ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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間話
僕が知っている彼女のこと


 僕があの日出会ったあの子は、とても小さくて可愛らしい女の子だった。

 

 

 僕ことセドリック・ディゴリーはあまり喋ることが得意ではない。特に女の子相手だとそれは顕著だ。思っていることはたくさんあるし、考えていることもたくさんある。だけど、それを口に出すのが得意ではないから、つい言葉数が少なくなってしまうんだ。

 もちろん家族相手であればそんなことは全然ない。だけど同じ年の子だとか、年上の人にだとかは全然ダメなんだ。

 父さんはそれが僕の個性なんだ、なんて言ってくれるけれど、それは甘えなんじゃないかな、なんて思ってもしまう。僕は、言いたいことをきちんと言えるようにならなければ、きちんとした大人になれない気がするんだ。

 尊敬する父さんのように、僕も思っていることを少しでも表に出したい。そう望んでも上手くできないまま訪れたホグワーツ魔法魔術学校への入学。少しだけ不安だった。もちろんたくさんの期待もあったけれど、上手く僕が望んだ人間になれるかがわからなくて少しだけ怖く感じていたんだ。

 だけどそんな風に悩んでいた僕は、ホグワーツ特急の中であの子に出会った。

 

 父さんから聞いたことのあった、マルフォイ家のご令嬢。僕は、その子をマルフォイ家のイメージみたいに嫌な感じの子なんじゃないかって想像してた。でも全然違うんだ。

 キャシーから名前を教えられるまで、彼女はマルフォイ家の子だなんて少しも思えないくらいに素直そうで、とても可愛らしい子でしかなかった。色眼鏡をかける前なら、キャシーとは友人になれると感じられたんだ。

 

 あの日、僕が初めて見たキャシーは光の中にいた。

 コンパートメントの椅子に座って、猫と戯れてるふわふわした洋服を着た女の子。柔らかそうなプラチナブロンドは緩い三つ編みになっていて、肩にかかってた。なんだか物静かで、人見知りなのかなって少しだけ思った。白いカーディガンと水色のワンピースに淡い色の髪に、なんだかそのまま空気に溶けて消えてしまいそうなくらいにも見えたから。

 だけどコンパートメントに入ってきた僕をまっすぐ見たその青空みたいな青い目が、この子がここにちゃんといるんだって僕に教えてた。とても強くて綺麗な青い空の色だった。

 

 「空いていますよ」って言いながら、ふんわり柔らかく笑ったキャシーにすごくすごくドキドキして、でもその名前を聞いてびっくりして、同時になんだか納得もした。

 もしかしたらの存在(・・・・・・・・・)がここにいるんじゃないか、なんて思えたんだ。

 

 たまに考えていたんだ。もし魔法界に例のあの人がいなかったならどうなるかって。

 きっと大きな争いはないまま平和だったんじゃないかとか、今ほど純血主義を声高に訴える人は少なかったんじゃないかとかね。僕自身純血だとかハーフだとか、マグル出身の魔法使いだとかに偏見はない。スクイブは少しだけ可哀想だなって勝手に思ってしまうけど、でも人と違うとか、劣っているだとか思わない。自分がされていやなことはしないでいたいし。

 そういう風に考えていたような存在が、キャシーなんじゃないかと思ったんだ。

 その、マルフォイ家が純血主義じゃなかったとしたら、マルフォイ家にこんな風にのんびりほんわりした女の子がいてもおかしくないんじゃないかなっていうふうに。

 

 でも僕には実感がないけれど、例のあの人の爪痕はまだそこかしこにあるらしいし、マルフォイ家はやっぱり純血主義だし、元闇陣営だ。だからマルフォイ家の娘のキャシーもそれに準ずる扱いをするべきなのかもしれなかった。だけどキャシーと話すたび、感じたんだ。僕の想像したマルフォイ家の娘と、キャシーは違うんだって。

 なんて言えばいいのかな……キャシーとマルフォイ家は関係があるけど、関係はない。そういう風に思えたんだ。だってキャシーは、自分の名前が人にどんな感情を抱かせるのか気づいていたみたいだったから。気づいてないと、あんな風に緊張した顔で名前を言うことはないと思うんだ。だって初対面の挨拶で名前を言うなんて普通のことだし、名前以外のところなら、キャシーは柔らかく笑ってた。なのに、名前を言うところで困った顔で笑うんだよ? そのくらい僕だって気づける。

 きっと何度も名前を言ったことで何かを言われてきたんだろうなって。

 

 それはとっても悲しいことだと思う。

 生まれは自分にはなにもできない領域だから。育ちは自分が自覚すればきっと変えることはできると思う。親に反発して、自分が正しいと思うことをしたりね。まあ、それが本当に正しいかは別として、親が闇陣営だったからといって、子供まで無条件にそうだとは限らないんじゃないかと思えたんだ。

 だから同時に思ったんだ。父さんの言うことが少し違うんじゃないかって。

 

 父さんは、僕と同じ学年になるマルフォイ家の子にはあまり近づかないほうがいいって言っていた。子供の後ろには親があるのが当たり前なのだからって。だけどキャシーを見て、それが一方的な考えかたなんだとわかったんだ。

 子供は確かに親の影響を受けやすいと思う。僕自身父さんを尊敬しているし、大なり小なりそういう感情があって当たり前だと思う。だけどそれを頭に置きすぎて、人を狭い視野で見てしまうのもなんだか違う。それはものすごく損をしているんじゃないかって思えたんだ。

 

 だから僕は、あのコンパートメントの中でキャシーの友人となることを選んだ。

 

 僕の直感なんて当たらないかもしれない。だけどキャシーを信じてみたかったんだ。それは僕自身を信じることにも繋がるし、僕のなりたい大人の姿にも通じるものがある。そう思えたんだ。

 そしてそれは間違いじゃなかった。

 

 初対面の印象で、キャシーは物静かで、とてもおとなしい子だと思っていた。でも話してみたらたまに寂しそうに、でもそれでもよく笑う丁寧な言葉遣いの女の子だと感じた。けれど、学校で過ごすうちにそれだけじゃないことも知った。

 キャシーはちょっとだけドジで、向こう見ずなところもあったりするんだ。だって道がわからない、場所がわからないのに迷いなく歩いたりするし、なにか考え事をしながら歩いてたりもするんだよ。で、大抵はつまずいたりしてる。キャシー、つまずくと周りをキョロキョロして、見られてないか確認してホッとしてるんだよ。僕は何回かそれを見てるけど、その全部にキャシーは気づいてない。うん、そんな風に抜けてるところがとても可愛いと思う。

 たいていそういう時は、あの時コンパートメントで一緒になったアリシアやアンジェリーナがキャシーのそばにいる。だからよく周りを見ていないキャシーでも迷わず教室につくし、ずっとは寂しそうにはしていない。僕はそれが嬉しい。笑ってるキャシーはとても可愛いんだ。

 

 そんなキャシーは勉強についても、すごい。飛行訓練は苦手みたいだけど、それ以外の授業では全てトップクラス。僕も勉強は苦手じゃないけど、僕でも敵わないころがたくさんある。だけどキャシーはそれを鼻にかけたりしないんだ。むしろ飛行訓練が苦手なことで落第するんじゃないかって心配してるみたいだ。キャシーは低いけどちゃんと浮けてるし、遅いけどちゃんと前に進んでる。だから最低ラインはクリアしてるのに、クディッチの選手のように空高く、素早く飛びたいみたいなんだ。でもキャシーが素早く空を飛ぶイメージはできないんだよね。普段の行動ものんびりおっとりしているし。

 

 きっとこんなことは、マルフォイ家の娘だからってキャシーを敬遠していたら気づけなかった。

 僕はずっとキャシーを勘違いしたまま、過ごしてたろうね。今の周りの子たちみたいに。

 

 キャシーのキャシーらしさを知らない子たち。特に偏見の目で彼女を見て、ちょっとだけ失敗した彼女をバカにしたりする子たちは、彼女の良さに気づかない。良さを全部マルフォイらしくないって貶す材料にしているんだ。マルフォイ家の子だから嫌っているくせに、マルフォイ家らしくないからバカにするなんて、そっちがバカなんだよって言ってやりたいくらい。だけどキャシーは聞こえてるはずのそんな言葉になんの反応も示さない。キャシーが言わないことを、キャシーではない僕が言ったところできっと意味がないんだ。むしろキャシーの立場は今より悪くなるだろうね。だって今ですら、僕は同じ寮生や、スリザリンの子にチクリと言われたりするから。

 

 でも、誰かになにかを言われて自分の考えを変えることを僕はしたくない。だってキャシーを知って、キャシーと親しくすることで、僕は僕のなりたい大人になれると思えるから。だから僕は、誰かになにかを言われたその時に、こう言ってるんだ。「僕は、僕のためにキャシーと友人になったんだ。それは誰かに言われて止めることじゃないだろう?」って。

 

 僕が闇陣営に憧れてるのかなんて勘違いをする人も中にはいたけれど、それっておかしいよね。だってキャシーのどこに闇陣営に加担するような素養があるっていうの? だってキャシーはグリフィンドールなんだよ? サラザール・スリザリンともっとも対立していたあのゴドリック・グリフィンドールの寮に選ばれた子なんだよ? 

 だいたい暗いところが怖くて、ちょっと声をかけただけで腰を抜かすような子が、闇陣営に与して正気でいられるわけないよね。

 いつかきっとキャシーを勘違いしている子たちも気づくはずだ。キャシーにできる悪巧みなんて、僕みたいな子どもでも叱れるくらいのことなんだって。そうしたらきっと、キャシーはもっと綺麗に、あのコンパートメントで初めて見せてくれたような笑顔で笑ってくれるような気がする。

 そうしたらきっと、キャシーは今よりもっと可愛くなるはず。

 みんなバカだよね。あんなに可愛いキャシーを嫌って、自分から彼女に選ばれるかもしれない道を閉ざしているんだから。もったいないよ。きっとキャシーは好きになった相手のことを誰よりも1番大事にしてくれる。1番に愛してくれるはず。あんなに優しくて、可愛い子が自分を1番に思ってくれるところを想像してみればいいのに。

 でもきっとそれはちょっとだけ僕に有利なことなんだろうなって考えてしまうから、ちょっとだけ周りのみんなが気づくのが遅くなればいいのにって思ってしまう。きっとそれが今の僕の悪いところ、なんだろうな。


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