? こんな中目を開けていたとしても私は1人で歩ける気が全くしません。アリシアさん、どうか、どうかよろしくお願いしますね。なんて心の中で縋ったのですが、アリシアさんはその声が聞こえたのでしょうかね。とってもとっても優しく私を歩かせてくださいました。後ろ向きに。

 目を閉じているにもかかわらず、どうして後ろ向きなのでしょうかね?

 

「さ、ここでいいわ。キャシーもうちょっとそのままね」

「は、はい。わかりました」

「じゃ、始めるわよ」

 

 アリシアさんがそうおっしゃった次の瞬間ですね、突然お歌が聞こえました。はい、アレです。あの定番のバースデイソングです。うう、皆さんとっても発音がいいですね。とってもお上手で、素敵です。なんて誤魔化すように考えてみましたが、目がとっても熱いのですが。こんな最初から泣いてはダメですよ! 頑張るのです私!

 

 ネロを抱きしめつつ自分を応援した甲斐があったのでしょうか。お歌の最後までちゃんと泣かずに聞くことができました。多分ですが目を閉じていたということもよい方向に作用したのでしょうね。ですが、私はまだ目を閉じたままです。ええと、いつ開けたらよいのですかね? アリシアさんから、お声がけがいただけるということなのでしょうか。

 

「キャシー! もう目を開けて平気だよ!」

 

 お声がけはアンジェリーナさんからでした。私はその言葉のままにゆっくりと目を開けて、目の前にあるものを見て言葉をなくしました。ただなにも言えないまま、目の前をじっくり見たのです。多分30秒ほどですかね、それからすぐに勢いよく顔を覆いました。はい、絶対皆さん泣かせにきてますよね! こんなの、こんなの泣いちゃうに決まってるじゃないですか!

 

 目を開けた私の目の前にあったのはですね、なんと垂れ幕でした。私が両手を広げたよりももっとずっと大きなそれは、キラキラしたリボンや、お花や星でとっても可愛らしく飾られたものでした。なにか魔法もかけてあるのですかね? リボンは虹色でしたし、星はキラキラ瞬いていましたし、お花にはヒラヒラと羽を動かす蝶々が止まっていたのですよ?

 そんなメルヘンなものに囲まれた中に、大きく書かれた私の名前と、それに続いてある『HAPPY BIRTHDAY』の文字。それが題字代わりなのでしょうね。その下には皆さんがご自分で書かれたのでしょう、字体も色も違うお名前たちが並んでいました。そしてですね、私の見間違いじゃなければ……。うう、やっぱり皆さん私を泣かせる気満々です。なんですかコレ! とっても、とっても嬉しすぎて涙が……いいえ、絶対、絶っ対泣かないですよ!

 そうです! そうですよ、『HAPPY BIRTHDAY』と皆さんのお名前の間にある『BEST FRIEND(最高の友だち)』が、その前についている『CASSIE'S(キャシーの)』がどんなに嬉しくても泣いちゃダメなのです。だってこれから楽しいパーティなのです。今から泣いたら台無しです!


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