ものぐさ女の成長   作:妄想女子

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第3話

1991年 プリベット通り4番地

 

 

彼女…いや、ジェシーは階段下の狭い空間で起床した。既に10年以上もこの生活を続けていると慣れという物がでてくる。

 

隣で眠りつづける黒髪の少年の頭を優しく撫でる。これが、今のジェシーの日課だ。

 

そして、そろそろ朝食を作る時間だ、と少年、ハリーを起こす。

 

「…ん、ジェシーおはよう」

 

眠そうな目を擦り、手探りでヒビの入った眼鏡を探し、掛けながら朝の挨拶をするハリー。

 

それにジェシーは明るく答える。

 

「おはよう!ハリー。今日は動物園だね」

 

その言葉に、ハリーは嫌なことを思い出したかのような顔になった。

 

「でも、今年もどうせフィッグさんの家に預けられるよ」

 

動物園、今日はダドリー・ダーズリーの誕生日だ。

例年通りなら、ハリーとジェシーは二筋向こうのフィッグ婆さんに預けられる。

 

家中キャベツの臭いがして、無理矢理猫の写真を見せられるのに、ハリーは嫌そうだったが、臭いなんて慣れればどうということないし、猫の写真はどれも可愛かったから、ジェシーにとっては、あんまり苦では無かった。

 

しかし、双子の弟のハリーが嫌がる様子を見る趣味はジェシーには無かったので、毎年複雑な思いだった。

 

でもジェシーは、今年は違うことを知っている。フィッグ婆さんが骨折して、やむなく動物園に連れていってくれるのだ。

 

 

二人で、靴下を穿きながら、話していると、

 

ドンドンドンッ!!!

 

「さあ、起きて!早く!」

 

ペチュニアおばさんの金切り声が聞こえる。

 

そんなに怒鳴らなくてももう起きてるのにね。と、二人で笑いあった。

 

ハリーは手串で寝癖を撫で、ジェシーはペチュニアおばさんのお古の櫛(殆ど折れていてスッカスカになっている)でリリー譲りの濃いめの赤毛を梳いてからキッチンへと向かった。

 

慣れた手つきでフライパンに火をかけてベーコンを焼く。その間にハリーは全員分の食器を出している。

ジェシーとハリーはそのまんまキッチンでダーズリー一家が食べている間?な、い、あろゆわしあに立ち食いだ。

 

テーブルに朝食の用意が済むと同じくらいに、2階からドタドタと下りて来る音がする。

 

ペチュニアおばさんとバーノンおじさんの愛息子、ダドリーだ。

 

「私の可愛いダドちゃん、おはよう」

 

ペチュニアおばさんがダドリーにハグしているが、本人は山のように積み上げてあるプレゼントにくぎ付けだ。

 

「何個あるの?」

 

ダドリーの問いにはバーノンおじさんが答えた。

 

「36個だよ。可愛い息子よ」

 

「36!?でも、去年は38個だった!」

 

「ダドちゃん、今年は大きいのもあるのよ」

 

「大きさなんか関係ない!」

 

一人息子を溺愛しすぎている家族の会話を傍らで音を立てないように見ていた、ジェシーとハリーにとっては、小さくても良いからプレゼントが欲しかった。

 

二人の誕生日である7月31日に、誰かがプレゼントを寄越したことなんて無かった。

 

否、ジェシーにいたっては、その明るい性格と、差別を許さない固い意思に、淡い恋心を抱く何人かの男子と、普通に仲の良い女友達からプレゼントを渡されたことがあるが、ジェシーにとって、優先事項は今はハリーの事なので、丁重にお断りをしていた。

 

ダドリーがバリバリと包みを広げていく中、電話が鳴ってそれを取ったペチュニアおばさんが玄関を出て行った。

 

キッチンでベーコンをハリーと一緒に立ち食いして、フライパンの後片付けをしているときに、ペチュニアおばさんは戻ってきた。

 

 

 

「バーノン、大変だわ。フィッグさん脚の骨を折っちゃって、この子達を預かれないって」

 

とプリプリ怒りながら隅にいるハリーとジェシーを顎でしゃくった。

 

そのあと夫婦は二人で口論していたが、結局連れていくことにした。

 

その時ダドリーが嘘泣きを始めたが、子分が来てしまったので、タイムアウトになった。

 

30分後、ジェシーとハリーはダーズリー一家の車の後部座席にダドリーの子分ピアーズ、ダドリーと一緒にぎゅうぎゅうになって座り、動物園に向かっていた。

 

不機嫌なダドリーを余所に、ハリーはとてもワクワクしていた。それは隣のジェシーも同じだったが、ハリーとは別の意味だった。

 

 

蛇の大脱走事件が見れる!

 

 

と。

しかし、ジェシーが考えていたのはそれだけではなかった。ハリーがパーセルマウスだとして、自分にははたしてその力があるのかどうか、だ。

 

もしかすると、自分はハリーよりもヴォルデモートとの絆が弱く、能力を持っていないのでは無いか、と思っているのだ。別になくても構わないのだが、動物と話せるというのは、やはり、どうしてもうらやましい。

 

等と考えているとまたもや、ジェシーの悪い癖が出ていたようで、既に動物園に到着していた。

 

 

今日は天気が良い土曜日だ。ペチュニアおばさんがダドリーどピアーズにチョコレートアイスを買ってあげていた。

 

急いでバーノンおじさんがアイススタンドからジェシーとハリーを遠ざけようとしたが、間に合わず結局安いレモンアイスを2人で一つ買い与えた。

 

結構美味しいね。と二人でアイスを半分ずつなめながら、みんなと一緒に園を回った。

 

昼食を食べた後、爬虫類館を見た。

 

中は少しヒヤッとしていて、暗かった。

 

「動かしてよ」

 

ダドリーがあるガラスの前で止まった。大きな茶色の蛇だ。

 

 

ここだ!

 

 

ダドリーは父親にせがんでガラスを叩かせた。

 

「もう一回やって」

 

バーノンおじさんは今度は拳でドンドンとガラスを叩いたが、依然として蛇は眠っている。

 

「つまんないや」

 

ダドリーはブーブー行って去っていった。

 

ジェシーとハリーはそのガラスの前に来て、蛇を見つめた。

 

 

「蛇の方がきっと退屈だよ」

 

「僕もそう思う」

 

 

突然、蛇が目を開けて、ゆっくりと二人と同じ目線の高さまで首を持ち上げた。

 

蛇がウィンクした。

 

ジェシーは隣で慌てているハリーをニコニコしながら見ていた。

 

きたきたきた!

 

蛇は首をダドリー達の方に伸ばし、目を天井に向けた。

 

「いつもこうさ」

 

ジェシーにはこう言っているように思えた。

 

「わかるよ。ほんとにイライラするだろうね」

 

よし。分かる。ハリーがしゃべっている言葉が分かる。

どうやら、自分にもパーセルマウスの能力はあるようだ。

 

「あなたは、どこから来たの?」

 

ジェシーも喋ってみた。自然に、すらすらとしゃべれる。

 

そのあと出身地について、ハリーと交代で話していると、気づいたダドリーが大声を上げてやってきた。

 

それにはハリーとジェシーも、それに蛇も飛び上がりそうになった。

 


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