ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その2

 私ことカサンドラ・ナルシッサ・マルフォイは弟であるドラコの2歳と9ヶ月上。つい一週間前に前世っぽい記憶を思い出して、ちょっと混乱しつつも納得して、そうして今からでもできることをしてみようかと画策してみました。

 

 そう、落ち着いて思い返せば、いろんなことに気づくのが遅かった所為で、世間は原作通りにいろいろ進んでいます。

 もうハリーは1人になっていますし、シリウス・ブラックもアズカバン。ピーター・ペティグリューはネズミになって逃げています。どこにいるかはわかっているのでまだマシですけどね。

 私が何かしたところで、何が変わるのかはわかりませんし、変えられるとも思いません。だって私はごく普通の感覚を持ったただの『おばさん』でしたから。けれどそれでもまだ、できることはあります。

 なんと言っても我が家には『日記』があるのですから!

 

 トム・マールヴォーロ・リドルのホークラックスの1つ。これがあると、可愛い女の子が辛い目に遭っちゃいますし、我が家もちょっと綱渡り的な状況になっちゃいます。というわけで、サクッと壊せる人──まあ、アルバス・ダンブルドア校長ですけれども──に渡してしまおうと思っているのです。ちょっとした交渉をしつつね。前倒しで破壊できればもう少し人死も減ってくれるのではないか、という希望的観測です。

 

 というわけでお父様が留守の今日、私はお父様の書斎からそれをこっそり借り受けることにします。もちろん承諾はなしな上、返却するかわからない──というか多分破壊するのですけれどね。

 

 天井まで届く本棚にビッシリと詰まったたくさんの本。どれも魔法界のことばかりが載ったもので、ある意味純血主義のための本だけ。

 今の私には必要ない本ですし、と以前見かけた辺りを探せばあっさり日記が出てきます。うん、お父様って意外とうっかりさんなのでしょうか。……1年前に見た場所そのままに置いてあります。日常的には選ぶことのない本ばかりの棚、最下段の右端。ぎっしり詰まった本の上、ちょっとした隙間に無造作に捨て置かれているのです。

 

 少しくすんだ黒革の日記帳。フーッと一息かけてから手に取ります。ついでに確認とちょっとした興味からペラリと開いてみます。うん、『T・M・リドル』としっかり書いてありますね。お父様の日記でなかったようで一安心……ですが、本当にこんなにあっさり見つかっていいのですかね。それに大分埃かぶってますし……受け取った時からここにあったのですかね。

 ま、まあこの状態ならきっとあと四年くらいは気づかないはずですよね。お父様がこれを使おうとするのはドラコやハリーが二年生の時なんだからまだ時間はありますし。

 

 ちょっとだけ肩の力が抜けた私は、ほっと一息つきます。

 前世のものではありますが、私は平和な日本の記憶を持っています。その影響か誰かと争うのも好きじゃないですし、物理的に戦ったことなんてありません。それが当たり前だったのです。

 でもですね、平和っていいと思うのです。

 もちろん誰もが幸せな、なんて言わないですよ。そんなの無理に決まってますし。けれど、選ばれた少数だけが特別に幸せな世界じゃなくて、大多数が当たり前に得られる幸せを持っていて、その他大勢の方が命を簡単に奪われない世界って本当に大事だと思うのです。

 いつかなくなってしまう命なのだとしても誰かの都合でなくなるのはおかしいでしょう? もちろん悪だからって絶対に命を奪わなくてはいけないとも思えませんけれどね。だけど自分のした罪と同じだけの罰は受けるべきだとは思います。

 そう思う程度に私も平和主義なのなのですけれど、私の実家であるマルフォイ家は闇陣営なわけです。

 記憶の彼方にある物語の中では、全てが終わったその時肩身は狭かったようですけど捕まりはしませんでしたよ? ドラコを探すため、積極的に最終戦で闇陣営に与しなかったから──という理由で。でも今本当にそうなるかはわからないでしょう? だからちょっと保身に走らないとと思ったわけです。子供らしくないけど仕方ありません。中身おばちゃんですから。

 

 それにですね、今の私は11歳なのです。この先で前世のようにもう一度結婚できるかなんてわからないですけど、自分が幸せになれるだろう可能性は潰したくないのです。そしてできるならお父様たちだって肩身の狭い思いをしないで欲しいと思うのですよ。無理かもしれないですけど。

 

 というわけで首尾よく日記を手にした私は、それを布でグルグル巻きにして、同じようにグルグルときつく紐で縛って、トランクの奥底に詰めて、荷造りをしました。ちなみにネロはそれをおもちゃだと思ったらしくてちょっと戯れてました。可愛い。

 全ての準備を終えて何食わぬ顔して数日過ごした、出発前夜の夜。ちょっとした晩餐です。

 

「……お父様とお母様はスリザリン、でしたのでしょう?」

 

 カリカリに焼けたローストポークにベイクドポテト、クタクタになるまで煮えたほうれん草にコーンのバターソテー。ああせめて白米があればまだ我慢できるのに──なんて思いながら聞いてみます。

 

「そうだが? それがどうかしたのか?」

「いえ……その、もし私がスリザリンではなかったら……お父様たちは私のことをお嫌いになりますか?」

「まあ! なんてことを心配しているの、カサンドラ。たとえあなたがどの寮になってもあなたは私の愛しい娘よ」

「お母様……」

 

 ちょっとした茶番のようですが、一応言質がとっておきたくて。とりあえずお母様は今のところ大丈夫そうです。といってももし寮がグリフィンドールだったら違うかもしれないですけどね。というかそうだったら私は家出するつもりなのでいいのですけど。ドラコは心配だけど、家で冷遇されて両親を嫌いになるよりはマシ、ですから。

 

「そう、だな。もしもお前がグリフィンドールだったとしても優秀な成績を修め、誰に恥じることのない魔法使いになるのであれば問題はない、だろう」

「姉上は姉上です! 嫌いになんて絶対なりません!」

「……ありがとうございます、お父様、ドラコ」

 

 言質が取れた喜びを隠しつつにっこりと笑います。なんだかとっても愛されているような気がして嬉しいですね。この流れでお父様が闇陣営から手を引いてくれたらいいんですけどねえ……無理、ですよねえ。

 

 あくる朝、お父様とお母様、それからドラコと共にキングクロス駅に到着。海外の駅ってどうしてこんなに可愛いのですかね。ちょっとトキメキが止まりません。

 

 人混みを抜けて、9と4分の3番線へ向かう柱の前へ。煉瓦積みの柱に突進するの怖かったですけれど、なんともなく通過して、魔法族ばっかりが集まるホームへ。すっごい賑わいです。

 

 ホグワーツ特急を目の前にして、今にも泣きそうな顔をしたドラコが言います。

 

「姉上、僕手紙いっぱい書きますから! だから僕のこと忘れちゃ嫌ですよ!」

「ええ、私もちゃんと送りますし忘れませんよ。だからお父様たちの言うことをよく聞いていい子にしていてね」

「はい! 父上の言うことも、母上の言うこともよく聞いて、たくさんお勉強します!」

 

 ああ、もう本当にドラコは可愛いです。良い子良い子とサラサラのドラコの髪を撫でくりまわしながら、お父様とお母様を見上げます。

 

「行ってまいります、お父様、お母様」

「ええ、いってらっしゃいカサンドラ」

 

 手を振るお母様とお父様、ドラコの3人に見送られ、私はホグワーツ特急に乗り込みます。これから最低でもクリスマスまでは会えません。寂しいですが、笑顔で手を振りました。

 お友だち、できるといいのですが。


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