ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その12

 皆さんと一緒にイギリス感満載な朝食を食べていざ授業です。ちなみにイギリス料理で1番朝食が美味しいと思う私です。次点はアフターヌーンティーのお菓子ですかね。……いえ、それは食事ではないですね。

 食べ物の話はよいのです。今は真面目に授業を受けねばなりません! なんと言っても今日の1時限目2時限目は、グリフィンドール寮を好んでいないスネイプ先生ですから。スネイプ先生、授業でもあまり私と目を合わせてくださらないのですが、どうしてなのでしょうかね? 補習の際は普通ですのに。

 

 薄暗くって、薬草独特の匂いのする、そして不思議な生き物の詰まった瓶が並ぶ教室。地下牢教室であるここが魔法薬学を習うための場所、です。1人では正直なところきたくない場所でもあります。ここで個人授業にならなくて本当によかったです。

 1年生で習うお薬や、薬草のこと。初歩的なことはこのひと月と少しで皆さんとも学びました。何度か実習としてお薬も作っています。ですが実は私、以前に一通りお教えいただいておりまして、授業自体は復習にしかなりません。いえ、予習する余裕ができますので、それは構わないのです。ですが、こうして皆さんと授業を受けますと、なんだかとっても違和感なのです。

 なにに対してか、と問われれば答えは1つです。そう、スネイプ先生です。

 私に傷薬をくださったのも、魔法薬学を教えてくださったのもスネイプ先生なのです。その時はとってもお優しくて、とっても素敵だったのです。こんなに暗いお部屋ではありませんでしたし余計にそう感じてしまいます。

 本当に今のスネイプ先生には違和感しか抱けません。

 

 ちなみにですね、私たちの授業もスリザリンの方と合同授業なのですが、記憶にあるハリーたちの頃に比べればスリザリン贔屓は多くありませんよ? 突然「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」ですとか、ベアゾール石の在処ですとか、モンクスフードとウルフスベーンとの違いなどを聞かれることはありませんでした。私はどれも知っていますので、聞かれるのではないかとワクワクしていましたのに残念です。どうして聞いてくださらなかったのですかね? 私、ちゃんと答えられますよ、スネイプ先生。あんなにハリーにはしつこくお聞きになっていらっしゃったのに。ちょっとだけ不満です。

 でもですね、なんだかスネイプ先生のハリーに対する態度を思い出すと、好きな子ほどイジメる男の子が浮かんでしまうのです。小学生男子によくいますよね。スネイプ先生のそんなところも可愛いと思います。全然アリですよね。

 

 たまにフレッドくんとジョージくんとがイタズラをしようとして見つかって注意されていたりしますが、概ね授業は平和に過ぎます。すごいですね、あのお2人。スネイプ先生の授業でも平常通りなのですよ? ちょっと尊敬します。でもですね、スネイプ先生もすごいのです。だってお2人がイタズラをする前に察知するのですよ! とってもとっても危機察知能力が高いのでしょうね。とっても羨ましいです。

 

 短くも長くもない授業が終わります。今日もしっかりお薬を作ることができました。日進月歩の歩みですが、私の魔法薬学も成長しているのでしょう。嬉しい限りです。なんてちょっとだけにやけていますと、名前を呼ばれました。

 

「カサンドラ・マルフォイ。今日の補習も夕食後だ」

「はい、かしこまりました。今日もよろしくお願い致します」

「フン。わかったのなら早く行け。次の授業に遅れる」

「はい、ご心配いただきありがとうございます。ではまた後ほど」

 

 スネイプ先生ってとっても可愛いですよね? 言葉はキツイものを選んでらっしゃるようなのですが、言葉の端々に心配が滲んでいるのですよ? なんでしょう。本当にスネイプ先生を見ていると胸が高鳴ります。今の私からすれば随分と年上だとわかっておりますが、なんだか息子を見ているよな気分になるのです。思春期な感じがとってもするのですよ。

 まあ、スネイプ先生は盗んだバイクで走り出したりはなさらないでしょうけれども。

 

「キャシー、行こ?」

「はい。アンジェリーナさん、ありがとうございます」

「アリシアも、ね。早く行こうよ」

「……そうね」

 

 なんだかアリシアさんがスネイプ先生を睨んでいるような気がします。どうしてですかね。あんなにスネイプ先生は可愛らしい方ですのに。

 アリシアさんのご様子が気にはなりましたが、早く移動しなくては次の授業に差し障りが出てしまいます。私たちは足早に地下牢教室を出ました。

 

 お昼を挟んで3時限目、4時限目の授業です。

 今度は地下牢教室とは違い陽の当たるお外での飛行訓練です。……私、どうにもこの授業が苦手なのです。お家でも箒に乗せていただいてはいたのですが上達には程遠かったのです……。

 高いところは得意ではありませんが、嫌いではありません。運動も同じく得意とは言えませんが嫌いではありません。ですがこう、なんというのですかね、魔法界の体育代わりのこの飛行訓練は地に足がつかないのがダメだというかなんというか。とにかく苦手なのです。

 もうひと月以上経ちましたし、皆さん箒を持ち上げることができています。私も箒を手にすることまではできるのです。もちろん飛ぶこともできますよ? ですが……

 

「……キャシー、相変わらず低いわね」

「はい……」

「で、でもさ! ちゃんと上がってるよ? ほら! 1番初めは柄が私の腰まであるかないかだったじゃん!すぐ上達してるって!」

「はい……そうですね。少し上達はしていますね……」

 

 アリシアさんの呆れ声に、アンジェリーナさんが励ましの声。とっても嬉しいのですがアンジェリーナさん、今のところ、私の握る箒の柄はアンジェリーナさんの腰を5センチほどこえただけ、ですよね? 亀の歩みですよね?

 これから先、私空を自由に飛べるのでしょうか……。

 

 毎回、私の憧れの魔女らしさ第1位に輝ける飛行訓練には打ちのめされています。だって高くもできなければ、早くも飛べないのです。ドラコは1人でもスイスイ飛んでいますのに……。私本当にマルフォイ家の娘なのでしょうか。

 というかですね、このままじゃ飛行訓練は落第してしまいそうなのですが、一年生から単位を落として落第ってあるのでしょうか。ものすごく不安です。

 授業の間ずっと地面から1メートルを超えない辺りをふわふわ漂う私は、空高く飛んでいる皆さんを見上げていました。羨ましいです。私も空を自由に飛びたいです。とちょっとだけ僻みながら。

 箒には赤いラジオをつけたいですとか、ネロと一緒にとは言いません。憧れはあの魔女さんなわけではないので。イメージはあの魔女さんですが違うのです。ただ私は箒で空を飛んでみたいのですよ!

 はあ、でもいつになったら私は自分の身長よりも高く飛べるようになるのか見当もつきませんね……。

 

 いつも通りにしょんぼりとしながら飛行訓練を終え、一度寮まで戻ります。荷物を置いてから夕食です。ついでにですね、あのグルグル巻きの日記帳を持っていかなくてはダメ、ですね。忘れてはダメなのです。

 小さなポーチに日記と、補習用のノートと羽ペンにインクを詰めて、大広間へ向かいます。はあ、今日もイギリス的夕食、ですね。白いご飯はいつか食べられるのでしょうか。

 賑やかに皆さんとお話をしながら夕食をとり終えた後、私1人スネイプ先生の研究室へと向かいます。魔法薬学の教室のすぐそばですが、まだそこまで暗くはないので1人でも大丈夫なのです。

 

 今のところは授業で習わない特別な薬ではなく、触りだけは習いますが実習まではしない、そんな薬の作り方を学んでおります。昔から多少交流がありましたからね。私が魔法薬学を好んでいることも理解なさってくださっていて、とても丁寧に教えていただけるのです。

 本当は脱狼薬ですとかを改良してみたいのですが、まだ私の力量では難しいでしょう。もっとたくさんのお薬の作り方を学んで、自分でも考えることができるようになれると良いのですが──なんて考えながら、正味2時間ほど補習していただきました。

 今はお片づけも一区切りついたので、スネイプ先生とお茶をしているところです。ちなみに私がお茶を淹れると、どこからともなくお菓子を出してくださいます。──ハニーデュークのものでしょうか? 甘いお菓子と美味しいお茶にちょっとだけまったりしてしまいましたが、きっと今がチャンスですよね? 私はポーチを手にしながら、スネイプ先生へと声をかけました。

 

「スネイプ先生。あの、お願いがあるのですが、よいですか?」

「──なんだ? ルシウスへの橋渡しなら無理だが?」

「い、いえ……それは自分でなんとかしますので。そちらではなくてですね、そのお会いしたい人がいるのです」

 

 カップを持ち上げながら、ちらりと横目だけで私を見て、そうしてちくりと一刺し。わかっています。お父様のことをスネイプ先生へと頼むのはお門違いですからね。腐っても私はお父様の娘のはずですので、それは自分で頑張ります。

 私が「お会いしたい人」と告げたことで、スネイプ先生は聞く態度をとりました。……もしかしてお父様、スネイプ先生へなにかおっしゃっているのでしょうか? ご迷惑をおかけしていないとよいのですが。

 

「誰だ? 君が頼むほどの相手だ。そう簡単に会えぬのだろう?」

「ええ。会おうと思えば多分できるのでしょうけれども、今の私では無理でしょうね。なにかとても怒られることをしないと会えないような気がします」

 

 後はなにかとても素晴らしいことをしたら、でしょうか? ですが私はただの1年生で、一生徒です。素晴らしいことは無理ですよねえ。ですが問題を起こしてグリフィンドールの寮点を減らすわけにもいきません。困りますね。

 

「口を利くことができるならしてもよいが、どうして会いたいのか。その理由を教えたまえ」

「……理由如何ではお断りなさるのでしょう?」

「当たり前だ。君は突拍子もないことをいきなりするからな。ルシウスやナルシッサがいない間は君の面倒は私が見るしかあるまい」

「怒りませんか?」

「答えによる、としか言えんな」

「ですよね、スネイプ先生ならそうおっしゃいますよね」

 

 しばしスネイプ先生と私は睨めっこです。結果はわかっておりますよ? いつでも私の負け、ですから。スネイプ先生、目力だけで押し切るのですもの。勝てません。

 

「……はあ、ダンブルドア校長です。どうしてもお会いしたいというわけではないのです。ただお渡ししたいものがあるのです」

「渡したいもの……なんだ、一体」

 

 ああ、なんだか怪しまれている気がとてもしますね。仕方ないですよね。私、マルフォイ家の娘ですし、スネイプ先生が疑うのも無理はありません。

 ですが私に慣れているはずのスネイプ先生からのその視線にちょっとだけしょんぼりしてしまいます。小さくため息をついて、そっとポーチから取り出します。もちろんグルグルのアレです。

 

「なんだ、それは」

「日記です」

 

 例え日記に見えない布グルグル、紐グルグルだとしても、これは日記です。そこは譲れません。言い切った私と、日記とを交互に何度か見つめ、しばしの沈黙の後、スネイプ先生がおっしゃいます。

 

「……君はダンブルドアと交換日記でも始めたいのかね?」

 

 真顔です。とっても真剣な顔、それもなにか思い詰めたかのようなお顔でそんなことをおっしゃいます。私もつい、無言になってしまいました。が、このままではいられませんからね。とりあえず浮かんだ言葉をお伝えしましょう。この際怒られるかもしれないことは考えないことにしましょう。

 

「……先生もご冗談をおっしゃるのですね」

 

 にっこり笑った私に、とっても苦虫を噛み潰したかのような顔をして、すぐに何かに思い当たったのか、スネイプ先生は視線を逸らします。……視線を逸らしたら負けですよ? スネイプ先生。

 

 ああ、もう。本当にスネイプ先生は意外性がいっぱいで楽しくて可愛らしい方ですよね。どこか照れた様子でカップで顔を隠すようにしていらっしゃるそのお姿、本当に可愛いですよ?


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