ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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俺の願うことは

 俺がキャシーとの出会いを思い出すと、まず1番初めに浮かぶのは、ネロの爪の鋭さ。そしてあの薬の沁みる度合いだ。

 どちらも正直泣きたくなるくらいに痛かった。実際ちょっと泣いた。いや、でもよ。マジで痛かったんだぞ? なのにあの双子ときたら……1人は腹抱えて笑ってやがったし、1人は安全圏で見てただけ。なんつー友達甲斐のないやつなんだ。や、まあ出会ったばっかだったけどな。

 

 まあ、俺とキャシーはそんな痛みを伴う出会いをしたわけなんだが、俺はキャシーを嫌っていない。

 もしかすれば親が知ったらなにか言うかもしれない。だけどそれって結局親から見たあいつの親への印象だろ? それが全面的にあいつに当てはまるかなんてあいつを知らないやつにはわからないだろ?

 

 だってあいつ、俺が怪我したって、ネロの爪で怪我したって気づいて泣きそうになったんだぜ? しかもできることならなんでもするって言いやがった。……あのな、キャシー。お前は小さくても女だ。俺がまだ子供だからいいが、相手が大人で、しかもペドだったらどうなるかわかって言ってるのか? そう思ったことをよく覚えてる。

 

 なんかこう、危機管理能力なさそうなやつだって思ってた印象はそれから変わることはないだろう。

 

 入学して、予想してた通りにスリザリンじゃなかったキャシー。そして俺はキャシーの言葉通りにグリフィンドールで、キャシーもそうだった。あ、もちろん双子も、あん時きたアリシアもな。それからキャシーの友だちだっていう、同じグリフィンドールのアンジェリーナも交えて、俺たちはよく一緒に行動をした。

 

 朝メシの時、授業に行く時、放課後とかで出された宿題をする時。とにかく大抵の時は一緒にいたと思う。

 その1ヶ月と少しの間に知ったのは、キャシーは意外なほど頭が良くて、授業で習う色んなことをよく知ってたってこと。なのに探究心が強いっていうのか、それ以上を習うために補習まで受けてる。

 いや、マジですげえよ。普通あの魔法薬学の補習を自分から受けられるように交渉するか? その上変身術だぞ。どっちも怖いことで知れ渡ってる先生2人だぜ? しかも1人はどうもグリフィンドールが嫌いらしいし……まあ、キャシーはそれでも平気みたいだけどな。

 

 そんな風にキャシーを知っていくと、キャシーがどんな性格なのかを知るとともに、キャシーが周りにどう思われているのかも知っていった。

 

 俺が知るキャシーは、多分真面目で努力家で、いいやつで、でもドジでちょっとトロいやつ。でもそれを補って余りあるくらいには可愛い。んで胸がでかい。うん。あれはすごい。言ったら多分アリシアに殴られる気がするから、誰にも言ってねえが、あれはすごかった。……俺の母ちゃんよりあるんじゃね?

 

 あー…それはいいんだよ。それはよくて、だな。キャシーはそんな風にいいやつだって言えるのに、周りのやつらはちょっと引いて見てる。多分その中にはキャシーと話してみたいと思ってる奴らもいるだろうな。だけど、キャシーの家の名前がネックになってるみたいだ。

 

 筆頭で言えば、ジョージなんだろうな。フレッドはなあんも気にせずキャシーをからかってるが、ジョージは心配してるらしい。なんでも親があいつの父親と仲悪いらしいから。

 でもよ、俺たちただの子供なんだぜ? 学校での付き合いに親って必要か? って思う。や、心配するのはわかる。なにせキャシーの父親はこの学校の理事らしいからな。下手うって退学に──なんて言われちまうかもしれねえ。でもよ、それってまずキャシーが父親に訴えねえとならなくね?

 あのキャシーが、自分がされたことを父親に言いつけるか?

 それはないんじゃね? というのが俺の意見だ。

 

 いや、ただの推測だけどよ。もしキャシーがそうやって言うやつなら、初めに俺とあった時にだってあんなこと言わないだろ? 傷が残らないように親に金を出させて治療させればいいだけだろ? いくら傷薬を持っててもかなり高性能なやつなんだから出し惜しみしたっておかしくないわけだしな。

 しかも父親に任せりゃ、俺たちの処遇だって、ジョージの心配通りになるだろ? なのにキャシーはそうしない。つまりさ、俺たちと一対一で向き合おうとしてくれてるってこと、だろ? 俺はそうやって向き合おうとしてるやつに対して、偏見で壁を作るのは嫌なんだよ。

 偏見て周りが思うよりもずっと嫌なもんなんだぜ? 俺はそういうの、ちょっと受けたことがあるし、すげえ嫌だった記憶がある。だから人にはなるべく偏見を持ちたくはない。まあ、嫌いなやつはどんなことしても嫌いなままなんだがな。

 

 それに思うんだけどよ、あんなぽやっぽやなやつに後ろ暗いところなんてあるわけねえよ。

 だってキャシーのメシ食ってる時と、猫と戯れてる時の顔、マジで癒しだぞ。外が大雨だとしても、そこだけ陽だまりになるんだぞ。そんなやつが親みたいなやつになるかっての。

 みんなバカだよな。

 あんなに面白いやつを勝手に勘違いして敬遠してるんだぜ? 俺みたいになんも考えずに接しちまえばいいのによ。

 

 あ、でもそうすっとあいつが作った菓子とかメシの取り分が減るのか? んー…それは困るな。あいつのメシ、どれも美味いんだよ。あの権利を他のやつにやるのももったいねえ気がする。

 

 んー…じゃあ、当分はキャシーのいいところに他のやつは気づかなくてもいいが、せめて陰口はやめてやってほしいぜ。

 もちろんキャシーは気にしてるそぶりなんて見せやしねえよ? でもよ、聞こえないフリなんだよ、それは絶対。すぐ近くにいた俺に聞こえてたんだからさ。つまりキャシーはわざと聞こえないフリをしてるってこと。でも聞きたくなくても勝手に耳には入ってくる。それなのに普通の顔してる。

 多分キャシーは、すげえ強いやつなのか、すげえ鈍いやつなのかのどっちかだろう。俺的には鈍いやつってのに一票だけど。

 だけどそんな風に聞こえないフリしてたって傷つくもんは傷つく。でなきゃキャシーの笑った顔が、ホグワーツ特急の中でとちょっと違う理由にならねえと思う。

 

 へにゃっとして、でもすげえ嬉しそうで幸せそうな顔。それがあいつの笑顔であいつが笑ってると平和なんだってすげえ思う。おかしな話だよな。マルフォイ家の娘の笑顔だってのに。

 

 でも元闇陣営の娘があんな風だからこそ、この先になんか希望が持てる気がすんだよ。

 

 今はそれなりに平和だけど、その平和ってずっと続くものなのかは確定した未来じゃない。もしかしたら第二の例のあの人が現れるかもしれないし、本人自体が戻ってくるかもしれない。未来はわからないんだ。

 だけどそんな中であんなぽやぽやしたやつが、あっち側から出たら、それだけで俺たち闇陣営と関わらないやつらとの垣根が低くなる気がした。そうなったらきっと今よりも世界は平和になるんじゃねえかって思える。

 

 どれもこれも憶測だし、本当にそうなるかなんてわかりゃしねえよ? でもそうなればいいと思うのは自由だろ?

 

 俺は自分の気持ちに自由でありたいし、友だちにもそうであってほしい。だから多分キャシーにはもっと友だちができた方がいいんだろうけど、それはちょっと困る。美味いメシの配分で。や、それは半分以上冗談だがな。俺たち以外の友だちができることは難しい気がするんだ。今のキャシーのまんまじゃ。

 

 キャシーが俺たち以外の誰かと交流することができるようになるためには、あいつ自身が変わることも必要なのかもしれないって俺は思う。あいつのいいところはそのまんまに、嫌なことだったとしても聞いて、その上でそれのなにが嫌なのかしっかり言えるようにならなきゃ、ダメな気がする。このまんま我慢し続けてくなんて土台無理な話だろ? いつかポッキリ折れちまう気がする。

 

 あいつが折れちまう前にそうなればいいのにって思えるくらいには、俺はキャシーのことを大事な友だちだと思ってる。が、断じて言うが、俺はただの友だちとしか思ってないからな! だから俺を悪戯の実験台にするのはよせよ、頼むから!

 


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