ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
清々しい月曜日の朝です。とっても晴れていて気持ちの良い朝なのですが、私はちょっとだけ眠いです。ほんの少し、お寝坊してしまいました。ネロはいつものようにお散歩に1人で行ってしまっているようですね。自由な子です。夜寝る時には戻ってきますし、あまり心配しすぎはいけませんよね。躾によくありませんから。
小さくあくびをして、部屋を出ます。あくびの理由は、もちろん寮を抜け出して厨房に向かったこと、です。
厨房にて屋敷しもべさんたちにしっかりお願いをして、週末前の金曜の夜と土曜の日中に使わせていただくことができるようになりました。ええ、とてもですね……大変でしたよ。ドビーが数十人いる感じでしょうか……。
セドリックくんは厨房内にまで入らなかったので、多分気づいてはいないと思うのですが、しばらく阿鼻叫喚になりましたね。屋敷しもべさんたちが自分へ罰を与えるのは彼らのアイデンティティなのでしょうけれど、色々と衝撃が強すぎます。ハリーが振り回されていたのも納得ですね。なんだか自罰が彼らのバイタリティになっているのではないかとすら思いました。いやですそんな活力源。
まあ、いいのです。色々と大変でしたがきちんと許可は得られましたから。それにですね、そのことはもちろんフレッドくんたちには秘密にできています。そこは完璧なのですが、1つ上手くいかなかったことがあります。
「キャシー、今日は離れちゃダメよ?」
「そうそう。もう前例があるんだからね!」
私の両サイドにはアリシアさん、アンジェリーナさんがいます。お部屋からこの状態です。というか昨夜ベッドの上ですら拘束されそうになりました……。そこはお願いして許していただきましたけれど。ただ眠るだけならいいのですが、アンジェリーナさん、色々と触っていらっしゃるのでね。ちょっとだけ遠慮したいのです。
お2人がそうなった理由はですね、簡単です。昨夜のことが原因です。
昨夜用事を済ませて、私はセドリックくんに寮まで送っていただきました。それはよいのです。ですがそれをですね、お2人に見られてしまったのです。……まさか私がいないことに気づいて皆さんが探されるとは。もう少し考えるべきでしたね。せめて誰かに少し出るとお伝えしておくべきでした。
それはいいのです。いいのですが、セドリックくんには大変申し訳ない状況になってしまいました。
「セドリックも油断ならないわね」
「ね。まあ、友人だってスタンスならいいんだけど、それ以上狙ってるよね、アレ」
「狙ってるでしょうね。セドリック……もっと後手に回ると思ってたのに意外と抜け目なかったのね」
「いえ、あの……セドリックくんは送ってくれただけで他意はないと思いますよ?」
「キャシーあなたが優しいのはわかってるわ。でもね、絆されちゃダメなのよ! いいこと、男というのは下心を持った相手に対して初めは絶対に優しいの! だから簡単に気を許しちゃダメなのよ!」
「は、はい……わかりました」
思わず返事をしましたが、アリシアさん、あなたの過去には一体何があったのですか? まだ11歳ですよね? ……イギリスというか、魔法界ってとっても進んでいるのでしょうか。なんだかとってもカルチャーショックです。
というかお友達となったはずのセドリックくんをお2人が悪くいうのが私の所為であるということがとっても心苦しいです。
それにですね、この誤解は早く解いておきたいのです。だって私のような相手と噂になってしまったら、セドリックくんに迷惑です。……なにか上手く2人の意識をどこかに向けることができるようなことはないですかね?
「よう、キャシー。昨夜はハッフルパフのセドリック・ディゴリーと寮を抜け出して会ってたんだって?」
なんて考えていたからですかね、談話室に着いた瞬間目が合ったリーくんが開口一番聞いていらっしゃいました。いえ、その話題今とっても困るのですが。すかさず否定しておきます。無駄な努力ではないはずです!
「リーくん、それは誤解です」
「誤解? 実際会ってはいたんだろ?」
「ええ、会いましたけれどそれは違うのです。私が迷い込んだ先がハッフルパフの寮の近くだっただけなのです」
「……つーかさ、キャシーはなんで寮を出てったんだ? なんか目的があったんだろ?」
「そうね。昨夜ははぐらかされたけど、それ私も聞きたいわ。ただの迷子じゃないんでしょう?」
ここはなんと言って誤魔化すべきでしょうか。馬鹿正直に「パーティのお礼のために料理を作りたい。だから厨房に行っていました」なんて言えません。サプライズはとっても大事ですから。
ではなんと言うべきなのでしょうか?
表面上は笑顔で、でも内心では一生懸命理由を考えます。うう、なにかないですかね? 全く浮かんでくれないのですが。
「リー、キャシーが困ってる。誰にだって言いたくないことくらいあるんだから、俺たちが聞くことじゃないだろ」
「そーそー。キャシーが言わないってことは、そういうことだろ? 普段なら理由をしっかり言ってくれるんだから」
「「キャシーが隠すくらいだから、大事なことなんだよ」」
「フレッドくん、ジョージくん……」
こう言ってはなんですが、とっても意外です。率先して聞いてきそうだったお2人がこうして庇ってくださるなんて思ってもみませんでした。
いえ、嬉しいことは嬉しいのですが、なんだか驚きの方が上回ってしまってですね。とりあえずお名前を呼ぶことしかできません。お礼が言いたいのに言えないのです。うう、なんだかちょっと泣きそうです。
「はあ……、そうね。キャシーが言いたくないなら大事なことでしょうね。それは理解できるわ」
アリシアさんが私の頭を撫でながら、ため息をついて言います。なんだかとっても呆れているような、驚いているような、なんだか複雑な感情を感じられる声です。
「納得できるんだけど、それをあなたたち2人に言われるのがすっごくシャクなんだけど」
「あー…確かに? 同室のアリシアと私の方がキャシーのこと、わかってるはずなのにね!」
「そうそう! なんか自分たちの方がキャシーのことを理解してるんですーって言われてるみたいでムカつく」
「そうだよ! 私なんてキャシーのスリーサイズまで知ってるのに!」
な、なんだか雲行きが怪しくないでしょうか。というかアンジェリーナさん、今はスリーサイズは関係ないですよね? というか教えた覚えがないのですがいつ知ったのでしょうか?
そしてアリシアさんはフレッドくんジョージくん、ついでにリーくんを軽く睨むように見ています。なんでしょうか……このまま、険悪な関係になってしまうのでしょうか? それはすっごく、すうっごく嫌なのですが。
お友だちとはずっと仲のいいままいたいというのはワガママなのでしょうか。いえ、そんなことないはずですよね? と言うかですね、週の初めから険悪な関係になってしまったらずうっと辛いままです。授業もなにもかも楽しくなくなってしまいます。そんなのは絶対にイヤなのです。
ここは仕方ない、ですよね?
「そ、その! 昨夜私が寮を出て向かったのは──」
サプライズにはなりませんが、きっと作ったものは喜んでいただけるはずなので構いません。そう意気込んだのですが、バッサリ声がかかります。
「いいのよ、キャシー。言いたくなかったんでしょう?」
「いえ、いいのですアリシアさん。これを言わないで皆さんが喧嘩してしまうよりずっといいです!」
「でも……」
アリシアさんが迷うようにして、私の目を見つめます。心配してくれているのが伝わるその優しい目が私は大好きです。心配されるって、好かれている証拠ですからね。ちなみに怒られるのは怖いですが、それも大事にされている証拠なので拒否はしません。体罰は断固拒否ですが。
「いいのか、キャシー?」
「無理しなくていいんだよ?」
「「俺たちは喧嘩なんかしないし」」
しばしアリシアさんと見つめ合う私へと、皆さんから声がかかります。先ほどまでの険悪なムードに移行しそうな空気は霧散しているようです。……えと、なんだかとっても皆さんに好かれているような気がするのですが、勘違いじゃないですよね? そうだととっても嬉しいのですが。
「いえ、いいのです。ただ厨房に行って屋敷しもべさんたちにお願いしたのです。お料理が作りたいので、今度少しの間厨房を貸してください、と」
「料理? お菓子じゃなくて?」
「厨房? またメシを作るってことか?」
「やった! またキャシーがお菓子作ってくれるんだ! キャシー、私チョコレートタルトが食べたい!」
「はい、いいですよ。アンジェリーナさんはチョコレートタルトですね。アリシアさんはなにが良いですか?」
「なにがって、キャシーあなたねえ……はあ、もういいわ。私はザッハトルテかしらね。ああ、ホグワーツ特急で食べたカップケーキも可愛くていいわね」
「はいわかりました。楽しみにしていてくださいね」
にっこりと笑います。アリシアさんは気づいているようですが、なんだか上手いこといつ作りたいのかを告げずに済みました。多少はサプライズ感を残せたような気がします。
「それよりもよ、リーや双子はキャシーの料理を食べたことがあるの? 私聞いてないんだけど」
「それはこっちのセリフだよ。キャシー、いつお菓子作った? 俺も食べたかったんだけど」
なんだか別の意味で雲行きが怪しいです。アレですかね、『食べ物の恨みは怖い』というやつでしょうか?
ホグワーツ特急の中で、お昼をご一緒したのはフレッドくん、ジョージくん、リーくんです。そしてその後でお菓子を食べたのはセドリックくん、アリシアさん、アンジェリーナさんです。はい。見事に2つに分かれていますね。両方食べたのは作った私だけ、です。
このまま揉めてしまうのはイヤなので、しっかり彼らからもリクエストをお聞きしておきましょう。一応特殊なお菓子でなければどれでも作れると思いますので。もちろん材料さえあればな上、基本マグル、それも日本で買えるものに限られますが。
「ではフレッドくんたちはどのようなお菓子がお好きですか?」
「急に言われると困るな。まあ、俺は甘すぎないもの、か?」
「「キャシーの手作りならなんでも!!」」
「え、えと、はい。わかりました。今度甘すぎないお菓子を用意しますね」
リーくんのリクエストも中々に難しいですが、フレッドくんジョージくんのリクエストも……なんでもいいが1番食事を作る側として困るのですよね。でも頑張ります。
その後アリシアさんやアンジェリーナさんからも料理のリクエストを頂きました。なんですか、食べたことのない料理が食べてみたいというのは……。ハードルがとっても上がったような気がします。ですがいいのです。リクエストが聞けたことで、ある程度はメニューが決められましたから。そうです、前向きに考えることが大事、なのです!
さあ、気分を変えて朝食の後は授業です! 学生の本分はお勉強なのですから、頑張らなくてはダメなのです!