ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
私は決めつけられることが嫌いなの。
よく言われるのは、「アリシアは1人でも大丈夫でしょう」とか「アリシアは強いから」とか。
他には「任せておけば安心だ」とかも言われたりする。だけど少しでも失敗すれば、調子が悪かったのかと言われたり、陰で笑われたりもした。
私は別になんでもできるわけじゃない。
勉強は嫌いじゃないから、それなりの努力でそれなりの成績を取れている。運動だって嫌いじゃないから、悪い点を取ったりはしない。だけどそれとわたしと、そんなに深く関係するものなの?
私だって年相応の子供として、ワガママを言いたくなったりだとか、泣きたくだってなる。なのにそんな態度を少しでも出せば、必ずこう言われるの。
「そんなのアリシアらしくないよ」って。ねえ、あなたは私のなにを知って、そう言うの? 何度もそう聞こうと思った。でもできなかった。
だってきっと明確な答えなんて返ってこないと思っていたから。聞くだけ無駄だと思っていたのよ。私は私を取り巻く世界全てを斜めに見ていたのだと思う。
自分の周りに、自分を全力で肯定してくれる存在はいないのだと、思ってしまっていたから。
だからきっと、新しい場所に行っても、私は変わることなんてできないだろうと思ってもいた。だってそれが周りが言う、『アリシアらしさ』なのだろうと感じてもいたから。
そんな私は、新しい場所であるホグワーツ魔法魔術学校への入学のため、ホグワーツ特急に乗った。
親しい友人なんて作らずに、7年も過ごすことはきっと無理だとわかっていた。だけどそれを進んで作ろうと思わない程度にはひねていた私の目の前に現れたのは、男の子と握手してぽわぽわ笑っている女の子。
私みたいにつり目じゃない、ちょっとだけ垂れた青い目に、色素の薄い肌と髪。それなのにソバカスなんて1つもなくて、髪だってサラサラしてとても綺麗だった。だけどその子は1つだけ欠点があることに気づいた。欠点と言っていいのかわからないけど、個人を見てもらえないだろうことだから、多分欠点と言っていいはず。
それはその子キャシーが、カサンドラ・マルフォイという、マルフォイ家の令嬢だということ。私は彼女の顔を見てそれに気づいたのよ。
少し前に見た、日刊預言者新聞。そこに出ていた写真に、ホグワーツ魔法魔術学校の理事として、ルシウス・マルフォイが映っていた。父や母は、それを見て「彼は死喰い人だったんだ」や「娘はお前と同じ歳だというが、あまり近づかないほうがいい」なんて言っていた。
なんて言うのだろう。臭いものに蓋をするように、近づかなければ安心が買えるというように、そう言ったのでしょうね。
それを聞いて、私はなんだか納得できなかった。
私と同じ歳である女の子。それを父親の過去だけで嫌うことは正しいのか。それがわからなかった。いいえ、それは正しくないのだとわかっていたけれど、それを言った父や母の言葉を疑いたくはなかったのね。だけど納得はできなかった。
それに納得してしまえば、私は私が嫌いなことをする人間と同じになってしまう。そうわかったからかしら。だから私は入学前に決めていた。
その子のことを、自分の目で見て判断しようって。
そうして決めていたからなのか、ホグワーツ特急のコンパートメントでまさかすぐに会うことになるとは思わなかったけどね。
私が初めて見たキャシーは、確かにあの写真のルシウス・マルフォイに似てはいたわ。でも父や母が心配するような暗いところのない子だろうとも感じられた。笑う顔がほんの少しだけ陰るところがあったけれど、言葉遣いは丁寧だし、ペットの猫をおかしいくらい撫でていたのよ。
なんだこの子も緊張しているのねって思えたわ。
元闇陣営の娘で、人を騙すような子だとして、その子は緊張していることがすぐにわかるような行動をするのだろうか。とても賢いなら、そんな風に自分を作るのかもしれないわ。でも、私は、キャシーはそうじゃないのだと感じたの。キャシーはそのまま自然体なんじゃないかって、勝手な予想だけど思ったのよ。
だから私は私のその直感を信じることにした。でなければ、私はズルい人間になってしまうから。
私の周りにいたような、イメージをその人に押し付けて、それと違う行動をすれば非難する。私はそんな人間になりたくなかったのよ。
それにキャシーは、名前を言うことに戸惑っていたわ。どうして私と同じ歳の女の子が名乗ることに戸惑わなくちゃいけないの?
それは私たち周囲の人間がマルフォイという家を『元闇陣営』で『例のあの人』に与した人間だと見ているから。
怖いから遠ざける。怖いから排斥してそれで安心しようとしている。とてもズルい人間なのよ。私はそんな人間の一部になりたくなかった。
多分、これは子供らしい潔癖さってヤツなのでしょうね。自分でもわかってるの。私の言っていることが少しおかしいって。でもそれでも自分と同じように、型にはまるように強制されてるって思えたキャシーと、私自身が親しくなりたいと思えたのは本当。
まあ、パッと見て大丈夫だなとも思ったし、話してみておっとりしてるのは演技じゃないともわかったしね。
というかね、猫と散歩に行って迷子になった挙句知らない子たちと和気藹々としてる──なんてこと、闇陣営の人ができるの? しかも私が行った時は半泣きだったのよ? 闇陣営の人ってそんなに涙腺弱いのって疑問に思うくらいのことをしてたんだもの。疑いなんてなくなるわ。
それから少しずつ知っていったキャシーのこと。
キャシーは小さくておっとりしていて、のんびりしてるけど黙っている時は大抵変なことを考え込んでる時で、そんな時は100パーセントつまづいてる。それも何度もね。
いい加減考え事しながら歩くのは危険なんだって理解すればいいのにね。でもまあ、入学までに治らなかったクセだろうから、きっとこの先も無理なんでしょうね。それにそのお陰で、それが『キャシーらしさ』なんだって思えるようにもなれたんだけど。
そう、『らしさ』って言葉は、その人を好意的に表すもので、ネガティヴな感情だけでできているものじゃないのだって、私はキャシーと出会って気づけたのよ。
朝、ぼんやりしながら三つ編みをして、ぴょこんと立ったままの前髪の寝癖に気づいてなかったりとか、ネロにじゃれつかれてそれに気づいて慌てたりだとかするキャシー。朝ごはんはすっごい喜んで食べるのに、昼や夜は難しい顔をして少しだけしか食べない。味のわかりやすいものが好きで、紅茶が好きで、甘いものが好き。そんなところはすごく女の子らしくて可愛いと思うわ。まあ、ハチミツを波々かけたクランペットはやりすぎだと思うけどね。
そして予想に反してキャシーは頭がいいのよ。でも勉強はできるけど、運動が苦手──本人は嫌いではないって言ってたけど──で、多分足も遅いと思うわね。普段から行動がのんびりしてるしきっと間違いじゃないでしょうね。
そうやってキャシーの色々なことを見て、確信したわ。やっぱりホグワーツ特急の中で私が感じた直感は間違ってなかったって。
24時間ほとんど全ての時間私はキャシーといるわけなの。それでわからない方がおかしいわ。
だいたいあの子、寝言で笑ったりしてるのよ? それも私や、アンジェリーナの名前を呼びながら。
そんな子供みたいな子に偏見を持つなんて、私にはできないし、偏見を持つなんて子たちから守りたいと思うくらいになる。もちろんそれをして、キャシーのそばから離れることになるくらいなら、私は睨むだけでそれを止めるけれどね。
キャシーは、私にとってこれから先も付き合っていきたい人。つまり大事な友人なのよ。