ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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ご令嬢はお祝いをされました。
その18


 シャカシャカとボールの中をビーターでかき混ぜれば、少しずつもったりとしたクリームが出来上がります。生クリームはもうそろそろ大丈夫そうですね。

 

 本日は金曜の夜。あの、フレッドくんの腕の中でそれはもう号泣してしまい、その上寝落ちした日から3日ほど経ちました。はい。私、フレッドくんの腕の中で眠ったようです。いえ、よく覚えていないのですが、寝てしまったようで気づいたら朝で私は自分の部屋のベッドの中にいました。きっとフレッドくんが連れて帰ってくださったのでしょう。

 

 しかも翌朝は起きられなくてアリシアさんに起こされました。

 そうしたらですね、私の目が腫れていることに気づかれて、アリシアさんもアンジェリーナさんも心配してくださったのです。朝から冷やしたりなんだとちょっとだけ大変でしたがまあ、なんとかなりました。それにですね、他の方はあまり気にしないと思うのですよね。私の目が腫れていようと。

 だって私、嫌われているのですから。なんてちょこっと呟いてしまった所為でですね、アリシアさんに怒られました。嫌われているのだって思うのだったら、隙のない格好をしなさいと。普段ならできているんだから、今日もしなさいと。

 なんだかとってもお母さんに怒られている気分になりました。ちょっだけだらしない笑顔ででしたが、抱きついてしまったのはいい思い出です。

 

 アリシアさんは、最初は驚きながらも結局好きにさせてくださいましたし、アンジェリーナさんなんてズルイと言いながら私とアリシアさんの2人同時に抱きしめたのですよ。聞けばアンジェリーナさんは私がチャーリーさんに抱き上げられた時から抱っこしてみたかったのだそうです。いえ、アンジェリーナさんと私、そこまで言うほど身長に差はないはずなのですよ? ですがこうなんというのですかね。大きなテディベアのような感じで抱っこしたかったそうです。はい、甘んじてその言葉に乗りました。

 

 ああしてフレッドくんに泣かせてもらえたお陰で、私はちょっとだけアリシアさんとアンジェリーナさんと近づけたのではないかと思います。それがとても……そう、とても嬉しくて、でもどうしてかちょっと恥ずかしくてフレッドくんに感謝をしているのにまだなにも言えていません。

 だめですね。私ったら。嬉しいの気持ちはきちんと伝えないと意味がないですよね。というわけでですね、その気持ちを料理に込めて伝えようとしているのです。

 

 ちょっとだけ仲違いのような感じになってしまっていましたのに、皆さん私のバースディパーティーの企画は進めてくれていました。参加者はアリシアさん、アンジェリーナさん、フレッドくん、ジョージくんにリーくん。そしてフレッドくんがセドリックくんを誘ってくださっています。場所はフレッドくんと私がこの間行った、必要の部屋でするそうです。

 なんでもどれだけ騒いでも平気で私たちだけで楽しめる部屋を用意するのだとおっしゃっていましたね。

 それからこのことをですね、厨房の屋敷しもべさんたちに伝えましたところ、ここで作った料理は直接彼らが必要の部屋へ届けてくださることになりました。なんでも本来はできない姿現しを彼らだけはできるのだそうです。……羨ましいですね。私も早く姿現しとくらましをできるようになりたいです。

 

 そんなわけで今、私はケーキの準備をしております。

 イギリスのバースディケーキの大半は少し固めのスポンジにクリームだけを挟んで、アイシングですとかでコーティングしたものが主流です。食べて美味しいは美味しいのですが、お持ち帰りすることを前提としているので、ふんわりふわふわではないのです。

 そんなケーキも嫌いではありません。むしろアイシングって美味しいと思っているくらいですが、今回は日本式なケーキにします。

 生クリームで真っ白でふわふわ柔らかいバースディケーキですね。リクエストにありました、ザッハトルテもチョコレートタルトも小さめですが作りましたし、後はバースディケーキを生クリームとフルーツでデコレーションするだけです。

 ちなみにクッキーで一文字ずつ『HAPPY BIRTHDAY』作って、それを乗せる予定です。自分の誕生日を自分でお祝いしているようで、ちょっとだけおかしいかもしれませんがいいのです。クッキーは、屋敷しもべさんたちが型を抜いてちょうど今焼いてくださっているところですし、屋敷しもべさんたちからのプレゼントだと思うことにするのです。

 きっととっても可愛いとケーキになるはずですよ。ああ、文字ごとにチョコレートコーティングの色を変えるのも可愛いかもしれませんね。それもお願いしてみましょうね。思わず鼻歌がもれちゃいますね。

 

 今日私は授業終了後、夕食を食べてからすぐこちらにきまして、ずうっとケーキ作りをしています。ですが、ちゃんと合間に明日の料理の仕込みもしております。

 

 食べたことのない料理が食べてみたい。そんなリクエストでしたので、ここは1つ日本料理を作ってみましょうと一念発起しまして、記憶の中に眠っているレシピを発掘しました。

 白米が食べたいという欲求はとっても強く心に残っているのですが、白米も、それとともに食べていたはずのおかずについても、今の私は実際食べたことがありません。ぼやけた味しか思い出せませんので、食べてみたいのです。レシピは思い出せるのですけれどね。

 

 そんなわけで前もってお願いして、取り寄せていただいていたお米をご飯に仕立ててみます。ちなみに試しなので一合だけです。炊き方を覚えていただいて、明日は屋敷しもべさんたちにお願いするつもりです。そうなのです。全てを私1人でするつもりだったのですが、アリシアさんに怒られたのです。

 当日は、3時から寮の門限近くまで時間を取っているのに、夕食分を私が作ったら主役がいないじゃないか、と。はい、よく考えたらそうですよね。というわけで、ケーキ以外は一度少しずつ全て作って、明日は仕込んだ分を夕食時に持ってきていただくことになったのです。

 なんというか……屋敷しもべさんたち、本当にこんなお願いをきいてくださるなんて思っていなかったです。だって他の生徒さんたちの夕食を作りつつ、別の料理を作り、その上で別の場所に持って行く、なんて。とっても面倒だと思うのですが、彼らは喜んで請け負ってくださったのです。

 ありがたいことですね。屋敷しもべさんたちだからと言って、感謝しないでいられるわけもないです。

 どうすれば感謝の気持ちを受け取ってもらえるか。それを考えながら、ケーキを仕上げます。楽しい気持ちで作れば、その分美味しくなる気がするのです。ですからたくさん楽しいことを考えるのです。うふふん。

 

 楽しく有意義な時間を過ごしまして、私は厨房を出ました。はい地下ですね。薄暗いですが灯りはあります。ええ、1人でも帰れますよ。私は子供ですが、怖いものは怖いと言える子になったのですから。なんて意気込みながら1階まで戻り、大広間を目指します。ちょっとだけ足が震えていますが、そこは無視です。

 もうしばらくすると寮から出てはいけない時間になりますので、人影はありません──と思っていたのですが、また大広間の扉の前に誰かがいます。

 

「あ、キャシー。終わった?」

「はい、終わりましたよ」

 

 かけられた声に小さく笑います。それから少し胸を張って、自慢します。

 

「とっても美味しそうにできたと思います! ですから明日は楽しみにしていてくださいね」

「おう、キャシーの料理ならすっげえ楽しみだ。それに今回はお菓子もあるんだろう? そっちも楽しみだな」

「ふふ。フレッドくんはなんでもいいと言っていたではないですか」

「や、あれはキャシーが作ったのならって意味で! ていうかキャシーが作ったものならなんでもいいって言ったはずだろ、俺たち」

「ええ、フレッドくんもジョージくんもそう言っていましたね。ですがね、それって1番悩むのですよ? なんでもいいは1番範囲が広くて困ってしまうのです」

 

 なんて軽口を交わしながら歩きます。そうなのです。私、フレッドくんとジョージくんを見分けることができるようになりました──と言いたいところですが、それは2人でいらっしゃるときだけです。今のように1人でいらっしゃる時には、行動してくださるまではわかりません。

 ちなみにですね。お2人でいる時の判断基準は、私を見てすぐに笑って声をかけてくれるのがフレッドくんで、楽しそうに静かに笑うのがジョージくんです。なんだかジョージくんの目は、アリシアさんたちがたまに見せる目に似ている気がします。皆さんなにを考えていらっしゃるのですかね?

 お1人でいる時の判断基準なのですが、フレッドくんはよく私の頭を撫でます。小突きます。そしてたまに手を握ってきます。ナチュラルにです。でもそうやって自然に触れてこられると、嫌悪感は全く芽生えないのですよね。あ、でも手を握ってこられるのは本当にたまになので。多分この3日間の間に2度くらいですかね? あれ? 2度って多いのでしょうか?

 わかりませんが、私自身抱きしめていただいたあの時から、なんだかハードルが低くなったようで、手を握られるくらいは普通になりました。私から握ることはないですが、フレッドくんからのそれを拒否しようとは思わなくなりましたし。子供扱いをしていらっしゃるわけではないと気づいたからですかね? ですが、それって友だちとしても普通ですよね? 実際アリシアさんたちとも抱き合ったりしておりますし……。

 ええ、問題ないはずです。仲がとってもよいお友だちだととっても思いますし、いいですよね。

 

 ちなみにフレッドくんは私が補習授業で遅くなる時もこうして迎えに来てくださいます。アリシアさんもついてきてくださる時もあれば、リーくんやアンジェリーナさん、ジョージくんとの時もありました。えとですね、私の補習授業回数がそれなりに多いのですよね。ご迷惑をおかけしていますね。

 でも嬉しいのでついつい甘えてしまいます。が、フレッドくんは毎回必ずいらっしゃっていますが、大丈夫なのでしょうか。1番ご迷惑をおかけしているということですかね? そうですよね……今度なにかお礼になりそうなことを考えなくては、ですね。お友だちといえども礼儀は必要ですし。義理も必要なはずですから。

 

「キャシーは明日、3時よりも前にあそこに行くんだろ?」

「え? あ、はい。そうらしいです」

「なに、そうらしいって」

「ええと、ですね。アリシアさんとアンジェリーナさんと先に行くことはわかっているのですが、なにが目的なのか教えていただいてないのです。……なんでしょうかね? 飾りつけですとかは好きですが、あのお部屋でしたら望んだまま出てきますよね?」

「ん? まあ、そうだろうけど……ま、アレだよ。女の子は俺たち男と違って色々準備が必要ってことなんじゃね?」

「準備、ですか……ケーキの用意も、ご飯の用意もできておりますけどね? 他になにが必要なのでしょうかね」

「あー…うん、大丈夫。キャシーはなんも気にせずアリシアについて行っておけば問題ない。とりあえず明日は楽しもうな!」

「はい、明日はとってもとっても楽しみなのです!」

 

 フレッドくんと楽しく話しながら寮まで戻るのですが、本当に明日は予定時刻よりも早くあのお部屋へ向かうのはどうしてなのでしょうかね? 3時からですのに、お昼過ぎたらすぐにだなんて……お掃除でもするのでしょうか?


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